Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ずぼっ!

2005/06/27 13:55:47
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 霊夢の能力。
 無重力由来の「空を飛ぶ程度の能力」。
 それが解った時、突然降って湧いたひとつのイメージ。
 
 ふわふわと

 ゆらゆらと

 地に足は触れても着かず

 地面を蹴って走る感覚も

 地面に依って立つ感覚も希薄で

 山川草木万有である筈の引力は自分だけを捉えない

 亡霊か幽霊のように

 ふわふわ
 
 ゆらゆら

 いや、幽霊だって無重力ではないだろう。
 だから、他多くの生き物にとっておそらく一番の依り所である筈のこの大地を始め、霊夢には依って立つモノが無い。
 それとも有るのか? 
 何か依るモノが有るんだろうか。
 どう頑張っても地に足が着かない感覚ってのはどんなものなんだろう。
 重心が揚がりっぱなしで、足裏の感覚が無い感じ?
 自分が空気になってしまったような頼り無い気分?
 私は無重力なんて経験したことが無いから解らない。
 でもイメージがあるんだ。とてもか細くて、気を抜くと指の隙間から零れてしまいそうな朧げで希薄な物だが。

 例えば大きな地震に見舞われた時。
 揺れが数秒続いただけでも、動悸は激しくなり、足元が震える。
 あの足元がおぼつかない不安。
 絶対の信頼で自分を支えてくれる筈の地面が消えてなくなるような恐怖。

 ――いやそんなことはどうでもいい。
 なんだか、的外れな気もする。
 だって霊夢はそんなこと、気にもしないのだろうし。

 ……

 霊夢はどんな世界を見ているのか。
 霊夢はどんな感覚で生きているのか。
 それがいつまでも気にかかって仕方がなかった。



◇◆



「…………死体?」

 ぱっと見、魔理沙にはそう見えた。
 だらりと力なく伸びた四肢。生気の無い顔色――というか、まさに死相と言うんじゃないのかこれ。死相なんて見たことは無いが。
 ここ暫くの大雪や、丹の生成にかかりきりだったこともあり、ほぼひと月ぶりに訪れた博麗神社。風呂敷包みを担ぎ、雪で埋もれた境内を越えて中に入ると、玄関に霊夢が転がっていた。
 うむ、つかみとしてはいまいちだと思うぞ。
「というわけであんまり面白くないから起きろ霊夢。久しぶりに珍しい物を仕入れて来たのになんだその態度は」
 抱き起こし、肩を掴んで揺する。

ゆっさゆっさ

ぎっこんばったん

 首がいい感じな角度で振れただけだった。
「……」
 魔理沙の胸の奥で何かがざわめく。
「おいっ、霊夢ってば!」

ずぼっ! 

巫女装束の腋の隙間から手を突っ込み、ポイントを探る。
「……………………(ピクッ)……ぅ……」
 ビンゴ。霊夢はここが弱いのだ。

こしょこしょこしょ……

「…………ゃめ……ゃ……」
「おう、生きてたか」
 霊夢がうっすらと目を開ける。見りゃわかるでしょそしてその手を止めろ、と言う抗議の視線。
「なんで玄関で寝てるんだ。寝るんならせめても布団にしろ」
 少し安堵して、軽く返してみる。
 ほっとすると魔理沙の中にすこうしばかり悪戯心が芽生えてきた。

こしょこしょこしょ……

「!……っ……うぅ……っめ」
 かぼそいうめき声を上げ、身をよじって逃げようとする。
 が、どうも今の霊夢は思うように動けないらしい。
「っめて……ま……りさぁっ……あっ」
 むむ、やばいな。ちょっと楽しくなってきたぜ。こう、私の眠れる嗜虐性とかなんかその辺りが……
「――ク」
「……(ビクッ)……」
 魔理沙の表情を直視してしまった霊夢の顔がみるみる青ざめていく。魔理沙の中で変なスイッチが入った事に気付いたようだ。
 目つきと手つきが素敵に危うい彼女の腕からなんとか逃れようとするが、しかし成す術も無く組み伏されてしまう。
「ふ、うふ、うふふふふふふふ♪」
「……っ……!」

こしょこしょこしょ……

「ふっ! んん……いっ……はぅっ、あっ」
「まり……っあっ……っゃ、っあ……っ!」
「いっぁ……やっ、っはっ……かはっ、ぁ」
 第三者が見たら間違いなく誤解する、どころか弁解がきかない位に倒錯紙一重な痴態が三分も続いた頃には、霊夢は呼吸困難に陥っていた。
 なぜか魔理沙の息も荒くなっている。すごく楽しそうだ。
「霊夢! ここがいいのか!? 霊夢っ!」
「っはぁ……! ぁ……かはっ……ぐっ!」

どすどすどすっ!!!

 小気味のいい刺突音が響いた。
「………………かひゅー」
 頭から針を生やして涅槃する魔理沙と、最後の力を使い果たし昏倒する霊夢。
 死体が二つに増えた。


「あぁ、くすぐり責めに悶える霊夢ってのも中々にそそられてな。つい」
「声出して笑うような余力も無い人間を窒息させかけた、と」
「はっはっは」
「笑ってごまかすな」
 処変わって縁側にほど近い座敷。
 霊夢は布団の上で上半身を起こし、魔理沙の作った稗粥を受け取る。
「……なんで魔理沙がまだ居て、ご飯まで作ってるの?」
「あー、そろそろ餓えてるんじゃないかとは思ってたが、それ通り越して餓死しかけてた奴を放っとく訳にもいかんだろ。それに、霊夢が押し倒されてどっとはらいってパターンはもう何度か見てるからなぁ」
 パターンって何? と問う霊夢だが、魔理沙は笑いながら台所に戻っていく。

 梅干入りのお粥でひと心地つくと、横になる。
「……」
 起き上がる。
 障子戸を開けて縁側に出てみれば、相も変わらず雪で埋もれた裏庭。そしてまた吹雪き始めている空。霊夢はそれらを忌々しげに睨む。春になりさえすれば、ある程度は食べ物に不自由しないのに。また何者かの仕業かしらね。ああもう、明日になっても春じゃなかったら、適当な犯人を決め打ちで懲らしめに行こう。
 霊夢が物騒な思考に没入していると、
「おいおい霊夢、寒いってば。風邪ひくぞ」
 振り返れば、魔理沙が膳の仕度を整えていた。畳に部厚い桜材の板を置き、その上の焜炉に土鍋が懸かっている。
 考えていても仕様の無い事は瞬時に頭の隅に簀巻きにして放り投げ、いそいそと二人で鍋を囲む。
 もういいかな? と魔理沙が蓋を取る。
 鍋の中にはぶつ切りにした大根と油揚げの細切り、肉などがくつくつと煮えている。食べ頃の柔らかさになった大根の上に魔理沙がもう一度醤油を振る。素朴に、ごくりと喉を鳴らす霊夢。
 熱熱の大根らを椀に取り、たっぷりの煮汁と共にふうふう言いながら食べる。これが身体の中から暖めてくれるのだ。
ふぅふぅ、むぐむぐ、あちち、はふはふ……
 一心不乱に食べている霊夢をいかにも好ましげに見やりつつ、魔理沙は椀にこちらは七味唐辛子をかけ、熱燗をゆっくりと飲んでいる。
 ほどなく鍋の中身は殆どが霊夢の腹の中に納まった。

「魔理沙」
「ん~?」
 名残惜しそうに残り汁の底を箸で探りながら、霊夢。
「今更だけど、何の肉?」
「野兎。昨日偶々捕まえて、潰したばかりのホヤホヤだぜ」
「あそ。で、なんか不思議な味の茸は?」
「ああ、死にゃせんよ」
「……」
「冗談だ、冗談」
 笑って、くいと猪口をあおる。
 食うだけ食ってから心配するあたり、霊夢だなぁと魔理沙は思う。
 はぁ……と嘆息して霊夢。
「今年は冬が長いわね」
「ん? そうなのか。いま何月だ?」
「ひょっとして魔理沙の仕業じゃないよね? また妙な実験してるとか」
「天候操作は私の領分じゃないなぁ。そういうのはパチュリーが得意そうじゃないか」
「やっぱりアイツか。よし、明日あたりとっちめに行くか」
「……」
 今のは失言だったかな、と魔理沙は思った。
 考えたくもないのに霊夢がヴワルに殴り込む様を想像してしまう。

「さあ! 何企んでるんだか知らないけど、観念して春を返しなさい!」
「…………突然図書館に乱入して来て……さんざん暴れたあげくにそれ? 参考までに、何かしてるのが私だと思った根拠を聞かせて貰えるかしら?」
「日陰魔女が犯人だって、魔理沙が言ってた」

 うあ、地獄開幕って感じだな。
 なんとか霊夢の興味を他に移さねば。わりと移り気な奴だから面白そうな物を見せてやれば一分で今の事も忘れるだろ。
 と、失礼な事を考えている魔理沙の胸中など露知らず霊夢は、
「霊夢れーむ、ちょいと珍しい物があるんだが」
 と言った魔理沙の方にほいほいと興味を移す。
 魔理沙は猪口を置くと、食材が入っていた風呂敷包みの中からそれを取り出した。
 一抱えほどの大きさの金属の板。表面には一対の足型の模様が描かれている。
「これは『へるすめーたー』と言ってな。上に乗った者の重量を量って、質量に換算して表示する道具だ……って、香霖が言ってた」
 香霖堂から略奪してきたらしいそれは、体重計だった。
「はぁ……要するに重さを量るのね。魔理沙はやってみたの?」
「香霖には勝ったぜ。と言うよりあいつは軽過ぎだ」
 ちょっと得意げに言う。
 霊夢は今の言葉の意味を少し考えて……
「それって自慢になることなの?」
「さあ、知らん」
「……」
 やっぱり得意げに言う魔理沙。
「が、わざわざこんな手の込んだもの作って量るくらいだから、外では何かの指標にはなってるんじゃないか?」
 そして無いよりは有る方がいいだろう、といろいろ足りている魔法使いは言い切る。
「はぁ……そんなもん? って魔理沙、何も変わらないけど」
 うん? と魔理沙も体重計のデジタル表示窓を覗き込む。霊夢が上に乗っているが、その表示はゼロのままだった。
「壊れたか?」
 霊夢を退けて、魔理沙が乗る。今度は数字が表示された。
 もう一度霊夢が乗る。やはり表示はゼロのまま。
「あれー? おい、どうした!」
 魔理沙はしばらく体重計を振ってみたり、左斜め45度の角度で手刀を叩き込んだりしていたが、不意に何かを思いついた目で霊夢をまじまじと見る。
「……何? きゃ!?」
 いきなり魔理沙が霊夢を抱き上げた。
「ちょ、ちょっとっ、魔理沙っ」
「これは……」
 なにやら釈然としない、と言った風で霊夢を降ろす。
「何よ? 今の、いきなり」
「……」
 魔理沙はしばらく頬に手を当てて何かを考え込んでいる様子だったが、
「――霊夢は何で空飛べるんだ?」
「は?」
「お前の能力って重力制御か、それとも無重力あたりか?」
「え? そうなの?」
「おいおい……」
「っていうか、そんなこと考えたこともないし」
 魔理沙の頭の中に『重量=質量×重力加速度』という式が浮かんだ。
 重力制御なら起動型能力、無重力なら常在型能力だろう。霊夢本人がほとんど意識せずに飛んでいるんなら、無重力の方か?
 質量は在る。
 でも重力の影響を受けない霊夢の体重は、重量という概念を量るこの機械では量れないのか。
 なんだ、つまらん。
 ん? てことは何か? ふわふわ浮いてる状態が霊夢のデフォルトで、今こうして地面に立っているように見えるのは、滞空ならぬ「滞地」してるだけで浮かんでいることには変わりないのか。
「…………、……ん?」
「魔理沙?」
「あ? あ~霊夢、お前の体重は量るの無理。ゼロkgってことで納得してくれ」
「? ま、いいけど」
 あっさり興味を失った様子の霊夢。
 なんかみょんなことから、友人の以外な側面を垣間見てしまった。
 いや、前言撤回。
 以外でも何でもないな。今までの霊夢を見てきた私には納得できてしまう。
 そんな風につらつらと思考しながら、何気なく障子戸を開けて外に目をやる。 
 障子の隙間から見えた外の様子は、本格的に吹雪き始めていた。
「ありゃ、まいったな。こんななか飛ぶのは辛いぜ」
「泊まってく?」
「いいのか? いつもだったらとっとと帰れって……」

ずぼっ!

「えひゃい!?」
 霊夢が魔理沙の頭に刺さりっぱなしだった針を引っこ抜く。
「今日はいいの。ご飯作ってくれたんだし」
「やっぱり食い物かよ……」
 悶絶しながら魔理沙は、それじゃあ今度からは茶菓子くらい持ってくるか、と考えていた。


 多少冬が長引いたところで、さしたる変化も有ろう筈は無く。
 いつもの場所は、いつもの如くだらだらと平和な時が流れていく。






 はじめまして。
 SSを書くこと自体初めての体験なので、
 ちゃんとそれらしい形になっているか不安なのですが。

 紅魔郷と萃夢想しか遊んでいない若輩ですが、作品に触れて
 また、創想話を読んでいてふつふつと湧いてきた、
 自分の中で気になって仕方がなかった疑問を形にしてみました。
 霊夢の身体感覚とか(メンタル面の方はいろんな人によって深い考察がなされてますし)
 幻想郷の食事情とか(沿岸部との交流が絶無なら海産物――昆布・鰹節等、無いのかな。
 特に塩が無いと味噌も醤油も作れな……いや、幻想郷のことだから塩井戸の一つや二つあるのかも)
 腋とか(ああいう隙間があると意味も無く思いっきり手突っ込んでみたくなります)
 
 ほんの僅かでも無聊の慰みになれば幸いなのですが、
 ――精進します。
 ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。
hayami
コメント



1.シゲル削除
ほのぼのしてますねぇ♪
2.真澄命削除
読ませていただきました。普通にSSになってるので心配ないかと。特別な感動はなくともまったり出来てていいと思いますよ~
3.名無し削除
魔理沙ー!黒歴史、黒歴史!
4.名無し妖怪削除
刺さったまんまだったのかーΣ( ̄□ ̄)
ほのぼのー。