「よーし、次はこの弾幕よ! 禁忌『フォーオブアカインド』!」
「おぉぅ!?」
ねじ曲がった杖を地面に突き立て、眩い光がフランドールを包み込む。無駄に光るのは魔法少女の嗜みだ。
魔理沙は帽子を深くかぶって光を遮り、万が一の不意打ちに備える。
もっとも、魔法少女ならば姑息な手は使わず真正面から相手をしばき倒してナンボなのだが。
「だけどな、光るだけならお天道様がとっくにやってるんだ。なんならご対面させてやろうか?」
「ふっふっふ、私の姿を見て恐れおののくがいいわ!」
「何だとぉ……お、おおおおおっ!」
魔理沙が驚くのも無理はなかった。
今、目の前にいるのはフランドール・スカーレットだがその数は四人。
その一人一人が寸分違わぬ姿で佇んでおり、仕草の一つ一つも完全に同期している。
「どうだ!」
「これが!」
「フォーオブ!」
「アカインドォォゥ!」
「お前ら誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「誰って」
「私たち」
「フランドール」
「スカーレッツ!」
「複数形できたよ!?」
体の大きさは目測で元のフランドールの約半分、そして四人の足元にはフランドールの色と形をした薄っぺらいナニカ。
そう!
縮尺1/2にしたら、体積的な意味でスカーレッツが八人いないと元のフランドールには戻れないのだ!(問題はそこなのか!?)
「さあさあ!」
「私たちを!」
「倒さない事には!」
「先に進めないよ!」
「ええい、抜け殻を折って畳んでポケットにしまうな。バレバレだから」
有無を言わさずミニ八卦炉をかざす。
相手が何者であれ、行く手を阻む者は敵味方関係なく薙ぎ払う。
それが魔理沙の生き方でありたった一つの冴えたやり方だった。
マスパ照射中……
「けほけほっ……」
「やるわね、魔理沙」
「フォーオブアカインドが」
「こうもあっさり破られるなんて」
「昔の偉い人は言ってたぜ、『四人に分身したら一人あたりの強さも四等分』ってな。まあお前らのは分身じゃないけど」
「なるほど……」
「流石は魔理沙」
「フォーオブアカインド最大の弱点を」
「戦う前から見抜いていたなんて」
「じゃあ弱点丸出しのスペルなんて使うなよな……」
「でも!」
「私たちはまだピンピン!」
「弾幕ごっこはこれからよ!」
「とぅっ!」
四人の足元から白煙が噴き上がり、チビっ子…というよりミニチュア化したフランドールたちを覆い隠す。
魔理沙の視界を奪っているうちに元のフランドールに戻ろうというつもりなのだろう。
魔理沙からしてみればいい鴨撃ちだが、ここで律儀に待つ事こそが主人公の嗜みだ。
『早く! 早く! 魔理沙を待たせてる!』
『ちょっ、元の私ってもっと腕細いわよね? 緩くなってるわよ!』
『ちゃんとポジションに入ってる? よく確認して!』
『大丈夫よ。あんたも早く肩車して』
なにやらスカーレッツの会話が煙越しに聞こえてくるが、気にしたらきっと負けだ。
彼女たちにとっては『四人が一瞬で一人のフランドールに戻っている』事になっている筈だし、
魔理沙も一応そういう事を前提に待っているのだから。
「……お待たせ、魔理沙」
「お、合体タイムは完了か」
「かわいいスカーレッツがお世話になったわね。でも私との弾幕ごっこはまだまだ続くわよ」
「私は早く終わらせたいよ。何しろ四人まとめてブッ飛ばしてきたばかりだからな」
今喋っているのはスカーレッツの中の誰なのだろう……
そんな事を考えている間に、二人を隔てている煙が徐々に晴れていく。
そこにいたのは。
ある所はパンパンに、またある所はペラペラに。
フランドールの着ぐるみの中に適当にヒトガタを詰め込んだだけの。
天地さえも逆転したおぞましいクリーチャー。
「さあ来い、魔理沙!」
「ドロワーズが喋るなあああああああ!」