「霊夢さーん、いるなら返事してくださーい。いなくても返事を…おっと」
神社にあがりこむと巫女がこたつで寝ていました。
かなり大きな声で呼んでまわったのですが、まったく反応がなかったのは、どうやら熟睡しきっているようですね。私は勝手に淹れたお茶を飲みつつ、霊夢さんの寝顔をながめ始めました。
まるで世の憂いなど何もないように、あまりにも清らかな寝顔。
あどけない、という言葉すら形容するのに足りない、あまりにも純粋なかわいらしい顔。白い肌に、艶やかな黒髪と、頬の紅が映えてとても綺麗です。
普段なら「これは貴重な光景です!恒久保存のためにも写真に収めなければ!」と息巻くところなのでしょうが、とてもそんな気が起こりません。なんだか、触れてはいけないもののような、そんな気さえしてきます。
そんな光景も、霊夢さんが起きてしまえば泡のように消え去ってしまうんですけれども。
長い夢路をたどり私の思考がようやく帰ってきたところで、私は取り敢えず、霊夢さんをずっとじっと見ていた体を動かすことにしました。
伸びを一つ。
ふと、廊下のほうからかわいらしい足音がしてきました。
はて、誰だろうと思ったところ、正体はチルノさんでした。
手には水の入ったコップ。私が気づかないうちに来ていたのでしょうか、とても用意がいいですね。
…もしかしたら見られたかもしれないと思うと、なぜか恥ずかしいような気にもなりました。
チルノさんはコップの水をその場で飲み干して、空になったコップをこたつの上に置くと(わざわざ持ってこなくてよかったような気もするのですが)、おもむろに霊夢さんの脇に座りました。
いたずらをする目をしているなあ。とみていると、やはりというかなんというか、霊夢さんのほっぺたをぷにぷにとつつき始めました。
霊夢さんはそれでも寝ています。どれほど疲れているのでしょうか。
チルノさんのかわいらしい指が霊夢さんのほっぺたをぷにぷにと。ぷにぷに、ぷにぷに………
…………柔らかそうだなあ。
私がそう思った瞬間、チルノさんがその手を止めて、いきなり私の方を向いてきました。
まるで「あや、なんか言った?」とでも言いたげに。
私も取り乱してしまい、何もないのにおもいっきり首を横に振ってしまいました。はずかしい。
そんな私の様子を見て、何を思ったのか、突然チルノさんが立ち上がって私の方へやってきました。
今日一番のいい顔をしています。「いいことおもいついた♪」と顔が言っています。
ものすごく嫌な予感がするんですが。私は何をされるというんですか。悪ふざけもほどほどにしてくださいよ?
わたしがおどおどとしていると、チルノさんは私を引っ張って、霊夢さんのそばへ。
いつのまにか、横を向いて寝ていたはずの霊夢さんは、仰向けになっていました。
チルノさんはうれしそうに、そっと、その霊夢さんの唇を指さして、反対の腕で私の背中を強く押してきます…………って!何させようとしてるんですか?!
ダメです!いくらなんでも!そんな残念そうな顔をしても!
やりませんよ?やりませんから!
私の必死の抵抗によって、チルノさんはなんとか(しぶしぶ)諦めてくれました。
諦めてくれたんですが、今度は霊夢さんの唇をつついて遊びだしました。
そっと唇に指をのせてみたり、つんつん突いたり。弾力のある返しに、どんどんチルノさんがイケナイ表情になっている気がします。
そして、ひとしきり遊んで満足したのか、それとも何か思いついたのか、チルノさんは立ち上がって、どこかへ行ってしまいました。コップも持って行ったのでのどが渇いただけかもしれません。
再び訪れた静寂。聞こえるのはくうくうと未だに安眠を続ける霊夢さんの寝息だけ。
あれだけ悪戯されておいて、よくもまあずっと寝ていられるものです。
私だけが心乱されているのが、なんだか我ながら滑稽です。
どれだけのことがあったら、ここまで寝続けられるのでしょう。まるで西洋の御伽噺みたいですね。
そんなことを漠然と考えながら、何気なく霊夢さんの顔をまじまじと見つめていました。
西洋の御伽噺ねえ…
そこから顔を離すまで、私の思考がどういう経緯をたどったかの記憶がありませんが、私の口に残る柔らかい感触と、こちらをニヤニヤと見つめているチルノさんの顔が、自分のやったことをなかったにはできないと宣告しています。
ところでいつの間に帰ってきたんでしょうか。この”妖”精は。
狙ったんですか。そうですよね、狙ったんですよね?!
私は恨みがましくチルノさんを睨み付けていたのですが、あまり気にしている様子もありません。ちくしょう。いくらチルノさんとはいえ、妖精に負けた気がしてたまりません。
ああもう、忘れようとすれば忘れようとするほど、さっきの記憶がより鮮明になっていきます。恥ずかしさで死にそうです。誰か私に救いの手をください。
「……んむ………」
まるで見計らったかのようなタイミングでお姫様が起きられました。
や、見計られてたら私死んじゃいます。たのむから偶然であって。
寝起きの霊夢さんは眠い目をこすりつつ、なにか腑に落ちない感じで口元をこすっていましたが、私とチルノさんを交互に見回した後、チルノさんの方を向いて
「……アンタ何したのよ。」
と言いました。
まるで全部察してしまったかのような物言いです。もうだめだ、やめて、助けて。
チルノさんはにやりとして
「なーんにも?」
と言い放ちました。嘘を言いなさい。あ、なんでこっち向いてくるんですか。
恥ずかしさがどんどん高まって、もう誰の顔もまともに見れませんでした。
「嘘。やっぱりチルノは”わるいこ”ね。」
「れいむも”わるいこ”でしょー?」
「それならアンタは2倍”わるいこ”じゃない。」
”わるいこ”ってなんですかもう。
私のことですか
なんですか
それから、神社から山に戻っても、日が沈んで昇っても、あのときの霊夢さんが忘れられなくなって、ほんとうに私はあの時以来、どうかしてしまったみたいです。
ああもう、全部チルノの所為だっ!”わるいこ”だっ!
神社にあがりこむと巫女がこたつで寝ていました。
かなり大きな声で呼んでまわったのですが、まったく反応がなかったのは、どうやら熟睡しきっているようですね。私は勝手に淹れたお茶を飲みつつ、霊夢さんの寝顔をながめ始めました。
まるで世の憂いなど何もないように、あまりにも清らかな寝顔。
あどけない、という言葉すら形容するのに足りない、あまりにも純粋なかわいらしい顔。白い肌に、艶やかな黒髪と、頬の紅が映えてとても綺麗です。
普段なら「これは貴重な光景です!恒久保存のためにも写真に収めなければ!」と息巻くところなのでしょうが、とてもそんな気が起こりません。なんだか、触れてはいけないもののような、そんな気さえしてきます。
そんな光景も、霊夢さんが起きてしまえば泡のように消え去ってしまうんですけれども。
長い夢路をたどり私の思考がようやく帰ってきたところで、私は取り敢えず、霊夢さんをずっとじっと見ていた体を動かすことにしました。
伸びを一つ。
ふと、廊下のほうからかわいらしい足音がしてきました。
はて、誰だろうと思ったところ、正体はチルノさんでした。
手には水の入ったコップ。私が気づかないうちに来ていたのでしょうか、とても用意がいいですね。
…もしかしたら見られたかもしれないと思うと、なぜか恥ずかしいような気にもなりました。
チルノさんはコップの水をその場で飲み干して、空になったコップをこたつの上に置くと(わざわざ持ってこなくてよかったような気もするのですが)、おもむろに霊夢さんの脇に座りました。
いたずらをする目をしているなあ。とみていると、やはりというかなんというか、霊夢さんのほっぺたをぷにぷにとつつき始めました。
霊夢さんはそれでも寝ています。どれほど疲れているのでしょうか。
チルノさんのかわいらしい指が霊夢さんのほっぺたをぷにぷにと。ぷにぷに、ぷにぷに………
…………柔らかそうだなあ。
私がそう思った瞬間、チルノさんがその手を止めて、いきなり私の方を向いてきました。
まるで「あや、なんか言った?」とでも言いたげに。
私も取り乱してしまい、何もないのにおもいっきり首を横に振ってしまいました。はずかしい。
そんな私の様子を見て、何を思ったのか、突然チルノさんが立ち上がって私の方へやってきました。
今日一番のいい顔をしています。「いいことおもいついた♪」と顔が言っています。
ものすごく嫌な予感がするんですが。私は何をされるというんですか。悪ふざけもほどほどにしてくださいよ?
わたしがおどおどとしていると、チルノさんは私を引っ張って、霊夢さんのそばへ。
いつのまにか、横を向いて寝ていたはずの霊夢さんは、仰向けになっていました。
チルノさんはうれしそうに、そっと、その霊夢さんの唇を指さして、反対の腕で私の背中を強く押してきます…………って!何させようとしてるんですか?!
ダメです!いくらなんでも!そんな残念そうな顔をしても!
やりませんよ?やりませんから!
私の必死の抵抗によって、チルノさんはなんとか(しぶしぶ)諦めてくれました。
諦めてくれたんですが、今度は霊夢さんの唇をつついて遊びだしました。
そっと唇に指をのせてみたり、つんつん突いたり。弾力のある返しに、どんどんチルノさんがイケナイ表情になっている気がします。
そして、ひとしきり遊んで満足したのか、それとも何か思いついたのか、チルノさんは立ち上がって、どこかへ行ってしまいました。コップも持って行ったのでのどが渇いただけかもしれません。
再び訪れた静寂。聞こえるのはくうくうと未だに安眠を続ける霊夢さんの寝息だけ。
あれだけ悪戯されておいて、よくもまあずっと寝ていられるものです。
私だけが心乱されているのが、なんだか我ながら滑稽です。
どれだけのことがあったら、ここまで寝続けられるのでしょう。まるで西洋の御伽噺みたいですね。
そんなことを漠然と考えながら、何気なく霊夢さんの顔をまじまじと見つめていました。
西洋の御伽噺ねえ…
そこから顔を離すまで、私の思考がどういう経緯をたどったかの記憶がありませんが、私の口に残る柔らかい感触と、こちらをニヤニヤと見つめているチルノさんの顔が、自分のやったことをなかったにはできないと宣告しています。
ところでいつの間に帰ってきたんでしょうか。この”妖”精は。
狙ったんですか。そうですよね、狙ったんですよね?!
私は恨みがましくチルノさんを睨み付けていたのですが、あまり気にしている様子もありません。ちくしょう。いくらチルノさんとはいえ、妖精に負けた気がしてたまりません。
ああもう、忘れようとすれば忘れようとするほど、さっきの記憶がより鮮明になっていきます。恥ずかしさで死にそうです。誰か私に救いの手をください。
「……んむ………」
まるで見計らったかのようなタイミングでお姫様が起きられました。
や、見計られてたら私死んじゃいます。たのむから偶然であって。
寝起きの霊夢さんは眠い目をこすりつつ、なにか腑に落ちない感じで口元をこすっていましたが、私とチルノさんを交互に見回した後、チルノさんの方を向いて
「……アンタ何したのよ。」
と言いました。
まるで全部察してしまったかのような物言いです。もうだめだ、やめて、助けて。
チルノさんはにやりとして
「なーんにも?」
と言い放ちました。嘘を言いなさい。あ、なんでこっち向いてくるんですか。
恥ずかしさがどんどん高まって、もう誰の顔もまともに見れませんでした。
「嘘。やっぱりチルノは”わるいこ”ね。」
「れいむも”わるいこ”でしょー?」
「それならアンタは2倍”わるいこ”じゃない。」
”わるいこ”ってなんですかもう。
私のことですか
なんですか
それから、神社から山に戻っても、日が沈んで昇っても、あのときの霊夢さんが忘れられなくなって、ほんとうに私はあの時以来、どうかしてしまったみたいです。
ああもう、全部チルノの所為だっ!”わるいこ”だっ!