これは、「小町は映姫と一緒に住み始めたようです」の続編となっていますが、特に読まなくても平気だと思います。ただ、小町は映姫と一緒に住んでいることを頭の中に入れて下さい。それでは、ごゆるりと。
寒さは唐突に。
外では猛吹雪に晒され、日本庭園も今は山盛りのかき氷である。
そして、私もまた、ぶるぶると布団の中で震えるしかなく、当然のごとく眠れない。
「さぶい……」
私がいくら震えたところで、よく言えば無駄がなく、悪く言えば胸も無い体では大した熱を生み出すことは出来ない。
そこで、ふと思ううらやましい体の持ち主。
「小町は……暖かく眠れているのでしょうか……?」
きっとそうに違いない。小町はあんなにも豊満な体つきをしているのだ。暖かくないわけがない。
自分とは違う、希望が詰まったあの胸は、さぞかしふっくらと暖かいだろう。また、一定の弾力があって、身を沈めればよく眠れるに違いない。って、
「何を言っているのですか、私は。そんな……それだと、小町と一緒に寝ることに……」
自分であり得ないという口調で言ってみたが、実際に考えてみると妙案のように思えた。小町の柔らかな弾力に身も心も任せれば、きっと安眠熟睡間違いなしだ。また、寄り添いあうことで、この厳しい寒さを乗り切ることも出来る。あぁ、言えば言うほど妙案ではないか。
ただ、問題は小町に一切のメリットが存在しないことだ。
私は安眠出来るし、暖かくなるし、その他にも……メリットはたくさんある。
けれど、小町からしてみれば熱は奪われるし、私に抱きつかれるから息苦しいだろうし、安眠どころか一睡も出来ないかも知れない。
ダメだダメだ。それでは閻魔として、上司として部下に迷惑をかけることは出来ない。さっさと寝る。寒さを忘れて寝る。これが一番ではないか。よし、寝よう。
「………………………………………………ぐすっ」
鼻水が出てきた。
全くもって、寒い。寒すぎる。これでは一晩で凍死体が出来るのではないかという寒さだ。もちろん全く眠れない。
まずい。明日は裁判があるのに。このままでは、判決途中で船を漕ぐような醜態を晒してしまう。
もちろんみんなの笑いもの。閻魔の権威失墜。最終的には、小町共々流浪の旅に出なくてはならなくなってしまう。
……うん。今「それもいいかも」と思った私。とりあえず消え去れ。跡形も無く消え去れ。うん?
っていうか、この結末じゃ寝苦しいよりもさらに悲惨な迷惑を部下にかけるのでは?
「…………」
うん。路頭に迷うよりは、いいよね? そうだよね? うん、そういうことだ。
私は自分に何回も言い訳を言いながら、小町の部屋へと移動を開始した。
*
小町の部屋はこの屋敷で明らかに小さい部類に入る部屋だ。
最初はこの屋敷で有数の広い部屋にしようと思ったのだが、小町が
「あ、アタイはもっと狭いほうが……」
と、言ったので、この部屋になった。中は最低限のものしか置いていなく、いかにもさっぱりとした小町らしい。ついでに私がここまで説明出来るのは、私がすでに部屋の中に入ってるからである。
当然、目の前にはこんもりと膨らんだ毛布。小町が私の予想通りに自らの体温でこの寒さを乗り切っている証拠だ。やはり、小町は暖かいのだろう。
私はしばらく小町の前に座り込んで、いくつかの逡巡を巡らすが、結局寒さに負けて、入る決心をした。
毛布を少し剥いで、ゆっくりと体を滑らす。
「こうでもしないと……路頭に迷う羽目に……」
「映姫様。何言っているんですか?」
「ふわぁっ!?」
いきなり話しかけられて、心臓が一瞬止まった。
「こ、小町! 起きていたのですか!?」
「えぇ、まぁ。ちょっと寒いんで」
「さ、寒い?」
「はい。外は凄い吹雪ですよね?」
「えぇ、まぁ……」
寒いだって? 小町も寒いと感じるのか!? この暖かさで!? じゃあ、私は何なのだろうか? 長く放置した湯たんぽ何かだろうか?
私が心の中でがっくりとしていると、小町が驚くような提案をしてきた。
「そうだ、映姫様。このまま一緒に眠りませんか?」
「ふぇ?」
「映姫様だって、そのつもりで来たんですよね?」
「え、えぇ……まぁ」
バレていたか。
「なら、いいじゃないですか。ほら、もっとこっちに来て下さい」
「え、あ、ぅ」
私はそのまま小町の胸元に抱き寄せられた。私が望みうる限りの最高に幸せなプロポーションである。で、胸元ということは、当然小町の立派なぷよぷよとしたものに、体が沈むというころである。そして何より――
(暖かい……)
小町の胸は思ってた以上に弾力に富んでいて、それなのに、ふよふよと柔らかい側面も見せてくる。それに、何より全身がぽかぽかと暖かくなるのである。急に体に寒さが消え、そして不意に眠気が襲う。
このまま眠気に体を任せればいいのだが、しかし、私は一つ不安なことがあった。
「……小町」
「何ですか? 映姫様?」
「私……暖かくないですよね?」
そう。私は自分の熱でこの凍てついた夜を過せないのだ。だから、折角小町が作った熱を、私は奪い続けるだけなのだ。小町には、何にも与えてやれるものがないのだ。それが、何よりも悲しい。結局、私はただ部下の熱に縋るしかない、頼りない閻魔なのだ。そう思うと、より悲しい。
けれど、小町はそんな私を見て、やんわりと、心地よい温かさが篭った笑みを浮かべた。
「映姫様。映姫様はとっても暖かいですよ」
「……お世辞は、いいです。自分でも体が冷たいって分かっていますから」
「ふふ。全く映姫様は何も分かっていませんね。アタイは、映姫様が側にいると、暖かくなるんですよ。心が」
「ここ、ろ?」
「そうです。映姫様の、慈愛に満ちた心は、アタイを暖かくしているのですよ。だから、映姫様はアタイを暖かくしてくれるんです」
「小町……」
何て優しい娘なんだろう。私なんかよりも、よっぽど温かい心の持ち主ではないか。
私は少し涙目になった。けれど、その涙は、私の不甲斐なさによる悔し涙というよりも、小町の暖かさに触れた、嬉し涙であった。小町がこんなにも優しいから、私は――
「さぁ、寝ましょう。このままじゃ、明日の裁判が辛いことになりますよ?」
「え、あ、うん」
思考を中断して、私はそのまま小町の胸元に体を預ける。胸元からは、小町の規則的な鼓動が伝わってきて、まるで子守唄を歌ってくれているかのようだった。私は意識が徐々に落ちていく感覚を感じながら、最後に小町に訊いた。
「……小町ぃ」
「はい。何でしょうか?」
「……明日も、一緒に寝ていい?」
「……はい。喜んで」
「うん……ありがと。おやすみ、こまち」
「おやすみなさい。映姫様」
意識が完全途絶えるその前に、ぎゅっと、優しいのに力強い暖かさが、私の全身に包み込むのを感じた。
寒さは唐突に。
外では猛吹雪に晒され、日本庭園も今は山盛りのかき氷である。
そして、私もまた、ぶるぶると布団の中で震えるしかなく、当然のごとく眠れない。
「さぶい……」
私がいくら震えたところで、よく言えば無駄がなく、悪く言えば胸も無い体では大した熱を生み出すことは出来ない。
そこで、ふと思ううらやましい体の持ち主。
「小町は……暖かく眠れているのでしょうか……?」
きっとそうに違いない。小町はあんなにも豊満な体つきをしているのだ。暖かくないわけがない。
自分とは違う、希望が詰まったあの胸は、さぞかしふっくらと暖かいだろう。また、一定の弾力があって、身を沈めればよく眠れるに違いない。って、
「何を言っているのですか、私は。そんな……それだと、小町と一緒に寝ることに……」
自分であり得ないという口調で言ってみたが、実際に考えてみると妙案のように思えた。小町の柔らかな弾力に身も心も任せれば、きっと安眠熟睡間違いなしだ。また、寄り添いあうことで、この厳しい寒さを乗り切ることも出来る。あぁ、言えば言うほど妙案ではないか。
ただ、問題は小町に一切のメリットが存在しないことだ。
私は安眠出来るし、暖かくなるし、その他にも……メリットはたくさんある。
けれど、小町からしてみれば熱は奪われるし、私に抱きつかれるから息苦しいだろうし、安眠どころか一睡も出来ないかも知れない。
ダメだダメだ。それでは閻魔として、上司として部下に迷惑をかけることは出来ない。さっさと寝る。寒さを忘れて寝る。これが一番ではないか。よし、寝よう。
「………………………………………………ぐすっ」
鼻水が出てきた。
全くもって、寒い。寒すぎる。これでは一晩で凍死体が出来るのではないかという寒さだ。もちろん全く眠れない。
まずい。明日は裁判があるのに。このままでは、判決途中で船を漕ぐような醜態を晒してしまう。
もちろんみんなの笑いもの。閻魔の権威失墜。最終的には、小町共々流浪の旅に出なくてはならなくなってしまう。
……うん。今「それもいいかも」と思った私。とりあえず消え去れ。跡形も無く消え去れ。うん?
っていうか、この結末じゃ寝苦しいよりもさらに悲惨な迷惑を部下にかけるのでは?
「…………」
うん。路頭に迷うよりは、いいよね? そうだよね? うん、そういうことだ。
私は自分に何回も言い訳を言いながら、小町の部屋へと移動を開始した。
*
小町の部屋はこの屋敷で明らかに小さい部類に入る部屋だ。
最初はこの屋敷で有数の広い部屋にしようと思ったのだが、小町が
「あ、アタイはもっと狭いほうが……」
と、言ったので、この部屋になった。中は最低限のものしか置いていなく、いかにもさっぱりとした小町らしい。ついでに私がここまで説明出来るのは、私がすでに部屋の中に入ってるからである。
当然、目の前にはこんもりと膨らんだ毛布。小町が私の予想通りに自らの体温でこの寒さを乗り切っている証拠だ。やはり、小町は暖かいのだろう。
私はしばらく小町の前に座り込んで、いくつかの逡巡を巡らすが、結局寒さに負けて、入る決心をした。
毛布を少し剥いで、ゆっくりと体を滑らす。
「こうでもしないと……路頭に迷う羽目に……」
「映姫様。何言っているんですか?」
「ふわぁっ!?」
いきなり話しかけられて、心臓が一瞬止まった。
「こ、小町! 起きていたのですか!?」
「えぇ、まぁ。ちょっと寒いんで」
「さ、寒い?」
「はい。外は凄い吹雪ですよね?」
「えぇ、まぁ……」
寒いだって? 小町も寒いと感じるのか!? この暖かさで!? じゃあ、私は何なのだろうか? 長く放置した湯たんぽ何かだろうか?
私が心の中でがっくりとしていると、小町が驚くような提案をしてきた。
「そうだ、映姫様。このまま一緒に眠りませんか?」
「ふぇ?」
「映姫様だって、そのつもりで来たんですよね?」
「え、えぇ……まぁ」
バレていたか。
「なら、いいじゃないですか。ほら、もっとこっちに来て下さい」
「え、あ、ぅ」
私はそのまま小町の胸元に抱き寄せられた。私が望みうる限りの最高に幸せなプロポーションである。で、胸元ということは、当然小町の立派なぷよぷよとしたものに、体が沈むというころである。そして何より――
(暖かい……)
小町の胸は思ってた以上に弾力に富んでいて、それなのに、ふよふよと柔らかい側面も見せてくる。それに、何より全身がぽかぽかと暖かくなるのである。急に体に寒さが消え、そして不意に眠気が襲う。
このまま眠気に体を任せればいいのだが、しかし、私は一つ不安なことがあった。
「……小町」
「何ですか? 映姫様?」
「私……暖かくないですよね?」
そう。私は自分の熱でこの凍てついた夜を過せないのだ。だから、折角小町が作った熱を、私は奪い続けるだけなのだ。小町には、何にも与えてやれるものがないのだ。それが、何よりも悲しい。結局、私はただ部下の熱に縋るしかない、頼りない閻魔なのだ。そう思うと、より悲しい。
けれど、小町はそんな私を見て、やんわりと、心地よい温かさが篭った笑みを浮かべた。
「映姫様。映姫様はとっても暖かいですよ」
「……お世辞は、いいです。自分でも体が冷たいって分かっていますから」
「ふふ。全く映姫様は何も分かっていませんね。アタイは、映姫様が側にいると、暖かくなるんですよ。心が」
「ここ、ろ?」
「そうです。映姫様の、慈愛に満ちた心は、アタイを暖かくしているのですよ。だから、映姫様はアタイを暖かくしてくれるんです」
「小町……」
何て優しい娘なんだろう。私なんかよりも、よっぽど温かい心の持ち主ではないか。
私は少し涙目になった。けれど、その涙は、私の不甲斐なさによる悔し涙というよりも、小町の暖かさに触れた、嬉し涙であった。小町がこんなにも優しいから、私は――
「さぁ、寝ましょう。このままじゃ、明日の裁判が辛いことになりますよ?」
「え、あ、うん」
思考を中断して、私はそのまま小町の胸元に体を預ける。胸元からは、小町の規則的な鼓動が伝わってきて、まるで子守唄を歌ってくれているかのようだった。私は意識が徐々に落ちていく感覚を感じながら、最後に小町に訊いた。
「……小町ぃ」
「はい。何でしょうか?」
「……明日も、一緒に寝ていい?」
「……はい。喜んで」
「うん……ありがと。おやすみ、こまち」
「おやすみなさい。映姫様」
意識が完全途絶えるその前に、ぎゅっと、優しいのに力強い暖かさが、私の全身に包み込むのを感じた。
しかし、それ以上に映姫様に布団にしのばれる小町の幸福感たるや昇天物だろうなー。
さあ早く続きを書く作業にもどるんだ