この一枚には職人の魂が籠っている。ビニールの端をちょっとつまむだけで簡単に開けられるのも、この製品のポイントだろう。ほら、見ろ。この美しき色を見ろ。私の視界に入る五月蝿い虹色の羽なんかに比べれば、この凛とした落ち着きのある色合いは最高だ。まさに職人芸。
「ウマい。五枚くらい豪華に重ねると尚ウマい。何これ何枚食べても超絶ウマいわ」
この音も聞いて欲しい。ぱり、ぱりぱり。この音も、食欲を増進させる効果を担っているのだろう。
口の裏に貼り付いたそれを、舌で何度も何度も舐めて剥がそうとする。剥がれる気配を見せない様なので、口をあんぐりと開け、人差し指でガリガリと剥がした。
その瞬間、口の中に宇宙が広がる。
見事剥がれたそれを飲み込むと、次の袋を開けるべく、人差し指にくっついたそれを舐めとった。
なんと!
人差し指を強くしゃぶる度に無限の宇宙は収束していく。
こんな削りかすでもウマいと言うのか!
「味付け海苔、半端無いわ。こんな物をくれたお姉様に感謝しないとね」
。 。 。
「お姉様臭い。超迷惑」
「お姉様臭い、じゃなくて納豆が臭いんでしょう」
「同じよ。お姉様が食べてるんだもの」
お姉様は腐った大豆に蜘蛛の巣を張って、あろうことかその気持ちの悪い物を白米の上に流し込んだ。
「うわぁ。本当あり得ない」
「納豆の良さが分からないなんて。じゃあフランは何をご飯に乗せるというの」
「ふりかけとか」
「ふふん。日本にいるのに、フランはそんな程度の日本しか感じられないの?」
チクショウ。無駄に負けた気分。
「私だってもっと日本っぽい物好きだもんね!」
ついテーブルに身を乗り出して、強く手を突く。吸血鬼の力で叩いたものだから、テーブル上の器全てが軽く宙に浮いてしまった。しかし次の瞬間には元の位置に綺麗に戻されている。咲夜だろう。
まぁとりあえず、そんなことはどうでもよくて。
「例えばー」
「例えば?」
「あ、あ、あー」
「あ?」
「あー……味付け海苔とか!」
。 。 。
あのときノリだけで味付け海苔とか言ってしまったけれど、本当に良かった。お姉様もムキになって味付け海苔を部屋一杯になるまで送ってきたんだろうけど、残念だったね。普通に私喜んでいるよ。
「うん、ウマい。それにしてもウマい」
味付け海苔豪華十枚重ねを口に含んだところで、鋭い霊力が殺気と共にこの地下へと向かってきているのが分かる。この部屋へ、こんなにも自信満々に近づける存在なんて、一人しか知らない。
そろそろとは思っていた。こちらの迎撃準備も完了している。
さぁ―――
「味付け海苔に目覚めさせてあげるわ、お姉様!」
「こんなにも月が紅いんだもの、自然に納豆を求める体に改造してあげるわ!」
「今は昼だけどねぇ!」
扉を開けた瞬間から、勝負は始まっている。
トラップが作動して、お姉様に向かって無数の味付け海苔が殺到する。
それを最初から予期していたかのように、納豆の壁を構築し、次々と味付け海苔を絡めとっていくお姉様。汚らわしい。
しかし、ここからだ。いちいちかき混ぜなくては使い物にならないお姉様と違って、こちらには手数と身軽さがある。
器用にいくつもの袋を開けた私は、それを指と指の間に挟んでお姉様へと突進する。飛んでくる一粒一粒の納豆を避けながら、時に海苔で壁を作りながら着実に進んで行った。
しかしお姉様も中々やるようで、地面に大量の納豆をばらまき、臭いと粘り気による絶対不可侵領域を作り上げたのだ。
「こしゃくな!」
私は高く飛び上がり、高速回転をした。味付け海苔を扇子のように持ち、風圧で納豆の臭いをかき消す。
しかし、私はお姉様の構築した運命の鎖を破壊しきれなかった。飛び上がることなど、お姉様は予測していたのだ。
「まだまだ甘いわねフランドール」
私の体へ容赦なく遅いかかる納豆。必死に口元を両手でガードし、なんとか口にすることは避けられた物の、羽はべたついて飛べなくなってしまった。
そのまま私はくるくると微回転しながら、頭から納豆の海に落ちる。臭い。
顔を上げると、勝ち誇るようなお姉様の顔が見えた。もう勝ったと思っているのだろう。
「ふっふっふ、お姉様も目の前の勝利に目がくらみ過ぎよ。気づかなかったの?」
「そ、それはどういう。ま、まさか!?」
「そのまさかよ。お姉様の羽も封じさせてもらったわ!」
お姉様が羽を動かそうとしているが、無駄なことだ。既に味付け海苔がしっかりと貼りついて、行動を封じている。
「だけどフラン、甘かったわね。私には秘策があるのよ!」
そう言ってお姉様が取り出した物は、ほくほくの白米だった。私に見せつける様に納豆を上に乗せ、やたら不愉快な笑顔を向けてくる。
「くっ!」
体勢を低く身構えて、海苔をいっぺんに沢山開ける。おそらく次が最後の接触だろうから。本能がそう告げている。
「お姉様、何か勘違いしているようだけど、ご飯の部分には私触れるんだよ?」
「ふん、このご飯の上に乗っかった納豆の味を分からせる為に、必ずそのかわいらしいお口に突っ込んでやるわ」
お姉様も体を低く構える。両手に一杯ずつ、納豆ご飯を持っていた。恐らく片方で牽制をして、もう片方の手に持ったもので口へ狙ってくるつもりだろう。
だったらやることは一つ。
「華麗なカウンター決めてやるわ」
「フランドールは優しいのね。カウンターは、宣言してからやるものじゃないわ」
同時に霊力を爆ぜさせる。
片手が届く距離になったとき、予想通りお姉様が左手を前に突き出してくる。私も左手を突き出し、味付け海苔を空中で縦長に繋ぎ合わせ、素早くご飯を棒状に包み込んだ。
流れる様な動作で、迫って来る右手も同様に味付け海苔で棒状に包み込み、そのままそれを奪ってお姉様の口へ放り込む。勝った。
納豆と一緒とは言え、等々味付け海苔をお姉様の口の中へ入れることに成功したのだ。
「ふぉねぇふぁまふぁんねんふぁっふぁふぁね」
……っ何ということだ!
お姉様残念だったわねと言おうとして始めて気がついた。
いつの間に。
いつの間に。
気づけば、私の口にも、”納豆ご飯を棒状に味付け海苔で巻いた物”が放り込まれていたのだ。
口の中にあの臭いの元が広がっていくのが分かる。この感覚、最悪だ。私の口臭はどうなってしまうのだろう。
とりあえず、喋るために”納豆ご飯を棒状に味付け海苔で巻いた物”を噛みちぎった。
「お姉様、どうやら悔しいけれど、引き分けのようね」
お姉様も私に習って、食いちぎる。
「えぇ。どうやらそのよ、う……」
お姉様が目の前でいきなり膝をついて倒れてしまった。
「お姉……さ、ま」
私も膝から力が抜け、体を保てない。
これは、まさか!
「ウマい! 何この食べ物。納豆の嫌な粘り気、臭みが味付け海苔によって緩和され、さらに海苔からする若干の醤油の味がご飯によく合う。海苔、納豆、ご飯。その全てが華麗なシンフォニーをうんたらかんたら!」
私がなんとか立ち上がって妙な解説を入れると、お姉様も立ち上がってきた。
「これはなんと言う奇跡なの。姉妹の力が一つに……いや、納豆と味付け海苔の力が一つになって、ご飯の力を借りながら、意味の分からないハーモニーとラプソディーをうんたらかんたら!」
。 。 。
そのとき生まれた奇跡の食べ物に「納豆巻き」という名称を付けて売り出したところ、幻想郷中で大ヒット。
紅魔館の財政がまた潤ったのだった。
私とお姉様がいる限り、紅魔館は一生安泰だと思う。
作中に使用された食品は、私がおいしくいただきました。
納豆巻きは普通にうまいですね。エクセレントです。
帰りに納豆巻き買って帰ろうっと
食べ物で遊ぶなwwwwww
納豆巻きくそうめぇ
卵かけごはんに納豆乗せようぜ
納豆+玉子で玉子納豆もいいね!タレを入れる前に混ぜる方が美味しいよ!!
あれ、俺、何時の間にか味付け海苔喰ってる。
な
食べ過ぎると指がぺたぺたするのが難点だけど、ぺたぺたな指をペロペロしてるフランちゃん幻視したら
体中にやる気がみなぎってきました
口のまわりをねぱねぱさせながら糸ひく納豆を美味しそうに食べてるレミリア様を幻視したら体中にもっと
やる気がみなぎってきました
向かい合ってお互いに納豆巻きを差し出して食べさせあって一口噛んだ先から糸引いたりするスカーレット姉妹を
幻視しようとしたけど怖くなってやめました
いい話をありがとうございました
1様
納豆巻きはオイシいです。最近はまりすぎて毎日納豆巻き食べてます。結局迷った末、納豆巻きを買ってしまっています。
奇声を発する程度の能力様
納豆巻きはさらっと食べられるのもポイントにございます。小腹が空いたときにオススメです。
過剰様
彼女等は遊んでいた訳ではありません。歴史を作っていたのです。
卵かけごはんあるじゃないですか。そして、まぁ納豆乗せますよね。上から刻み海苔。どうでしょう。やばい、やばくないですかね!?
カビリアン様
納豆巻きのルーツはスカーレッツです。
ちなみに味付け海苔はおやつに入ります。
5様
フランちゃんは本当何をやらせれば可愛くなく見えるのか不思議です。不思議すぎます。
味付け海苔はおやつです。お煎餅。5枚重ねのオイシさは保証しますよ。
6様
ありがとうございます。
その1文字に全てが籠められていると思います。