その日、リリーは別れを告げに来た。
「レティ、そろそろ春よ」
「もうきちゃったんだ。今年は早いね」
リリーがレティを訪れた時、それが春の訪れとなる。
「久しぶりに会えたんだからもっと遊びましょうよ」
湖では氷の妖精達がはしゃいでいた。
「よしておくわ」
リリーは湖に目をやりながら答えた。
「ねぇリリー」
優しい声で話しかけるレティ。
「わたしに会うの楽しみにしてる?」
「私はただあなたに別れを告げに来るだけだから」
以前湖を見つめ続けるリリー。
「わたしのこと嫌い?」
その質問に一瞬彼女を見つめるも、また目線を下に向ける。
「考えたこともないわね」
「そっか」
レティも一瞬湖に目をやるも、すぐに彼女を見つめなおした。
「わたしはねリリーのこと大好きだよ。本当ならずっと一緒にいたい」
リリーはその瞳を見つめられなかった。
「無理なのはわかってるわ。わたし達は季節の変わり目でしか会えないのだから。でもね―」
「お願いだからもうやめて!」
リリーは我慢できなかった。
(どうしてそんなこと言うの。年に数回しか会えないとわかっているのに。愛し合えばただ悲しくなるだけなのに…)
その場を立ち去る彼女。
その日彼女は泣きつくした。
「起きろリリー」
そこには、黒い服を着て彼女に瓜二つの女性が立っていた。
「…あなたは」
「お前の『真』だ」
彼女が言うには、リリーの『正直な心』から生まれた存在らしい。
「なぁ素直になれよ」
「素直になれたらどれだけ楽か」
一つため息をつくリリー。
「じゃあ行ってくるわ」
リリーは春を告げに飛び立った。
うっすらと涙を浮かべながら…
しかし彼女は笑顔だった。
悲しみを誰にも悟られないように。
「みなさーん、はるですよー」