Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

今宵の出来事は

2010/12/14 02:27:44
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カツーン カツーン


夜半、林の中から規則的な音が響く。


カツーン カツーン


何かを樹木に打ちつける音が、静かな夜に。

「妬ましい、妬ましい」

怨念のように、闇から響く女性の声。
緑眼を湛えた女が、手にした金槌をまた一つふるう。


カツーン


「妬ましい!」

「やかましい!」

直後、近くにお住いの巫女様によりこってり絞られるのでした。そりゃあ、人間が寝静まる夜に大声でやっていたら大迷惑ですもの。



 
 ◇




「いや~、運動してすっきりした」

橋姫とは思えないほど晴れやかな笑顔で、パルスィは巫女が出したお茶を一口すする。元の顔立ちがよい事に加えて緑眼も人を引き込む美しさがあるので、その姿はなかなかのものである。まぁ、瞳の方は人を嫉妬に引き入れる効果なのだが。

「あぁそう?そりゃあよかったわね」

他方、巫女はというとこちらは青筋浮かべてやさぐれていた。寝起きの眼は半開き、髪はとかさないままぼさぼさでリボンもしていない。服も寝巻のままという乱れようで、怒りに任せて起き出しそのまま退治にやってきた事が伺える。

「今何時だと思ってるのよ」
「丑の刻」

即答。そうでなかったらここには来ませんとも。
当然のように言い放つ橋姫に巫女はまたもやキレた。

「夜中よ深夜よ寝る時間よ!地底抜け出してわざわざやってくんな!」
「妖怪はその多くが夜行性です」
「うっさいわ!」

霊夢は叫びながら、腹立ちを解消するようにパルスィから没収した丑の刻参りセットをぶん投げた。藁人形と五寸釘は飛翔して、障子を突き破って外へと放り出される。深夜0時を回っているのに果たしてどちらがうるさいのやら。

「短気はよくないわ。マグネシウム足りてる?」
「カルシウム!」

パルスィの指摘を修正するが、自分で引き起こした2次災害に霊夢はやり場のない怒りの色を濃くする。

「一つ言っておくけど、嫉妬妖怪を目の前に心乱してると食われるわよ?」
「直々に忠告とはどうもありがとう。でもね、朝は鴉天狗がブーブー昼間は吸血鬼がピーピー、夕方には小鬼がワーワーときて夜までうるさいとなれば怒りたくもなるのよ」

その出来事を思い出したのかげんなりとする霊夢。
本日、いや昨日は随分と気力を使ったのである。妙にハイテンションだった妖怪とのお付き合いは心身ともに疲労が蓄積するようで。

「そういうわけで私は夢の中に安寧を求めるの。邪魔だから、飲み終わったら是非とも帰ってね」
「お腹空いたから夜食タイム」
「待ってても飯は出てこないわよ」

そう言って巫女は腰を上げる。
もちろん温もりを求めに寝床に入るためである。冬で深夜とくれば寝巻一枚でどうにかなるものではない。少女は足早に去ろうとした。

「あぁ待って博麗の」
「眠いんだって。私を止めてくれるな」

止まらない巫女は寝室へ繋がる襖を開いた。
その様子を見たパルスィは何を思ったか、両手を胸の前に持ってくると、



パンッ



一つ手を叩いた。
それだけである。ほかに何をするでもない。
不可解な行動が気になったか、霊夢は足を止めて怪訝顔を向けた。

「何、季節外れの蚊でもいた?」
「あなたが気にすることじゃないわ」
「?まぁいいけど。じゃあおやすみ」

本人も言っているし大したことではないだろうと結論する。就寝の挨拶を残すと、踵を返して再び眠りにつく用意へ。
その時である。


カツーン


少女を眠りより起こした憎きあの音が、木の幹に五寸釘を打ちつけるような音がまた響きだした。ぴくりと、霊夢のこめかみが動く。

「あんたの分身とか、弾幕で見たことあるんだけど?」

ぐるりと頭を回して訴える巫女に対し、橋姫はそんなめっそうもないと首を横に振る。橋姫じゃないけど、この機嫌の悪い厄日にやってくる命知らずが林にいる。
もはや言葉はいらなかった。鬼となった巫女は針を携えて部屋を出たかと思うと超スピードで飛んで行ってしまった。


カツーン カツーン


緑眼の魔物は瞳を閉じて湯飲みを傾ける。
まったりお茶を飲む妖怪の耳はとても良い。霊夢が飛んで行った先の彼女の声までばっちり聞こえるので、それを聞き取るだけで状況を探る。


カツーン カツーン


「嫌い、嫌い」

音とともに響く女性の声。


カツーン


「ラヴ!」
「アリスは大変な巫女を怒らせていきました。あなたの五寸釘を盗むか、命を盗るかどうしようかしら」
「あ~、えっと、霊夢様?目が怖いのですよ?‥‥‥と、とりあえず針を下ろして、落ち着いて話を―――」

その台詞は直後、七色の悲鳴に変わって林を駆け巡ったのだが。南無というよりほかはない。




 ◇




「あぁ、生き返るぅ~」

パルスィと並んで座るアリスは湯飲みを傾けて一息つく。冬場だから身が冷えるもの、暖かい緑茶は染み渡るよね。
緑茶一杯で和んだアリスは次に一言。

「ふぅ‥‥‥死ぬかと思った」
「災難ね」
「ねー。いきなり夢想転生と鬼縛陣のコンボとかもうね、やってられないわ」

丑の刻参りをした二人は頷き合う。
鬼巫女は怖い。特に今の巫女様は熟睡できないまま起こされた直後。眠気は吹っ飛んでいるようだが、このままだと理性も彼方に行ってしまいそう。

「そこの金髪二人」

呼ばれて魔女と妖怪の肩が震える。それくらいドスの効いてる低い声だったので、絶賛ぶちぎれいむ状態であるのは疑いようがなかった。怖かったので目を合わせないようにしていたのに。仕方なく二人が顔を向けると、
目の前には巫女ではなくて、般若がいた。
さすがに身の危険を感じたパルスィは傍らにいる人形師を肘でつつく。

(ちょっと、寝起きがこんなに不機嫌だなんて聞いてないわよ)
(寝起きも大概だけど、ゴキゲンナナメの時はとことんナナメって垂直に立っちゃうのよこいつは。貧乏くじ引いたと思って諦めなさい)
「おいそこの」
『は、はひっ!?』

こそこそ話をしていたのがさらに般若をの怒りを煽ったらしい。口調が汚くなるくらい猛り狂っていらっしゃる。
すると巫女は無言のうちに陰陽玉と、やたら強力な対妖怪用お札をちゃぶ台の上に並べて見せた。にこりともせずに。

「次やったら、 わ か っ て る わ ね ?」
「は、反省、し、してます‥‥‥」

しゅんと小さくなる金髪二人。
本気だ。目が大マジだ。この巫女はやると言ったらやる、そういう女だ。

「お茶飲んだら帰りなさい」

それでもまだ良心は残ってくれているらしい。勤めていつも通りの声で、霊夢は一服する暇をくれた。
そのまま寝室へと直行する巫女の背で、でも次やったらやばいよなぁとパルスィとアリスは顔を見合わせた。もちろん計画を遂行すべきか否かを、ボソボソ小声で議論する。

(あなたの番で準備が終わる予定だったのに。ほ、ほらっ)
(まぁ、これを想定しての3人目の人選だし。でもなぁ、やばいわよいやほんとに)
(この方法を何で選んだのとか、それは後で問い詰めるけど。でもさぁ)
(わかってるわ‥‥‥えぇい、なるようになるわよ!)



パンッ



意を決し、今度はアリスがひとつ手を叩く。もちろん蚊もいなければハエもいない。3人目に出撃要請の合図を送っただけ。
音に反応して、二人に背を向けていた悪魔が体を震わせた。怒りで体を震わせる人って本当にいるんだね、そんなことを考えながらもプレッシャーに耐えかねたアリスはすでに半泣きであった。
女がゆっくりとした動作で振り返る。般若とは嫉妬や恨みの篭る女の顔のことであるが、次に見えた女の形相はそろそろ鬼になってきた。人間やめる一歩手前。

「パルスィといいあんたといい、いったい何の目的があってハエ叩きなんてしているのかしらねぇ。ちょっと私にも教えてくれるかしらぁあははははは」

彼女は今ものすごく頑張って笑顔を作っているのだが、にこにこなのは口元だけで目元は異形の何か、というか口端も無理矢理に引っ張って笑顔を作っているので不自然にひきつっていた。顔の歪み方が本当に怖い、かな~りキているようだ。
最後の理性で何とか悪鬼にはならず踏み止まっているようだが、とりあえずこのままだと人生ログアウトしそうなので七色は何とか説得を試みようと、

「霊夢落ち着いて。これには井戸よりも狭く水たまりよりも浅い理由があるの、まずはそれを聞いてもらって」
「気が短いの、5文字以内で答えろ」
「ごめん無理」

即座に諦めた。
シャキン。わざと音を鳴らしてパスウェイジョンニードルを両手いっぱいに取り出して見せる妖怪退治屋。

「五寸釘がないからこれで勘弁してねぇ?一本一本丁寧に、憎しみを込めて打ち込むからさぁ」
『ひぃぃ!?』

縮み上がる二人。
巫女の丑の刻参りは藁人形など使いません。呪殺なんてまどろっこしい、直接当人に叩き込むだけの安心と信頼の確実性。
鬼が投げモーションに入りました。あぁ走馬灯が‥‥‥


ズゥゥゥン


何かクソ重たいもの例えて言うなら岩石むしろ特大要石の地表に直撃する音が、地響きとともに彼女たちの元へやってきた。

「‥‥‥」

3者何も語らず。
その中で霊夢の表情だけが変わった。
鬼みたいな恐ろしい形相は消えて、すがすがしいまでの笑顔に。


「ぶち殺(ピーッ」





―――ただ今、少女として不適切な発言がありましたことを深く、深く、お詫び申し上げます―――





決意の言葉を放ち銃弾となって飛んでいく巫女、だった人。命長らえた少女二人はただただ悪魔を見送るだけであった。
彼女たちは心の内でそっと言葉を残した。今度お酒とご馳走持って天界に遊びに行くからね。

「潰す。すり潰す。押し潰す。踏み潰す。殴り潰す」
「わ、ちょ、ま‥‥‥げふぅ」

それまで達者でね、天子。




 ◇




「天人じゃなかったら死んでたわ」

部屋の人数はさらに増え、緑眼娘と蒼眼娘の間に座った天子は出されたお茶をすする。あらゆる面で鉄壁に定評のある天人の体。ナイフでも傷一つつかないので普通に無傷であるが、代わりに割とボロボロになっている服が悪魔の本気っぷりを語っていた。
その悪魔もとい霊夢はボキボキに折れた針を悲しそうに片付けている。針が通用しなかったので、最終的には陰陽玉で物理的に押し潰してから連行してきたらしい。

「次こそ蓬莱人じゃないと危ういんだけど、4人目誰?」
「黒白じゃなかったっけ。あぁ山の方の巫女だったかも」
「命がいくつあっても足りないわ、チェンジよチェンジ」

もぐもぐ、饅頭を間食にしてすっかり和みムードの3人。パルスィは電波を受信中なので、アリスと天子だけで審議を続ける。

「もう陰陽玉で潰されたくないので計画の中止を進言します」
「言いたいことはよくわかるけど撤退は許可できないわ。ていうか手伝いにやってきたんなら、霊夢を相手にするって時点で諦めてから来なさい」
「報酬上乗せを要求‥‥‥無理か。私帰りたいなぁ~」
「パルスィ~。あっちはどんな感じ?場合によっては本気で撤退というか魔窟からの脱出を検討したいので」
「えっと‥‥‥‥‥‥準備完了。おーけーよ」

分身からの信号を受けてパルスィが合図をよこした。待ちに待った朗報に、残る二人は表情を明るくする。
さて、そうなると後は彼女たちに託された。3人がやるべき仕事はただ一つ。

「こそこそ、こそこそと!あんたら3人して堂々と会議隠し事とはいい度胸してるわね」

傷心モードから立ち直った悪魔が3人を睥睨する。前二人はともかく天子も普通に気圧されている、圧倒的な威圧感。
だがしかし、逆転の切り札はある。

「何を企んでるのかは知らないけど、随分と仲良く親睦を深めているようでなにより妬ましい妬ましい、妬ましい!‥‥‥あ、あれ?」

自分の口から妙な単語が飛び出してきたことに霊夢は驚く。別に妬んではいないのに、嫉妬心が湧きだし掻き立ててくる感覚に正常な思考が停止させられる。抵抗しようとかお札を投げつけてやろうとか、すべての行動が深淵から妨害をかけて霊夢の自由を奪った。
少女の目の前。
嫉妬心を操る妖怪、橋姫は不敵な笑み。

「心乱してるから」
「は、謀ったわね!」
「謀られる方が悪いのよ。じゃあれっつご~」

結局予定通りに事が運ばなかったために出番のなかった交渉説得役、アリスの掛け声で天子が霊夢の背後へと回り羽交い絞めにした。
天人に拘束されては人間にはどうしようもない。そのまま冬の空の下に運送され、一同は妖怪の山へと向かう。山頂を目指しているのか高度はぐんぐん上がり、気温はどんどん下がる。

「寒いってば。外に連れ出すなら上着くらい」
「ほい」

言い終えぬうちに肩からカーディガンを着せられた霊夢は口を閉ざした。温かくなって怒りを向ける方向を失ったことはもちろんだが、その声の主に対して閉口したのである。わざわざ羽織るものまで用意していた主、背後にいた霧雨魔理沙を睨んで。

「犯人はあんたね」
「待て、私は主犯だ」
「なお悪いわ!」

主犯ってことは、これを企んで協賛したのが複数人いるのか。霊夢は更に食って掛かろうと。
瞬間、空が光った。
そう大きな光でもなく、瞬きの間に消えてしまうほど短い。それでも地上に明かりの少ない幻想郷、月と星以外には漆黒の世界では十分な輝きだった。
また、光る。

「お、今のは大きいな」
「そっか。今日なのね」
「大流星群じゃないから数は少ないが、でかいのが来たから頃合いだぜ」

語る間にも小さな閃光が夜空を彩る。流星の数は1分間に1個といったところか、しかしいつ光るかわからぬそれを待つのも趣があった。
ゆっくり眺めるために、4人は地面へ降り立つ。ちょっとした広さの大地にはすでに先客たちがいて、皆同じ目的でここにやってきていた。あいさつもほどほどに、改めて寝転び空を仰ぎ見る。

「お前の寝起きの悪さは悪魔級だ。普通に起こしに行った所で、そんなの知るか眠いんじゃ~って追い返されるだけだし」
「前もって言えばいいじゃない」
「万一雲かかってたら見えないし、それじゃあサプライズにならないだろ」

まぁ最終的には天候いじったんだけどな、とパチュリーへ視線を送る魔理沙。かかった雲を取り払うのに魔女が一役買ったようだ。
紅魔館組はもとより永遠亭や聖たち、もちろん地底組もここにやってきていた。なるほど昼間の連中がやけにハイテンションだったのはこれのせいかと、ようやく霊夢も全貌を把握する。

「協力感謝感謝、ありがとなパルスィ」
「どういたしまして。じゃあ私はこれで」

冷たく立ち去ろうとする本日最大の功労者だったが魔理沙はその襟首をつかんで引っ張り、体を大地へと転がせた。仰向けに倒されたパルスィの眼前に夜空が広がる。

「地底じゃ見れないだろ。イベント事は楽しもうぜ」
「‥‥‥そうね。これくらい見ておかないと割が合わないわ」
「一発ぴちゅらせたのはこれでチャラってことで、また来なさい。ただし、次はマイルドにね」
「白装束でマイルドにお参り?」 「五寸釘装備でもおーけー?」 「要石打ち込みになら」
「やっぱ来んな。ほら、また一つ落ちたわ。いや~今のはすごかったわねぇ」

大仰に芝居打つ霊夢に、パルスィ達も慌てて視線を空に向けた。
星はまだまだ流れ続ける。今宵だけの輝き、見落とすのはもったいないとばかりに、けれどぼんやりと霊夢たちは空を眺め続けた。




 
突貫作業で書いた結果である。5KB程度で済ませるはずだったのに何でこんなに長くなったんだろう?


数年前にどこかの大流星群があった気がしますが、もしも深夜に流星のピークが着たら涙目(冬の寒さと翌日の日程的な意味で)

三大流星群の一つ、ふたご座流星群。
今回は大流星群ではないので規模はお察しくださいですが、今年の12月13日~16日にかけては、もしかしたら見られるかも。14日午後10時くらいが見ごろらしいです。
水崎
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
流星群見てみたいなぁ
2.名前が無い程度の能力削除
ドタバタを楽しませてもらったら最後はなんか良い話だった。こういうの、大好きです。