チートで安心地霊殿
「この子達を連れて行って」
それはしんしんと雪の降る中、地底の異変解決に向かう前のこと。
アリスは八体の人形達を魔理沙に渡した。
「こいつらは?」
服を引っ張ったり髪に絡みついたりしてじゃれて来る人形達を、魔理沙は可笑しそうに見やっていた。
「あなたのサポートをしてくれるわ。通信機能も入ってるの。地底だと私の魔力が届かないから最初は一体しか動かないけど、パワーを得ていくごとに最大八体まで動くようになるわ」
「ふーん……」
人形の一体を手に取り頭を撫でてやると、嬉しそうに手足をばたばたと動かしていた。
「ありがとな、アリス。心強いぜ。よろしくなお前達」
「「「オオオオーーー!」」」
途端、人形達の出したやけに大きな声に、魔理沙は少々呆気に取られて目をぱちくりさせる。
「な、何だか声がでかいな」
するとアリスは眉をぴくりと動かし、若干声を早めた。
「……ほら、八体もいるとそんなものよ。気をつけてね」
「ああ!」
地底の大穴へ意気揚々と潜っていく魔理沙を、アリスはひらひら手を振って見送っていた。
やがて姿が見えなくなると、アリスは通信機能を確かめ、とりあえず家へと帰っていく。
その時ぼそりと呟いた。
「まー大丈夫だと思うけど」
「ふんふふふー」
箒に跨り、魔理沙は上機嫌で地下を飛んでいた。
今回の服はアリスが仕立ててくれたものであり、保温性に優れているし大変着心地がいい。動いていない人形を取り付けるフックが目立たないように随所に備え付けられており、使用していない内は人形がアクセサリーのようになって非常に可愛らしい。
よく考えられたものだなあ、と魔理沙は感心したものだ。アリスの器用さには毎度の事ながら舌を巻く。
とその時、宙を浮いて突撃してくる岩石群がわらわらと現れ始めたので思考は中断した。
第一ステージ開始といったところか。
「よおし、それじゃあいっちょやってやろうぜ」
まだ一体しか動いていない人形に呼びかけると、人形は一体だけだというのに、「「ウオオアア!」」とやけに大きな声を発した。
「……? まあ、それじゃあ早速」
自身のショットに連動して人形は攻撃するとのことなので、とりあえず弾幕を発射してみることにした。
するとどうだろう。
ビシャアアアア!
眩いばかりの幾筋ものレーザーが人形から迸ったかと思うと、次の瞬間には視界内の岩石が全て撃破、粉々に粉砕されていた。
「……へ?」
遅れて魔理沙のショットが誰もいない虚空を通過する。
「…………えーと」
何となく凄まじい威力だった気がするけれど。
冷や汗を浮かべつつ人形を見やると、その子は魔理沙の方を向いてビッ! と力強く親指を立てた。
「…………えと、こんなもん、なのか?」
“順調みたいね”
「うおっ! なんだ幻聴か?」
人形から響いてきた声に、魔理沙はぎょっとして身をすくめた。
“通信機能があるって言ったでしょ? うまくいってるみたいね”
「あ、ああ……でもこれ、なんだかやけに強い、ような」
腰に手を当て息巻いている人形の頭をぽんぽん撫でつけながら呟くと、アリスは至って冷静な声を届けてきた。
“別に。普通よ。もちろん改良してあるけど”
「はあ……」
まあいいか。とりあえず気にしないことにし、魔理沙はそのまま地底の深くへと潜っていった。
しかしその後も人形の快進撃は続いた。
凄まじく高威力のレーザーを出し続け、ちょっかいを出しに来た妖精群は視界に入った途端に撃破。人形の数が増すとレーザーは更に威力と数を増して絶大な破壊力を発揮するようになった。
それは人形が八体全て動くようになるとより顕著になり、キスメとヤマメの弾幕が全て魔理沙への到達前に彼女らを撃退し、パルスィを道中で完全撃破して2面ボス時点では復帰不可能にしたり、勇儀の杯の酒を盛大にひっくり返して撃墜し、さとりに至っては何も言わずに中庭への道を開けていた。
道中で出てきたネコを五秒で倒したらもうそのまま出てこなかったので人型のお燐を見ることもなく、鴉はスペカが全て終わる前にへばったのか向こうから降参してきた。
こうして無事何の滞りもなく異変は解決し、魔理沙は地上に戻ってきたのだ。
「この人形達強すぎないか!?」
とりあえずアリスの家に帰還した魔理沙は、周囲を漂い勇ましい勝どきを上げている人形達を指してアリスに猛然と詰め寄った。何しろ敵のほぼ全てを人形達だけで撃退してしまったのだ。おかしいと思わないほうがおかしい。
「言ったでしょう? 改良したって」
一方のアリスは淡々としたものだった。人形達を回収すると棚に戻るよう命令し、上海にお茶と菓子を要求する。
「それにしたって限度があるだろう……」
人形に椅子を引かれたのでアリスの向かいのテーブルに座り、魔理沙はどうにも釈然としない様子で眉を寄せた。
あまり自分で解決したという気がしないのだろう。なんだかいつものような達成感もない。
一方のアリスはふうっとため息をつくと少々深刻な表情に転じ、どこか重い口調で声を静めた。
「確かにあの子達は高い能力を持ってる。でもその力には当然反動があるのよ」
「反動?」
不穏な単語を聞き、魔理沙はにわかに色めきたった。
「おいおい、まさかこの後使い物にならないとかじゃ……」
「そんな訳ないでしょ? 私を誰だと思ってるのよ。人形は誰より大切にしてるわ」
「……その割には人形に火薬仕込んだりしてるじゃないか」
「反動っていうのはね」
無視してアリスは話を続ける。
「しばらくあの子達、標準語を話せないようになっちゃうのよ」
「……なんだそれ。標準語って……?」
いきなり突拍子もない事を言われ、魔理沙はじいっとアリスを見やると、人形遣いはおもむろに棚の方を示した。
「ほら見て」
「バカヤネーノ」
棚に収まった例の人形の一体がそう喋ると、魔理沙は少し思案し、どこか感心したような、しかしすぐに思い直したように疑問符を浮かべる。
「…………あれって大阪弁なのか? いやそもそもどうして大阪弁……」
「オチャダヨー。オイシーヨー」
上海がお茶を持ってきたので話は中断した。マドレーヌを口に運び、アリスはさっさと話を始める。
「さ、今はもっと重要なことがあるでしょう? 今回の異変のおさらいをしましょう」
「え? あ、ああ……」
「一番気がかりなのは誰があの鴉に力を与えたのか、ってことなんだけど……」
そのまま異変の総括に話は移り、超高機能人形についてはうやむやに終わってしまった。
強力な人形については魔理沙も興味津々だったけれど、アリスも自分の手の内については流石に話してくれない、追求は断念することにした。
「それじゃあまたな」
夜も更けてきたのでおいとますることにし、魔理沙は今日お供をしてくれた人形達にも挨拶をしてアリスの家を後にする。
「明日は山の上の神社に行って頂戴ね」
「ああ…………またあの人形達で行くのか?」
どこか納得しない表情を浮かべた魔理沙だったけれど、アリスはそれに気づいた様子もなく淡々と頷いた。
「ええ。あの子達のおかげで滞りなく調査も終わるわ」
「…………」
どこか難しい表情をしつつも、魔理沙は箒に跨り、別れの挨拶をすると、雪がはらはらと降る夜空を景気よく飛ばしていった。
その途中、未練がましく魔理沙はぼやく。
「……あの人形、なんだったんだろうなあ」
まさか大阪弁は明らかな嘘だろうと魔理沙も気づいていたけれど、いくら聞いたところで真相を教えてはくれまい。何かカラクリがあるのか。
それともまさかアリスは本当にあれほど強力な人形の製造に成功したというのか。
だとしたらこれからアリスとの弾幕勝負では一層気を引き締めて戦わないと到底勝ち目はない。
「くそ……あの人形にどうやって対抗すればいいんだ? いやそれよりもあれは……」
歯がゆい思いをしながら、魔理沙は行き先を変更し博麗神社までの空を豪快に飛ばすのだった。
「……ふう」
大阪弁でなんとか上手い事ごまかせたわね。などと本気で思っているアリスは居間のテーブルに座り込み、上海の淹れてくれたお茶を飲むと、例の八体の人形達をテーブルの上へと呼び寄せた。
「さて、魔理沙もいなくなったことだし、メンテナンスを始めるわよ」
一体を手に取り、服を脱がせると、背中に付いている窪みを押しつつ人形の上半身をぐいと引っ張る。
するとどうだろう、
ポン、と音を立て、人形は上半身と下半身の真っ二つに割れてしまった。
「異常はない?」
アリスが呼びかけたそこには、
「イジョウナシ」
「イジョウナシ」
「イジョウナシ」
「イジョウナシナノカー」
手の平にすっぽり収まるくらい小型の四体の人形達が、人形の中からわらわらと出てきた。それはさながらマトリョーシカを想起させる。
出てきたのは皆そこらの人形をそのまま小型化したような姿で、アリスの前に整然と並んで敬礼をする。
「ごくろうさま。運用テストは成功だったわね」
ねぎらってやると、四体の小型人形達は揃って勇ましい歓声を上げた。
「ヤッター」
「ゴクロウナノカー」
「タイサ、ノミニイキマショウ」
「ショウリノマイジャー」
他七体の人形についても同様に開け放ち、中から出るわ出るわミニ人形達。
その数実に8×4=32体。
テーブルの上に颯爽と整列する。
「それにしても大成功だったわね」
そんな壮観な眺めを、アリスはうんうんと満足そうに頷き見やっていた。
この小型人形を思いついたのは半年ほど前。以後試行錯誤を続け、とうとう通常サイズの人形と同じ弾幕を出せるものを開発できたのだ。その分思考回路のほうはあまりよろしくないけれど、サポートで使う分にはそれも気にならない。
そしてその後、はりぼての人形の中に限界の四体まで入れれば四倍の威力の弾幕を出せるのでは、と考え実行に移してみたのだ。
既に実験段階では成功していたけれど、実際の異変で使用に耐えうるかどうかのテストは今回が初めてだった。
そしてそれは成功と言える。余りの強さに呆気なさすぎたくらいだ。
魔理沙は相当訝しんでいたけれど気にすることはない。現に異変はかつてないほど速やかに解決されたのだ。霊夢も出る幕は無かった。
この人形の中に複数の人形を入れる手法がスペルカードルール的にOKなのかどうか。それは分からない。
しかし“禁止されてないからやってもいい”。
「……ふふ。私は歴史に名を残す人形遣いになるかもしれないわね」
ひどく上機嫌で紅茶を飲み、アリスは人形達の整備に取り掛かる。
明日の守矢神社への捜査が最終テストとなる。それが終われば普段の弾幕勝負でも使用することになり、きっと負け無し最強の人形遣いの栄光を掴むこととなるだろう。
「楽しみね」
上海がどこか心配そうに見つめる中、アリスはひどく機嫌良く椅子を揺らすのだった。
その夕のこと。
「あら、魔理沙じゃないの」
博麗神社の縁側に勝手に腰掛けている友人を見つけ、霊夢はきょとんとした様子で目をしばたたかせた。
「異変解決のヒーローさんがこんな所で何やってるの?」
お茶を淹れて隣に座ると、魔理沙は「ああ……」と小さく呟いて俯いたままでいた。
不思議に首をかしげながらも、霊夢は境内に積もり橙色に色づいた雪を眺める。
「随分と暴れたみたいじゃない。私が行く前に解決しちゃったし、どんな敵でも数秒で倒してたって噂になってたわよ。まあ私は楽できて良かったけど」
「…………そうか」
「どうしたのよ」
普段であれば「霊夢を出し抜いてやったぜ!」などと自慢に自慢を重ねるというのに、今日ばかりはそうでない。
何か憂慮することがあるのか。
問いかけると、魔理沙は呆然と呟いた。
「あのさ、霊夢……」
「何よ」
「覚えてないんだ」
「? 何がよ」
魔理沙はひどく暗い口調で続けた。
「名前、だよ。私が倒した奴らの名前。それと、顔。あの桶に入った妖怪はどんな名前だっけ? 途中で出てきた鬼は? 犯人の鴉は……お空とかなんとか」
「魔理沙……?」
「それくらいだよ。それくらいしか思い出せない。これまでは何度か負けてさあ、なんとか倒した奴らの名前や顔は嫌でも覚えてたはずなのに。今回はそれがないんだ」
「…………」
「なあ霊夢。私はどうしたらいい? どうあるのが正常なんだ?」
問いかけられ、霊夢は小さく嘆息した。
境内の木に掛かった雪ががさっと音を立てて落ち、白い小さな山を作る。
もう怨霊の噴出は止まっており、境内に沸いた温泉からは白い湯気だけが立ち上り、もくもくと視界の端を漂っていた。
やがて霊夢は、すがるような目で見てくる魔理沙の肩をぽんぽんと優しく叩き、頷くと、ひどく温和に微笑んだ。
「魔理沙」
「霊夢……」
「妖怪共の名前や顔なんて覚えなくて全然おっけー」
「…………」
決定的に相談相手を間違えていた。
次の日。
妖怪の山へ行く直前のこと。
家の前にやって来た魔理沙に、アリスは再び例の八体の人形を手渡した(実際には三十二体)。
「何かあっても楽勝だと思うわ。存分に守矢神社を調査してきてね」
「…………」
魔理沙は、じっと俯いたまま何も言わなかった。
「……? どうしたの魔理沙?」
疑問符を浮かべて問いかけると、魔理沙は気難しい顔を上げ、周囲を漂いときの声を上げる人形の一体をむんずと掴むと、
「アリス……」
にわかにアリスへ突き返した。
「魔理沙?」
怪訝な表情で見やると、魔理沙は静かに首を横に振った。
「アリス。私はこいつらを連れて行かないよ」
「え?」
アリスはぎょっと目を見張る。
「どういうこと?」
率直に問いかけると、魔理沙は難しい表情のままで口を開き話し始めた。
「確かにこいつらは強いよ。連れて行けばどんな奴にだって、霊夢にだって多分勝てる。でもさあ、弾幕勝負ってそんなことでいいのか?」
「? だからどういうことよ」
負けないならそれに越したことはないに決まってるじゃないの。
そう言うと、しかし魔理沙は即座に否定した。
「違う。そんなことない。弾幕勝負で被弾したり負けたりするのは当然なんだ。それは自然なことなんだよ。これは遊びなんだ。幻想郷に打ち立てられた立派な遊びだ。弾を当てて、当てられて、倒して、倒されて、ある時は勝てて、ある時は負けて。そうやって勝ったり負けたりするから弾幕勝負は楽しいんだ。絶対にここで被弾しちゃいけない、負けるなんてありえない、なんて言って負けるのを恐れていちゃだめなんだ。絶対安全安心じゃ意味がないんだ。負けていいんだよ。うっかりボムをいくつ抱え落ちしようと構わない。本気で戦ったんだろう? ならいいじゃないか。全力を尽くして戦って、戦い抜いて、それが弾幕勝負の意義なんだ。勝ち負けは大した問題じゃないんだよ。弾を撃って避けて、その一瞬一瞬にこそ意味がある。それが弾幕勝負の醍醐味なんだ。そりゃ最終的に勝つと嬉しいし私も勝ち負けにはこだわる方だ。でもさあ、相手が真剣に相手をしてくれてるのに、こっちがその……あまりに元も子もない手段を使ってたら、それで勝っても全然嬉しくないんだ。いや、それで嬉しくなるような人間に、私はなりたくない」
アリスはすっと目を細めて問いかけた。
「この人形達を使ってたら、弾幕勝負じゃないってこと?」
魔理沙は即座に深く頷く。
「ああ。私は、そう感じた。だからこいつらは連れて行かない。私は私が納得できる弾幕で勝負するよ」
そこまで言い、魔理沙はふっと緊張をほぐすように笑みを作った。
「でもまあ、これは私の考えに過ぎないしな。お前がこれからその人形達で勝負をするっていうなら、私はそれを止めることなんて出来ないよ。そしたら私はただ、どうやってこいつらを攻略するかを考えるまでだ」
宙を漂う人形の頭をぽんぽん叩き、魔理沙は快活に笑いかけた。
一方のアリスは、
「…………」
何も言わず、俯き黙ったままであった。
そんなアリスの前にしばし気まずげに立っていた魔理沙は、やがて背を向け箒に跨る。
「それじゃあ、私は山の上の神社に行ってくるよ。なあに、何か問題なんて起きやしないって。ぱぱっと行って帰ってくるよ」
「…………」
そうして飛び立とうとした時のことだった。
「シャンハーイ」
アリスの側から上海が飛び立ち、魔理沙の肩にがっしとしがみ付いた。
「上海?」
アリスが呆然と見やる中、上海は魔理沙の肩をぱんぱん叩いて山の上を示す。
「一緒に行ってくれるのか?」
「シャンハイガナカマニクワワッタ」
「はは。おっけー。それじゃあ行こうぜ。……じゃ、行ってくるよ、アリス」
ふわりと軽やかに宙に浮き、一人と一体は山の上へ飛び立っていった。
「……魔理沙! 上海!」
アリスの声も届かないくらい遠くへと一瞬で行ってしまう。
その様子を眺めたまま、アリスはその場に唖然と立ち尽くしてしまった。
風が吹いて積もったばかりの粉雪が舞い、アリスの横を白いきらめきが軽やかに通り過ぎる。
「アリスー……」
他の人形達が不安げにアリスの服をくいくいと引っ張る。
「…………」
アリスは垂れ下げた拳をぎゅっと握り締めた。
上海を戻すのは簡単だ。今すぐ帰還命令を出せば、上海人形に宿る僅かな自我を無視してこちらへ来させることが出来る。
しかし人形遣いとしてそれは絶対にしてはならない行為だった。
「……はあ」
しばしの間陰鬱に俯いていたアリスは、やがて顔を上げた。呆れたようにため息をつく。
「何かあったら流石に上海だけじゃ辛いわ。後を追って頂戴」
そうしてアリスは人形達に指示を出す。
例の八体の人形ではなく、普段使用している弾幕用人形達へ命令し魔理沙と上海の後を追わせた。
「あーあ……私もまだまだね」
呆れたようにほうっと空に向かって息を吐く。
魔理沙の考えに全面的に同意したわけではない。
自分は人形遣いなのだ。人形の強さを追求することに躊躇いなんてない。
しかしよくよく考えてみれば、そこらの妖怪達だって隙間の全くない弾幕を作り出すことくらいできるはずだ。そうすれば絶対に勝てる。
だけどそれをしないのは、心から弾幕勝負を楽しもうとしているから。相手にわざと避ける隙を作って遊んでいるから。
確かに自分はそういった心意気、とでもいうものを忘れていたのかもしれない。
ただただ負けないように負けないように、負けてしまうのを極端に恐れ、勝つことだけを考えていた。
負けたらそれで終わりで後には何も残らないと思い込んでいた。
そうして結果ばかり追い求めていた。
魔理沙の言う通り、弾幕一つ一つを避けているその瞬間こそが最も大切な時間なのかもしれない。
いかにミスを少なくしてクリアするために戦うのではない。弾幕を撃って弾幕を避けるために戦うのだ。
彼女はそう言いたかったのだろう。
「……分かったわよ。しょうがないわね」
もう少し魔理沙のひたむきな感情に付き合うのもいいだろう。
小型人形達はしばらく弾幕勝負から休んでいてもらう。
そもそも思い返してみれば、自分の人形遣いとしての腕前を世間に知らしめるために弾幕勝負を利用しようとしていたのかもしれない。禁止されてないからやってもいい、などと子供の理論を振りかざして。
それに小型人形を隠していたということは、自分でも後ろめたいことだと分かっていたのではないか。そこはきっと反省すべきことなのだろう。
「……そういえば、演劇用の人形作りも最近はやってなかったわね」
また里の子供達向けの人形劇を再開してもいいかもしれない。
何か新しい境地に気づくような気がするから。
そう考えると何やら創作意欲がむくむく湧いてきた。
子供達が歓声を上げるようなカラクリ人形のアイデアがいくつか浮かんでくる。
こんな気持ちもふと考えると久し振りだった。
「まあ、今はとにかく山の神社のことね」
残った人形達に家に帰るよう指示すると、例の三十二体の人形達が不安そうな面持ちでこっちを見ていた。
そんな彼女らに、アリスは安心させるように微笑んでみせる。
「大丈夫よ、捨てたりしないわ。私は人形遣いよ? あなたたちも別の仕事できっちり遣ってあげるから、しっかりと働きなさいよ」
そう言うと、小型人形達は揃って嬉しげな歓声を上げた。
そんな中、アリスは薄い笑みを浮かべ、懐から小型の無線機を取り出す。
先ほど後を追わせた七体の人形達には、紫からもらった例の無線機を持たせてある。
魔理沙と行動を共にしている上海には今魔力をもって事の次第を伝え、魔理沙を引き止めておいてもらっているし、間もなく七体の人形達と合流することだろう。
そうしたらまずあの小型人形について話そう。魔理沙は怒られるかもしれないけど、彼女と接するのに隠し事は似合わない。
「あーあ。もっともっと優れた人形を作りたいわね」
嘆息し、口に無線機を寄せる。
アリスは別にこれから高機能の弾幕用人形の製作をやめると決めたわけではない。彼女は人形遣いなのだ。あらゆる方面で高度な人形を追い求めていくことだろう。それは時にズルだなんだと言われることがあるかもしれない。
「あー、魔理沙? あのね、とりあえず話しておきたい事があるんだけど……」
しかし今日アリスの中に、
魔理沙に堂々と見せられるような物を作る
という人形作りの新たな基準が誕生した。
少し経ってからそのことをアリスは自覚し、唖然と頭を抱えたという。
了
弾幕勝負に独自の理念を持っている辺りが特に
・・・そして、アリスはゴリアテ製作に至る、と
アリスの気持ちも分かるだけに。
このSTGが好きになった原点を思い出させてもらったゼ、ありがとう作者。
大事なのは勝利よりも勝利までの過程なんですよね。
中々感じさせられるSSでした。
そうよね…邪道よね…もっと頑張らなきゃ…
魔理沙、良く言った。
殺意に満ちた他のSTGの弾幕とはまた違った美しさがある
ギャグと見せかけてこういうのもありだ
いいじゃない、避けて楽しければ。全力でぶつかればいつかはきっとノーマルもクリアできる。
そのときの喜びを楽しみにひたすら避け続けるんだ。
そんなことを考えさせてくれるSSでした。クリアするだけがSTGじゃないよね!
ときどきむずかゆいのを思い出した。
ところで地霊殿の人形のショットは明らかにレーザーじゃない気がするんだが。
霊夢でな!
アリスの気持ちも分かるが。
しかし霊夢ひでえな、レミリアや紫が聞いたら泣くぞw
……本当にこんなこと言いそうで、怖いなあ。
むしろアリスは緊張した弾幕遊びの中でも余裕を美徳としてるというから
そのままこの魔理沙な意見だとも思うんですけども
読んで良かった
負けることもあるからこその弾幕勝負ってことですね
威力が全てじゃない。
だからいくら正面取っても封印装備でクリアしても風Hardを針霊夢でクリアできないんだ!orz
二次だったか・・・?
みたいなこと言えるくらいに達観してるわけではないけれど。
何度もリトライ、ゲームオーバーを繰り返してつかみ取るから、
クリアはあんなにも嬉しいんだと思います。