深い竹林の中に不思議と開けた空間がある。それは円形に広がっており、直径にして約20メートル。落ち葉しかない綺麗な円は明らかに人の手が加わって事を示している。
「遅い……」
月明かりに照らされたその広場の中心に1人の少女が立っている。赤を基調した服に純白の長い髪が印象的だ。
彼女の名前は藤原妹紅。ここである人物を待ちわびていた。
「輝夜の奴め」
妹紅は吐き捨てるように待ち人の名前を呟く。
「ちゃんと果たし状を読んだろうな」
妹紅は輝夜と呼んだ少女に憎しみを抱いている。そのために妹紅は陽が落ちる前に輝夜に果たし状を渡した。明確な殺意を持って。
「…………」
妹紅は腕を組み、目を閉じた。
彼女の目蓋の裏に浮かぶのは自身の術によった髪の毛一本残らず燃え尽きた輝夜の姿なのだろうか。
□ □ □
夜が明けた。輝夜は来なかった。
「……ぐすっ」
妹紅は半ベソだ。
殺すために果たし状を届けるなど、やることは過激だが心は妙にナイーブだった。
「いや、泣くな……泣くな私。泣くんじゃない」
妹紅は律儀な性格である。
殺したいほど憎んでいながら、奇襲・夜襲は決してしない。必ず前日に果たし状を届ける。
今立っている広場も「決戦に相応しい場を」、と妹紅が竹を一つ一つ丁寧に伐採し、毎日手入れをして成り立っている。
「明日こそ必ず殺すー……ふぁ~あ」
欠伸を一つ。
眠い目を擦りながら妹紅は広場を後にするのだった。
□ □ □
次の日。同じ時刻。同じ場所に妹紅は居た。
いつものように目を閉じ、腕を組んだまま立っている。実は既に2時間ほど待っていた。早くも半泣きである。
この時、笹が風にさざめく音に紛れて別の何かが近付いてくる音があった。
妹紅は涙を拭い、物音の方を注視する。程なくして一人の少女が姿を現す。
「あ、もこーだ」
その少女は蓬莱山輝夜であった。竹藪には似つかわしくない上品な服装で、これまた上品さには似つかわしくない酒瓶を引っさげていた。
「もこーだ。あははは」
彼女は既に出来上がっているようだ。突如として意味もなく笑いだした。頬は上気し、その美しい顔立ちと相まって妙に艶めかしい。
妹紅はそれに見とれていた自分に気付き頭を振った。
「輝夜! ようやく来たと思ったら、なんで酒なんか呑んでるんだ! 果たし状ちゃんと読んだんだろうな!?」
「あ? 果たし状? んー? あ! ああ、毎日うちに届くあれね! ちゃんと読んでるわよ。確か果たし合いする場所が書いてなくて放置してた」
「え、本当か。ご、ごめん」
つい、怨敵に謝る妹紅。根は良い奴なのである。
「うっそ~♪ もこー引っかかった~。面倒くさいから無視してただけよ」
こっちは性根が腐っていた。
「な! お前、馬鹿にしやがって! もう許さん!」
妹紅が手を振りかざすと無数の炎弾が浮かび上がった。そして「いけぇっ!」と妹紅の合図と共に輝夜に襲いかかる。
「きゃああ!」
と輝夜は悲鳴をあげた。
その声に妹紅は激しく動揺する。何しろ初めて聞く輝夜の悲鳴なのだ。
今までは炎で攻撃しても、弾いたり、かわしたり、受けたりしていた。いずれにしても、そこには必ず不敵な笑みがあり、悲鳴などをあげる事は決してなかった。
「お、おい! 輝夜!」
不死の為に死ぬ事はないが妹紅は心配して輝夜を呼んでしまう。良い奴。
炎が鎮火し、輝夜の姿が確認できた。
髪も服も焦げ、顔は煤まみれだ。輝夜は焼けた笹の上にへたり込むように座っている。
「ひ、ひどいわ、もこー。私、妹紅の事好きなのに……こんな仕打ち……うう……うう~」
輝夜はグズグズと泣き始めてしまった。
その姿に妹紅は再び動揺する。
「な、何だよ。何で泣くんだよ……。調子が狂う……」
妹紅は情けなく狼狽する。
「さ、酒が原因なのか? 仕方ない。おい、輝夜! 絶対逃げるなよ! いいか! 逃げるんじゃないぞ!」
無抵抗の奴を嬲る趣味はない。
妹紅はダッシュで水を取りに行くのだった。良い奴。
ほんの数分で妹紅は戻ってきた。その額には汗が浮かんでいる。
「ほら、水。早く酔いをさませ」
「もこー、口移ししてー」
「甘ったれんな。さっさと飲め」
「ちぇー」
「あーこらこら、零してるぞ! 気を付けろよ」
「零してないし」
「いや、零してるよ。胸元びしょびしょじゃないか」
「零してないし!」
「痛っ! 何でそこで意地になるんだよ! あーもう扱い辛いなぁ」
酔っ払った輝夜に苦戦しつつも何とか水を飲ませる事にした妹紅。後は夜風と時間に任せるだけだ。
□ □ □
夜空は白み始めていた。
一眠りした輝夜の目に映ったのは隣で胡座をして舟を漕いでいる妹紅の姿だ。
状況を思い出そうと試みたが、霧がかかったように思い出せない。
「もこたん、起きろ」
「痛っ!」
思い出せないなら訊けばいいじゃない、と言わんばかりに妹紅を小突く。
「何すんだ! って輝夜、お前酔いが覚めたか」
「酔い? あー確かに私お酒呑んでた気がする」
「よし、早速弾幕ごっこだ! 今日こそ仕留めてやる!」
「えーまた弾幕ごっこー? 私飽きちゃった」
「何と!?」
ようやく目的を果たせると張り切っていた妹紅だが、肩透かしを喰らった気分だ。
「そんな事より呑みましょう!」
「阿呆か! 誰がお前なんかと呑むか」
「酷いわ、私はもこたんの好きなのに」
「何を言ってるんだ」
「ほら、私、女の子しか愛せないから」
「そいつはあまり聞きたくなかった情報だな……って、近い近い!」
じりじりと距離を詰める輝夜。手を握ったり開いたり、何とも恐ろしい。
「もこたんのパパの求婚断ったじゃない。あれって、もこたんに一目惚れしたから……って言ったらどうする」
「燃やす」
「わかった。わかったからストップ。もこたん、変化球は好みじゃないのね。わかったわ」
「何でこいつ素面の方が扱い辛いの……」
妹紅はつい、泣き言を呟く。
対照的に輝夜は生き生きとした表情で妹紅に正座で向き直る。
「えー、もこたん。黒い髪も良かったけど白い髪も格好いいです。嫁にしてください」
「まだ酒が残っているみたいだな」
「拒否の言葉が出ない所を見ると、脈ありと思っていいかしら」
「やかましい! 私はお前に復讐するために生きてるんだ。だから早く弾幕ごっこをするぞ!」
「嘘ばっかり」
「なにがだ?」
輝夜は急に態度を改めた。ヘラヘラした顔は消え、真剣そのものの表情だ。
これには妹紅も驚かざるを得ない。急に輝夜が、自分よりも立場が上の存在に見えてきた。
「復讐の為の弾幕ごっこなんて、嘘。もこたんは私と遊びたいだけ」
「嘘じゃない」
「弾幕ごっこは無くした死を思い出せる楽しい遊技よ。もこたん、貴女も同じ考えでしょう? 貴女は復讐のためだって誤魔化すけれど結局はそこなのよ」
「……」
妹紅は何も言わない。図星なのだ。
復讐という名目を振りかざし、ただ無くした死を思い出したかっただけ。それを心の奥底に隠し今日まで生きてきたのだ。
復讐は、こじつけにすぎなかった。
「でもそれじゃ駄目なのよ。死の遊技じゃ何も生まれない。何より身体より先に心が死んでしまうわ。だから次の段階に進むべきなのよ」
「次の段階? 何だよそれ」
「そうね……例えば酒を呑むとか」
「酒を?」
輝夜は持っていた酒瓶を高々と掲げた。
「どの道もこたんと私はずっと一緒よ。なら弾幕ごっこなんて殺伐した遊びよりもっと楽しいをしましょう。この世には弾幕ごっこよりも楽しいものは数え切れないほどあるんだし」
「それが酒か」
「そう。お酒は私が知っている楽しみのひとつ。そういう楽しみを貴女と私で見つけていこうじゃない。一生かけてさ。」
「輝夜、お前……」
おかしな話だ。妹紅にとって輝夜とは怨敵である。少なくとも妹紅はそう思っていた。しかし、今の妹紅は楽しげに将来を語る輝夜が敵にはとても見えない。まるで永く連れ添った友人のように思える。
「ずっと、そんな事を考えていたのか……」
妹紅には、輝夜の提案が妙に魅力的に思えた。
「輝夜と、楽しい事を見つける……か」
妹紅は反芻するようにその言葉を繰り返し呟いた。
妹紅にとって、その選択は今までの自分の生き方を否定する事になる。おいそれと決めることは出来なかった。
「少し、考えさせてくれ……」
それだけ言うと妹紅は輝夜に背を向け歩き出す。長い白髪が揺れた。
「じぁあ、またな。輝夜」
「ええ、また会いましょう。もこたん」
ふと、妹紅が足を止めた。
「一つ言わせてくれ」
「なに?」
「もこたん言うなっ!!」
「熱っつううううあああ!?!?」
いまさらの突っ込みだった。「たくっ、酔ってた時は妹紅って呼ぶくせに……ぶつぶつ」と愚痴をこぼしながら今度こそ妹紅は朝日に照らされた竹藪の中に消えてゆくのだった。
□ □ □
翌朝。普通の人なら既に活動している時間にも関わらず、輝夜は戸を叩く音にようやく目を覚ました。重度の夜型のである輝夜は眠い目を擦りながら上衣を羽織って戸を開く。
「よ、よう……」
戸の外に立っていたのはいつもの服を着た妹紅だ。照れくさそうに髪をいじり、普段より落ち着きがない。
「あー、なんだ、その……里に良い出店を知ってるんだ。鰻が美味くて、女将さんが良い人でな」
「ふ~ん?」
「あー……よ、よかったら今から行ってみない、か?」
なんとデートの誘いである。それも輝夜との弾幕が行動原理であった妹紅自らである。今までの2人の在り様を妹紅が変えようとしているのだ。
(わぁ、デレた……やっぱり変化球が好きなんじゃない)
これには輝夜も流石に驚きを隠せない。しかし、それ以上に嬉しかった。自然と笑みがこぼれる。
妹紅が好き、という言葉に嘘偽りはないのだ。
「まさかもこたんからそんな言葉が聞けるとは思ってなかった。すごく嬉しいわ。これで晴れて両想いね」
「ばっ、馬鹿! 私はただお前の言った楽しい事を探す毎日も悪くないって思っただけだ」
「あら、認めてくれないの? ま、今はまだそれでいいわ」
「認める認めないじゃなくて……! ああもう! とにかく女将さんとこ行くぞ! とっとと準備しろ!」
「ねぇ、もこたん」
輝夜は首を傾げて可愛らしく、にこりと笑う。妹紅の心音は不覚にも高鳴ってしまった。
「な、なんだよ」
「私、今起きたばっかりなの」
「……だから?」
「眠いから行きたくない(はぁと)」
妹紅は泣いた。割とガチで。
「冗談よ冗談! 泣かないでよ、もこたんったら」
「うう……輝夜、お前……!」
「ごめんごめん。元気出してもこたん…………もっこもこ」
「やっぱ喧嘩売ってるだろ!?」
「違う違う違う!! 今のは出来心で……!」
そのままじゃれ合いながら二人は町へ行くのだった。
「遅い……」
月明かりに照らされたその広場の中心に1人の少女が立っている。赤を基調した服に純白の長い髪が印象的だ。
彼女の名前は藤原妹紅。ここである人物を待ちわびていた。
「輝夜の奴め」
妹紅は吐き捨てるように待ち人の名前を呟く。
「ちゃんと果たし状を読んだろうな」
妹紅は輝夜と呼んだ少女に憎しみを抱いている。そのために妹紅は陽が落ちる前に輝夜に果たし状を渡した。明確な殺意を持って。
「…………」
妹紅は腕を組み、目を閉じた。
彼女の目蓋の裏に浮かぶのは自身の術によった髪の毛一本残らず燃え尽きた輝夜の姿なのだろうか。
□ □ □
夜が明けた。輝夜は来なかった。
「……ぐすっ」
妹紅は半ベソだ。
殺すために果たし状を届けるなど、やることは過激だが心は妙にナイーブだった。
「いや、泣くな……泣くな私。泣くんじゃない」
妹紅は律儀な性格である。
殺したいほど憎んでいながら、奇襲・夜襲は決してしない。必ず前日に果たし状を届ける。
今立っている広場も「決戦に相応しい場を」、と妹紅が竹を一つ一つ丁寧に伐採し、毎日手入れをして成り立っている。
「明日こそ必ず殺すー……ふぁ~あ」
欠伸を一つ。
眠い目を擦りながら妹紅は広場を後にするのだった。
□ □ □
次の日。同じ時刻。同じ場所に妹紅は居た。
いつものように目を閉じ、腕を組んだまま立っている。実は既に2時間ほど待っていた。早くも半泣きである。
この時、笹が風にさざめく音に紛れて別の何かが近付いてくる音があった。
妹紅は涙を拭い、物音の方を注視する。程なくして一人の少女が姿を現す。
「あ、もこーだ」
その少女は蓬莱山輝夜であった。竹藪には似つかわしくない上品な服装で、これまた上品さには似つかわしくない酒瓶を引っさげていた。
「もこーだ。あははは」
彼女は既に出来上がっているようだ。突如として意味もなく笑いだした。頬は上気し、その美しい顔立ちと相まって妙に艶めかしい。
妹紅はそれに見とれていた自分に気付き頭を振った。
「輝夜! ようやく来たと思ったら、なんで酒なんか呑んでるんだ! 果たし状ちゃんと読んだんだろうな!?」
「あ? 果たし状? んー? あ! ああ、毎日うちに届くあれね! ちゃんと読んでるわよ。確か果たし合いする場所が書いてなくて放置してた」
「え、本当か。ご、ごめん」
つい、怨敵に謝る妹紅。根は良い奴なのである。
「うっそ~♪ もこー引っかかった~。面倒くさいから無視してただけよ」
こっちは性根が腐っていた。
「な! お前、馬鹿にしやがって! もう許さん!」
妹紅が手を振りかざすと無数の炎弾が浮かび上がった。そして「いけぇっ!」と妹紅の合図と共に輝夜に襲いかかる。
「きゃああ!」
と輝夜は悲鳴をあげた。
その声に妹紅は激しく動揺する。何しろ初めて聞く輝夜の悲鳴なのだ。
今までは炎で攻撃しても、弾いたり、かわしたり、受けたりしていた。いずれにしても、そこには必ず不敵な笑みがあり、悲鳴などをあげる事は決してなかった。
「お、おい! 輝夜!」
不死の為に死ぬ事はないが妹紅は心配して輝夜を呼んでしまう。良い奴。
炎が鎮火し、輝夜の姿が確認できた。
髪も服も焦げ、顔は煤まみれだ。輝夜は焼けた笹の上にへたり込むように座っている。
「ひ、ひどいわ、もこー。私、妹紅の事好きなのに……こんな仕打ち……うう……うう~」
輝夜はグズグズと泣き始めてしまった。
その姿に妹紅は再び動揺する。
「な、何だよ。何で泣くんだよ……。調子が狂う……」
妹紅は情けなく狼狽する。
「さ、酒が原因なのか? 仕方ない。おい、輝夜! 絶対逃げるなよ! いいか! 逃げるんじゃないぞ!」
無抵抗の奴を嬲る趣味はない。
妹紅はダッシュで水を取りに行くのだった。良い奴。
ほんの数分で妹紅は戻ってきた。その額には汗が浮かんでいる。
「ほら、水。早く酔いをさませ」
「もこー、口移ししてー」
「甘ったれんな。さっさと飲め」
「ちぇー」
「あーこらこら、零してるぞ! 気を付けろよ」
「零してないし」
「いや、零してるよ。胸元びしょびしょじゃないか」
「零してないし!」
「痛っ! 何でそこで意地になるんだよ! あーもう扱い辛いなぁ」
酔っ払った輝夜に苦戦しつつも何とか水を飲ませる事にした妹紅。後は夜風と時間に任せるだけだ。
□ □ □
夜空は白み始めていた。
一眠りした輝夜の目に映ったのは隣で胡座をして舟を漕いでいる妹紅の姿だ。
状況を思い出そうと試みたが、霧がかかったように思い出せない。
「もこたん、起きろ」
「痛っ!」
思い出せないなら訊けばいいじゃない、と言わんばかりに妹紅を小突く。
「何すんだ! って輝夜、お前酔いが覚めたか」
「酔い? あー確かに私お酒呑んでた気がする」
「よし、早速弾幕ごっこだ! 今日こそ仕留めてやる!」
「えーまた弾幕ごっこー? 私飽きちゃった」
「何と!?」
ようやく目的を果たせると張り切っていた妹紅だが、肩透かしを喰らった気分だ。
「そんな事より呑みましょう!」
「阿呆か! 誰がお前なんかと呑むか」
「酷いわ、私はもこたんの好きなのに」
「何を言ってるんだ」
「ほら、私、女の子しか愛せないから」
「そいつはあまり聞きたくなかった情報だな……って、近い近い!」
じりじりと距離を詰める輝夜。手を握ったり開いたり、何とも恐ろしい。
「もこたんのパパの求婚断ったじゃない。あれって、もこたんに一目惚れしたから……って言ったらどうする」
「燃やす」
「わかった。わかったからストップ。もこたん、変化球は好みじゃないのね。わかったわ」
「何でこいつ素面の方が扱い辛いの……」
妹紅はつい、泣き言を呟く。
対照的に輝夜は生き生きとした表情で妹紅に正座で向き直る。
「えー、もこたん。黒い髪も良かったけど白い髪も格好いいです。嫁にしてください」
「まだ酒が残っているみたいだな」
「拒否の言葉が出ない所を見ると、脈ありと思っていいかしら」
「やかましい! 私はお前に復讐するために生きてるんだ。だから早く弾幕ごっこをするぞ!」
「嘘ばっかり」
「なにがだ?」
輝夜は急に態度を改めた。ヘラヘラした顔は消え、真剣そのものの表情だ。
これには妹紅も驚かざるを得ない。急に輝夜が、自分よりも立場が上の存在に見えてきた。
「復讐の為の弾幕ごっこなんて、嘘。もこたんは私と遊びたいだけ」
「嘘じゃない」
「弾幕ごっこは無くした死を思い出せる楽しい遊技よ。もこたん、貴女も同じ考えでしょう? 貴女は復讐のためだって誤魔化すけれど結局はそこなのよ」
「……」
妹紅は何も言わない。図星なのだ。
復讐という名目を振りかざし、ただ無くした死を思い出したかっただけ。それを心の奥底に隠し今日まで生きてきたのだ。
復讐は、こじつけにすぎなかった。
「でもそれじゃ駄目なのよ。死の遊技じゃ何も生まれない。何より身体より先に心が死んでしまうわ。だから次の段階に進むべきなのよ」
「次の段階? 何だよそれ」
「そうね……例えば酒を呑むとか」
「酒を?」
輝夜は持っていた酒瓶を高々と掲げた。
「どの道もこたんと私はずっと一緒よ。なら弾幕ごっこなんて殺伐した遊びよりもっと楽しいをしましょう。この世には弾幕ごっこよりも楽しいものは数え切れないほどあるんだし」
「それが酒か」
「そう。お酒は私が知っている楽しみのひとつ。そういう楽しみを貴女と私で見つけていこうじゃない。一生かけてさ。」
「輝夜、お前……」
おかしな話だ。妹紅にとって輝夜とは怨敵である。少なくとも妹紅はそう思っていた。しかし、今の妹紅は楽しげに将来を語る輝夜が敵にはとても見えない。まるで永く連れ添った友人のように思える。
「ずっと、そんな事を考えていたのか……」
妹紅には、輝夜の提案が妙に魅力的に思えた。
「輝夜と、楽しい事を見つける……か」
妹紅は反芻するようにその言葉を繰り返し呟いた。
妹紅にとって、その選択は今までの自分の生き方を否定する事になる。おいそれと決めることは出来なかった。
「少し、考えさせてくれ……」
それだけ言うと妹紅は輝夜に背を向け歩き出す。長い白髪が揺れた。
「じぁあ、またな。輝夜」
「ええ、また会いましょう。もこたん」
ふと、妹紅が足を止めた。
「一つ言わせてくれ」
「なに?」
「もこたん言うなっ!!」
「熱っつううううあああ!?!?」
いまさらの突っ込みだった。「たくっ、酔ってた時は妹紅って呼ぶくせに……ぶつぶつ」と愚痴をこぼしながら今度こそ妹紅は朝日に照らされた竹藪の中に消えてゆくのだった。
□ □ □
翌朝。普通の人なら既に活動している時間にも関わらず、輝夜は戸を叩く音にようやく目を覚ました。重度の夜型のである輝夜は眠い目を擦りながら上衣を羽織って戸を開く。
「よ、よう……」
戸の外に立っていたのはいつもの服を着た妹紅だ。照れくさそうに髪をいじり、普段より落ち着きがない。
「あー、なんだ、その……里に良い出店を知ってるんだ。鰻が美味くて、女将さんが良い人でな」
「ふ~ん?」
「あー……よ、よかったら今から行ってみない、か?」
なんとデートの誘いである。それも輝夜との弾幕が行動原理であった妹紅自らである。今までの2人の在り様を妹紅が変えようとしているのだ。
(わぁ、デレた……やっぱり変化球が好きなんじゃない)
これには輝夜も流石に驚きを隠せない。しかし、それ以上に嬉しかった。自然と笑みがこぼれる。
妹紅が好き、という言葉に嘘偽りはないのだ。
「まさかもこたんからそんな言葉が聞けるとは思ってなかった。すごく嬉しいわ。これで晴れて両想いね」
「ばっ、馬鹿! 私はただお前の言った楽しい事を探す毎日も悪くないって思っただけだ」
「あら、認めてくれないの? ま、今はまだそれでいいわ」
「認める認めないじゃなくて……! ああもう! とにかく女将さんとこ行くぞ! とっとと準備しろ!」
「ねぇ、もこたん」
輝夜は首を傾げて可愛らしく、にこりと笑う。妹紅の心音は不覚にも高鳴ってしまった。
「な、なんだよ」
「私、今起きたばっかりなの」
「……だから?」
「眠いから行きたくない(はぁと)」
妹紅は泣いた。割とガチで。
「冗談よ冗談! 泣かないでよ、もこたんったら」
「うう……輝夜、お前……!」
「ごめんごめん。元気出してもこたん…………もっこもこ」
「やっぱ喧嘩売ってるだろ!?」
「違う違う違う!! 今のは出来心で……!」
そのままじゃれ合いながら二人は町へ行くのだった。
なに、最近暖かくなってきたから丁度いい
なに、脱ぐ枚数が増えるだけだ
さあ、続きを書くんだ!
二人の愛は終わらない(そのままの意味で)
すげぇよかった
おもしろかったです。続きを期待したいですね。