「やだ! 雲山なんて!」
「こら、一輪!」
私たちの種族は、大人になったとみなされたとき、パートナーの入道を両親から授かる慣わしになっている。
隣のさっちゃんや、向かいのりっちゃんはとっても可愛い入道や、格好いい入道を従えてのっしのっしと歩いてる。
なのに、私の入道は、どう贔屓目に見てもナイスミドル。お世辞抜きに言うならば、加齢臭がしそうなおっさんの入道だもの。
「いいかい一輪。雲山は他の入道よりもよっぽど力も強いし、心根も優しいんだよ。私は一輪のことを思って……」
だなんておとうさんやおかあさんは言うけども、どうしたって私は納得がいかなかった。
それにいくら強いって言っても、入道は私たちがいなかったら十分に力を発揮できやしないんだ。
私にだって、パートナーの入道を決める権利ぐらい、あるはずだもん。
そういって家を飛び出して、私は近くの河辺に来ていた。
子供の足じゃ遠くまでいけやしないし、拗ねても現状は変えられないことだって、本当はわかってる。
それに雲山っていう入道だって、私がさっき言っていたことを聞いていたはずだもの。
「えいっ」
ぽちゃん、と投げ込まれた石が水面に波紋を作っていった。けどそれもすぐに川の流れに消えてしまった。
「どうしよっかなぁ、これから」
これからって言っても、日が暮れそうになったらいやでも家に帰ることになるんだろうけど。
それか、私のことを探しにきたおとうさんとか、おかあさんとかに連れ戻されるのかな。
「どっちにしたって、受け入れないとダメだもん」
これから雲山とどう付き合っていくか、良い関係を作っていけるかが目下のところの悩み。
いずれにしたって、向き合ってあげなきゃ雲山だって可哀想。
そう考えていたら、胸の中にあったモヤモヤはいつのまにか消えていった。
「よし、帰ろう。それで、雲山に謝ろう」
私が家に帰ると、おとうさんとおかあさんは居なくって、雲山が入ってる壷とその横に書置きがあるだけだった。
『すこし買い物に行っています。帰ってきたら、また話しましょう』
そう書かれている文字は、おかあさんのちょっとだけ丸い文字。
大丈夫、一輪はこれからちゃんと、雲山と上手くやっていくから。
「雲山」
壷に呼びかけてみても、ピクリとも反応はなかった。
怒ってるのかもしれない。
当たり前かな、あんな酷いことを言って、飛び出してしまったんだもん。
「ごめんね雲山。私、酷いこと言っちゃった……。虫がいい話かもしれないけど、私とこれから一緒にパートナーを組んでほしいと思って。
雲山のことを何も知らないのに、拗ねて飛び出すような私だけど、良かったら仲良くしてくれないかな?」
私がそう言うと、おもむろに壷の蓋が開いてモクモクと白い体が飛び出してきた。
立派なお髭と、逞しい体。格好よくはないけれど、雲山はとっても頼もしかった。
「ありがとう、おとうさん、おかあさん」
抱きつくと、雲山も私を抱き締め返してくれて、これから上手くやっていけるような予感がした。
「これから女の子同士、一緒にがんばっていこうね、雲山」
お?
いいはなしか
疑問ナンテアリマセンヨ?本当デスヨ?
こんなに心温かくなるお話だt…
(後書きに殴りかかる)
え?