チルノちゃんが笑わないと決めたらしい。
最強になるための修行だとかでチルノちゃんの意志は固い。
「だから、もしあたいを笑わすことができたらあたいその人になんでもしてあげるわ!」
と森中に言いふらすのだから、私、大妖精としては本気を出さざるを得ない。
だって、ぶすっとしてるチルノちゃんと遊んでても面白くはないし、それになにより、大好きなチルノちゃんが「なんでもしてくれる」なんて夢のようだもの!
しかし結論から言うと、チルノちゃんは手強かった。さいきょーだった。
妖精達の「今日成功したいたずら話」や、三月精が三日三晩考えて作り上げた漫才を、ルナの能力でも会得したかのように表情変えずに聞き流す。
ルーミアちゃんが闇の力を発動させて「くっくっく」とか言いながら、木にぶつかって自滅しても笑わない。ぶつかった後に「きっきっき」なんて木を指差して笑い転げていたけれど、暖簾に腕押し。誘い笑いは成功しなかった。
そんなやり取りを見て、体当たりのギャグじゃだめだと鼻に割り箸を突っ込んでいた私は考えを改め、いっそ物理的手段に講じることにした。
こしょこしょ攻撃である。
「チルノちゃん勝負よ!」
敗北者達の退場の後に私はチルノちゃんに特攻。彼女の脇腹を全力でくすぐった! が、どうにもこうにも効かない。足の裏もてんでだめ。私なんかは羽をこしょこしょされるとくすぐったくてしょうがないのだけれど、チルノちゃんの羽は氷なせいで、くすぐる私の手がしもやけになってかゆい。
もっと、他にこの攻撃が効くところがあるはずだ。鼻の割り箸がひとりでに落ちる頃、私はある考えに至った。
「チルノちゃんて巫女服着たらきっとすごい似合うよ!」
なんておだててわざわざ博麗神社からくすねてきた巫女服をチルノちゃんに着させたのだ。かわいい。
準備は整った。チルノちゃんの腋は今や完全な無防備だ。
そう、足は靴下を履いていた。脇腹はワンピースとブラウスでガードされていた。しかし、この巫女服であれば人体急笑の一つ腋が完全にあらわになる。
こうなれば勝ったも同然。しかし、私はここで慢心しなかった。チルノちゃんの氷にやられた私の指先の機動力は全盛期の二分の一にも満たないだろう。だから、それを補って余る最終兵器――筆もくすねていたのだ。
真っ白でやわらかな筆がチルノちゃんの腋を舐める。優しくそっと、筆の毛先一本一本に私の意志が宿るように、ゆっくりとそして時に激しく動かす。
その間にも、空いているもう片方の手でチルノちゃんの脇腹をくすぐる。巫女服だから、お腹から手を入れれば直にくすぐるのも難しくない。すばやく動かすことはできないが、ゆっくり滑らかに指先が触れるか触れないかという触り方でチルノちゃんの脇腹をくすぐる。
どうだこの同時攻撃。こしょばいはずだ。耐えられまい。私だったらもう既に死んでいる。
さあ、笑え、笑うのよチルノちゃん!
が、ダメ。
チルノちゃんは虚ろな瞳で私の猛攻を冷ややかに見据えている。
どうして、どうして、こんなにも手強いの……
私の手から力という力が抜けていく。
何でもしてくれるっていうから頑張ったのに。いや、何でもするなんていうハードルの高い事を宣言するから、チルノちゃんの笑いに対する防御力が凄まじく上がっているのかもしれない。
覚悟か。
そうか、私にはそれが足りないのか。チルノちゃんを笑わせることが出来たら、お嫁さんにしてもらおうと思っていたけど、その逆、チルノちゃんを笑わせられなかった時のことを考えていなかった。
そもそも、こんな一方的なルールがおかしいのだ。弾幕ごっこだってもっとフェアなはずだ。私はいくらでも攻撃してもいいのに、チルノちゃんはなされるがまま。チルノちゃんは負けたらなんでもしてくれるのに、私が失敗した時のデメリットは何もない。
覚悟を――決めろ。
筆を投げ捨て、こぶしを握り、いとおしいチルノちゃんを真っ直ぐに見つめる。
「ねぇチルノちゃん。私、チルノちゃんを笑わせることが出来たらチルノちゃんのお嫁さんにしてもらおうと思ってたけど、もし明日までに笑わせられなかったら私その夢永遠に諦める!!」
「ぷっ。あはは。大ちゃん何言ってるの! もう、女の子同士で結婚なんてできるわけないじゃん。妖精は馬鹿だって聞いた事あるけど、ほんと大ちゃんったら馬鹿なのね! ……あ、しまった。全部じょーくか。あたいやられちゃった!」
しかし、筆やら服やら神社からパクって、大ちゃん生き残れるのかしら
巫女服チルノ借りていいですか?