まじ暇。死ぬ。ついでに言えば暑い。やべぇ。
烏天狗も死ぬからね普通に。
長生きだと思うじゃん? 死ぬし。
まぁ千年以上生きてんだけどさ、
暑いのと退屈なのとあと暑いのと暑いのが重なると大体死ぬ。
毎年夏になると私の8割ぐらいの部分死んでる。超ヤバいよ。
「いっそのこと、幻想郷滅ばないかなぁ……」
ちりりーん、と、うちのあばら屋に唯一ある素敵グッズ風鈴が音を鳴らす。これで涼しい気分になれとか無茶だ。
団扇もねぇエアコンねぇついでに水も通ってねぇ。
ワイシャツは汗でベトベトだし、ブラジャーなんてとっくに投げ捨てた。あんなもん付けてられるかってんだ。
できれば全裸になって川にヒャッハー! と飛び込みたいけど、河童が「見てあの天狗キモーイ」とか指差してくるから出来ない。
こういうときは河童が凄い羨ましくなる。いつも川にざぶーんって飛び込んでるし、きゅうり齧ってるしきゅうりも食ったら涼しくなりそうだし。
「あー……。すいかくいてぇよ……」
断じて小鬼のことじゃない。
割ると赤くて、じゃくじゃくの汁が溢れてきて、その汁でワイシャツの衿とか胸元だとかをだっくだくに染め上げて、種をマシンガンにしたい。
ほんといま、西瓜が食べたい。ものすげー食べたい。
「でも外出るの無理。死ぬ」
お天道さまが見張っている限り、私が唐揚げになるのも遠くはない。
鳥の腿の唐揚げとかなりそう。全身がジュウジュウ焼け焦げてく感がする。
死ぬ前に西瓜を腹いっぱい食べておけばよかった気がする。むしろ私が西瓜になれればよかった。
西瓜は多分幸せだ。
水一杯で、ペコンペコンって叩くといい音がするし、割るとジューシーだし、種マシンガンで遊べるし。
プペペペペとか口から種発射して、そのまま目の前の現実も打ち貫ければ私はパーペキな烏天狗だ。
そもそも、私んとこの新聞が売れないのがいけない。
あれが売れてたら、私は西瓜をたくさん買い込んでたはずだよ。
あーでも、西瓜冷やすのに川いくしなぁ。川で直射日光に攻撃されて、蒸発するもんなぁ。
もしかして、私の人生ってここで終わるのが運命付けられてたのかな。
やべー、マジ太陽つえー。
天狗が最強とかね、古いよ。
今の最強はダントツで太陽ね。
「ねーあや、なにしてんの?」
チルノさんの幻覚が見えてきた。
なんか凄い辺り冷やっこいし、今私は暑すぎて心頭滅却してしまったようだ。
「ねぇー」
「ふふふ、私を葬っても第二第三の射命丸が貴方に抱きつくことでしょう、チルノさん」
うわまじこの子ちべてぇ。
夏が今この瞬間、死んだ。
「寝ぼけてんの? てゆーか汗で気持ち悪いよ」
「う?」
いや落ち着くんだ射命丸文。ここは天狗の住まう深山。
ただの氷精がまかり間違っても来れる場所じゃーない。
つまりこれは幻覚だ。
「だーかーら、引っ付かれると汗がべとべとするんだってば」
試しにほお擦りしてみよう。すげぇ、ちべてぇ。冷やっこい。
唐揚げじゃなくていまならバンバンジーになれそう。
今なら胸肉も使っていいよ。割りとまじで。
「あーきもちいー。夢でもチルノさんが居ると涼しくて最高ですねー」
「夢じゃないってば。いい加減に、しろ!」
ぽかり。
頭を殴られて、痛みが来ないかと思ったらジンジンと痛み始めた。
まさか。
「ハッ、ドリームか」
「いや、ごまかそうったって無駄だけど」
なんたる失態。
「いやいや。百歩譲ってこれが現実だと認めましょう。なぜあなたはここに居るんですか」
「えーとね、暇だからブラブラしてて、そしたら白いふさふさの天狗? だれだっけ?
あいつにおっかけられて、ぴちゅーんってしたら気がついたら、あそこに引っかかってた」
近くの桃の木をビシィと指差す。
ハハハ、妖精ってそういえば、ぴちゅーんってしてもすぐ別のところで復活したりするんだよね。
っていうことは夢で誤魔化そうとしたけど、このすけすけワイシャツも、くっついてほお擦りしたりしたのとか、全部現実なんだよね。
ああそうか、私はやっぱりここで死ぬべきだったんだ。第二第三の射命丸がって、んなのいねーよ、誰のことだよ。
「ねぇ、遊び行こうよー。みーんなぐったりしててさ、暇なんだよ」
「チルノさん、暑くないんですか?」
「暑い」
「なのに外で遊ぶんですか?」
「家の中でもいいよ?」
「じゃあ、家の中にしましょう。ちょっと着替えてきますから、ここで待っててください」
「ほいほい」
あーいますごい死にたい。
ワイシャツ脱いで、涼って書いてあるTシャツを着て、パンツ一枚だったから膝のところで切ってある木綿の作業着を履いて。
なんだろうね。無防備な姿って人間でも妖怪でも、あるわけじゃん?
そういう部分を見られてしまうと、精神的にガクっとくるわけで。
今だったら私、土に触れてたらそこから肥料にもなれるぐらい落ち込んでる。
どれぐらいショッキングかっていったら、知らない誰かに「お母さん」って話しかけたときぐらいショックだ。
「トランプしよー」
「ババ抜きとかですかー」
「紫のこと?」
「違いますねー」
というか二人でババ抜きやったって何も面白くないじゃん。
やっぱり、頭がオーバーヒートしてるんだ。
「お待たせしました」
「うん。トランプしよう」
「ええ、でも私は西瓜が食べたくて仕方ないです」
「西瓜も食べよう」
「じゃあ西瓜食べに行きましょう」
「トランプもしよう」
「それは名案です」
河童辺りが西瓜栽培してたりしてないかな。
だめだ、あいつら脳みそまで胡瓜に汚染されてる。胡瓜ジャンキーだ。みんな虚ろな顔をして、胡瓜をバリバリ齧ってる。
顔見知りのにとりもそんな調子で、河童はこの夏で全滅してしまうんじゃないかという懸念を抱いてしまった。
「チルノさん。これから私は里へと向かおうと思います。山はもうだめです。全滅必至です」
「れっつごーごー」
チルノさんを肩車すると、首筋が冷えてすごくきもちいい。やましい気持ちはほんのちょっぴりしかない。
この状態で空を飛ぶと、多分色んな意味で気持ちいいと思う。
涼しいとか、ワンピースが風圧でめくれあがってるとか。
「文はやいねー」
「幻想郷最速ですよー」
「あたいもこれぐらい早かったらなー」
「きっとなれますよ」
「まーじでー」
「西瓜食ったらたぶんなれます」
「じゃあ急いで食べにいこー」
「いこー」
チルノさん餌付けするのって西瓜でいいんですかね。できれば夏中うちに居て欲しい。
里は大変な有様だった。
カキ氷屋が繁盛しているのはいいけれども、並んでいる人間が死屍累々。
カキ氷で涼を取りたいのか、日射病で死ぬために並んでいるのかがもはやわからなくなっていた。
非常に哲学的な光景だった。
「カキ氷、いいね」
「私は冷えた西瓜が食べたいです。西瓜売ってませんかね。八百屋とか」
「カキ氷があたいは食べたいね」
「そうですね」
「並ぼう」
「西瓜も食べましょうね」
「そうしよう」
氷精が居ると日射があっても倒れないから便利。
しなびたミミズみたいになってる人たちの横をするする抜けていって、怪しげなブルーハワイを選んだ。
どうやら繁盛しすぎで氷が足りないらしいので、チルノさんが氷を作ってあげた。おかげで無料でカキ氷が食べれた。
「うおーあたい頭いたい」
「なんかカッコイイ言葉ですね。急に食べたらそりゃ痛くなりますよ」
「でも美味い」
「ほんとに」
しゃきしゃきと氷が小気味良い音を立てる。
ブルーハワイなる代物が一体なんなのかさっぱりわからないけれど、シロップの不健康な青さが私を天国へと導いてくれる。
チルノさん、最高。
「ねぇ文」
「なんですか」
「あっこに萃香が居るよ」
「あれは西瓜じゃぁありませんよ」
「でもさぁ、冷やしたら美味いかな?」
「鬼は食べたことがないのでわかりませんねぇ」
「そうかー」
チルノさんは、幽鬼のごとく彷徨う萃香さんに興味津々。
「ねぇ、カキ氷食べる?」
「खाओ」
「もはや日本語を喋ってませんね」
これだけ暑いと仕方がない。私だって一時は死を覚悟した。
でも、チルノさんとの出会いがそんな私を変えてくれた。
「あー生き返る。あと文だっけ、お前の服、ダサいな」
「暑いんで」
「まぁ仕方がないな、それはな」
「あと西瓜食べたいんですけど、どっかで売ってませんかね」
「うーん。魔理沙がこないだ、幽霊で冷やしてたけどね。八百屋とかで売ってんのかね」
「いやーあの人バカですよね」
「アホだな」
「魔理沙ってバカでアホなの?」
「ですよ」「うん」
「へぇー」
カキ氷を食べ終えてしまった。
このままではまたすぐ直射日光にやられてしまう。
「ヘイチルノさん。定位置が空いてますよ。万事オッケーオールオッケー」
「お、おおう?」
「肩車しちゃいますよ」
「なんだおまえら、仲良いなぁ。天狗のくせになぁ」
ハッハッハと小気味良く笑う。
天狗が抱かれてるイメージっつーと、大体他の種族をバカにしてて態度が悪い。
しかしながら、それで大体合ってるから困る。
「西瓜食べよう西瓜。というかちょっくら、アレ使うかね、アレ。ちょっと広いとこに出よう。そいで、誰もいないとなおいいな」
「何か案でも?」
「うん。面倒だから、西瓜集めちまおう」
「あぁー」
その手があった。
「集めるて?」
「チルノさん。これから西瓜がおなかいっぱい食べられますよ」
「わーお」
チルノさんと肩車して、その上に小さくなった萃香さんを乗せて、ブレーメンの音楽隊みたいになった私たちはいそいそと人目のない草原へと向かった。
「まぁここでだったら、誰も見てないだろうな」
「秘密の実験みたいでワクワクしますね」
「おー」
チルノさんは良く意味がわかっていないみたいだったけれども、ごろごろとどこからともなく西瓜が転がってくると途端に目を輝かせた。
「そいじゃ、こいつを冷やしてみんなで食べちまおう」
「イェーイ」
「よーし、あたいに任せときなって」
ペシンペシンと西瓜を叩くと、中身の詰まった音がした。
手刀で割ると、手にべったりと果汁がついた。
「おうふ」
「バカだなぁー文は。チルノのほうがよっぽど賢いぞ」
「んー? ねぇ文、これ割ってー」
「ほいほい。おうふ」
この西瓜カチンコチンじゃねえか。
「やーい引っかかった」
「わざとですか、わざとなんですか」
「こりゃ一本取られたな、ハハハ」
まぁ怒ると体温上がるんで怒りませんけどね。脳の血管がぶちぎれて即死する、たぶん。
適当に割った西瓜に、三人で齧り付いた。
よくよく考えたら天狗と妖精と鬼って、とんでもなくアンバランスな組み合わせだと思う。
「プペペペ」
「ん、なかなかやるなおぬし。私も負けぬよ」
「ははぁ。お二方とも種飛ばし選手権優勝の私の実力を知りませんね? 負けませんよ」
でも、どうでもよかったので日が暮れるまで西瓜の種を口から飛ばして遊んだ。
翌日、西瓜の食べすぎでおなかを下した。
はやく秋がきたらいいのに。
早く夏が通り過ぎて欲しいです…
あー空飛びてー!!
夏は文チルで乗り切ろうそうしよう
要所要所で笑わせてもらいました。楽しかった。
だめだ、早く西瓜たべないと…
しかし途中まで読んでて萃香出てこなそうに思ったらやはり出てきたかw
>ワンピースが風圧でめくれあがって
それ以前にワンピースで肩車するということは
その中の白だったり縞々だったりするものが後頭部に密着するくらい捲らないといけないわけで
身も心もバカになって過ごす夏とか
文チルは
いいものだ
な