年も明けたので、魔理沙はとりあえず年始参りに霊夢のところへ行ってみた。
すると、霊夢は弾幕を食べていた。
出オチかよ。
「霊夢。それ弾幕やろ。食べ物ちゃうやんか」
よく見ると、御札に力をこめて光らせているだけのようだ。
札の材質は当然のことながら、紙。
身体に悪いわけではないだろうが、食べるものではない。
てらてらとエナメルのように光る御札を食べる巫女。
いろいろな意味でシュールすぎた。
「お賽銭が入らなくて……」
身体は痩せ細り、頬はげっそり。
目のふちは落ち窪み、狂気の瞳が魔理沙を覗く。
「魔理沙のほっぺたって柔らかくておいしそうね」
「おまえは妖怪か!」
「ああ……そういえば……外で人間っぽい雀が鳴いてたわね。あれ食べれるのかしら」
「あれは食べちゃだめだろ」
あれは食べちゃだめである。
「里の人にめぐんでもらえればいいじゃんかよ」
「里は今、年の初めで家族仲良くコタツでまるまってお節料理でも食べてるのよ。そこにわたしなんかがのこのこ出かけていって食べ物をめぐんでもらうなんてできないわ」
「おまえ変なところでプライドあるのな。じゃあ、わたしの家で茸でも食うか?」
「悪いわね……ああ……」
起き上がったところで、ふらふらと霊夢が倒れこみそうになる。
魔理沙は霊夢の身体を支えた。
ずいぶんと軽い。もともと霊夢は小柄なほうではあるが、どうやら本気でやばいところまできているらしい。
「戦時中のおじいちゃんたちは海の水を薄めて太平洋スープとして飲んでいたらしいわ」
「幻想郷に海ないし! というか戦争ってなんのことだ!?」
「知ってる? 魔理沙」
霊夢は虚ろな視線を魔理沙に送った。
「あん?」
「死神はりんごしか食べない」
「小町はいろんなもんをがんがん食ってた気がしたが、なんか変な妄想でも見てるんじゃないか。つーか死神が魂回収しにきてるんだったらヤバイな。はは……」
冗談にしようと魔理沙も必死である。
本気で言ってるんだったらいろいろとヤバイ。マジでヤバイ。
「ああ、違ったわ。わたしこう言いたかったの。木の皮って食べられるのよ」
「それは、よかったな……」
幻想郷の危機がこんなところでこっそりと――
あけましておめでとうございます。
もしかすると、魔理沙が霊夢のもとにこなければ、三が日が終わるころには博麗大結界消滅というパターンもありえたのかもしれない。
霊夢が魔理沙の手を離れ、スローモーションのような動きで独り立ちした。
すたすたとは歩けない。
よろよろと柱に手をつく。
あぶなっかしい足取りだ。
長らく動いてなかったのだろう。
いろいろとエネルギーの消費を抑えるために、極限まで不動をつらぬいていたに違いない。こたつの上にはみかんの縁の部分だけが残されている。皮はなかった。
皮は……。
その想念を魔理沙は振り払い、とりあえず明るめの声で聞いてみる。
「おまえ大丈夫か。一人で飛べるのか」
「ごめん。無理……。魔理沙、わたしのこと連れてってくれる」
うるると瞳を濡らし、霊夢は魔理沙のスカートにすがりつく。
「おまえ、今日はなんかかわいいぜ」
甘えた霊夢の姿はそうそう見られるものではないし、魔理沙の心にもちゃんとした母性が存在するのである。
「餓死寸前なのよ。わりと本気気味に」
「萃香はどうした?」
「あー。ちょっと里帰りとか言って、ふらっと出かけていったわよ」
「どっちなんだ?」
「あーん?」
「地下なのか山なのか」
「知らないわよ。わたし聞いてないもん。それよりご飯。ご飯食べさせて」
「あー。わかったよ」
魔理沙は帽子をくいくいとなおし、箒にまたがる。
「ほら。腰に手をまわせ」
「……力が入らない」
モニャっとした動きで、霊夢は腰に手をまわすも、ゾンビのように力が抜けていた。
魔理沙は頭を抱える。
「おまえな……」
「本気でこれぐらいしか力が出ないのよぉ」
「そういやあいつはどうしたあいつは」
「あいつって?」
「あいつだよ。あいつ」
名前を出したら、のそっと現れそうで怖い。
「あー。もしかして紫のこと言ってるの」
「まあそういうことだが」
「冬眠でもしてるんじゃないの?」
「あー。冬眠してるのか。でもあいつの式は起きてるんだろ」
「藍も橙といっしょに仲良くやってるわよ。わたしなんかが……」
ネガティブだった。
人間おなかが減るとだんだん気がめいってくるものである。
「アンニュイな霊夢は霊夢らしくないぜ。元気だせ」
「元気でないのよ。元気のもとをちょうだい……」
「だから食べさせてやるって言ってるだろ。ほら掴まれ」
「もうだめ。腕の力がでない。抱っこして魔理沙」
「ば。バカ。なにいってんだおまえ」
「年の初めじゃない……。ちょっとぐらい優しくしてくれたっていいじゃない」
「しょうがないやつだな。借りだからな」
「覚えておいたらなんか返してあげるわよ。お賽銭以外なら」
魔理沙が箒にまたがり、霊夢は前から猿のように抱きつく形になる。
ちょっと飛びにくい。
「霊夢。頭下げろよ。前が見えないだろ」
「まりさぁ。おなかすいたのよう。ううう」
「ああ。もうわかったよ。いくぜ」
ふわっと浮いて、そのままゆるゆると空を飛ぶ。
霊夢が落ちないように気をつけて飛んでいるから、スピードは抑え目だ。魔理沙にしてみれば欠伸がでるレベル。
しかし、まあしょうがないだろう。
霊夢の吐息がふぅふぅと首元に当たってしまうのだ。
「まりさぁ」
と時折甘えた声も聞こえてくる。
なんで意味もなく名前を呼ぶんだぜ?
意味もない思考をしてしまうのは魔理沙のほうである。
なぜか熱い。
ふらふらと飛行してしまう。
「やれやれ。とんだ年初めだぜ」
途中で文につかまった。当然のことながら質問攻めである。
「あのー。お二人の関係をお聞きしてよろしいですか」
「単に救命救急しているだけなんだがな」と魔理沙。
「妖精って食べれるのかしら……」と霊夢。
「あのー。なぜ抱き合って飛んでるんですかー。ねえ。教えてくださいよ」
「黙秘黙秘」
「妖精って無限に増殖するらしいから、一匹ぐらい……」
「もしかしてつきあってらっしゃるとかですかー」
「そんなんじゃねーって」
「妖精さんがいっぱい。うふふ……」
「お二人とも飛べるのに、そんなに密着する意味ないじゃないですか」
「こいつが飛べないっていうから」
「妖精が食べれるなら、妖怪も食べれたりするのかしらね……」
「とりあえず一枚撮らせていただいてかまいませんよね」
「あーもう。やめろやめろって」
幻想郷最速かもしれない文にぴったりマークされて、しかも霊夢という重りを抱えた状況ではどうしようもない。
顔だけはとられないように伏せたが、どうせ無駄だろう。
パシャパシャと何枚か撮られた。
こりゃ、今日の夕刊の一面は決まったようなものか。
魔理沙はもう面倒くさくなって、文を無視して森まで降りた。
さっきから霊夢がやばい。
どこかから謎の電波を受信したのか。
さっきから、「ミマサマニカッチャッタ、ウフフ」とか言っちゃってる。(あるいはイッちゃってる?)
魔理沙のこめかみあたりから汗が噴出した。
どこかで聞いたことがある気がしたが、覚えていない。
覚えていないぜ。
ミニ八卦路を有効活用。
ともかくスピード勝負だった。
茸をさっと炒めて、とりあえず一品。ご飯が少し残っていたので、それもいっしょに炒めて、茸入りの炒飯のような感じにしてみた。
わずか五分。
すでに霊夢は死んだようにつっぷしていたが、一口ごとに元気を取り戻していく。
よっぽどおなかがすいていたのか、およそ巫女とは縁遠いほどにむさぼり食べていた。
「助かったわ。ほんと。魔理沙ありがとう。わたしの命の恩人」
「ただの拾った茸料理だぜ」
「いやー、ほんとどこにも行けないぐらい弱ってたのよ。まさかこの年で、孤独死寸前になるとは思わなかったわ。ハハハ」
「ハハ……」
乾いた笑い。
「まあ、この先生きのることができてよかったな」
「ええ。この先生きのこることができてよかったわ」
全力でスルーされた。
年始ぐらいギャグにつっこもうぜ、と思った。
でもよく考えると、口頭では伝わりにくいギャグだったかもしれない。
まあ、よい。
まあ、よいのだ。
霊夢が満腹して満足して元気がでてくれればそれだけで――
友達だからな。
「明日からはどうするんだ?」
「そうね。アリスに頼ってみようかな。あとレミリアとか。早苗にもたかろうかしら。姉妹神社みたいなものだし」
「わたしが見に行かなくても大丈夫なんだな」
「うん。ありがとう。魔理沙」
「やけに素直だな。照れるぜ」
「今日ぐらいはわたしだって素直になるわよ~」
べたべたとくっついてくる霊夢。
正直なところ魔理沙はこういう霊夢に慣れていない。
「とりあえず借りは返してもらうからな」
「どうすればいいの。ちゅっちゅしちゃう?」
なんだ。
なんだ。
ちゅっちゅって。
意味不明すぎるぞ。
霊夢のテンションは異常すぎるほど高まっていた。酔っ払った状態でさえ軽く凌駕するほどにこの世の春を謳歌していた。
満腹中枢が満たされて、世は満足じゃとばかりに合法的すぎる脳内麻薬を垂れ流し、いつもはわりとダル萌えをしている霊夢を甘えキャラへと変貌させているのだろう。
まあ、飢え死に寸前を助けられたのだから、そうなるのも無理はないし、いろいろと言ってもやぶ蛇だ。
魔理沙はとりあえず話を終わらせるために言葉をつむぐ。
「そのうち考えとくから、今日は帰れよ」
「わかった。じゃあ帰るわ」
「独りで帰れるよな」
「大丈夫よ。わたしは空を飛べる程度の能力を持っているから」
「わりと誰でも飛べるがなぁ……」
「なんか言った?」
「いやなんでもない。気をつけて帰れよ」
さて、霊夢は帰る。
おなかが満たされて、心も満たされて、幻想郷は今日も平和だ。
空を飛んで、家に帰る。
あれ。オチはどうしたんだろうなぁ。
や、来ました。
来ましたよ。
おなかのあたりがなにか妙な感覚。
霊夢は、はっと思い出して口に手を当てた。
「あ、やば。そういやわたし弾幕に当たってる。てか、食べちゃってるわ」
ぴちゅーん。
オチたか?
すると、霊夢は弾幕を食べていた。
出オチかよ。
「霊夢。それ弾幕やろ。食べ物ちゃうやんか」
よく見ると、御札に力をこめて光らせているだけのようだ。
札の材質は当然のことながら、紙。
身体に悪いわけではないだろうが、食べるものではない。
てらてらとエナメルのように光る御札を食べる巫女。
いろいろな意味でシュールすぎた。
「お賽銭が入らなくて……」
身体は痩せ細り、頬はげっそり。
目のふちは落ち窪み、狂気の瞳が魔理沙を覗く。
「魔理沙のほっぺたって柔らかくておいしそうね」
「おまえは妖怪か!」
「ああ……そういえば……外で人間っぽい雀が鳴いてたわね。あれ食べれるのかしら」
「あれは食べちゃだめだろ」
あれは食べちゃだめである。
「里の人にめぐんでもらえればいいじゃんかよ」
「里は今、年の初めで家族仲良くコタツでまるまってお節料理でも食べてるのよ。そこにわたしなんかがのこのこ出かけていって食べ物をめぐんでもらうなんてできないわ」
「おまえ変なところでプライドあるのな。じゃあ、わたしの家で茸でも食うか?」
「悪いわね……ああ……」
起き上がったところで、ふらふらと霊夢が倒れこみそうになる。
魔理沙は霊夢の身体を支えた。
ずいぶんと軽い。もともと霊夢は小柄なほうではあるが、どうやら本気でやばいところまできているらしい。
「戦時中のおじいちゃんたちは海の水を薄めて太平洋スープとして飲んでいたらしいわ」
「幻想郷に海ないし! というか戦争ってなんのことだ!?」
「知ってる? 魔理沙」
霊夢は虚ろな視線を魔理沙に送った。
「あん?」
「死神はりんごしか食べない」
「小町はいろんなもんをがんがん食ってた気がしたが、なんか変な妄想でも見てるんじゃないか。つーか死神が魂回収しにきてるんだったらヤバイな。はは……」
冗談にしようと魔理沙も必死である。
本気で言ってるんだったらいろいろとヤバイ。マジでヤバイ。
「ああ、違ったわ。わたしこう言いたかったの。木の皮って食べられるのよ」
「それは、よかったな……」
幻想郷の危機がこんなところでこっそりと――
あけましておめでとうございます。
もしかすると、魔理沙が霊夢のもとにこなければ、三が日が終わるころには博麗大結界消滅というパターンもありえたのかもしれない。
霊夢が魔理沙の手を離れ、スローモーションのような動きで独り立ちした。
すたすたとは歩けない。
よろよろと柱に手をつく。
あぶなっかしい足取りだ。
長らく動いてなかったのだろう。
いろいろとエネルギーの消費を抑えるために、極限まで不動をつらぬいていたに違いない。こたつの上にはみかんの縁の部分だけが残されている。皮はなかった。
皮は……。
その想念を魔理沙は振り払い、とりあえず明るめの声で聞いてみる。
「おまえ大丈夫か。一人で飛べるのか」
「ごめん。無理……。魔理沙、わたしのこと連れてってくれる」
うるると瞳を濡らし、霊夢は魔理沙のスカートにすがりつく。
「おまえ、今日はなんかかわいいぜ」
甘えた霊夢の姿はそうそう見られるものではないし、魔理沙の心にもちゃんとした母性が存在するのである。
「餓死寸前なのよ。わりと本気気味に」
「萃香はどうした?」
「あー。ちょっと里帰りとか言って、ふらっと出かけていったわよ」
「どっちなんだ?」
「あーん?」
「地下なのか山なのか」
「知らないわよ。わたし聞いてないもん。それよりご飯。ご飯食べさせて」
「あー。わかったよ」
魔理沙は帽子をくいくいとなおし、箒にまたがる。
「ほら。腰に手をまわせ」
「……力が入らない」
モニャっとした動きで、霊夢は腰に手をまわすも、ゾンビのように力が抜けていた。
魔理沙は頭を抱える。
「おまえな……」
「本気でこれぐらいしか力が出ないのよぉ」
「そういやあいつはどうしたあいつは」
「あいつって?」
「あいつだよ。あいつ」
名前を出したら、のそっと現れそうで怖い。
「あー。もしかして紫のこと言ってるの」
「まあそういうことだが」
「冬眠でもしてるんじゃないの?」
「あー。冬眠してるのか。でもあいつの式は起きてるんだろ」
「藍も橙といっしょに仲良くやってるわよ。わたしなんかが……」
ネガティブだった。
人間おなかが減るとだんだん気がめいってくるものである。
「アンニュイな霊夢は霊夢らしくないぜ。元気だせ」
「元気でないのよ。元気のもとをちょうだい……」
「だから食べさせてやるって言ってるだろ。ほら掴まれ」
「もうだめ。腕の力がでない。抱っこして魔理沙」
「ば。バカ。なにいってんだおまえ」
「年の初めじゃない……。ちょっとぐらい優しくしてくれたっていいじゃない」
「しょうがないやつだな。借りだからな」
「覚えておいたらなんか返してあげるわよ。お賽銭以外なら」
魔理沙が箒にまたがり、霊夢は前から猿のように抱きつく形になる。
ちょっと飛びにくい。
「霊夢。頭下げろよ。前が見えないだろ」
「まりさぁ。おなかすいたのよう。ううう」
「ああ。もうわかったよ。いくぜ」
ふわっと浮いて、そのままゆるゆると空を飛ぶ。
霊夢が落ちないように気をつけて飛んでいるから、スピードは抑え目だ。魔理沙にしてみれば欠伸がでるレベル。
しかし、まあしょうがないだろう。
霊夢の吐息がふぅふぅと首元に当たってしまうのだ。
「まりさぁ」
と時折甘えた声も聞こえてくる。
なんで意味もなく名前を呼ぶんだぜ?
意味もない思考をしてしまうのは魔理沙のほうである。
なぜか熱い。
ふらふらと飛行してしまう。
「やれやれ。とんだ年初めだぜ」
途中で文につかまった。当然のことながら質問攻めである。
「あのー。お二人の関係をお聞きしてよろしいですか」
「単に救命救急しているだけなんだがな」と魔理沙。
「妖精って食べれるのかしら……」と霊夢。
「あのー。なぜ抱き合って飛んでるんですかー。ねえ。教えてくださいよ」
「黙秘黙秘」
「妖精って無限に増殖するらしいから、一匹ぐらい……」
「もしかしてつきあってらっしゃるとかですかー」
「そんなんじゃねーって」
「妖精さんがいっぱい。うふふ……」
「お二人とも飛べるのに、そんなに密着する意味ないじゃないですか」
「こいつが飛べないっていうから」
「妖精が食べれるなら、妖怪も食べれたりするのかしらね……」
「とりあえず一枚撮らせていただいてかまいませんよね」
「あーもう。やめろやめろって」
幻想郷最速かもしれない文にぴったりマークされて、しかも霊夢という重りを抱えた状況ではどうしようもない。
顔だけはとられないように伏せたが、どうせ無駄だろう。
パシャパシャと何枚か撮られた。
こりゃ、今日の夕刊の一面は決まったようなものか。
魔理沙はもう面倒くさくなって、文を無視して森まで降りた。
さっきから霊夢がやばい。
どこかから謎の電波を受信したのか。
さっきから、「ミマサマニカッチャッタ、ウフフ」とか言っちゃってる。(あるいはイッちゃってる?)
魔理沙のこめかみあたりから汗が噴出した。
どこかで聞いたことがある気がしたが、覚えていない。
覚えていないぜ。
ミニ八卦路を有効活用。
ともかくスピード勝負だった。
茸をさっと炒めて、とりあえず一品。ご飯が少し残っていたので、それもいっしょに炒めて、茸入りの炒飯のような感じにしてみた。
わずか五分。
すでに霊夢は死んだようにつっぷしていたが、一口ごとに元気を取り戻していく。
よっぽどおなかがすいていたのか、およそ巫女とは縁遠いほどにむさぼり食べていた。
「助かったわ。ほんと。魔理沙ありがとう。わたしの命の恩人」
「ただの拾った茸料理だぜ」
「いやー、ほんとどこにも行けないぐらい弱ってたのよ。まさかこの年で、孤独死寸前になるとは思わなかったわ。ハハハ」
「ハハ……」
乾いた笑い。
「まあ、この先生きのることができてよかったな」
「ええ。この先生きのこることができてよかったわ」
全力でスルーされた。
年始ぐらいギャグにつっこもうぜ、と思った。
でもよく考えると、口頭では伝わりにくいギャグだったかもしれない。
まあ、よい。
まあ、よいのだ。
霊夢が満腹して満足して元気がでてくれればそれだけで――
友達だからな。
「明日からはどうするんだ?」
「そうね。アリスに頼ってみようかな。あとレミリアとか。早苗にもたかろうかしら。姉妹神社みたいなものだし」
「わたしが見に行かなくても大丈夫なんだな」
「うん。ありがとう。魔理沙」
「やけに素直だな。照れるぜ」
「今日ぐらいはわたしだって素直になるわよ~」
べたべたとくっついてくる霊夢。
正直なところ魔理沙はこういう霊夢に慣れていない。
「とりあえず借りは返してもらうからな」
「どうすればいいの。ちゅっちゅしちゃう?」
なんだ。
なんだ。
ちゅっちゅって。
意味不明すぎるぞ。
霊夢のテンションは異常すぎるほど高まっていた。酔っ払った状態でさえ軽く凌駕するほどにこの世の春を謳歌していた。
満腹中枢が満たされて、世は満足じゃとばかりに合法的すぎる脳内麻薬を垂れ流し、いつもはわりとダル萌えをしている霊夢を甘えキャラへと変貌させているのだろう。
まあ、飢え死に寸前を助けられたのだから、そうなるのも無理はないし、いろいろと言ってもやぶ蛇だ。
魔理沙はとりあえず話を終わらせるために言葉をつむぐ。
「そのうち考えとくから、今日は帰れよ」
「わかった。じゃあ帰るわ」
「独りで帰れるよな」
「大丈夫よ。わたしは空を飛べる程度の能力を持っているから」
「わりと誰でも飛べるがなぁ……」
「なんか言った?」
「いやなんでもない。気をつけて帰れよ」
さて、霊夢は帰る。
おなかが満たされて、心も満たされて、幻想郷は今日も平和だ。
空を飛んで、家に帰る。
あれ。オチはどうしたんだろうなぁ。
や、来ました。
来ましたよ。
おなかのあたりがなにか妙な感覚。
霊夢は、はっと思い出して口に手を当てた。
「あ、やば。そういやわたし弾幕に当たってる。てか、食べちゃってるわ」
ぴちゅーん。
オチたか?
出落ち大歓迎