てゐです。
私が暇しているときにもっぱら考えてる事は、同僚で年下のうどんげちゃんを苛める事です。
今日も今日とて永遠亭の廊下を歩きながら、今日はどんなことしていじめて上げようかな~なんて考えてたら、やっこさんから誘いがありました。珍しい。
だからわたしは今、鈴仙の自室にいます。
「それで、わたしに話ってなあに? わたしもそんなに暇じゃないんだけどな。」
ただ黙って聞いてやるのも勿体無いので、とりあえ弄ってやることにする。
それだけで目の前のへたれ耳は、ちょっと涙目になって訴えてきた。
「真剣な話なのよ……ちょっとぐらい付き合ってくれてもいいじゃない……。」
やばっ。萌えそう。
上目遣いで瞳を潤ませるとか、こういう加虐心をくするぐる表情を平気でするから天然ってのは怖いね。
実際のところは暇で暇で仕方なく、どうやってうどんちゃんを弄り倒そうか悩んでたくらいだから渡りに船なんだけどね。
もちろんそんなことおくびにも出してやらないけど。
「しかたないなぁ、鈴仙は。それでその真剣な話ってなんなの?」
本当に仕方ないので、話を戻してあげた。
すると、すぐに気を取り直してしゃきっと背筋を伸ばす鈴仙。
──貴女のそういう切り替えの早いところ、お姉ちゃん大好きよ。
「他の因幡たちの事なんだけど……。」
これだけ聞いて、鈴仙が何を言いたいのか察しがついた。
なんせ一緒に暮らすようになってから、ずっとそのことで頭を悩ませているようなのだ、分からない方がおかしい。
「相変わらず私の言う事を聞いてくれないのよ……なんとかならないかしら?」
でもこうやって私のところに相談に来たのは今回が初めてだった。
漸くお姉さんの偉大さが分ってきたか。関心関心。
さて、なんと答えたものか……もっとも、私から皆に伝えておく、とでも言えば解決する話なんだけど。
あの子たちは私の子分みたいなもの。私の言う事は必ず聞くし。
だからって、それじゃあ何も面白くない。此処は一つ──
「簡単に言うけど、難しい問題だよ? 鈴仙が普段から頑張ってるのは私も知ってる事だし、あの子たちだって理解はしてると思う。」
ちょっと褒めてあげると、鈴仙は照れた様子で頬を掻いた。
幾つになっても、本当に愛い奴じゃ。
「でも! だからと言って、あの子たちは鈴仙の部下って訳じゃない。対等の立場だって思っている相手に命令されたって誰も聞かないよ。」
「対等って……私は師匠の弟子なのよ?」
「だからって自分より上って事にはならないよ。そもそもわたしたちは姫様や師匠の部下じゃないよ? まぁ恩義はあるし、直接頼まれたりすれば吝かでもないけど。」
私の言い分に口ごもり、至極不服そうに頬を膨らめせる鈴仙。
軍人育ちだといっていた彼女。きっと今のはっきりとしない関係にやきもきしているのだろう。
「じゃあどうすれば良いのよ……。」
「そうだなぁ……例えば、そうね。鈴仙、私の妹にならない?」
「い、妹!? なっなんでそうなるのよ!?」
だって可愛いだもの、貴女。
なんて本音はもちろん言わないけど。あくまでポーカーフェイスを崩さずに、私は彼女を言い包めようと舌を回す。
「わたしと鈴仙の関係がはっきりしてないのが、原因だとわたし思うの。
用は妹分よ。そうすれば、私の子分であるあの子たちは、鈴仙の事無視できなくなるよ。別に私の子分になってくれても良いけど?」
「い、嫌よそんなの……!」
「私も鈴仙の部下になるなんて真っ平よ。そこはお互い様って事で。だからほら、妹に。」
「で、でも……容姿とか……私の方が全然上に見えるし。」
頬をほんのり赤く染め、目に見えて恥ずかしそうにもじもじとし始める鈴仙。
──ふふふ、思ったとおり。脈有り、だわ!
彼女の真面目な性格の裏には、誰かに認めてもらいたい、褒められたいと言う意思が隠されている。
それは彼女が寂しがりやだという証拠。そう、本当の彼女は誰よりも甘えん坊さんなのだ!(力説)
「ほら……試しにわたしの事、お姉ちゃんって呼んでごらん。」
流石のわたしも興奮を隠せない。だが冷静さを失って要るのは彼女も一緒。なんら問題はない。
むしろ今必要なのは、押しの強さである。
「そんなこと言って……また私をからかおうとしてるんでしょ……?」
「そんなことない。大丈夫だから……お姉ちゃんを信じて……ね?」
できるだけ優しく、猫なで声で話しかける……わたし、ウサギだけど。
今だモジモジとしながらも、あからさまに何かを期待するような目で時々こちらをちら見する鈴仙。
──そうよ、貴女の大好きなお姉ちゃんは、此処に要るわ!
何だか、自分が立てた作戦に自分が一番嵌ってる気がしないでもないが……楽しいからよしとする。
「ほら、頭貸してごらん……鈴仙ちゃんはいつも頑張りすぎてるのよ。だからこうやって──」
「あっ……!」
「ね? 甘えてみたら、どう?」
まずは自分が下だって事を理解させてやる事が大事。そう思ったわたしは、彼女の頭を無理やり自身の膝へと移す。
言わずもがな、膝枕だ。こうすることによって、自然と鈴仙はわたしを見上げる事になるのだ。
彼女は抵抗しなかった。それどころか、わたしがちょっと引っ張っただけで、殆ど自ら進んで乗っかってきたような感じだ。
「ほら、鈴仙ちゃん……。」
わたしは先を促してやる。
彼女は一瞬、「え……?」っと言う顔をしたが、私の言葉を思い出したのか、恥ずかしそうにしながらもその小さな口を動かした。
「お姉ちゃん……?」
こういう従順なところ、本当に弄りがいがある……。
「そう、お姉ちゃんよ。てゐお姉ちゃん。」
「てゐ、お姉ちゃん…………。」
そして何より、今の鈴仙は保護欲を掻き立てる……。
しなだれる鈴仙の頭を優しく撫でてやる。
すると、じきにすやすやと安らかな寝息を立て始めた鈴仙。
──きっと本当に疲れていたのだろう。
「仕方ない。変わりに指示だしといてあげるかな。」
──可愛い妹の為だ、それくらい良いだろう。
身動きがとれなくなったとは言え、因幡たちを呼ぶのなんて造作も無い。
やがて訪れた因幡に、今日の残りの仕事の分担と、何より今後の方針を伝え、皆へ伝令するよう指示した。
──それから一週間。
「聞いたわよ、鈴仙。」
突然背中から声が聞こえたので、振り返ってみたら姫様がやたら嬉しそうな顔で立っていらっしゃった。
「聞いた……とはなんのことですか?」
「とぼけちゃって。ついに他の因幡たちを、手なづけられるようになったそうじゃない。」
永琳から聞いたわ、と自分のことのように喜んでくれる姫様……。
だけど私は素直に喜べなかった。
──姫には、屋敷中に響く、因幡たちの声のその異常性になんの疑問も持たないのだろうか……?
噂をすればなんとやら、先程廊下の掃除を頼んだ二人組みの因幡が廊下を雑巾掛けしながら猛スピードで駆け抜ける。
ちらっ。
「鈴仙ちゃん萌えぇぇ~~~!!」
「妹キャラ萌えぇぇ~~~!!!」
ちらっ。
すれ違いざまにさりげなく熱い視線を寄越す因幡たちに、私は力なく手を振ってやった。
「「やふぅぅううう~~~!!!」」
するとさらに速度を上げて彼女達は過ぎ去っていった。
実に頭の痛い光景だ。
「それに最近、因幡たちの結束も軒並み強くなったみたいだし。良いごと尽くめじゃない。」
──なるほど、姫の目にはそう映っているのか……。
どこまでも幸せそうな姫様を見送り、ひとり廊下に残された私。
「はぁ……。」
「どうしたの? 溜息なんてついちゃって。」
すると、てゐがひょこり現れた。
──以前にもまして、神出鬼没になってきてる気がする。
「てゐ……何でもないわ。」
「こら! てゐ、じゃないでしょう?」
あの日からてゐは、ずっとこんな感じ。
どうやらどうしても私を妹にしたいらしい。
因幡たちといい、何だが間違いだらけな気もするが──
「うん……てゐお姉ちゃん。」
でも、まぁいいか。
てゐれーせんはいいね。
カリスマのあるてゐでした。
ごちそうさまです!
…という誤字の話はともかく…、作者の作品をいくつも見てきましたが、相変わらず百合話が面白いですね(笑)