「巫女、飲み物~」
「水銀でいいなら」
「わーお、仕留める気満々ね」
霊夢の隣で、だらだらごろごろとしている文。
いつもと同じように、霊夢が縁側で一息ついていると、文が暴風と共に降ってきた。そして、突然のことに呆然としている霊夢に向かって、ただ一言「ちょっと休ませて」とだけ言って、今に至る。
別に霊夢は、休んでもいいなどと言った覚えは無いのだが、どうやら本当に疲れきっているようなので、仕方なく何も言わないでやった。
文は何をするわけでもなく、ただ本当にごろごろとしているだけだ。
「あんたさ、なんでそんなに疲れてるの?」
「んー? ちょっとね。組織の方でごたごたしてて。新人の下っ端たちを、何故か私が
訓練するはめになってね。もう三日三晩寝てないわ」
「ちょ、それ大丈夫なの?」
「うっそー。さすがに三日三晩はないわ。けど、最近睡眠時間がほとんどないの。それで、ちょっと隙見て抜け出してきた」
「それって、さぼりじゃないの?」
「いいのよ。大体、私は報道機関だっての。戦闘を教えるなんて、専門外なのよ」
それでも文が選ばれたのは、天狗という種族の枠を越えて、幻想郷においてもかなりの実力者に入るからだろう。文が本気を出すということはまずないが、それこそが強者が持つ余裕というものだ。
霊夢がふと横を見ると、文が疲れ切った表情でため息を吐いていた。
「あんたって、組織とかそういうのに所属してるの、似合わないわよね。結構自由人だし」
「安定を求めてるのよ。無限の自由は、それこそ不自由に繋がるわ。というわけで、お茶ー」
「客じゃない者に出すお茶はないわ」
「客であっても出さないくせにー」
「あら、分かってるじゃない」
「むぅ……巫女はけちだー。今度記事にしてやる」
「そんなこと記事にしたら、あんたの家乗り込んでやるわ」
「え? お泊りですか? いやーん。大胆ですねー」
「うっざ」
無駄に取材口調かつ棒読みで言う文を、霊夢は割と本気でウザいと思った。
「あ、もしかしたら追っ手が来るかもしれないけど、来たら適当に蹴散らしておいてね」
「なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ」
「ほら、私たち友達でしょ。いや、親友じゃないですか!」
「ったく、調子の良い奴ね」
「ありゃ? 否定しないのね」
「え? だって友達でしょ?」
「……霊夢はたまーにそういうこと、素で言っちゃうところが反則だと思う」
文が何故か腕で顔を隠しながら、そう言った。だが、霊夢は何かおかしいこと言っただろうか、と首を傾げていた。
なんとか顔を覗きこもうとしても、そのままそっぽを向かれてしまって、見ることが出来ない。
「ちょっと、突然どうしたのよ? こっち向きなさいよ」
「やーだ。今は顔見られたくないのー」
ぐいぐい。
じたばた。
見せろこら。
いやいや、見るなって。
霊夢が無理矢理腕を退けようとするが、文は暴れて抵抗する。
結局、文の表情も何故顔を見せたくないのかも分からずだった。
「はぁ……巫女のせいで、余計に体力使ったわ」
「あんたが隠し事するからでしょ。気になるじゃない」
「罰として、霊夢は私に今すぐ飲み物を持ってくること。それがあなたに出来る善こ……なんとかです」
「あんたは何処の閻魔よ。そして真似するなら最後までしなさい。なんで、最後一文字だけ言わないのよ」
「喋るのも面倒なくらいに、疲れてるのよ」
だらけきった文を見て、霊夢は呆れたようにため息を吐く。
文がここまでだらけている姿を初めて見た。よほど疲れているのか、それともただ単にこれが素なのか。霊夢にはどちらか分からなかったが、正直どっちでもよかった。
霊夢がすっと立ち上がる。
「あやややや、何処に?」
「飲み物持ってくるのよ」
「なんだかんだで優しい、そんな巫女が大好きよ」
「早苗のことね」
「霊夢のことよ」
「ふん、思っても無いことを」
「失礼な。これでも結構あなたのこと気に入ってるのよ?」
「ネタとして、でしょうに。それじゃあ、持ってくるからおとなしくしてなさいね」
「あ、ちょっと――」
文が何かを言おうとしたが、霊夢は聞かずに行ってしまった。
中途半端に伸ばした手は、ただ空を切っただけで何も掴むことは無かった。
「……掴めないなぁ」
文からすれば、割と本気で言っているのだが、霊夢はまるで風のように掴め無い。信じてもらえない原因はなんだろうか、と考え込むが、どうしてか分からなかった。もしこの場に文のことをよく知っている第三者が居たら、真っ先に「いや、普段の言動のせいだろ」とツッコミを入れるところだろう。
だが、今は文一人のため、そのツッコミは入らなかった。
「うーん、難しいなぁ」
どうしたものやら、と考えていると、風が乱れ始める。
文は目を細めて、しばらく風を読み取ることに専念した。そして、しばらくしてため息一つ。
「あー……追っ手っぽい」
風の雰囲気だけで、誰がこちらへ向かって来ているかが分かった。
隠れなければならないが、霊夢におとなしくしていろと言われたのを思い出す。動くべきか、霊夢が戻ってくるのを待つか。
「……むむむ」
悩んでいるうちにも、どんどんと近づいてくるのを感じる。
文は、もういいやどうとでもなれ、とその場から動かないことにした。
哨戒天狗の匂いや気配が、近い。文は覚悟を決めて、とりあえず寝たふりをする。
「文ーお待たせ。ありがたいほどに熱いお茶で火傷してしまえ――じゃなかった、美味しいお茶よ」
「……っ」
「って、寝てるし」
タイミング悪く、寝たふりを開始したら霊夢が戻ってきた。
寝たふりですよー、などと言ったら笑顔で蹴られる。そんな未来が予測できた文は、そのまま寝たふりをすることにした。どちらにしろ、今起き上がってしまえば哨戒天狗がその場面を目撃するだろう。
こうなったらやけだ、と目を強く瞑る。
「せっかくのお茶が無駄になっちゃうじゃない。んーけど、寝てるの起こすのもなぁ。こいつ、疲れてるって言ってたし……うーん」
霊夢はぶつぶつとそんなことを呟きながら、仰向けに寝転がっている文の頭を踏まないように気をつけながら、隣に座った。
すると、次の瞬間――
「失礼。ここに射命丸様はいらっしゃいますか?」
哨戒天狗が二人、現れた。
霊夢は特に動じた様子はなく、お茶を啜りながら目の前を見据えた。文は寝たふりを続行しながら、さてさてどうしたものかと思考を巡らしている。少しは休めたし、おとなしく戻っておくのが無難だろうか。そんなことを思いながらも、この居心地の良い場所から動きたいとは思わなかった。
「文ならいないわよ」
「……さっきまで、ここに居たりしませんでしたか? 匂いだけはするのですが」
「あー正解。さっきまで居たけど、なんか突然飛んでったわ」
「ご協力感謝。では、失礼しました」
文は、ぽかーんとした状態だった。自分は確かに哨戒天狗の目の前に居たはずなのに、まるで存在しないかのような会話。そして、本当に哨戒天狗たちは帰ってしまった。気配が遠ざかるのが、確かに感じた。
すると、霊夢がふぅ、と疲れたように息を吐いた。
「以前にとりと共同開発した姿消せるお札、匂いは消えないのね。少し焦ったわ」
今度は大きくため息を吐いた。
それが自分の体にいつの間にか貼られていたのか、と文は思う。そして、霊夢が哨戒天狗を本当に追っ払ってくれたことに、正直驚いていた。霊夢なら、あっさりと突き出してしまう可能性の方が高いと思っていたのだ。
「……冷静に考えたら、なんでこいつのためにここまでしてやんなきゃならないのかしら。起きたら全財産お賽銭につぎ込ませてやろう」
このまま一生寝ている方が安全かもしれない。
財布を持ってこなくてよかった、と心の中でほっと息を吐く文。
もう寝たふりをする必要もないが、さてどうしようか。このまま本当に寝てしまうのも良い休みになる。
文がどうしようかと悩んでいると、ふいに霊夢が動く。
「んしょっと。頭痛いだろうからね。枕持ってくるのも面倒だし、かといってこいつを布団に運ぶのも面倒だから。うん、これが一番楽ね」
「っ!?」
霊夢は自分で言って自分で満足している。
文の頭にさっきまでの冷たくて固い床とは違った、温かくて柔らかい感触。それだけで、文は何をされているのかが、今がどういう状況なのかが分かった。
霊夢の太股に、文の頭。
つまり、膝枕だ。
長い年月を生きてきた文だが、こんなことをされるのは初めてだった。
今さら起きている、なんて言えなくなってしまった。顔が熱くなるのが分かってしまい、思わず両手で覆いたくなる衝動に駆られる。
「んー? なんか顔赤いわね。疲れたって言ってたし、まさか熱でも出たのかしら」
「……~っ!」
霊夢は文の前髪をそっと撫で、そのまま額に触れた。特に熱いわけでもなく、どうやら熱はないようだと確認し終える。
文は、もう全く動けないでいた。
ただただ純粋に、恥ずかしかったのだ。
一般人がこの状況を見たら、妖怪がこれしきのことで動揺するのはおかしい、と思うかもしれないが、強い妖怪ほど案外こういうことに免疫がなかったりする。ある意味精神を突くので、弱点かもしれない。
文の髪は予想以上に触り心地が良くて、霊夢は梳くように撫で続ける。ふわっとしていて、優しい手つき。まるで子どもをあやすような。
初めは恥ずかしかっただけの文も、次第に心が落ち着いてきた。
すると、思い出したかのように溜まった疲労感が文を襲う。体は重く、けれでも膝枕のおかげで心地良い。
「んっ……くぁ」
「あれ、起こしちゃったかしら?」
眠気に思わずふにゃっとした声を出した。
霊夢は起きてしまったかと心配したが、実際は逆だ。寝たふりをしていたのが、本当に眠ってしまったのだ。
しばらくして、すぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。
微かに吹いている風が、子守唄のようだ。
「意外に睫毛長いわね」
寝ている文を見て、どうでもいいようなことを発見する。
そして、気付いた。
「私、文が起きるまで動けないじゃない」
霊夢はそう思って、今のうちに起こしてやろうかと思ったが、あまりにも文が心地良さそうに眠っているので、堪えることにした。
「ま、私からしたことだしね……」
ため息一つ零す。そして、起こさない代わりに、なんとなく文の頬をぐにーっと引っ張った。弾力があって、柔らかい。
ぐにぐに。
にゅーん。
霊夢はしばらくそうして遊んでいたが、文がうーうー唸ったので、やめてやることにした。
「さて、本格的にすることないわねぇ……」
眩しいくらいに青い空をぼーっと眺める。
そして、しばらくすると霊夢にも心地良い眠気が襲ってきた。その欲求に逆らうことなく、霊夢はゆっくりと眠りに落ちていった。
さっきまで微かに吹いていた風は、今は止んでいる。
二人の穏やかな寝息だけが、そこにはあった。
俺も入会したいけど貴方の様なニヤニヤするSSが書けないからなぁ……。
タグに糖分95%が無いのはおかしいじゃないか!
オフ文はほんとぐーたらしてそう。
あやれいむ布教委員会入りたい…!
でも明らかに私なんか場違いなレベル…
ぜひとも入会したいところではあるが文章力もなければ画力も俺にはない…orz
あぁ、ニヤニヤしっぱなしです…
入会したいのは山々だが、いかんせん文章力が足りない……
もう私の疲れも吹っ飛びました!
あやれいむ布教委員会に入会したいですけど私の文章力が…
お前らww 妄想したシチュエーションをそのまま表現すればいいんだよ!
やはり膝枕はほのぼの甘い雰囲気には最高だ……
安易なちゅっちゅに走らないあたりはさすが会長としか言いようがない。
一生会長に付いていきます!
尤も、こんな幸せな術ならいくらでも嵌っていたいものであるが
入会したいけど文才が無いので幽霊会員だな…
入会費は全財産で宜しいか?
私は読み専なので会長さん、陰ながら応援してますよー
穏やかで優しく、でも、どこか切なげな雰囲気。そんな雰囲気が心地よい作品でした。
SS書けないとかでも全然おーけいですよ!
私的には、糖分25%くらいかなって感じですがw
>>2様
膝枕してもらえれば、一年は生きれますね。
>>3様
ウェルカムですよ!
場違いとかないですから! 大事なのはあやれいむが好きという気持ちです!
>>4様
文章が書けるからとか絵が描けるからとか、そういうのはいいのです。
是非とも会員に(ry
>>5様
文章力なんて二の次三の次です! 気持ちがあれば、良いのですヨ!
>>サキ様
そんなこと言わずに是非入りましょうよ、我が委員会に!
>>ぺ・四潤様
ありがとうございますー。
そう言ってくださると、ただただ嬉しいです。
>>8様
きましたよっ!
>>奇声を発する程度の能力様
なんとも嬉しい公式w
ありがとうございます!
>>10様
ありがたいお言葉です。
その言葉で、私はもっと頑張れます。
>>11様
入会費なんてそんな!
文章力とか、そんなものよりあやれいむが好きという気持ちさえあればそれで!
>>12様
読み専さんでも会員にはなれますよっ。
ありがとうございます、頑張ります。
>>13様
全然おーけいですよ!
>>無在様
微妙な距離感って、良いですよねぇ。
ありがとうございますー!
入会費は出世払いで(ぉぃ
あやれいむ補給完了!出撃します!!(……ドカーン…
特種ネタでっせーーーーーーー!!!
ほのぼのしてて良かったです。
何というか喉飴さんのSSは不思議だな……。
ニヤニヤが止まりません。
ありがとうございます。