Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

咲夜とレミリアが出会うお話

2011/09/10 22:52:24
最終更新
サイズ
16.95KB
ページ数
1

分類タグ


 


 何故かその日は布団に入っていると体が熱くて、なかなか寝付けなかった。
 寝ようとして寝ようとして結局寝れなくて、何時間なのか何分間経ったのか分からないほどそうやってもがいていたけど、もうその気力も無くなって目を開けた。
 すると薄暗い部屋の中にカーテンから一筋の光が差し込んでいた。幼い私は布団から起き上がって、カーテンを開ける。
 初めて日が昇るのを見たのはその時だ。
 青白く静まり返った街の向こうから、燃える様な赤い点が立ち昇った。
 そしてその点が大きくなるにつれて、日がその姿を現していくにつれて、ゆっくりと街を染めていく。
 見慣れた夕日とそっくりなのだけれど、何故かそれはずっと幻想的で。自分の送っている日常よりずっと綺麗で。
 私は永遠にこの瞬間が見ていたいと心から思ってしまった。それが自分の運命を左右してしまう事とも知らずに。
 その瞬間、世界は止まっていた。






 呆然と、それを見つめる。いくら時間が経っても動いてくれない朝日を見間違いじゃないだろうかと思った。でも凍り付いてしまったみたいに街は同じ様な赤色に染まったままだ。
 何故こんな事になっているのか、まったく信じられなかった。私は止まってしまった朝日を見捨てて、横になっている家族を起こそうと、それぞれの寝室に向かった。でもいくら揺さぶっても何の反応もない。
 急に怖くなった私は、何かに追い立てられる様に家から飛び出して、ひどい気分のまま街を走った。
 朝日に照らされた世界はどこまでも茜色で。まるで世界の終わりのようで。
 ただひたすら、日が頭上へと上がって、いつのまにか青空になっている事を望んだ。悪い夢を見ているだけなんだと自分に言い聞かせながら。
 涙で視界がかすんでしまう。
 そんな私の望みとは裏腹に、ぼやけた視界が急に暗転した。
 同時に浮遊感がして、そして落下していく。私は驚いて目をつぶっていた。





 どのくらいたったのだろうか、いつの間にか私は見知らぬ土地へとへばりついていた。
 暗いし青臭い匂いが鼻をつく。どうやら夜の森の様な場所らしい。
 見上げると見事な月が浮かんでいた。雲一つない夜空に淡い光が投げかけられ、それでもなお空は墨の様に黒い。
 目が慣れてくると段々辺りの様子が見える様になってくる。
 背の高い木々が立ち並び、なんとも物寂しそうな場所だ。時間は相変わらず止まったままのようで、何も聞こえなくて耳鳴りがする。
 幼い頃の私にはそこは大層おどろおどろしかった。
 おびえながら、状況が掴めないまま、辺りを見回していると木の間に何かシルエットがあるのを発見した。近づいてみる。
 それはどうやら人のようだった。少し安心する。
 しかし近づくにつれて、その安心は薄れていってしまう。
 彼女は宙に浮かび、背中から大きな、鳥の羽の様な物を生やしていた。
「なに、これ」
 思わず後ずさってしまう。
 魔界にでも来てしまったのだろうか。ついそんな突拍子もない考えが思い浮かぶ。
「ただの妖怪さ。とるに足らないね」
 突然後ろから声がした。
 心臓が止まる位驚いた。大急ぎで振り向く。
 そこにいたのは少女だった。
 青みがかった銀色の髪に、深紅の瞳を宿している。
 それだけでもう十分に人間離れしているのだけれど、それだけには飽き足らずに長めのスカートを風に漂わせながら宙に浮かんでしまっている。
 そして極めつけに、その背中にはさっきのとは比較にならない位大きな翼が広げられていた。
 まるで悪魔のそれのような翼は、自分と同じ程の背丈の彼女を二周りも大きく見せ、私から月を隠してみせた。
 そんな彼女が音も無く、私の前方へと土ぼこりの一つもあげずに着地する。
 その紅い瞳は真っ直ぐに私を射抜いていた。息が出来ない程の強烈な視線だった。
「だけどお前はそうじゃない。実に興味深いね。こんな事が出来る人間がいるなんて」
 彼女は唐突にそう話し始めた。私はまだ思考が付いていけずに何も反応できない。
「でもいつまでもこんなことしてもらっちゃ困るのよ。そろそろ止めてくれない?そうじゃないと」
 裂ける様に彼女の唇が大きく横に引き延ばされる。
「殺すわよ」
 凄んでいるわけでもないのにその言葉は言いようの無い重さを持っていて、対峙した者を残らず震え上がらせてしまう、恐ろしい説得力を持っていた。……はずだった。
「月は紅く無いけどねって、ごふぁ」
 私は彼女に抱きついていた。
「な、なに!?」
「……もう、誰にも、会えないかと、思った」
 嗚咽が混じってしまって上手く話せない。
 全部が止まった世界で動いている彼女が目の前に突然現れたのは、まるで奇跡そのものの様にその時の私には思えた。
 寝間着のまま外気に当てられて冷えきった体に彼女の体温が暖かい。それは私をとても安心させてくれる。
 逃れようとする彼女に必死にしがみついた。とても困っているようだったけど、少しも離れたく無かった。
「これは、困ったね。どうしたら泣き止んでくれるかな」
 ぎこちない手が背中に回される。背中を優しくさすってくれる。
 それは私が泣いてしまった時に母がしてくれる仕草で、それを思い出して余計に涙が溢れて来る。
「だからそんな泣くなって。ああ、どうしたらいいもんか……」
 不意に肩を掴まれて引きはがされる。
「よしじゃあとりあえず、今までの経緯を話してみろ。何かわかるかもしれない」
 やれやれといった風にその少女は溜息をついた。私と同じ位に見えるのに、その仕草はとても自然に見えて、不思議な子だと思った。





 ありのまま、朝からの出来事を話した。言葉に詰まる事も合ったけど、黙って聞いてくれる。
 話していくうちに大分気持ちも落ち着いてきた。
「で、何かに吸い込まれたというか、落ちたというか、そんな感じになって、気づいたらここに……」
「へえ、そんなことが……。もしかすると時間を止めた所為で大結界を超えてしまったのかもしれないね」
「結界?」
 聞き慣れない言葉に思わず聞き返してしまう。
「ああ。二つの結界によってここ幻想郷は外の世界と隔絶されているのさ。憶測だけど、お前はそのうちの一つの幻と実体の境界によってこっちに引き込まれてしまったのかもしれない。結界は外の世界で消えつつあるもの、忘れ去られたものを幻想郷へ呼び込む。時間を止めてしまったお前を誰も認識出来なくなってこっちに連れてこられたのかもしれないね」
「戻れる、の……?」
 私は恐る恐るそう聞く事しか出来なかった。半ば分かっていたかもしれない。
「分からない。でもそういう方法は私は少なくとも知らないし、向こうへ行ったとかいう話も聞いた事は無い」
 話を聞いているうちにどんどん気が沈んでいってしまう。
「……」
 俯いて黙りこくっってしまった私を見かねたのか、彼女は溜息を吐いて話題を変える。
「まあ、ここにずっといても何も解決しそうに無いわけだし、とりあえずうちの館にくるかい?」
 戻れないかもしれないと聞いて、失意の真っ只中だった私は彼女の言葉に控えめな頷きを返す。
 ついでに、気になった事を聞いてみる事にした。
「あの」
「なんだい嬢ちゃん」
「その、背中のハネ、本物……?」
「ああ、この翼は本物さ。私は吸血鬼だからね」
「えっ」
 吃驚仰天だった。でも、いくら見ても翼以外は普通の女の子にしか見えない。
「じゃ、じゃあ血とか吸うの!?」
「そりゃ、吸血鬼だからね。まあ食事は血だけじゃないけど」
「わ、私の血も吸う、の?」
 恐る恐る聞くと、少女は手をひらひらとふる。
「お嬢ちゃんのは吸わないよ。この現象を止めてもらう、いや進めてもらわないといけないし、色々興味があるし」
 彼女の言葉を聞いて、安心していいんだか、不安になるんだかまだよくわからなかった。
「あと、あなたはなんで動いていられるの?」
 一番分からなかった事だ。吸血鬼なら動けるのだろうかと不思議だった。
「ああ、友人の魔法使いが昔作った時止め防ぎのお守りがあってね。見た目が良いから持ち歩いていたから」
 そう言って懐から何か丸い物を取り出してみせてくれた。
 鈍く光を照り返している懐中時計だった。上蓋の真ん中が硝子になっていて、その奥には回るぜんまい仕掛けや空の様子を表している絵の覗く小窓があった。今は星と月が描かれている部分が見えている。
「あいつが作ったものにしては趣味が良かったからね」
 やっぱりここは魔界か何かなのだろうかと思った。





「よし。じゃあいこうか」
 私の傍らまで来て手を差し出す。
 その手を握ると、彼女はその手を自分へと引き寄せて、私の下にかがんだ。
 ふわっと体が浮いたかと想うと、気づいた時には私は両腕で抱え上げられていた。
 いわゆるお姫様だっこ状態で。
「ひゃあ」
「あんまり暴れるなよ。危ないから」
 加速度と共に上昇していく。地面が離れ、木々の枝を見送り、森が眼下に広がっていく。不思議とあまり怖くは無かった。
 そこは月がいつもより大分近くに感じられた。自分の視界には月と星と空以外何も映っていなくて、雑多な地上とはまるで別世界だった。
「外の人間には空を飛ぶのは珍しいか?」
 振り向くと、すぐ近くに前をじっと見据える少女の顔があり、その肩の向こうには翼が大きく開かれていた。今更ながら、この少女が吸血鬼であると実感した。だいぶ自分の中の吸血鬼のイメージと違ったけれど。
「うん……」
 もう一度辺りを見回して、風景を眺めながら返事を返す。
 少しの間二人とも無言だった。
 私は星空に思いを馳せる。
 これからどうなるんだろうか。こんな世界から抜け出す方法なんてあるのだろうか。食べる物はどうしよう。お母さん達はどうしているのかな。いろんな事が浮かんでは、明確な答えも出せずにまた沈んでいく。ただ不安だけが募っていくようだった。
「お前が悲しむのはよくわかる」
 いきなり吸血鬼の少女が口を開いた。
「でもそうやっていじけているばっかりじゃ何事も進まない。誰もたすけてくれない。今は時間が止まってるしね。だから自分で考えてどうにかしなきゃいけない」
 真摯な言葉だった。なんだか責められている様に感じて、思わず身を縮める。
 そして、すこし間を置いてから少女は続けた。
「もし時間が動き出した時にそれが決まってなかったら、その時までうちにおいてやる。……十分なやむんだね」
 どこか照れている様に、ぶっきらぼうにそう言い放つ彼女。
 その言葉に勇気づけられた気がした。
 この子と一緒ならもし戻れなくても何とかなるかもしれない。そんな考えも頭をよぎる。
 そう思った瞬間、ガクンと揺れた。
「きゃ!?」
「羽が……!」
 世界が回る。視界が揺れる。まるで洗濯機の中に放り込まれたみたいに。
 何かに祈る暇も余裕もなく、ひたすら落下していく。
 それでも片手だけは少女が捕まえてくれていた。ぐっと引き寄せられる。
 暗転。何かが激しく擦れ合う騒がしい音がすぐ耳元で聞こえ、そして落ちた時と反対の、全身の骨がバラバラになりそうな衝撃が彼女と繋がった腕から伝わった時、それは唐突に終わった。
「うぁ……。こりゃ困ったね」
 上から苦悶した声が聞こえて来た。私の視界はまだ揺れていて、よく状況がつかめない。手だけは彼女の感触が確かに伝わってくる。
 どうやら私は彼女の手に腕を掴まれて空中に浮いているみたいだ。
「ど、どうなったの」
「突然翼が動かなくなって落ちた。パチェの試作品じゃ完全にはお前の能力を防ぎきれなかったみたいだ。距離が遠いと駄目なのかもしれない。まあそんな事は今考えても仕方が無いね。降ろすよ」
 いきなりそう言われたので焦った。
「え、やだ!怖いよ!」
「大丈夫。地面はすぐそこさ」
 優しくそう言うと、手を離された。
 再びの浮遊感に冷や汗が出たけど、直ぐに足が地面に着いた。
 浮かんでいたのは1メートルくらいの所だったみたいだ。
「平気か?」
「うん。大丈夫」
 頭上からの声に返事を返しながら頭上を見上げた。
 すると頬に何かが垂れて来た。それは私の頬を伝って滑り落ちていく。
 手で触れて目の前にかざしてみると、指が真っ赤に染まっていた。
「え?」
 考える間もなく、続けざまに目の前にどさりと影が落ちて来る。
 少女は地面にうずくまっていた。紅いドレスの脇が別の紅に濡れているのが目に留まる。
 さっき頬に落ちて来た色と同じ色だ。
「!」
 彼女は苦しそうにゆっくりと仰向けになる。動く度にドレスの紅黒い染みが広がっていく。いままでこんな光景は見た事が無かった。
 私がその変わり果てた少女の姿を見て思ったのは、助けなければいけないとかそういう事じゃなかった。
 怖かった。目の前に死神か何かが迫ってくるようで、それはもうすでに取り返しのつかない事になっていて、ただ回避不能の最悪の結果を待つだけの悪夢のような状況に思えた。鼓動が早鐘の様に鳴っていて苦しい。
「まさか木の枝に刺さって吸血鬼が死にかけるなんてね。心臓に杭を打ち込まれるならいざ知らず、これじゃあ格好悪すぎる」
 ただおろおろするばかりの私の前で、ようやく自力だけで完全に仰向けになって、彼女は荒い息を繰り返す。
「どうして……」
 こんなことに……。その言葉しか浮かんでこなかった。
「翼も動かない。魔力も使えないし体に力が入らない。根こそぎ力を持っていかれた気分だよ。こんな体たらくで落下を止めるには刺さるくらいしかなかった。治癒能力もほとんど働かないのは少々計算外だったけど」
 空を見上げて苦笑しながら溜息をこぼす。その口の淵から血が流れる。
「し、死んじゃうの!?」
 絶望で目の前が真っ暗になるようだった。
 そんな私を見かねたのか、少女はゆっくりと口を開く。
「落ち着け、お嬢ちゃん」
「だ、だって」
「大丈夫、このくらいなら死なないさ。まだやりたいことだってあるからね」
 その言葉にやっとすこし落ち着きを取り戻して、胸を撫で下ろした。
 何故か、この少女が言うんだったらどんな無茶なことも信じられるような気がした。
「じゃあ、死なないんだね!良かったぁ」
「ああ。時間さえ進んでくれればね」
「……それじゃあやっぱり駄目だよ」
「なんでだ?私はそんなやわな体じゃないつもりだけど」
 私がしょぼくれた声を出すと、不思議そうに聞き返してくる。
「だって、時間進められるんならとっくにそうしてるよ!出来ないからこうして困ってるのに、急にそんなこと言われても……。無理、だよ」
 それはまるで霧を掴む様なものだ。自分が引き起こしているとも自覚できない不可解な現象をこの場で止めるなんて、その方法すら想像できなかった。まるで魔法を使おうとしているみたいに。
「さて、それはどうかな。ちょっとこっちに来てくれ」
 近づくと、より一層彼女は痛々しく見えて、思わず目を背けてしまう。
 それでも彼女はこちらを揺るがない眼差しで見つめてくる。
 意気地なしな私はやっと倒れている彼女の側へ寄り添う事が出来た。
 そして、それまで力なく、濡れた地面に投げ出されていた彼女の腕が持ち上がる。何をするのだろうか。とっておきの秘策でも手品みたいに出してくれるんだろうか。咄嗟にそう思った。
 その私の考えは恐らく半分当たっていた。多分彼女にとっては秘策だったのだろう。
 私の頭の上に彼女の手がおかれた。戸惑う私をよそに、その指は優しく髪をかき分けて、まるで幼子をあやすみたいに柔らかくなでてくれていた。
 こんな状況なのに、暖かいその感触は母を思い起こさせた。私が泣いて抱きついたとき、いつも母は泣き止むまで抱きしめて、こんな風に頭を撫でてくれていた。
「大丈夫さ、お前ならきっとやれる」
 これは反則だと思った。不意打ちすぎる。
「私のお墨付きだよ。これ以上、何か必要かい?」
 そう言って見せた彼女の笑顔は本当に染み一つなくて、まるで私の成功を疑ってなかった。失敗することなんてありえないとでも言うように。
 そんな笑顔のまま彼女は静かに瞳を閉じる。苦痛に汗を浮かべながらも安心しきった表情で、眠る様に。
 落ちた手を彼女の胸の上にゆっくりと置く。
 こんなに人から信用されたのは初めてだった。こんなに責任を感じる事も。
 涙を拭う。この人だけは絶対に助けなくてはいけない。心の底からそう思った。
 彼女に寄り添う様に隣で、手を組んで、膝を付き、目をつむる。
 ただ祈った。この人と一緒に過ごしたい。助けられっぱなしでまだ何もしてあげられてない。彼女ともっと話して、遊んで、役に立って恩返しをしたい。
「神様、もしいるのなら、助けてください!他にはもう何もいりません!だからお願いします、この人だけは……!」
 感覚が無くなるくらいに手に力がこもる。ただがむしゃらに奇跡が起こる事を思う。
 それでも、何も起きなかった。
 どれだけ祈っても願っても恨んでも、ただ、耳鳴りのする様な静寂が続く。焦りがじわじわと私を苛んでいく。
 そして彼女のドレス染みは広がり続けた。だた見ていられなくなって、手で押さえてもそれはちっとも遅くなってはくれなかった。
 頬に涙が伝う。情けなかった。あんなに自分を信じてくれたのに、それに応える事が出来ない。ただ、彼女の命の灯火が消えていくのを見ている事しか出来ないなんて。
 そんな現実を認めたくなくて、彼女にしがみついた。
 こんな寂しい暗闇の中で終わるなんてあんまりだ。
 彼女と一緒にもう一度、昇っていく朝日が見たい。それだけしかもう考えられなかった。
 心が絶望に浸されていく。

 ふと、俯いた私の頬を何かが撫でた。
 麻痺したように重い頭をあげて霞む視線で辺りを見回す。
 誰もいない。私の他にはもはや横たわって動かない少女だけだ。
 しかし、また頬を撫でられる。それは私の涙を拭う様に通り過ぎていく。
 意識に掛かった靄を振り払って見上げる。
 ざぁぁぁ、と風が森を渡っていく音が響く。
 それはまるで命の鼓動のように私には聞こえた。
 時間が、動き出していた。
 虫の音が聞こえ、葉が風に揺れ、聞き慣れない鳥の声が聞こえてくる。
「いっただろう、大丈夫だって」
 せっかくさっきの風が乾かしてくれたのに、また泣きそうになって私は振り返った。
 そこには血まみれの吸血鬼が天使の様に笑っていた。
「さあ、朝日が昇る前に我が屋敷へ招待しよう」





 私達は薄明かりの中、大きな洋館の前に立っていた。
 紅い煉瓦造りの大きな館で、高くそびえ立つ時計台もある。
 荘厳で歴史の重みをを感じさせる佇まいで、近寄りがたい雰囲気だ。
「ここが私の屋敷、紅魔館だ」
「……すごい所」
 彼女に連れられて、玄関前のひさしの下へ入る。
 その時、周囲が突如一斉に明るくなった。
 振り返ると今飛んで来た森の向こうから燃える様な赤い点が立ち昇ってくる所だった。
 ここは別世界で、あれだけ色々あった後なのに、それは変わりなく、とても美しくそこにあった。
 自然と頬に涙が伝っていた。
「そんなに朝日が好きか?」
「うん。さっきも、あなたと一緒に昇っていく朝日が見たいって思ってた。そしたらとても素敵だなあって」
 点は段々と大きくなり、周りの空も明るくなる。
「じゃあ、お前は今日から十六夜咲夜だ」
「え?!」
 驚いて横を見ると、吸血鬼の少女はお茶目で少し意地悪そうに微笑んでいた。何故かそんな表情なのに、その笑顔にはとても愛嬌があって、普段の素顔を垣間みた気がした。
「出会ったのが時の止まった満月の夜で、こうして今、花が咲く様に夜が明けた。こんなドラマチックな話の主人公には瀟酒な名前が必要だからね」





 お嬢様の気まぐれなのか運命なのか分からないけど、こうして私は十六夜咲夜となった。
 今、私の目の前には森の向こうから覗く、あの日と変わらない朝日がある。
 そろそろ目が痛くなって来た。朝日を見続けるのはあまり目にいいものでは無い。
 時止めを解除すると、成すべき事を思い出した様にゆっくりと朝日が昇り始めた。
 さて、さっさとお屋敷のお掃除の続きを済ませよう。そう思いながら思いっきり伸びをした。
 ふいに玄関のベルの音が響いた。中から誰かが出て来たようだ。
 お嬢様だった。日傘をさしてこっちに歩いてくる。最近は昼間でもこうやって外出する事が多くなった。多分神社また神社かどっかに出かけるのかもしれない。
 ご一緒したほうがいいのかどうか考えていると、すぐに近くまでやって来ていた。
「おい咲夜、私が苦手なそいつをあまり足止めしてやるなよ。あと掃除頼むぞ。すぐ帰る」
 通り過ぎ様にそんな事を言われてしまう。全く鋭い人だ。
 私はその小さくて大きな背中を見送ってからいつも通りの仕事を再開した。
 掃除が終わったら帰ってくるお嬢様の為にお茶の用意をしよう。そう思いながら。
                                       
えーと、タグに書いた通り、妄想全開の「ぼくの考えた最強のレミ咲仕様」になっております。
なんだか色々力技になってしまいましたが、困難を乗り越えた二人の深い絆を感じてもらえれば幸いです。

読んでくださってありがとうございました!
yoshi
http://niziirocreators.blog135.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
このどことなく年寄り臭いレミリア
かわいいな
2.まっちゃねこ削除
自分の中のレミリアと合っていてとってもすらすら読めました