リグルが男の子だという噂は、既に幻想郷じゅうに広がっていた。
原因は天狗だとリグルは思ったので詰問してみたがどうも違うらしい、念のためスカラベの大群を見せて脅してみたがやはり違うようだった。
――このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
このカードが反転召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。
そんなことはどうでもいい。
それよりもこの事態を何とかして収束させねばいけない。この失礼な騒動の原因も気になるがそれどころではない。自分は女の子だということを全幻想郷にアピールしなくては、後々。
『チルノちゃん、僕実は男の子だったんだ!』
『えー!』
『チルノちゃん、好き!!』
『えー! あたいもだよ!!』
なんてことになりかねないとリグルは危惧した。
おや、むしろ理想郷だ。
絵板かどこかで似たような展開を見た記憶があるのが問題ではあるが。
「………」
とにかくとにかく。実害が出る前に噂の拡大を阻止せねばならない。
リグルは立ち上がった。
手始めに近くで人間を貪り喰らっていたルーミアに向けてリグルは叫んだ。
「僕は女の子じゃないぞ!!」
「そーなのかー」
おやおやリグルくん、じゃなくてリグルちゃん。既に一人称がおかしいがどういうことかね?
いや、それよりも問題なのは完全にセリフを間違えているところだ。
ルーミアは特に深く興味を示した様子もなく言い、とってもおいしそうな顔で人間の腕にかじりついた。
「そうか、わかってくれるんだねルーミア」
「うん」
リグルは感動して涙を流していた。
彼女は自分の犯した過ちに気付いていないのだ。
「チルノとかが言ってたから」
ルーミアはひとかじりした人間の腕の一部を飲み込んでからそう続けた。
「チルノちゃんが……?」
「うん」
とくに変わった様子もなく言いながら、ルーミアは再び残りの肉にかぶりついている。
リグルはさらに感動している。
(チルノちゃんが、僕を無実から開放するために頑張ってくれている……)
ルーミアが言ったのは、要するにチルノが犯人だということなのだろうが、リグルは頭がちょっと弱いので気付かなかった。彼女は犯人に感謝した。
「そっか、そうなんだ」
「そーなのだー」
二人の間で暴れまわる矛盾やすれ違い、勘違い。まるで笑い仕掛けのスペシャリストのコントである。
リグルは今猛烈に輝いている。ああ、持つべきものは友達だ!
「ありがとうルーミアちゃん! それからチルノちゃんに会ったら、ありがとうって言っておいてくれる?」
「ん、いいよー」
腕の肉を食べ終えたルーミアは、満足そうに頷いた。
――そういや霊夢。永遠亭の詐欺兎から聞いた話なんだが。
――なによ。
――蟲のアイツいるだろ?
――ああ、蟲のアイツね。それがどうしたの?
――いや、大したことじゃないんだが。アイツ、どうも男の子らしいんだ。
――へぇ、希少種じゃない。
――それだけで別に驚くような話でもないんだが。
――うん、暇つぶしにもならないわね。もうちょっと実のある話をしなさいよ。
――ああ、そうだな。納豆の起源は……。
リグルはたまたま買い物途中の完全で瀟洒な従者を見つけたので声をかけてみた。
「僕は女の子じゃないやい!」
「……あら、そう?」
声をかけるというか、やはり叫び気味だった。理由は知らない。
しかも、また一人称とセリフを間違えている。たぶんわざとじゃない。
女の子じゃない、男の子だ! と言われても、メイドは特に疑問に思わなかったし、だから何なのかよくわからなかった。
「じゃあ私急いでるから、話は後で聞くわ」
「あ、はい、またねー」
「ええ、またね」
止める理由もないので止めなかった。メイドは歩いて帰っていった。
メイドが納得したのかどうかはわからなかったが、まあたぶん大丈夫だと、リグルは根拠ない自信を抱いていた。
その日は、それ以上特に誰と会うことはなく、暗くなってきたので帰って寝た。
――レミリア。
――なあに霊夢。
――納豆の起源は源義家がどうたらこうたら。
――どうしたのよ急に。
――蟲のアイツいるじゃない。
――1面ボス?
――そうそう。アイツが男の子だったらしいのよ。
――あー、聞いたわ。咲夜から。
――なんでメイドから。
――ええ。咲夜の買い物の途中、彼が突然叫んでいったそうなの。
――何て……?
――フフ、それがね……
翌朝、リグルは悪い予感で目が覚めた。
こう見えて勘は鋭いほうだ。虫の知らせってやつのおかげで。
それでも博麗の巫女にはなぜか敵わないのだが……主人公補正か?
いやまあ、そんなのは余談でありまして。
とにかく、リグルの悪い予感はいきなり当たった。
いつものように手に取った朝刊に「リグル男の子疑惑は真実だった!」と大きく書かれていた。
「ぬぁーっ!?」
あまりのショックに触角がもげそうになった。お尻が光りそうになった。メスの蛍は光らないよ!
見れば、「リグル氏が男の子だと自白した」みたいなことが長々と書かれているではないか。
「な、なんで……?」
自分の胸に手を当てて聞けばわかるのだが、リグルにそんな知能はない。
「お、おのれ、天狗……!」
リグルは気付いた。やはり天狗が自分を陥れようとしているのだ、僕を男の子に仕立て上げて、幻想郷から追放しようとしているのだ。
見当違い甚だしい、天狗は事実を書いたのみである。
しかも、男の子だからといって別に幻想郷に居られないわけでもない。
「ほら、幻想郷に男の子なんていないし」
だが、そこまで思考が行き届くほどリグルの頭は運動効率性がよくなかった。
彼、いや彼女は考えなしに天狗に弾幕戦を申し込み、あっさりと撃ち落とされたのだった。
スカラベを召喚する前に全力で撃たれたのが敗因。
――いやいや妖夢。
――幽々子様、いきなり「いやいや」で話を始められても困ってしまいます。
――困っててもいいから、見てよこの新聞を。
――「リグル男の子疑惑は真実だった!」?
――らしいのよ。
――ふーん、別にどっちでもいいような気はしますが。
――いやいや妖夢。
――なにか企んでいらっしゃいますか。
――ほら、わたしってショタ趣味入ってるじゃん?
――初耳ですよそれ。おまけに寝耳にミミズですよ。
――おいしそうだなーっと思って。
――はぁ。食べちゃだめですよ、蟲なんて。
――やーん、妖夢ったらえっちー☆
――は? いやいや幽々子様!?
――いやいや妖夢。そのセリフはわたしの決めゼリフよ。
――すみません。ついカッとなって。
――というわけで妖夢。
――はい。
――即刻リグルきゅんを捕獲してきなさい。
――いやいや幽々子様。
――じゃないと妖夢を食べちゃうから。
――行ってきます。
――行ってらっしゃい、楽しみにしてるわぁー。
気がつけばどっかで会った半人半霊におんぶされていた。
「うわっ」
「わぁっ!?」
驚いたリグルの声に妖夢も驚いていた。さらにリグルはそれにまた驚いた。
妖夢が一瞬バランスを崩してしまうが、半人前とてそこは剣客、すぐに体勢を整え直した。
「脅かさないでよ……」
「あんたもね……」
で。
「……助けてくれたの?」
「え、あー、まあ、そんな感じ、かな」
しどろもどろ妖夢、嘘つけない性格。どう見ても嘘をついている時の挙動だが、リグルにそれを見抜く知性はない。
「……ありがと」
「みょん……」
リグルきゅん、勘違い王になれるかもしれない。勘違い王が何者かは知らないが。幽々子辺りなら知っていると思う。
妖夢は心底申し訳なさそうな顔をしていたが、その背中に乗っているリグルにそれが見えることはない。
リグルは密かに芽生える恋心を、妖夢はこのかわいい男の子の末路の想像を胸に、白玉楼へ連れて行かれ、連れて行くのだった。
なぜ白玉楼へ連れて行かれるのか、リグルは考えようとしなかった。
最期は突然にやってくる。謀ったなシャナ!
「仕方なかったんだ、仕方なかったんだよ、上の命令だから……」
「はぁー、堪能。ごちそうさまでした」
あーあ。最近、蛍も増えてきて綺麗ですね。
詳細はここをクリック!
――あ、チルノー。
――あれ、ルーミアじゃん。わざわざ湖まで来て何かあったの?
――チルノに言いたいことがあってねー。
――あたいに? なになに?
――ありがと!
――え、あ、どういたし、まして……?
――えへへー。
――ルーミア? 顔赤いよ、風邪引いたんじゃない?
――えっ、いや、そんなことない……よ。
――ならいいけど……。
――ただ……チルノってすごいのかー、って思ってねー。
――?? よくわかんないけど、あたいったら最強ね!
原因は天狗だとリグルは思ったので詰問してみたがどうも違うらしい、念のためスカラベの大群を見せて脅してみたがやはり違うようだった。
――このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。
このカードが反転召喚に成功した時、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。
そんなことはどうでもいい。
それよりもこの事態を何とかして収束させねばいけない。この失礼な騒動の原因も気になるがそれどころではない。自分は女の子だということを全幻想郷にアピールしなくては、後々。
『チルノちゃん、僕実は男の子だったんだ!』
『えー!』
『チルノちゃん、好き!!』
『えー! あたいもだよ!!』
なんてことになりかねないとリグルは危惧した。
おや、むしろ理想郷だ。
絵板かどこかで似たような展開を見た記憶があるのが問題ではあるが。
「………」
とにかくとにかく。実害が出る前に噂の拡大を阻止せねばならない。
リグルは立ち上がった。
手始めに近くで人間を貪り喰らっていたルーミアに向けてリグルは叫んだ。
「僕は女の子じゃないぞ!!」
「そーなのかー」
おやおやリグルくん、じゃなくてリグルちゃん。既に一人称がおかしいがどういうことかね?
いや、それよりも問題なのは完全にセリフを間違えているところだ。
ルーミアは特に深く興味を示した様子もなく言い、とってもおいしそうな顔で人間の腕にかじりついた。
「そうか、わかってくれるんだねルーミア」
「うん」
リグルは感動して涙を流していた。
彼女は自分の犯した過ちに気付いていないのだ。
「チルノとかが言ってたから」
ルーミアはひとかじりした人間の腕の一部を飲み込んでからそう続けた。
「チルノちゃんが……?」
「うん」
とくに変わった様子もなく言いながら、ルーミアは再び残りの肉にかぶりついている。
リグルはさらに感動している。
(チルノちゃんが、僕を無実から開放するために頑張ってくれている……)
ルーミアが言ったのは、要するにチルノが犯人だということなのだろうが、リグルは頭がちょっと弱いので気付かなかった。彼女は犯人に感謝した。
「そっか、そうなんだ」
「そーなのだー」
二人の間で暴れまわる矛盾やすれ違い、勘違い。まるで笑い仕掛けのスペシャリストのコントである。
リグルは今猛烈に輝いている。ああ、持つべきものは友達だ!
「ありがとうルーミアちゃん! それからチルノちゃんに会ったら、ありがとうって言っておいてくれる?」
「ん、いいよー」
腕の肉を食べ終えたルーミアは、満足そうに頷いた。
――そういや霊夢。永遠亭の詐欺兎から聞いた話なんだが。
――なによ。
――蟲のアイツいるだろ?
――ああ、蟲のアイツね。それがどうしたの?
――いや、大したことじゃないんだが。アイツ、どうも男の子らしいんだ。
――へぇ、希少種じゃない。
――それだけで別に驚くような話でもないんだが。
――うん、暇つぶしにもならないわね。もうちょっと実のある話をしなさいよ。
――ああ、そうだな。納豆の起源は……。
リグルはたまたま買い物途中の完全で瀟洒な従者を見つけたので声をかけてみた。
「僕は女の子じゃないやい!」
「……あら、そう?」
声をかけるというか、やはり叫び気味だった。理由は知らない。
しかも、また一人称とセリフを間違えている。たぶんわざとじゃない。
女の子じゃない、男の子だ! と言われても、メイドは特に疑問に思わなかったし、だから何なのかよくわからなかった。
「じゃあ私急いでるから、話は後で聞くわ」
「あ、はい、またねー」
「ええ、またね」
止める理由もないので止めなかった。メイドは歩いて帰っていった。
メイドが納得したのかどうかはわからなかったが、まあたぶん大丈夫だと、リグルは根拠ない自信を抱いていた。
その日は、それ以上特に誰と会うことはなく、暗くなってきたので帰って寝た。
――レミリア。
――なあに霊夢。
――納豆の起源は源義家がどうたらこうたら。
――どうしたのよ急に。
――蟲のアイツいるじゃない。
――1面ボス?
――そうそう。アイツが男の子だったらしいのよ。
――あー、聞いたわ。咲夜から。
――なんでメイドから。
――ええ。咲夜の買い物の途中、彼が突然叫んでいったそうなの。
――何て……?
――フフ、それがね……
翌朝、リグルは悪い予感で目が覚めた。
こう見えて勘は鋭いほうだ。虫の知らせってやつのおかげで。
それでも博麗の巫女にはなぜか敵わないのだが……主人公補正か?
いやまあ、そんなのは余談でありまして。
とにかく、リグルの悪い予感はいきなり当たった。
いつものように手に取った朝刊に「リグル男の子疑惑は真実だった!」と大きく書かれていた。
「ぬぁーっ!?」
あまりのショックに触角がもげそうになった。お尻が光りそうになった。メスの蛍は光らないよ!
見れば、「リグル氏が男の子だと自白した」みたいなことが長々と書かれているではないか。
「な、なんで……?」
自分の胸に手を当てて聞けばわかるのだが、リグルにそんな知能はない。
「お、おのれ、天狗……!」
リグルは気付いた。やはり天狗が自分を陥れようとしているのだ、僕を男の子に仕立て上げて、幻想郷から追放しようとしているのだ。
見当違い甚だしい、天狗は事実を書いたのみである。
しかも、男の子だからといって別に幻想郷に居られないわけでもない。
「ほら、幻想郷に男の子なんていないし」
だが、そこまで思考が行き届くほどリグルの頭は運動効率性がよくなかった。
彼、いや彼女は考えなしに天狗に弾幕戦を申し込み、あっさりと撃ち落とされたのだった。
スカラベを召喚する前に全力で撃たれたのが敗因。
――いやいや妖夢。
――幽々子様、いきなり「いやいや」で話を始められても困ってしまいます。
――困っててもいいから、見てよこの新聞を。
――「リグル男の子疑惑は真実だった!」?
――らしいのよ。
――ふーん、別にどっちでもいいような気はしますが。
――いやいや妖夢。
――なにか企んでいらっしゃいますか。
――ほら、わたしってショタ趣味入ってるじゃん?
――初耳ですよそれ。おまけに寝耳にミミズですよ。
――おいしそうだなーっと思って。
――はぁ。食べちゃだめですよ、蟲なんて。
――やーん、妖夢ったらえっちー☆
――は? いやいや幽々子様!?
――いやいや妖夢。そのセリフはわたしの決めゼリフよ。
――すみません。ついカッとなって。
――というわけで妖夢。
――はい。
――即刻リグルきゅんを捕獲してきなさい。
――いやいや幽々子様。
――じゃないと妖夢を食べちゃうから。
――行ってきます。
――行ってらっしゃい、楽しみにしてるわぁー。
気がつけばどっかで会った半人半霊におんぶされていた。
「うわっ」
「わぁっ!?」
驚いたリグルの声に妖夢も驚いていた。さらにリグルはそれにまた驚いた。
妖夢が一瞬バランスを崩してしまうが、半人前とてそこは剣客、すぐに体勢を整え直した。
「脅かさないでよ……」
「あんたもね……」
で。
「……助けてくれたの?」
「え、あー、まあ、そんな感じ、かな」
しどろもどろ妖夢、嘘つけない性格。どう見ても嘘をついている時の挙動だが、リグルにそれを見抜く知性はない。
「……ありがと」
「みょん……」
リグルきゅん、勘違い王になれるかもしれない。勘違い王が何者かは知らないが。幽々子辺りなら知っていると思う。
妖夢は心底申し訳なさそうな顔をしていたが、その背中に乗っているリグルにそれが見えることはない。
リグルは密かに芽生える恋心を、妖夢はこのかわいい男の子の末路の想像を胸に、白玉楼へ連れて行かれ、連れて行くのだった。
なぜ白玉楼へ連れて行かれるのか、リグルは考えようとしなかった。
最期は突然にやってくる。謀ったなシャナ!
「仕方なかったんだ、仕方なかったんだよ、上の命令だから……」
「はぁー、堪能。ごちそうさまでした」
あーあ。最近、蛍も増えてきて綺麗ですね。
詳細はここをクリック!
――あ、チルノー。
――あれ、ルーミアじゃん。わざわざ湖まで来て何かあったの?
――チルノに言いたいことがあってねー。
――あたいに? なになに?
――ありがと!
――え、あ、どういたし、まして……?
――えへへー。
――ルーミア? 顔赤いよ、風邪引いたんじゃない?
――えっ、いや、そんなことない……よ。
――ならいいけど……。
――ただ……チルノってすごいのかー、って思ってねー。
――?? よくわかんないけど、あたいったら最強ね!
私もなんとか幻視れました!!!