この作品は、カリスマの大暴落及び相当量の百合、そしてキャラ崩壊等の成分を含みます。会話文の比率も高めですしオリジナルの温泉旅館まで出てきます。服用の際にはこれらの点に注意し、鼻からの大量出血等を確認した場合は、すぐにハリウッドダイブしてからブラウザバックをお願いします。
なお、作者の拙作は全て世界観を共通しています。単品でも楽しめますが、過去作を読むと新たなる発見があるかもしれません。
―温泉、それは最後のフロンティア。
これは、瀟洒なメイド長・十六夜咲夜が溺愛するお嬢様達の下、幻想郷の温泉において職務を遂行し、湯煙の向こう側を捜索して新しいお嬢様の可愛らしさを求め、男子未踏の女湯に、勇敢に立ち向かった物語である・・・・
【メイド長日誌、12月30日】
幻想郷は年末に差し掛かっている。魔法使いの二人が、各地でクリスマスプレゼントを配って回ったクリスマスの記憶も新しい。
今日は、年末恒例の紅魔館上げての年末慰労会・もとい納会が予定されている。会場は、紅魔館近くの温泉旅館・辺流彩湯(べるさいゆ)。
私も、今日は仕事を忘れて一年の疲れを取ろうと決めていた。
幸い、会場は温泉旅館である。温泉と言えば、お嬢様と妹様の美しさと魅力、そして可愛らしさを余すところなく堪能し、満喫できる。
言わば、この世の楽園である・・・・・
「お姉様、咲夜、早く早くっ!」
「慌てないでフラン。温泉は逃げはしないわ。」
金色の髪を後ろでお団子みたいに固めた妹様が、頭にタオルを巻いたお嬢様の手を引いて大浴場に突入しようとする。反対にお嬢様は落付いた様子で妹様を制止していました。流水が苦手とされる吸血鬼であるお嬢様達が湯浴みをすると聞いて、ビックリする方もいらっしゃいますが、入るのはあくまで温泉ですし、流れてもいません。河童が開発したジャグジー等ともなれば話は別ですが。
「こんな大きな温泉見たら、早く入りたくて仕方ないのよ。」
「気持ちは分かるけど、あまり派手にはしゃぐと他のお客様へ迷惑になる事があるわ。スカーレット家の者が、無思慮である事を晒しては沽券にかかわる。」
「ちゃんと、身体を流して浸かるのですよ。」
「はーい、とうっ!!」
妹様は、私とお嬢様の制止を振り切って大浴場にダイブ。お嬢様は呆れていましたが、弾幕ごっこ以外であんなに楽しそうな妹様の顔を見ているだけで、私は幸せです。幸せに浸りたいところですが、お嬢様の湯浴みのお世話をしませんと。お嬢様は先に洗う方を好まれますからね。
「全く、フランは・・・」
「まぁ、何かを破壊して回らなかっただけ良かったと思いますよ。」
お嬢様の髪を洗いながら、私は至福の時を満喫していました。美しい水色の髪を優しく撫でて、丁寧にケアするのも私の仕事です。
「もっと自由に外出させてあげたいけど、問題が山積みのままだわ。」
「今のご様子ですと、ただはしゃいでるだけです。あのようですと、里の子供達とそう変わりありません。」
「何かの拍子に・・・ね。」
「そうですね。」
お嬢様はいつだって妹様の事を案じておられます。出来れば、自分の好きに外出させてあげて、私が博麗神社に入り浸るように魔理沙の所に居させてあげたいとも仰ってました。しかし、妹様の能力が途方も無く強大なため、暴走した時の被害を懸念しています。
「はい、お嬢様。完了ですわ。」
「いつもありがとう、咲夜。」
このお嬢様の笑顔を見るだけで私は、天にも昇る気持ちになります。しかし、まだそんな余韻に浸る暇もありません。
「ところでフランは?」
「大浴場でパチュリー様、小悪魔と一緒に蕩けきってますね。周囲に迷惑はかけてません。」
「大人しくしていてくれたら、それでいいかな。私はサウナに行くからフランの事よろしくね。」
お嬢様を見送り、健康的なうなじ辺りをしっかり見てから踵を返して大浴場へと向かう事にしました。
「お風呂は命の洗濯~」
「よっ、フラン。今日はお出かけか?」
「あ、魔理沙だ、それにアリスも。」
浴室に響く大声。その声は私も知るものです。しばしば図書館に本を強奪にくる魔理沙の物です。しかしながら、妹様がなついてて、魔理沙も理解がありますので邪険にもできません。旅館の宴会場こそ貸し切っていますが、温泉は他の宿泊客なども利用するので居る事自体に問題はありませんけど・・・まぁ、温泉はゆっくり静かに浸かりたかったので騒々しいなーと思っただけです。
「みんなとお風呂って楽しいねー」
「そうだよな、これだからデカイ温泉は止められないぜ。テンション上がってきたぜー」
「静かに風情を楽しむ方法もありますわ。」
私は魔理沙に釘を刺してからゆっくりと身体を湯船に付けました。魔理沙は人の話をあまり聞かないので釘を刺す意味が無いのではありますが。
「まぁまぁ、いいじゃねーか。今日は紅魔館が宴会するって外に書いてあったし、ある程度は客が覚悟しているとは思うぜ。私は覚悟を決めてるぞー」
「アンタも飛びこもうとしたじゃない。」
「500歳超えた、見た目だけお子様も飛び込みたくなるんだぜ、アリス。30分の1程度しか生きて無い私がそうなるのは尚の事だとは思うぞ。」
「詭弁だと思うわ。」
「そうは言うがなパチュリー、論理的な意見だと思うがね、ほれアリス、一杯飲んどけ。」
「ありがとう。フランも飲む?」
「私はまだいいわ、宴会でみんなと飲むもん。ね、パチュリー、小悪魔」
「そう、温泉だとアルコールの回りが速くなるから。魔理沙とアリスも程々にね。」
「私は必要なだけ飲むわ、魔理沙と一緒にしないで。」
「ほら魔理沙さん、言われてますよ。反論しないとマズいかもしれませんよー」
「小悪魔も意地悪だなー」
笑い声、そして途切れる会話。熱燗を注ぐ音と、それを飲む音。一年の勤務で疲れた体をじっくりとお湯にならせば、疲れが溶け出す感覚が体中に広がって行きます。しばらく温泉の浮揚感を堪能した後、ここが頃合いと思ったので私は妹様の肩を優しく叩きました。
「妹様、そろそろお背中をお流しいたしますが。」
「はーい。咲夜、今日は私が咲夜の髪を洗ってあげる。」
「ありがとうございます。でも、まずは妹様の番ですよ。」
「うん、それじゃお願い。」
妹様の手を引き、大浴場を出る。はしゃぐ妹様を洗面台の前に座らせて、シャンプーを手に取り泡立てて金色の髪を丁寧に洗うと、本当に嬉しそうな表情をする。その光景を見ていた魔理沙達も何やら話をしているみたいで。
「アリス、なんなら私が流してやろうか?」
「いらぬお世話ね。自分でそのくらいは出来るわ。」
「ケチだぜー」
ザバッ、アリスが上がって来るのが分かりました。アリスは澄まし顔で、洗面台の前に座ります。タオルを手に取り、ボディソープを出そうと必死に入れ物を振る姿を横目に、私は妹様の背中を流し終えました。
「あ、ボディーソープが切れてる。」
「仕方ない、私の石鹸を貸してやる。」
「魔理沙、私の所に投げてくれる?」
「オーケー、そらよっ!!」
魔理沙が投げた石鹸は、アリスの座っていた所を大きく外れてしまったのがすぐに分かった。多分水分で手を滑らせたのだろう。
「サウナの後の一杯って美味しいんだよね。美鈴も付き合いなさいよ。」
「お嬢様はお酒強すぎますから、程々にお願いします。」
魔理沙が暴投した石鹸は、サウナから出て来たお嬢様の足元に滑り込もうとしていました。私が時を止めて行動する間も無く石鹸はお嬢様の足元を絡め取り、転倒させてしまいました。その様子に呆気に取られていると、お嬢様が浴場の床を滑って私の髪を洗おうとしていた妹様の方へと向かって行くのが見えました。
「どいてっ、フラン!」
「お姉さ・・・うわぁ!!」
刹那、お嬢様と妹様が激しく交錯、その勢いで温泉の床を転がって露天風呂の方まで行くのにはそんなに時間はかかりませんでした。お嬢様と妹様の黄色い悲鳴と物音が浴場にこだまして反響する・・・そこで我に返った私は慌てて露天風呂の方へと向かいました。
「ごめんね、フラン。大丈夫?けがは無い?」
「うん・・・お姉様の方こそ。頭とか打たなかった?」
私は見ました。
立ちこめる露天風呂の湯煙の向こう側。
一糸纏わぬ生まれたままのお姿で、お嬢様と妹様がお互いを庇いあうように抱き合い、涙目でこちらを見ている、この世の楽園が・・・・
そして、鼻の奥の方で何かが切れる音がしました。
【メイド長日記・私的補足】
ハプニングのお蔭でお嬢様と妹様の貴重なお姿をこの目に焼き付ける事ができました。これで今年の疲れも全て吹き飛ぶでしょう。
今後、お嬢様と妹様と共に温泉に入る時は、必ず石鹸を携行するようにしよう。絶対にしよう。そして、お嬢様と妹様の手を引いて、石鹸で一緒に足を滑らせるのだ。
そうすれば・・・・
「あぁ、ヤバいヤバいぜヤバくて死ぬぜ!!」
「酷い鼻血・・・早く止血しないと命にかかわるかも。」
「そうだな!誰でもいいから鼻かみだ、がちがちに詰めてやらないと!」
はむっ。
「レ、レミリア!!」
「私の眷属の一大事だし、止血は私に任せて。」
「いや、そうじゃなくて鼻を噛んでどうする。要求したのは鼻かみであって鼻を噛む事じゃないぜ。」
「まず止血するにも鼻の中の血を取り除かないと、窒息の恐れがあるわ。それに噛んでなんかないわよ、吸いはするけど。」
ぼやける意識の中、一糸纏わぬお嬢様が私の目の前に居る。
その事実で十分でした。さらに私の鼻の奥で何かが切れる音がしたのが分かる。
「お、お嬢様・・・・お嬢様・・・・咲夜は嬉しゅうございます。」
「・・・寧ろ酷くなってないか?」
「しかも、心なしか嬉しそうね・・・」
「予想以上に酷い・・・私だけでは無理かもしれないわ、フラン、貴女も手伝いなさい。」
「分かったわ、お姉様。」
はむっ。
「お前も噛むのかよ・・・いや、吸うのか!?」
「だって・・・このままじゃ咲夜が、咲夜が死んじゃうもん!」
今度は一糸纏わぬ妹様が私の目の前に居る。時間をおいてお嬢様、またしばらくして妹様・・・これが、走馬灯というものなのか・・・私の鼻の奥から更に血が失われて行くのが分かりますが、もうそんな事はどうでも良い。
―ここが私の天国なのだから。
「あぅうううん・・・・あっふん(ガクン」
「ああ、意識が飛んだ!!咲夜さん、しっかり!!」
「美鈴、落ち付いて!ヒーリングかけて、お医者様を待ちましょう。」
「魔理沙の時と同じ要領ね。アンタもあんときはこんな感じだったのよ。」
「・・・それは言わないで欲しいんだぜ。」
その後、皆の懸命の治療もあって私は奇跡的に一命を取り留めました。しかし、その様子がしっかり天狗に盗撮されていたようで、今年最後の文々。新聞の一面に「辺流彩湯の薔薇~メイド長は美しく散るのか?」とかいう見出しが躍ってしまいました。
とりあえず、天狗は新年会で殺人ドールあたり使って〆ておこうと思います。
―今日も幻想郷は平和です。
うん、これはいい楽園。
レミリアはフラン溺愛くらいが1番よいんだ!
今年最後の楽園をありがとうございました
レミリアはフラン じゃなくて
レミリアとフラン だった;