Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

「地上の宴会に行ってきました」

2010/06/01 21:39:55
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どうもこんばんは。地霊殿の主、古明地さとりです。

今宵は地上の神社で行われる宴会なるものにお誘いを受け、参じた次第です。

しかし、ああ、予想通りではありますが、私は早くも来たことを後悔しています。

酒宴に騒ぐ者たちの、卑しい思念が私のもとへと流れ込んでくるのです。



―――(酒の勢いを利用して……今日もこの子に……)

―――(酔ったふりをして……もたれかかっても許されますよね)



ああ、なんと醜い。なんと卑しい。

地上というものはこうも破廉恥な輩ばかりなのでしょうか。

低俗な思考に私は呆れるばかりです。本当に来なければよかった、そう思います。

『分かっていてどうして来たのか?』ですか。それは……



「ああもう、しつこいわね紫。離れなさいってのに」



この神社の巫女、博麗霊夢。

私は彼女に果たすべき私怨があったのです。私怨といってもただの気がかりですけれども。

間欠泉事件の時に私の地霊殿まで乗り込んできた張本人、博麗霊夢。

あのときに初めて見た彼女の心象は、今までに見てきた他の誰のものとも違っていたのです。

彼女の心だけが、何十万、何百万もの心象を覗いてきた私を、特別に惹きつけた。

一体それは何故なのか。彼女には私のその疑問を晴らすべき責務があるはずなのです。



―――『面倒だからみんな倒して地上に帰ろう』



あのとき垣間見た、そんな荒々しい心。品性も無い、野蛮な心。

由緒ある地霊殿の主たる私が、ただ粗野なだけの人間に、何故惹かれるのでしょう?




しかし今その博麗霊夢を見ると、酔っ払いの少女や、酔ったふりをした少女に絡まれています。

一番近くで博麗霊夢に絡んでいるのは、あの時の声の主、八雲紫という者。

私が気に入らないのは、博麗霊夢が彼女らに絡まれることをさほど嫌がっていないこと。

あんな行儀の悪い輩など振り払ってしまえばよいものを。粗悪な者同士、所詮は同類なのでしょうか。

しかし妖怪と同じ高さに杯を構える人間というのも、なかなか妙な絵なものです。

妖怪を恐れて下に逃げるか、退治せんとして上にでるか、普通はそのどちらかでしょうに。




妖怪を妖怪とも思わないその態度、気に食いませんね。人間にとって敵だというのに。

種族をわきまえない人間ですか……種族の違いを忘れているのでしょうか?

私の見てる前で、先ほどからその妖怪に、随分べたべたと触られて……



「ちょっとってば、もう。……じゃあ好きにしていいけど、対価、払いなさいよね」



その言葉にぴくり、と八雲紫が動きを止める。その近くでは地上の鬼と鴉天狗がごくり、と唾を飲むのも見えた。

「……対価って?」

「労働よ。いつも私ひとりで宴会の片付けをしてるのよ?もしくはお賽銭がいいかしら」

うんざりした様子で博麗霊夢が答える。宴会の片付けとやらがよっぽど大変なのだろう。

「お賽銭……どれくらい?」

―――またとないおいしいチャンス……冷静になるのよ、霊夢の気が変わらないように……



私には見える。あの妖怪の中に渦巻く期待、切望、興奮が。それを隠そうとしない、はしたない心が。

「そうね、私に抱きつくのは二百円、私から抱きついてあげるのは三百円、ってのはどう?」

いっておくけど安売りはしないわよ。売り上げの十割が宴会費と、貧窮する少女のために使われるんだから。

そう神社の巫女はのたまった。

―――安すぎるけど……黙ってましょう

―――それはちょっと安いよ、霊夢……

―――これは号外を発行したいくらいですが、よそに広めてしまうのは損というもの……

それぞれの思念が私に流れ込む。ああ、嫌だ。

しかしこれ以上黙って見てられない。



「待ちなさい博麗霊夢。あなたが卑しい人間であることは承知していますが、しかし―――」

そこに酔ったふりをしていた鴉天狗が素早く割って入って私の言葉を遮る。私の言葉は、切られます。

「まぁまぁ、さとりさん、落ち着いて落ち着いて」

―――彼女の気が変わらなければ次は私……いや立場上、上司の萃香さんに先を譲って私はおこぼれを……



自分の利益と保身と欲望を丸出しにした思考。そんなものを、私に流し込まないで下さい。

鴉天狗を振り払い、八雲紫と博麗霊夢のもとへ詰め寄る。

八雲紫は神社の巫女に小銭を差し出していた。

ちゃりん、ちゃりん、ちゃりん。……三百円。なんとはしたない。

「博麗霊夢。あなたがここまで品の無い考えをするなんて、驚きを通り越して呆れました」

神社の巫女は軽く笑いかけながら私に答える。

「やあねぇ、さとりったら。こんなの酒の席のほんの戯れじゃないの」

「……どうやら本心で思ってますね、救えません。あなたは分かってない、周りの者たちの―――」

今度は八雲紫が立ち上がって私の言葉を遮る。私の言葉は、再び切られます。

「そうよね、霊夢。こんなの、ほんのちょっとした戯れよねえ」

思念が、私に流れ込む。その中身を、博麗霊夢に教えてやりたい。

「博麗霊夢、この者の心の中には今―――」




読み取った心を暴こうとしたとき。

どんっ、と八雲紫の手のひらに突き飛ばされた。

覚り妖怪という種族は、肉体的には脆く弱いのです。

私は紙くずのように遠くまで飛んでいきました。




木の近くまで飛ばされた私は、仰向けに横たわったまま暗い空を見上げました。

痛いじゃないですか……

ああ、本当に来なければよかった。

私は心の読めてしまう嫌われ者。こうなるのは分かっていたのに。




周りから嫌われ、蔑まれ、撥ね退けられるのは生まれつきなのです。覚りとしての宿命なのです。

地底でもどこでも、その能力ゆえに誰からも嫌がられてきました。それを忘れたことはありません。

―――『あそこに見えるの覚り妖怪じゃないか、逃げよう、心を読まれる―――』

―――『こっちに来るな、どっかに消えていなくなれ―――』

―――『近づいてこないように石を投げろ、石を―――』

地底一の嫌われ者。別につらくもなんともありません。

それが覚り妖怪だから。私は覚りという種族なのですから。





地面に横たわる私に、誰かが影を落とし手を伸ばします。

その手に私は反射的に身をすくめてしまいます。

私だって痛いのは、キライなのですから。




「まったく紫ったら、酔うとすぐ手が出るんだから……困ったものねえ……」

私は差し出された手のひらを見ました。

博麗霊夢。人間という種族で、不思議な心を持った―――




―――怪我はしてないみたいね。よかったわ。



澄んだ心の声が私の中に響きます。

私は整理のつかない頭でしばらくその手のひらを見つめていました。白い、手のひら。



―――『面倒だからみんな倒して地上に帰ろう―――



   橋姫も、鬼も、覚りも、動物たちも、みんなまとめてやっつけてやるわ!』




ああそうか。

私はそのときようやく、彼女に抱いてた疑問が晴れたのです。



博麗霊夢、この人間の心の中には、種族という考えがまったく無いのです。

行く道を邪魔する者ならば、きっと博麗霊夢は同じ種族でも容赦しないはずです。

立ちふさがる者はみんな敵。杯を交わすものはみんな友。

本当に、おめでたい輩がいたものです。

私が、ずっと求めていた輩が―――






 *********






結局みんな飲むだけ飲んで帰っちゃうのよね。

私が片付け大変だって言ってるのにさ。

まあいいか、今日はお賽銭という名目で、宴会費も集まったし。



それに今回はひとりじゃないわ。

「悪いわね、あなただけに片付け手伝ってもらっちゃって。さとり」

何故だかさとりが手伝ってくれる。嬉しいわ。



「いいんです。あなたに招待して頂きましたから。それに……」

それに、なあに?

「その……聞こえましたから。あなたが『誰か手伝ってくれないかなぁ』と、心でつぶやいたのを」

「流石、会話いらずね。その能力に感謝しなくっちゃ。ありがとう、さとり」

「……そう、ですか」




なんだかさとりの顔が赤い。そんなにお酒を飲んだようには見えなかったけど。

「あの……手を出して頂けますか」

手?なんだろう。そう思って手のひらを出すと、さとりがそれをじっと見つめてきた。

「なあに、どうしたの?さとり」

私がそう言うと、さとりは耳の先まで赤くなった顔を伏せながら、震える指で何かを差し出した。




ちゃりん、ちゃりん、ちゃりん。




消え入りそうな声で、さとりがつぶやく。


「そ、そんなに、驚かないでください……私には、分かってしまうのですから……」
二次創作なので設定、呼称、口調に原作と違いがあります。
それとお金の価値は現代を参考にしています。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
jomo
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
ちゃりん、ちゃりん、ちゃりん。…私にも抱きついてくだs(夢想封印
お話はとっても良かったです!
2.ぺ・四潤削除
ギャグかと思ったらいい話じゃないですかー!
一万円出したら一体どんなことをしてくれるんだろう……
3.名前が無い程度の能力削除
良し!
4.名前が無い程度の能力削除
霊夢とさとりは相性良さそうですよね
素敵なお話でした
5.名前が無い程度の能力削除
ふふふ…ニヤニヤが止まりません。
6.名前が無い程度の能力削除
チャリンチャリンしちゃうさとりさんかわいいよぉぉおっ!!!