Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

叫べ!我が名は……『紅美鈴』

2009/09/25 14:55:06
最終更新
サイズ
9.95KB
ページ数
1

分類タグ

私は美鈴、紅美鈴。とはいってもこの名前で私を呼んでくれる人は少ない。
そういえば名前なんて個体を区別するためにつけるだけのものでしかない、なんていってる人がいたな。
確かに区別されるだけなら、門番、中国で十分かもしれない。それでも私は名前を持ってる。
役職じゃなくて、見た目じゃなくて、呼んで欲しいな。役職を変えても、服装を変えても変わらない。私だけの名前で。
「やっほー、中国」
ぽかぽかと暖かい日に当たり憂鬱な午後に浸っていた最中、箒にまたがった魔法使いが飛んできた。
「はぁ、また来たんですか魔理沙さん。」
「通してもらうぜ」
「私の仕事は門番ですよ?通すわけ無いじゃないですか」
苦笑いをしながら構える。私の構えは独特で傍から見れば珍妙な構えだ。
「毎度毎度よくやるよ」
まぁいつも通り負けちゃったわけですけど…
「やっぱお前弱いなぁ。門番やってる意味のあるのかよ」
本人に悪気は無いんだろうけど……これは傷つくなぁ。でも事実か……
門を守ってる分際でお嬢様以下、それどころかメイドにまで戦闘力が劣る始末。
私……此処に居る意味があるんだろうか。彼女の言う通り私が居なくたって……
「また……通したのね」
「ひいっ」
ゾクリと背筋が凍りつくほどの悪寒が走る。この人は本当に人間なんだろうか。
「あの子が来ると掃除が大変だしフラン様が騒ぐのよ。もうちょっと頑張って欲しいわ」
「ねぇ咲夜さん、もし私がこの仕事を辞めたいっていったらどうします?」
「いきなりどうしたのよ、辞めたければ辞めればいいじゃない」
ちょっとした冗談のつもりだった。少しはとめてくれると思った。はっきりと突きつけられたようだった。
「えっ!?いいんですか?門番いなくなっちゃいますよ?」
「まぁ、代わりがいないわけじゃないしね。どうするかは貴方の自由よ」
自分が……必要ないと。
「そう……ですよね」
「いったいどうしたのよ。あ、でも名前が門番じゃなくなっちうわね」
クスクスと笑いながら冗談めかしく言う
「私の名前は……門番じゃありませんっ」
思わず駆け出していた。いく当てなんて無い、だけどただがむしゃらに走っていた。その場を立ち去らずにいられなかった。
自分を呼ぶ声がした気がしたが、なんという名称で呼んでくれたのかは聞き取る事が出来なかった。

「まったく、あの子は……仕事をほったらかして……帰ったらお仕置きね。ん?たしか門番辞めるって言ってたわよねぇ。だったら一応お嬢様に進言しときましょうか。もし私が門番兼任とかなったらさすがに死ねるわね」
ハハハ、と乾いた声で笑う。まさかそんな事にはなら無いだろうと思いながら大きな扉をコンコンッとノックする。
「入りなさい」
「失礼します」
無駄にでかい扉の中には無駄にでかい椅子に座る小さな少女が足を組み頬杖をついていた。
「お嬢様、門番が職を辞したいと申し出ておりますがいかがいたしましょうか」
整った顔にキリリと格好良く決められた少女の眉毛がピクリと動く。
「自分で言いにこさせなさいよ。でもまぁ、彼女の自由よ。そうねぇ明日からはメイドの中から強そうなのを二、三人並べておきなさい」
「まさしくザルですねぇ。魔理沙辺りが大喜びしそうですね」
「それはそうねぇ。まぁいいんじゃないかしら、それはそれで楽しそうよ。暇が潰れるならトラブルは大歓迎よ」
ぐぅぅぅぅ……
積み上げられていたカリスマが一瞬で崩壊した。
「うーさくやー、おなかすいたー」
さっきの威厳はどこへと驚くほど少女は幼児退行していた。
「はいはい、ただいまお持ちいたしますよ。お嬢様」
鼻血で一瞬部屋が真っ赤に染まったが、コンマ一秒後には涎がたれるほどの料理が何の変哲も無い部屋にズラリと並べられていた。

ぐぅぅぅぅぅぅ
「あーお腹空いたー。お腹空いたー」
まぁ妖怪だしご飯なんて食べなくたって平気なんだけど今までずっと食べてきた為お腹が減る気がする。
当ても無く飛び出した私はとりあえず森の中に身を潜める事にした。別に悪い事をしたわけじゃないのに。
誰も探しに来てくれないことは分かってた。だけど心のどこかが探しに来てくれると思ってた。
でも、飛び出した手前、会うときっと気まずくなってしまうと。その結果がたぶんこれだ。
「はぁ、まさかあんなに簡単に辞めていいよなんていうなんて。私の価値なんてそんなもんなのかなぁ」
思わず涙ぐむ。涙……か、久しく流してなかったな、きっと幸せだったんだなぁ。紅魔館に来てから……いや居た時は。
もう私は紅魔館の門番じゃないんだ。咲夜さんの料理……美味しかったな。
サボったらお仕置きされて、それでもご飯はちゃんと持ってきてくれて。食べ終わるまで待っててくれて。
美味しいって言うと思いっきり笑ってくれて。私……好きだったのかな、咲夜さんが……気がつくのがちょっと……ほんのちょっと遅かったかな。
いや、きっと気付いたって何にもならないよなぁ、私はなんの役にもたたないし、咲夜さんはお嬢様のことが……
「はぁぁぁ、ため息しか出ないよぅ。戻りたいなぁ。もう真っ暗だし」
気がつけば辺りは闇に包まれ吸血鬼が本領を発揮する時間になっていた。まん丸の月が異様で綺麗な光を放つ。
月明かりがほのかに私の周りを照らす、雲ひとつ無い空で陰りを知らない月光が。
「はぁぁぁ、綺麗なつきだなぁ」
「そうね」
ゾクリとした、ドキリとした。心臓がバクバクする。鳴り止まない。隣を見ることが出来ない。金縛りにあったように動けない。
時を止めて隣に来たのだろう。まったく気がつかなかった。いつから居たのだろう。
「こんなにも月が綺麗なら、たまには月見もいいかもね」
隣を見ると月明かりに照らされた咲夜の横顔があり、それは私の心を改めて打ち抜いた。
「どうして、どうして此処に?」
「あんまり遅いんでね、仕事サボって探しにきたのよ。何かあったのかと心配してきたら貴方のんびり月見をしてるんだもの。ひっぱたいてやろうかとも思ったわよ。でも、確かに今日は月が綺麗ね。貴方が見惚れちゃってるのも分かる気がするわ」
「さ、さくやさん…でっ、でも、私門番やめちゃったんですよ?探しに来る必要は……」
「何言ってるのよ、門番辞めただけでしょ?それでなんで探す必要が消えるのよ」
「えっ!?だって、だって門番じゃない私なんてもう咲夜さんとは何の関係も無いじゃないですか!」
咲夜はビクッと一瞬体を震わせきつく私を睨んだ後悲しそうな顔で微笑んだ。月明かりは二人を照らす。
「なにを言ってるのよ。たとえ貴方が何の職につこうと貴方の家は紅魔館。貴方を待ってる人がそこに居るってことを忘れないで。私たちは職場の知り合いじゃないわ。家族よ」
ボロボロと涙がこぼれる。さっきのとは違う涙。不思議と流れてくるのが嫌じゃない。
「うぇぇぇ、しゃ、しゃくやしゃ~~ん」
思わず咲夜さんに抱きついてしまった。身長が咲夜のほうが低いので頭を抱きかかえる形になる。髪からとてもいいにおいがする。
「でも、咲夜さん……若干汗臭いですよ」
「貴方のせいでしょうが。ったく、どんだけ飛び回ったと思ってるのよ」
咲夜さんの目つきがちょっとだけ険しくなる。ふっとさっきまで照らしていた月明かりが陰る。雲でも出てきたかと上を仰いでみると。
「もーさくやー!見つかったならちゃんと合図送ってよぉ。ってあれれ?お邪魔しちゃったかなぁ?かなぁ?」
「えーゴホン。咲夜、別にそういう関係になっちゃいけないとは言わないけどまずは主に発見を報告するのが筋じゃないかしら」
光を遮ったのは雲じゃなく幼い二人の吸血鬼。抱き合っている従者たちを見て顔を赤らめている。
「お嬢様!フラン様まで……私を探しに来てくれたんですか?」
「あんまり心配させないで欲しいわ。一応私が主なんだから辞表はちゃんと私に渡しに来なさい。次にどこの職場にするかの話し合いも出来ないじゃない。今回だけは許してあげるから、どこの職場に行きたいか言いなさい」
「おねーさま、私の遊び相手なんてどうかな?」
うひゃー、それは勘弁して欲しい。苦虫を噛み潰したような顔をしていると咲夜さんが問いただしてきた。
「その前に何で門番を辞めるなんて言い出したのよ」
「それは……だって私だと普通に通られちゃうし、お嬢様より、ましてや咲夜さんよりも弱いし……居る意味ないんじゃないかなって」
レミリアは目を細めて睨みつけてきた。恐怖すら感じる。だが目の奥にはかすかに温もりが見えた気がした。
「はぁ、呆れた……自分が嫌なわけじゃないのに私の采配が間違ってるとそういうのね?」
「いやっ、そんな事は……ただ、私は……」
「決めた。アンタ門番、やっぱ門番。他の職につく事は主たる私が許さないわ。ぶん殴って縛り付けてでも門に飾っておくわ」
「おねーさま、それ門番じゃないよ、ただの晒し者じゃない?」
「門番が門を守るだけなんて古い古い。門を、彩るためでもあるのよ。どんな装飾よりも素敵だと思わない?しかもよわっちい敵なら排除してくれるというオマケつき。倒せない奴がいる、じゃあ私は役立たずだ。なんて思わなくてもいいのよ。倒せない敵は……私たちに任せなさい。私たちは……家族でしょ?もちろん、お仕置きはするけどね」
素直に嬉しかった。さっきとは打って変わってにんまりと笑うお嬢様はとても美しくかった瞳には確かな温もりが。
はっと気になって咲夜さんの方を見るとやっぱり咲夜さんはお嬢様に見惚れてて。
少し悔しくなった。少し悲しくなった。ほんの少しだけ。咲夜さんがお嬢様に惚れたのはお嬢様のこういうところだろうな。
「さて、帰るわよフラン、咲夜。パチェが待ってるわ。いい?美鈴、アンタは門番よ」
え?いま私の名前を……
「さ、かえろーよめーりん」
「お嬢様にはかないませんね。ねぇ、美鈴」
フラン様……咲夜さん。
「はいっ!」
家族って言われたのが嬉しくて、名前を呼ばれたのが嬉しくて、また門番なのが嬉しくて。
なんでだろうな。ニヤニヤと笑いながら全速力で駆け出して紅魔館を目指してた。ぶっちぎりで帰ったと思ったら。
すでにお嬢様もフラン様も咲夜さんも帰ってて、改めて今日は満月だったなと空を仰ぎ見る。
ご飯を食べさせてもらった後にお嬢様とフラン様はまた飛び去ってしまった。残された私と咲夜さんはと言うと……
「さ・て・と、私たちのことをただの他人だとぬかした悪い子にお仕置きでもしますかねぇ」
「あっいやっ、感情が高ぶっててつい……」
咲夜さんがヘッドドレスを取り外しながらゆっくりと近づいてくる。ゆっくりと、ゆっくりと。
「安心して美鈴。抵抗は無意味だから」
「安心できませんって~。今日くらい勘弁してくださいよ」
ひゅっと急に寒くなった咲夜さんの威圧だろうか、いや違う。一瞬時がとまった。だって私……服着てないっ!?
「不安なら素数でも数えなさい。10桁くらいまでには終わるわよ。家族愛って奴を教えてあげとるわ」
「ひゃぁ。あいやぁぁぁぁ」

そして今日も朝日が昇り私は門の前に立っている。昨夜の結論、咲夜さんはPADではありませんでしたー!腰ががくがくします!
そうこうしているうちに例のやつが今日も来た。
「おっはよー中国、今日も通してもらうぜ」
「おっと今日はそう簡単にいきませんよぉ」
これでもかというくらいにやりと笑う。しかしどうやら魔理沙は警戒するというよりも呆れているようだ。
「何言ってんだお前?まあどうでもいいや、拙者、罷り通る!!」
魔理沙が八卦炉を構え辺りに星が舞い始めた。が、それは全て打ち落とされる事になった。
「困るんだよねぇ。あまりぽんぽん通られると紅魔館の面子ってもんが立たないのよ」
「魔理沙さん残念ですが許可の無い方はお通しできません」
「あははは、まりさーいらっしゃい。ま、派手にやりましょー」
「げげっ!?レミリア、咲夜、フラン。何でこんなとこにっ!?これは……撤退だぜ、またなー」
そそくさと退散する魔理沙を私たちは笑いながら見送った。
「たまにはいいわねぇ。皆でのんびりしながら門を彩るのも。でもこれじゃあ誰が門番か分からないわね、美鈴」
門番と呼ばれるときもある、中国と呼ばれるときもある。それでも、私の名前を呼んでくれる人が居るなら。
私は名乗ろう。
「紅魔館の門番は私、名は紅美鈴です!」
その笑顔は太陽のように輝いていたが吸血鬼二人を焦がす事はなかった。
パチュリー「あれ?。私の出番は?」
レミリア「おめーの出番、ねぇから!」

パチュリーが嫌いな訳ではないです。
もし出すと私の文章力ではレミリア、咲夜、パチュリーが同じような喋り方で、あれ?今誰が喋ってんの!?ってなると思ったからです。
家族って良いなぁ。仲良き事は美しき哉。
あだ名もいいけどたまには本名を呼んであげよう。そんな作品でした。
皆さんに楽しんでいただけたのなら幸いです。
yukimura
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
温かい紅魔館だ・・・
2.名前が無い程度の能力削除
あらら、咲夜さん、昨晩はお楽しみでしt(ピチューン
ところで、
>「~家族愛って奴を教えてあげとるわ」
と咲夜さんが申しておりますが、咲夜さんって私の地方の人でしたっけ? 可愛いので大歓迎ですけどw
3.名前が無い程度の能力削除
温かい話なんだけど本当に門番として役に立ってないらしい美鈴に切なくなった。
4.名前が無い程度の能力削除
ぱっちぇさん涙目www
まぁめーさく(2つの意味で)読めたしいいやwww