「最近さ、思うんだけど」
「はい?」
「何で、同じ女、ほとんど同じ年齢で、こうまで発育に差があるわけ?」
今日は春の空と桜を眺めながら、女一同、露天風呂を楽しんでいる。
その女一同とは、まず、彼女、博麗霊夢と、その彼女を後ろからぬいぐるみだっこ中の東風谷早苗である。
「……と、言われても」
「私なんてこんななのに、早苗のなんて、私の肩に乗ってもまだ余るじゃない」
その見事なバストに頭を預けると、極上のふかふか枕に寝転がっているかのような感覚すら受ける。
温泉の暖かさ、そして、後ろの彼女の暖かさに抱かれて、心地よく眠ってしまえそうですらある。
しかし、眠ることが出来ないのは、やはりその辺りのジェラシーの賜物だろうか。
「ん~……。
まぁ、わたしも、人と比べて発育がいいほうだとは思っていますけど。
中学生くらいからかなぁ。徐々に胸が膨らみだしたの。
最初は、友人一同の中で、一人だけブラジャーしてるのが恥ずかしくて、部屋の隅とか、保健室とかで着替えてました」
「大きい人には大きい人の悩みがあるとは言うけどさぁ。
それって、ぶっちゃけ、ないものにとっては嫌味なんですけど」
「何を言うのですか、霊夢さん!」
ばしゃっ、と右手をお湯の中から天に向かって突き上げる早苗。
「いいですか、霊夢さん。
世の中には二つの人間がいます。持てるものと持たざるものです。
確かに、持たざるものにとって持てるものは羨ましいのかもしれません。
だが、そこがまだ甘いっ!」
「ひぁっ!?」
耳元ででっかい声出され、さらにむぎゅっと抱きしめられて、霊夢は悲鳴にも似た声を上げる。
「世の中、バランスなんです! バランス感覚なんです!
みんな巨乳の世界とかつまんない! たまにはロリでつるぺたを食べたい! そう思って願うのは、人類の基本であり常識であるのです!
その感覚に間違いがあろうか! いいや、ないっ!」
「……」
「特に霊夢さんみたいなスレンダー美人とか最高じゃないですか!
古来より、日本の女性――特に、日本美人は、スレンダーな黒髪美人でした! 霊夢さんが大きくなるのは、まぁ、それはそれでいいもんですがさておいて、霊夢さんにはスレンダーが一番よく似合うっ!
それにそれに!
持たざるものは、これから『成長』の楽しみがありますが、持てるものが今後、迎えるのは『スタイルの崩れ』との戦いなのですよ!
しかも揺れるし重たいし肩凝るし!
いいことばっかりではないのです! お互い!」
全力の熱弁に、霊夢は言い返す術がなくなったのか、沈黙した。
「まぁ、でっかい声上げたくなるのはわかるけど、早苗、お前のそれはどうやっても、私らにとっては怒りをかきたてる」
と、そこで『持たざるもの二号』の登場である。
彼女の名前は霧雨魔理沙。はっきり言って、つるぺたの子供体型である。
年齢不相応に背が低く、まだまだ、『発育』という言葉から遠い見た目であるのがその原因なのであるが――、
「魔理沙さんはほら、妹属性ですから」
「何だそりゃ」
「妹とは、姉よりも小さくてかわいいものなのです。
『姉より優れた妹などいねぇ!』とは言いませんが、妹とは姉に対して、何だかんだ甘えている、かわいい子なのです。
かわいい子はロリなのです!」
「……これはケンカ売られてるのか?」
「魔理沙の言いたいことはわかるけど、早苗はこれ、マジだから」
「あ、やっぱり」
相変わらず、だっこして離してもらえない霊夢がつぶやく。
魔理沙は頬をかきながら、
「けどさー、やっぱりでかい奴は羨ましいぞ」
「そうよね。
私なんて、お母さん、ぼんっ、きゅっ、ぼーんよ。背も高いし、美人だし、黒髪スレンダーだったし。
あーいうの、日本美人っていうんだと思うんだけどなー」
「霊夢のおっかさんには、昔、会ったことがあるけど、確かにそんな感じだったな」
「そうなんですか? 私にも、写真とかあったら見せてくださいよ」
「ないのよね、それが。
お母さん、家を出て行く時に、紫に言って、全部、どっかに隠したみたいで」
曰く、『あなたの母親絶ちのため』なのだとか。
そのせいで、ママっ子な霊夢は、たまに『お母さんに会いたいな』と寂しがったりするのだが。
それはさておこう。
「私だって、私の母親は、結構な美人だったぞ。少なくとも、アリスとか咲夜くらいはあった」
「誰が何だって?」
話題に出された、アリス・マーガトロイドがやってくる。
彼女の場合、大きくも小さくもなく、まさに絶妙。均整の取れた、まるで絵画の世界に描かれた『美女』のようである。
「いや、早苗の乳がでかいな、という」
「ああ、まぁ、確かに。
あれじゃない? 外の世界は栄養過多だから、そんだけ成長したとか」
「ああ、それはあるかもしれないです。
幻想郷に来て、わたし、やせましたもん」
「食事が質素になったから、とか?」
「というより、幻想郷って、ジャンクフードとかないじゃないですか? 紅魔館とかに行かない限り、お菓子のバリエーションも限られてますし。
まぁ、あんこって、実は生クリームよりカロリーあったりするんですけど」
「え? マジで?」
洋菓子よりも和菓子大好きな霊夢が、慌てて自分のおなか周りを触る。
その仕草を見て、なぜかアリスは悲しそうな目になると、「大丈夫よ、霊夢。あなたはそれを気にするほど食べることが出来てないから」と彼女の肩を叩いた。
「そういうものを食べなくなりましたから。
あと、神奈子さまが栄養のバランスにはうるさいですし。諏訪子さまは『美味しければいーんだよ。食べ過ぎの代償は本人が支払うんだし』って」
「それ、なかなかきついな」
太りたくなければ、食ったら動け。これが全世界に通じるルールである。そして、絶対普遍の真理でもある。
食べて動かないから太るのだ。誠、簡単な事実である。
「なるほど。食生活が健康的になったから、ってことね」
「はい。
だけど、まだおなか回りとか柔らかいんですよね。もうちょっとやせたいな」
「早苗はほら、少しぽっちゃりした感じが一番かわいいと思うけどな」
「だよな。顔はすらっとしてるんだし」
「だけど~」
周り3人が、所謂『スレンダー』タイプであるため、自分ひとりだけ『ふんわり柔らか』な体型でいるのは、何かと気になるらしい。
女の子の複雑な心境、というやつだ。
「霊夢さんなんて、ほんと羨ましいですよ。
お肌すべすべ、髪の毛つやつや」
「ひゃっ。
ちょっと、いじらないでよ」
肌をなでられ、髪の毛触られて、霊夢は一応、抗議の声を上げる。しかし、その顔は嬉しそうだ。
「アリスも、肌、綺麗だよな」
「私はちゃんとお手入れしてるもの」
「お前の姉さんたちの影響か」
「そうね。
夢子さんとかサラさんとか、本当に綺麗だったわ」
美人ばっかりの家系に生まれると、どうしても、相手と自分を比較してしまうのだとか。
『お姉ちゃんに負けない!』と頑張ってしまうのは、コンプレックスの裏返しだろう。
「魔理沙は……ま、子供だしね」
「誰が子供だよ!」
ほっぺたぷくーっと膨らませて抗議してくる魔理沙のほっぺたを、つんつんぷにぷにつつきながら、アリスは『はいはい』と笑う。
「あくまで個人的にですけれど、萌え属性というのは後天的に備えたものよりも、先天的に備えているものを磨いて追求していくほうがいいと思うんですよ。
そっちの方が、絶対に受けます!」
「ごめん、早苗。意味わかんない」
「アリスさんはこれだから。
いいですか、アリスさん。冷静かつクールなのがアリスさんの萌え属性の一つですが、かといって、それを他者への攻撃に使ってはいけません。自分を磨くために使わないと」
「霊夢通訳お願い」
「ごめん無理」
これが、現代っ子と幻想郷住民との認識の差異であった。
その間に横たわる垣根というのは、とても高く、そして深いものなのだ。
早苗は日々、外の世界の『常識』を幻想郷社会に流布するために活動しているのだが、それがなかなか広まっていかないのは、その垣根のせいなのだろう。
これは所謂、カルチャーギャップというやつである。
「で、霊夢はいつまで早苗にくっついてるんだ?」
「だって、早苗が離してくれないんだもん」
「離すわけないじゃないですか~。
霊夢さん、か~わいい」
「もう、やめてよ」
ほっぺたすりすりされて、霊夢は嬉しそうに顔を笑顔に染めながら、それでも一応、抗議の声を上げたりする。
そのいちゃいちゃっぷりに、魔理沙はひょいと肩をすくめた。
「あれ、どう思う?」
「いいんじゃない。霊夢にも、遅い春がやってきたのよ」
「遅いったって。
霊夢、まだ、そんなに年くってるわけじゃないだろう」
「そうかしら」
「年齢のこと言ったら、お前は人のこと言えないだろうし」
「そうなのよねぇ。
まぁ、私は自分のことにはあんまり、アレだし。周りを応援しているほうが楽しいわ」
「それ、かなり迷惑だからやめとけよ?」
「いやよ」
恋に恋するお年頃は、あくまで『恋』とは幻想なのであり、現実ではないのである。
その幻想を追いかけて『現実』とする行為に興味があるのであって、現実となったもの、そのものには興味を惹かれないのだ。
複雑であるが、これも年頃の女の子特有の精神なのである。
「あったまりましたね~」
「そうね」
「こら、魔理沙! 髪の毛、乾かしてから行きなさいよ!」
「めんどい。空飛んでれば乾くだろ」
「だから、あんたは風邪を引きやすいの!」
脱衣場では、アリスと魔理沙が騒いでいる。
その声を聞きながら、早苗は、「だから、魔理沙さんは妹属性があるって言ったのに」と笑っていた。
一方の霊夢は、売られている飲み物から、早苗お勧めのコーヒー牛乳を買って、ちびちび、それを飲んでいる。
「今度は霊夢さんに、コーヒー牛乳の飲み方を教えないといけませんね」
「そんなのあるの?」
「ありますよ。
出来れば、まず、お風呂から上がって、着替える前がいいですね。
鏡に自分の姿を映しながら、利き手と反対の腕を腰に当てて、一気に飲み干すんです! これがルール! マナー!」
「へぇ~」
それはそれで楽しそうだ、と霊夢は思った。
次の機会があったらやってみよう、とも。
「ん~……」
「早苗はどうしたの?」
「何か最近、ブラがきつくて」
霊夢とは違ってフルーツ牛乳を買って、『今は仕方ないから』と普通にそれを飲んでいる彼女が、胸元を触りながら首をかしげている。
返ってくる答えに、「また大きくなるの」と、霊夢は半分、茶化して尋ねた。
「そろそろカップを変えないとダメですね」
「羨ましい話。
私なんて、ここ数年、同じサイズなのにさ」
「それがいいんじゃないですか」
「……たはは」
霊夢はあくまで『スレンダーがいい』と断言する早苗の前では、もはや、この話はしても無駄であった。
彼女は苦笑して、「じゃあ、今度、紅魔館に行こうよ」と声をかける。
幻想郷で、この手の、所謂『女物』の下着を取り扱っているのはあそこだけだからだ。
「そうですね。
あ、霊夢さん。どうしても霊夢さんが巨乳になりたいのなら、一つ、いい手段が」
「え? 何?」
「好きな人に、愛情を持ってもんでもらうという……」
「い、いやいやいや! それはいくらなんでも!」
「ちっ」
「……今、露骨に舌打ちしたわよね?」
手をわきわきさせていた早苗が、何やら悪い顔になるのを、霊夢は見逃さなかった。
頬に汗を一筋流した彼女のところに、魔理沙がやってくる。アリスに捕まってドライヤーをかけられていたのか、髪の毛がぐしゃぐしゃだ。直す前に出てきたのだろう。
「お、二人とも、うまそうなの飲んでるな。私も買おーっと」
「……ったく。
ほんと、手がかかるんだから」
そこに遅れて、アリスの登場だ。
彼女は早苗に、「早苗、これ、ありがとう」と化粧品一式を手渡す。
「あっちで一休みしましょう」
「そ、そーね」
「そうしましょう」
「おーい、アリスー。お前は何飲むー?」
「炭酸」
「ほいよ」
というわけで、女4人のかしましい話と、まったりした春の時間は、もう少し続くようであった。
「はい?」
「何で、同じ女、ほとんど同じ年齢で、こうまで発育に差があるわけ?」
今日は春の空と桜を眺めながら、女一同、露天風呂を楽しんでいる。
その女一同とは、まず、彼女、博麗霊夢と、その彼女を後ろからぬいぐるみだっこ中の東風谷早苗である。
「……と、言われても」
「私なんてこんななのに、早苗のなんて、私の肩に乗ってもまだ余るじゃない」
その見事なバストに頭を預けると、極上のふかふか枕に寝転がっているかのような感覚すら受ける。
温泉の暖かさ、そして、後ろの彼女の暖かさに抱かれて、心地よく眠ってしまえそうですらある。
しかし、眠ることが出来ないのは、やはりその辺りのジェラシーの賜物だろうか。
「ん~……。
まぁ、わたしも、人と比べて発育がいいほうだとは思っていますけど。
中学生くらいからかなぁ。徐々に胸が膨らみだしたの。
最初は、友人一同の中で、一人だけブラジャーしてるのが恥ずかしくて、部屋の隅とか、保健室とかで着替えてました」
「大きい人には大きい人の悩みがあるとは言うけどさぁ。
それって、ぶっちゃけ、ないものにとっては嫌味なんですけど」
「何を言うのですか、霊夢さん!」
ばしゃっ、と右手をお湯の中から天に向かって突き上げる早苗。
「いいですか、霊夢さん。
世の中には二つの人間がいます。持てるものと持たざるものです。
確かに、持たざるものにとって持てるものは羨ましいのかもしれません。
だが、そこがまだ甘いっ!」
「ひぁっ!?」
耳元ででっかい声出され、さらにむぎゅっと抱きしめられて、霊夢は悲鳴にも似た声を上げる。
「世の中、バランスなんです! バランス感覚なんです!
みんな巨乳の世界とかつまんない! たまにはロリでつるぺたを食べたい! そう思って願うのは、人類の基本であり常識であるのです!
その感覚に間違いがあろうか! いいや、ないっ!」
「……」
「特に霊夢さんみたいなスレンダー美人とか最高じゃないですか!
古来より、日本の女性――特に、日本美人は、スレンダーな黒髪美人でした! 霊夢さんが大きくなるのは、まぁ、それはそれでいいもんですがさておいて、霊夢さんにはスレンダーが一番よく似合うっ!
それにそれに!
持たざるものは、これから『成長』の楽しみがありますが、持てるものが今後、迎えるのは『スタイルの崩れ』との戦いなのですよ!
しかも揺れるし重たいし肩凝るし!
いいことばっかりではないのです! お互い!」
全力の熱弁に、霊夢は言い返す術がなくなったのか、沈黙した。
「まぁ、でっかい声上げたくなるのはわかるけど、早苗、お前のそれはどうやっても、私らにとっては怒りをかきたてる」
と、そこで『持たざるもの二号』の登場である。
彼女の名前は霧雨魔理沙。はっきり言って、つるぺたの子供体型である。
年齢不相応に背が低く、まだまだ、『発育』という言葉から遠い見た目であるのがその原因なのであるが――、
「魔理沙さんはほら、妹属性ですから」
「何だそりゃ」
「妹とは、姉よりも小さくてかわいいものなのです。
『姉より優れた妹などいねぇ!』とは言いませんが、妹とは姉に対して、何だかんだ甘えている、かわいい子なのです。
かわいい子はロリなのです!」
「……これはケンカ売られてるのか?」
「魔理沙の言いたいことはわかるけど、早苗はこれ、マジだから」
「あ、やっぱり」
相変わらず、だっこして離してもらえない霊夢がつぶやく。
魔理沙は頬をかきながら、
「けどさー、やっぱりでかい奴は羨ましいぞ」
「そうよね。
私なんて、お母さん、ぼんっ、きゅっ、ぼーんよ。背も高いし、美人だし、黒髪スレンダーだったし。
あーいうの、日本美人っていうんだと思うんだけどなー」
「霊夢のおっかさんには、昔、会ったことがあるけど、確かにそんな感じだったな」
「そうなんですか? 私にも、写真とかあったら見せてくださいよ」
「ないのよね、それが。
お母さん、家を出て行く時に、紫に言って、全部、どっかに隠したみたいで」
曰く、『あなたの母親絶ちのため』なのだとか。
そのせいで、ママっ子な霊夢は、たまに『お母さんに会いたいな』と寂しがったりするのだが。
それはさておこう。
「私だって、私の母親は、結構な美人だったぞ。少なくとも、アリスとか咲夜くらいはあった」
「誰が何だって?」
話題に出された、アリス・マーガトロイドがやってくる。
彼女の場合、大きくも小さくもなく、まさに絶妙。均整の取れた、まるで絵画の世界に描かれた『美女』のようである。
「いや、早苗の乳がでかいな、という」
「ああ、まぁ、確かに。
あれじゃない? 外の世界は栄養過多だから、そんだけ成長したとか」
「ああ、それはあるかもしれないです。
幻想郷に来て、わたし、やせましたもん」
「食事が質素になったから、とか?」
「というより、幻想郷って、ジャンクフードとかないじゃないですか? 紅魔館とかに行かない限り、お菓子のバリエーションも限られてますし。
まぁ、あんこって、実は生クリームよりカロリーあったりするんですけど」
「え? マジで?」
洋菓子よりも和菓子大好きな霊夢が、慌てて自分のおなか周りを触る。
その仕草を見て、なぜかアリスは悲しそうな目になると、「大丈夫よ、霊夢。あなたはそれを気にするほど食べることが出来てないから」と彼女の肩を叩いた。
「そういうものを食べなくなりましたから。
あと、神奈子さまが栄養のバランスにはうるさいですし。諏訪子さまは『美味しければいーんだよ。食べ過ぎの代償は本人が支払うんだし』って」
「それ、なかなかきついな」
太りたくなければ、食ったら動け。これが全世界に通じるルールである。そして、絶対普遍の真理でもある。
食べて動かないから太るのだ。誠、簡単な事実である。
「なるほど。食生活が健康的になったから、ってことね」
「はい。
だけど、まだおなか回りとか柔らかいんですよね。もうちょっとやせたいな」
「早苗はほら、少しぽっちゃりした感じが一番かわいいと思うけどな」
「だよな。顔はすらっとしてるんだし」
「だけど~」
周り3人が、所謂『スレンダー』タイプであるため、自分ひとりだけ『ふんわり柔らか』な体型でいるのは、何かと気になるらしい。
女の子の複雑な心境、というやつだ。
「霊夢さんなんて、ほんと羨ましいですよ。
お肌すべすべ、髪の毛つやつや」
「ひゃっ。
ちょっと、いじらないでよ」
肌をなでられ、髪の毛触られて、霊夢は一応、抗議の声を上げる。しかし、その顔は嬉しそうだ。
「アリスも、肌、綺麗だよな」
「私はちゃんとお手入れしてるもの」
「お前の姉さんたちの影響か」
「そうね。
夢子さんとかサラさんとか、本当に綺麗だったわ」
美人ばっかりの家系に生まれると、どうしても、相手と自分を比較してしまうのだとか。
『お姉ちゃんに負けない!』と頑張ってしまうのは、コンプレックスの裏返しだろう。
「魔理沙は……ま、子供だしね」
「誰が子供だよ!」
ほっぺたぷくーっと膨らませて抗議してくる魔理沙のほっぺたを、つんつんぷにぷにつつきながら、アリスは『はいはい』と笑う。
「あくまで個人的にですけれど、萌え属性というのは後天的に備えたものよりも、先天的に備えているものを磨いて追求していくほうがいいと思うんですよ。
そっちの方が、絶対に受けます!」
「ごめん、早苗。意味わかんない」
「アリスさんはこれだから。
いいですか、アリスさん。冷静かつクールなのがアリスさんの萌え属性の一つですが、かといって、それを他者への攻撃に使ってはいけません。自分を磨くために使わないと」
「霊夢通訳お願い」
「ごめん無理」
これが、現代っ子と幻想郷住民との認識の差異であった。
その間に横たわる垣根というのは、とても高く、そして深いものなのだ。
早苗は日々、外の世界の『常識』を幻想郷社会に流布するために活動しているのだが、それがなかなか広まっていかないのは、その垣根のせいなのだろう。
これは所謂、カルチャーギャップというやつである。
「で、霊夢はいつまで早苗にくっついてるんだ?」
「だって、早苗が離してくれないんだもん」
「離すわけないじゃないですか~。
霊夢さん、か~わいい」
「もう、やめてよ」
ほっぺたすりすりされて、霊夢は嬉しそうに顔を笑顔に染めながら、それでも一応、抗議の声を上げたりする。
そのいちゃいちゃっぷりに、魔理沙はひょいと肩をすくめた。
「あれ、どう思う?」
「いいんじゃない。霊夢にも、遅い春がやってきたのよ」
「遅いったって。
霊夢、まだ、そんなに年くってるわけじゃないだろう」
「そうかしら」
「年齢のこと言ったら、お前は人のこと言えないだろうし」
「そうなのよねぇ。
まぁ、私は自分のことにはあんまり、アレだし。周りを応援しているほうが楽しいわ」
「それ、かなり迷惑だからやめとけよ?」
「いやよ」
恋に恋するお年頃は、あくまで『恋』とは幻想なのであり、現実ではないのである。
その幻想を追いかけて『現実』とする行為に興味があるのであって、現実となったもの、そのものには興味を惹かれないのだ。
複雑であるが、これも年頃の女の子特有の精神なのである。
「あったまりましたね~」
「そうね」
「こら、魔理沙! 髪の毛、乾かしてから行きなさいよ!」
「めんどい。空飛んでれば乾くだろ」
「だから、あんたは風邪を引きやすいの!」
脱衣場では、アリスと魔理沙が騒いでいる。
その声を聞きながら、早苗は、「だから、魔理沙さんは妹属性があるって言ったのに」と笑っていた。
一方の霊夢は、売られている飲み物から、早苗お勧めのコーヒー牛乳を買って、ちびちび、それを飲んでいる。
「今度は霊夢さんに、コーヒー牛乳の飲み方を教えないといけませんね」
「そんなのあるの?」
「ありますよ。
出来れば、まず、お風呂から上がって、着替える前がいいですね。
鏡に自分の姿を映しながら、利き手と反対の腕を腰に当てて、一気に飲み干すんです! これがルール! マナー!」
「へぇ~」
それはそれで楽しそうだ、と霊夢は思った。
次の機会があったらやってみよう、とも。
「ん~……」
「早苗はどうしたの?」
「何か最近、ブラがきつくて」
霊夢とは違ってフルーツ牛乳を買って、『今は仕方ないから』と普通にそれを飲んでいる彼女が、胸元を触りながら首をかしげている。
返ってくる答えに、「また大きくなるの」と、霊夢は半分、茶化して尋ねた。
「そろそろカップを変えないとダメですね」
「羨ましい話。
私なんて、ここ数年、同じサイズなのにさ」
「それがいいんじゃないですか」
「……たはは」
霊夢はあくまで『スレンダーがいい』と断言する早苗の前では、もはや、この話はしても無駄であった。
彼女は苦笑して、「じゃあ、今度、紅魔館に行こうよ」と声をかける。
幻想郷で、この手の、所謂『女物』の下着を取り扱っているのはあそこだけだからだ。
「そうですね。
あ、霊夢さん。どうしても霊夢さんが巨乳になりたいのなら、一つ、いい手段が」
「え? 何?」
「好きな人に、愛情を持ってもんでもらうという……」
「い、いやいやいや! それはいくらなんでも!」
「ちっ」
「……今、露骨に舌打ちしたわよね?」
手をわきわきさせていた早苗が、何やら悪い顔になるのを、霊夢は見逃さなかった。
頬に汗を一筋流した彼女のところに、魔理沙がやってくる。アリスに捕まってドライヤーをかけられていたのか、髪の毛がぐしゃぐしゃだ。直す前に出てきたのだろう。
「お、二人とも、うまそうなの飲んでるな。私も買おーっと」
「……ったく。
ほんと、手がかかるんだから」
そこに遅れて、アリスの登場だ。
彼女は早苗に、「早苗、これ、ありがとう」と化粧品一式を手渡す。
「あっちで一休みしましょう」
「そ、そーね」
「そうしましょう」
「おーい、アリスー。お前は何飲むー?」
「炭酸」
「ほいよ」
というわけで、女4人のかしましい話と、まったりした春の時間は、もう少し続くようであった。
あるって言えばある程度の大きさ。
あと霊夢はもう少し食べないといけないと思う。
魔理沙の小ささがちょっと異常ですね…キノコしか食べてないのかな?
数字で見る限りだとアリスが一番スタイルが良いのか。
早苗は肉(胸、腹、尻)のつきかたからすれば奇跡的な体重の少なさと言って良いんじゃないかね?
筋肉無さすぎなのか
霊夢:19.81 魔理沙:19.02 アリス:19.43 早苗:21.09
アリスと早苗はあり得ないですよ、これ。特に早苗。そのスリーサイズで21って、筋肉が一切存在しないとか、そんなんかな。
女の子の体重は自己申告を信じてはいけないという、いい見本ですね。