『ご都合主義と笑わば笑え! 少女は笑顔でいるモンだ!!』
――これは、悲惨な結末を熱き心で焼き尽くす、愛すべき少女達――鬱フラグブレイカーズの物語である。
博麗神社から程近い獣道。そこで妖精の少女は、重すぎる選択を強いられていた。
「ほら、大人しくしろよ。友達が痛い思いをするのはイヤだろう?」
「ヒヒ、多少は手こずったが、所詮は妖精か」
下卑た笑いを浮かべる男達の手には、妖精にしては色々と発育の良い少女――通称、大妖精が抱えられていた。
妖の力を封じる符を貼り付けられ、身動きが取れない状況だ。
「うう……ヒキョウだぞ、お前ら!!」
チルノは己の無力さに歯噛みした。
どうしてこんな事になっているかというと。暇潰しに博麗神社へと向かう途中、この人間達に襲われたのだ。
たかが人間、と舐めてかかったのが悪かった。
どうやら退魔師崩れらしいこの男達によって、大妖精は捕縛されてしまった。
「チルノちゃん、ごめんね」
息も絶え絶え、大妖精が口を開く。
「逃げ、て」
「イヤだ! あたいだけ逃げるなんて、できるもんかッ!!」
チルノはしかし、その言葉を突っぱねた。
「仲が良いこったなぁ」
「全くだ。涙が出ちまうぜ。なァ、妖精のお嬢ちゃん。おめぇの心意気に免じて、一つ約束してやるよ。
おめぇがこの娘の身代わりになるってンなら、こっちの娘は放してやる。どうだ?」
「ヒヒ、そりゃいい考えだ」
ニヤニヤと笑いながら、男は言う。
「ホントに、大ちゃんを助けてくれるんだな?」
「おうともさ。おじちゃん、嘘は吐かねえよ」
「……分かった」
「ダメだよ、やめて、チルノちゃん……!」
「おっと、それ以上近寄るな。こいつを貼ってからだ」
そう言って、男は退魔の符をチルノに投げてよこした。
時を同じくして、博麗神社では。
地底の太陽――霊鳥路 空が、人里へ向かって発とうとしていた。
「面倒事は起こさないでよ。迷惑するのは私なんだから」
「分かってるよ! 行ってきまーす!」
茶を啜りながら言う霊夢に、元気よく返事をする。
その大きな胸を期待で膨らませ、空は神社を出発した。
上機嫌で飛び回っていた空は、眼下に妙なものを見つけた。
人間の男二人に、妖精が二匹。何やら大声で揉めている様だ。
上空で立ち止まったまま、耳を傾けてみる。
「ヒハハハハ!! バカだバカ! 本当に貼りやがった!」
「さぁ、貼ったぞ! 大ちゃんを放せ!!」
「放すわけねェだろ、バカ。大人しくするンだな」
どうやら、青い方の妖精が、人質を取られ、男達の言いなりになっているらしい。……どこかで見た気がするが、忘れた。
そこまで把握すると、空は興味を失った。
騙される方、弱い方が悪い。それが地底で学んだ真理だからだ。それを知った所で、変わらず騙されるのが空なのだが。
構わず、空は飛行を再開しようとした。
「妖精ったって、ここまでバカなもんかねぇ。こんな状況で、本当に俺達が約束を守るとでも思ったのか?
逃げちまえば良いものをよォ」
「チルノちゃん、どうして逃げてくれなかったの……?」
男は笑いながら、大妖精は泣きながら、チルノに問うた。
チルノは、涙と鼻水に塗れた顔で叫ぶ。
「うるさい! うるさい!!
大ちゃんは、親友なんだよ! 助けなきゃいけないんだ! 置いて逃げるなんて、するわけないだろ!!」
その声を聞いた空は、足を止めた。
――――親友。
身の危険を冒してまで自分の間違いを正してくれた、火車の姿が。
青い妖精に、重なって見えた。
「ヒヒヒ。さぁて、楽しむと……うひゃっ!?」
キュドッ!!
凄まじい爆裂音と土煙が、男の声を遮った。
「なンだ!?」
驚く男達が、土煙の向こう側に目にしたのは。
黒々と輝く、大きな翼。
銀河を宿し、たなびく外套。
そして、胸に宿った、真紅の瞳。
……即ち。地獄の人工太陽、霊鳥路 空。
「何だ? 妖怪か? 見ない顔だな。おい、任せるぜ」
「あァ。こいつを喰らえ!!」
男が投げた符は、しかし。
空の身体に触れるやいなや、欠片も残さずに燃え尽きた。
その様を見た男達の顔が、蒼白になる。
「そんなの効くワケないじゃん。ばーか」
ズン、と一歩近寄る空に、男達はたじろぐ。
「お……おい! なんで効かねえんだ! ちゃんと当たったのか!?」
「よっぽどの大妖怪でも、怯むくらいの効果はある筈だぞ!! 畜生ォ!」
次々と符を投げつけるが、そのどれもが先ほどと同じ様に燃え尽きてしまう。
空は、符の連射を受けながらも、構わずにゆっくりと接近する。
やがて、男達の目と鼻の先にまで辿り着いた。
「クソッ!!」
「畜生ォ……。お前はなンだ。何者だッ!」
空を前に、怯えた声をあげる。
「何者か、かぁ。あたしが誰か知らないんだ。でも、お相子だね。あたしも、自分が何者なのかわかんないんだ。
バカだからかな」
言いながら、空は足を後ろに持っていき。
「さぁ、里まで送ってってあげるよ! 行ってらっしゃい!!」
男達へ向けて、思いきり蹴り上げた。
「「ぐっはああああああいてなあああああああい!!」」
吹っ飛ばされながらも、男達は満面の笑顔であった。何を見たのだろうか。
「さてと」
空が、飛び立とうとした瞬間。
「あ、あのさ!」
男達が去った事で、符は効果を失くした様だ。我に帰ったチルノが、空に声をかける。
その肩で、意識を失った大妖精を支えながら。
「助けてくれて……ありがと」
恥ずかしそうにそっぽを向きながら、空に礼を述べた。
「その子さぁ」
「え?」
チルノが空を見ると、彼女もまた、恥ずかしそうにはにかんでいた。
「親友なんでしょ?」
「……うん! 大事な大事な親友だよ!!」
「そっかぁ。えへへ、私にもいるんだ、大事な親友!」
バサッと翼を広げる。
「これからも大事にしてあげてね!」
「あったり前じゃん!」
満足気に頷きながら、空は飛び立った。
その背中が見えなくなるまで、チルノはいつまでも手を振り続けていた。
鬱フラグブレイカーズと聞いて、ルナサがブレイクされて悶えてる姿を想像してドキドキしてた俺は間違いなく変質者の仲間入りだ。
お空がかっこよすぎる。
チルノも友達思いでいい。
あと、男達自重しろwwwwww
それにしても、こんなに早く面白い作品を執筆するとは……やるなお主w
君こそ創想話の期待の星だ!!
お空カッコいいぞ!
「妖精にしては色々と発育の良い少女――通称、大妖精」ほほう……