注意・この話は『続・黄泉帰りの物語』の続きです。そちらを読まないと話が続きません。
あと、オリキャラが出てきます。
ついでに、大分『上白沢 慧音』のキャラが(悪い意味で)壊れてます。
あと、見る人にとっては大変グロイかもしれません。
グロさ加減で言うと、指とか手とかが“あれ”されちゃうような話です。
嫌悪感とか感じる人はやめたほうがいいです。本当に。
以上の4つの注意を聞いて、全然平気の人だけご覧ください。
後ろから声が聞こえた。
今この場合の後ろとは、自分の体の真正面、即ちいま自分が向かおうとしていたところからだ。
ゆっくりと、ゆっくりと顔を正面に向けた。
そこには、少し前に死んだはずの死体が、
そして自分の首に手を伸ばしてきた生きた死体が、
あの、寺子屋の後ろで心配そうに慧音の家を見やっていた、少しだけ顔つきの怖い女性が、
藤原妹紅が、立っていた。
「ぇ……?」
「どうした?顔が引きつっているぞ?」
なんとも形容しがたい笑みを顔に貼り付けた妹紅が少年を見る。
「そんなに怖い顔をしなくても良いだろう?私はお前が心配でここまで来てやったのだから。まぁ、何事もなくここまでたどり着いたようだがな」
いつの間にか自分は墓の前まで来ていたらしい。
だがそれは何の喜びにもならない。むしろここまできてしまったという後悔があるだけである。
汗が、次から次へと体をつたう。
ひゅー、ひゅー、と喉奥から息が出る。
眼孔が震える。
どく、どく。
動悸が激しい。この前の“生きた死体”を見たときの何倍もの激しさ。
「ん、どうした?」
本能が告げる、この人は危険だ、と。
一歩一歩、後退していく、少年。だが、目は依然妹紅を捕らえたまま。
それでもゆっくりと離れていって、後一歩下がったら全力で逃げようとした矢先、自分が何かにぶつかったのを感じた。
「どうしたのだ?」
「けい……ね……せんせい?」
あの日と似たような状況。
前には死体がいて、後ろには慧音がいる。
違うのは、死体が死体ではないということと――――
――――慧音の姿が、いつもと違う、ということである。
いつもかぶっている帽子は今はなく、その代わりに天に向かって延びる二本の角。片方にはリボンがついている。
そして、いつもより長い爪。
いつもより、長い牙。
いつもと違う、鋭い目つき。
「……ぁ」
「ああ、驚かせてしまったか。悪いな」
そういう慧音の口調こそ何時もどおりだったが、目は鋭いまま。
「ふふ、慧音。そんな姿だから怯えられているぞ?」
「そういうな、妹紅。私だって好きで怯えさせてるわけじゃないんだから」
何の気なしの会話が、恐ろしい。
少年にとっての今の会話は、鬼が自分を見てどの部分から食べるか、と言ってるようなものなのであったから。
そして、そんな少年の考えは、まさしくあたることとなる。
「だって、怯えさせたら、食べられないだろう?」
「ぇ……?」
最早少年にとっては何がなんだか分からなかった。
食べる?
誰が?
誰を?
「そうか、そうだな。いや悪かったな、慧音」
「分かってくれればいい」
じりじりと、じりじりと少年に攻め寄る2人。
少年にとっては進めないし、戻れない状況下にある。
そんな少年の怯えを感じ取った慧音は、少年に一つずつ話しかけた。
「なあ、お前が感じていた違和感。それを解いてあげようか?」
「……ぅぁ」
「ふふ、怯えなくていい。お前は私の話を聞くだけでいいのだから。……いいか、まずお前が見た死体。それは紛れもなくここにいる『藤原妹紅』だ。
妹紅は、不老で不死でな。不死という事は、あらゆる死につながる根源が無いということになる。つまり妹紅に“出血”はありえないんだよ」
じり……
「そして不死だから崖から落ちても死なない。勿論心臓を刺されても死なない。だからお前が見た“生きた死体”は最初から死んでなどいなかったのさ」
じり……じり……
「そして何故、お前が見た死体と私の家を見ていた妹紅が繋がらなかったのか。それは私の能力にある。
私の能力は『歴史を食う』能力。これで、『妹紅が死体として発見された』歴史を食べたのさ。とはいっても、人々に浸透してしまう歴史ほど、効果が発揮されるのが遅い。
だから忘れるのが早い人から遅い人までたくさんいた。しかし私が最も隠蔽したかった『妹紅』と言う存在は、見事私に食われたのさ」
じり……じり……じり……
「おいおい、それじゃまるで私が慧音に食べられたみたいじゃないか」
「すまないすまない……、別にそういうことじゃないんだ。ただ、皆が死体と妹紅が繋がらないようになったのは事実だからな。
そういうわけで、お前が妹紅を見てもさして驚かなかったのもそういうわけだ」
じり…………
「じゃあ、何で私はそんな面倒なことをしたと思う?……答えはとっても単純だ」
じり………………ぴた
「お前を、食うためだよ」
がぶり、ぶち。
「……ぁ……ぇ?」
少年は気がつくと、自らの左腕が、肩からごっそりとなくなってるのに気がついた。
「ひ…………ぅああああああああぁぁああぁぁあああ!!!!!」
その無くなった左腕は、今は慧音が持っていた。
「ああ、やっとだ。やっと**れる。今宵の満月までずっと我慢していたんだ、お前を**るのを」
そう言って慧音は少年の左腕“だったもの”の親指の第一関節に歯を当てると、
きりきりきり……ぶち
そのまま歯でかじりとった。
むしゃむしゃ
と、恍惚の表情を浮かべる慧音。それを見る妹紅は、若干の不快感を表情に表していた。
「ああ、この味。これこそが私の求める味!なんと、なんと美味なことだろうか!」
慧音は、今度は左腕の人差し指を右手で持ち、爪をつまんで、ぐいと反対方向に思いっきりそらせて引き抜くと、今度は大三関節のところに歯を当ててぶちりとかじった。
むしゃむしゃむしゃ
「はぁ……美味しい」
きりきり……ぶちり
むしゃむしゃ
きりきり……ぶちり
むしゃむしゃむしゃ
きりきり
むしゃむしゃ
きりきり
むしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃごくん
と、少年の左腕を全て*べ終えて、しばらく余韻に浸る慧音。
少年は最早逃げると言う考えは捨て、ただ痛さだけが残りながら、ぼんやりと満月を見ていた。
「やはり、お前は格段に美味しい。これだから歴史に興味があるものは大好きなのだ。そのものの肉は特別に美味しいのだから」
口から血を垂らしながら、夢心地で言う慧音。
その言葉の意味を理解できない少年は、ただ『ああ、ここで死ぬんだな』としか思っていなかった。
「だから言ったろ?『もうすぐだぞ』ってな」
そこで少年は理解した。そうか、『もうすぐ』ってのは、『もうすぐで僕が死ぬ』って事だったのか。
それとも、もうすぐで慧音先生がこうするよ、ってことだったのかな?……そんなことを考えても、もう何の意味も無かったが。
「ありがとう少年。これで私は次の満月まで食欲を抑えることができる。……そしてさよならだ」
そういって、慧音は少年の右目の下と頭頂部に歯を当てて―――――――――
「夢想封印!」
そこで慧音は真横に吹っ飛んだ。
「慧音!」
妹紅が慧音に駆け寄る。
「さぁ、今のうちに早くこっちに来なさい!」
声の主が誰だか分からない。がしかし、少年は『ここで動かねば、死んでしまう』と言うのを感じ取り、おぼつかない足取りで声の元へと走り寄る。
「お前……巫女か!」
「えぇ、そうよ。悪い妖怪を懲らしめる、巫女」
そういって両手に護符を持つ巫女の名は、博麗霊夢。博麗神社の巫女であり、また妖怪退治の名を持つものでもある。
「それにしても、人間に友好的だと思ってたあんたらが、まさかこんなことをしてたなんて信じられないわね」
護符を前に出しけん制しながらしゃべる巫女。それに対して。
「ふん、別に友好的なわけじゃないさ。ただ慧音が人里でお世話になってるからこっちもお世話してるだけだ」
「その慧音が、こんな行動をしていたなんてね」
「言ったろ、慧音は半人半妖だ。半分とはいえ、妖怪なら人肉を口にしなければならない。これは自然の摂理だ」
「でも半分人間なんでしょ?どこぞの半人半霊は人間食だけで生活してるわよ?」
「それとこれとは話が別だろう」
これは話し合いで解決できそうに無いな。
霊夢がそう思うと、仕方なしに実力行使に移ろうとして。
「慧音?」
そこで先ほどから慧音が動かないことに気がついた。いくら霊夢特製のスペルカードだからといって、そこまでひどいダメージは無いはずだ。
だとすると何故動かない?霊夢は不思議に思った。だが、不思議に思ったのはどうやら霊夢だけではなかったらしい。
「慧音!慧音!返事をしてくれ!!」
どうやら妹紅のほうも動かない慧音を見てあせってるらしい。良くは分からないがこれはチャンスだと思った。
「今のうちに逃げるわよ」
「……え、あ」
霊夢は少年の右腕を引いて林の中を走る。一瞬追ってくるかと思ったが、妹紅は慧音のことで頭がいっぱいらしく、それどころではないらしい。
結局、霊夢は博麗神社に戻るまで、誰に襲われることも無く無事に戻ることができたのだった。
* * *
「いや、なんとなくいやな予感がしてあそこらへんを散歩してたら、偶然あなたに会えてよかったわ。
じゃなきゃ、今頃貴方この世にはいないわよ?」
「……」
少年は無反応であった。
それも当然と言えば当然で、先ほどまで愛恋していたものが急に自分を殺そうとしたのだから。
勿論、霊夢もそんな少年の内心は分かってるつもりだったので、あえて何も追求しなかったのだが。
「まあとりあえず、布団が一枚しかないから私と一緒に寝ることになるけど、それでもいいわね?」
「……はい」
反応有。
それが分かっただけでも霊夢は大分肩の荷が降りた気分になった。これでずっと放心されてたらこっちまで調子が狂ってしまう、そう思っていたからだ。
さて、布団に入って幾許(いくばく)かの時が過ぎ、日が昇ると、少年は大分落ち着きを取り戻したようだった。
それを見た霊夢も少しだけ安心し、そしていつもは迷惑がるのだが、魔理沙やアリス等を呼び、少年を紹介して少しだけ賑やかにすごした。
そうしていくうちに、少年も段々と調子を取り戻し、いつもの活発な少年に戻りつつあった。
なくなった片方の腕には、霊夢が『本当に応急処置よ?』と言って痛み止めを塗ってから包帯を締めた。
痛みは引いたのだが、やはり外見が不恰好なのは否めない。
一応霊夢が『香霖堂にいったら何かあるかもよ?』と勧めたのだが、少年はその勧めを断った。
少年にとっては、この傷は自らの心にある傷と同等と考えていたのだ。そのため、あえて治さないままでいた。
治ることの無い心の傷を表面上に出すことで、少年はずっと記憶にとどめておきたかったのだ。何故そうまでして覚えていたいのかは、当人にも分からないようではあったが。
そして、あの出来事から約31日後。満月。
霊夢は『ちょっと紅魔館までいってくる』といって神社を出て行ってしまった。
一応簡単な結界はしてあるので、そこらの妖怪は入ってこれないことになっていた。
少年は一人で布団を敷き、一人で布団の中に入った。
そしてしばらく目をつぶっていると、境内のほうから音がした。
こつ
それは、人が歩くときの音。
最初、少年は霊夢が来たのかと思って気に留めなかった。
こつ
しかし、どうも音から察する歩き方がおかしい。
いつもの霊夢なら、たたた、とこちらへ向かうはずだ。しかし、この歩き方はゆっくりとこちらへ向かってきている歩き方だ。
まるで――――――まるで、そう、こちらに恐怖を植えつけるように。
「れ、霊夢さん。分かりました。十分怖いですから、そういう冗談はやめてください」
少年が足音の主に語りかける。
しかし返事は無い。
こつ
そしてまた一歩こちらに向かって歩きだしてきた。
「も、もしかして魔理沙さんですか!?」
こつ
「アリスさん!?アリスさんなんですよねぇ!?お願いですからやめてください!!」
こつ
「もう……誰でもいいからやめてください!!!!」
こつ
そこで少年は布団を頭からかぶった。その間にも足音は絶えずこちらに向かって歩き出している。
こつ
こつ
こつ
こつ
音が段々と大きくなってくる。それは近づいてきてることに他なら無い。……そして、その音が止まった。
こつ……
少年は布団の中で、少し前のことを思い出していた。あの時、霊夢さんにやられて動かなかった慧音先生。
あれは、多分本当に“動かなかった”のだろうと思う。
流石の慧音先生でも霊夢さんを相手にするのは危険な行為。だったら、霊夢さんのいないときを虎視眈々と狙っていたのではないか。そんな仮説が頭をよぎる。
少年はしばらくがたがたと怯えていたが、音がやんで大分経っても何も起こらないことを不思議に感じて布団からゆっくりと顔を出した。
す
途端、障子がゆっくりと空けられた。
少年は恐ろしくなったが、そこから目を背けられない。
すすす
すすすすす
そして、とうとう障子の隙間から白い髪の毛と2本の角が露になって―――――
「みぃつけた」
あと、オリキャラが出てきます。
ついでに、大分『上白沢 慧音』のキャラが(悪い意味で)壊れてます。
あと、見る人にとっては大変グロイかもしれません。
グロさ加減で言うと、指とか手とかが“あれ”されちゃうような話です。
嫌悪感とか感じる人はやめたほうがいいです。本当に。
以上の4つの注意を聞いて、全然平気の人だけご覧ください。
後ろから声が聞こえた。
今この場合の後ろとは、自分の体の真正面、即ちいま自分が向かおうとしていたところからだ。
ゆっくりと、ゆっくりと顔を正面に向けた。
そこには、少し前に死んだはずの死体が、
そして自分の首に手を伸ばしてきた生きた死体が、
あの、寺子屋の後ろで心配そうに慧音の家を見やっていた、少しだけ顔つきの怖い女性が、
藤原妹紅が、立っていた。
「ぇ……?」
「どうした?顔が引きつっているぞ?」
なんとも形容しがたい笑みを顔に貼り付けた妹紅が少年を見る。
「そんなに怖い顔をしなくても良いだろう?私はお前が心配でここまで来てやったのだから。まぁ、何事もなくここまでたどり着いたようだがな」
いつの間にか自分は墓の前まで来ていたらしい。
だがそれは何の喜びにもならない。むしろここまできてしまったという後悔があるだけである。
汗が、次から次へと体をつたう。
ひゅー、ひゅー、と喉奥から息が出る。
眼孔が震える。
どく、どく。
動悸が激しい。この前の“生きた死体”を見たときの何倍もの激しさ。
「ん、どうした?」
本能が告げる、この人は危険だ、と。
一歩一歩、後退していく、少年。だが、目は依然妹紅を捕らえたまま。
それでもゆっくりと離れていって、後一歩下がったら全力で逃げようとした矢先、自分が何かにぶつかったのを感じた。
「どうしたのだ?」
「けい……ね……せんせい?」
あの日と似たような状況。
前には死体がいて、後ろには慧音がいる。
違うのは、死体が死体ではないということと――――
――――慧音の姿が、いつもと違う、ということである。
いつもかぶっている帽子は今はなく、その代わりに天に向かって延びる二本の角。片方にはリボンがついている。
そして、いつもより長い爪。
いつもより、長い牙。
いつもと違う、鋭い目つき。
「……ぁ」
「ああ、驚かせてしまったか。悪いな」
そういう慧音の口調こそ何時もどおりだったが、目は鋭いまま。
「ふふ、慧音。そんな姿だから怯えられているぞ?」
「そういうな、妹紅。私だって好きで怯えさせてるわけじゃないんだから」
何の気なしの会話が、恐ろしい。
少年にとっての今の会話は、鬼が自分を見てどの部分から食べるか、と言ってるようなものなのであったから。
そして、そんな少年の考えは、まさしくあたることとなる。
「だって、怯えさせたら、食べられないだろう?」
「ぇ……?」
最早少年にとっては何がなんだか分からなかった。
食べる?
誰が?
誰を?
「そうか、そうだな。いや悪かったな、慧音」
「分かってくれればいい」
じりじりと、じりじりと少年に攻め寄る2人。
少年にとっては進めないし、戻れない状況下にある。
そんな少年の怯えを感じ取った慧音は、少年に一つずつ話しかけた。
「なあ、お前が感じていた違和感。それを解いてあげようか?」
「……ぅぁ」
「ふふ、怯えなくていい。お前は私の話を聞くだけでいいのだから。……いいか、まずお前が見た死体。それは紛れもなくここにいる『藤原妹紅』だ。
妹紅は、不老で不死でな。不死という事は、あらゆる死につながる根源が無いということになる。つまり妹紅に“出血”はありえないんだよ」
じり……
「そして不死だから崖から落ちても死なない。勿論心臓を刺されても死なない。だからお前が見た“生きた死体”は最初から死んでなどいなかったのさ」
じり……じり……
「そして何故、お前が見た死体と私の家を見ていた妹紅が繋がらなかったのか。それは私の能力にある。
私の能力は『歴史を食う』能力。これで、『妹紅が死体として発見された』歴史を食べたのさ。とはいっても、人々に浸透してしまう歴史ほど、効果が発揮されるのが遅い。
だから忘れるのが早い人から遅い人までたくさんいた。しかし私が最も隠蔽したかった『妹紅』と言う存在は、見事私に食われたのさ」
じり……じり……じり……
「おいおい、それじゃまるで私が慧音に食べられたみたいじゃないか」
「すまないすまない……、別にそういうことじゃないんだ。ただ、皆が死体と妹紅が繋がらないようになったのは事実だからな。
そういうわけで、お前が妹紅を見てもさして驚かなかったのもそういうわけだ」
じり…………
「じゃあ、何で私はそんな面倒なことをしたと思う?……答えはとっても単純だ」
じり………………ぴた
「お前を、食うためだよ」
がぶり、ぶち。
「……ぁ……ぇ?」
少年は気がつくと、自らの左腕が、肩からごっそりとなくなってるのに気がついた。
「ひ…………ぅああああああああぁぁああぁぁあああ!!!!!」
その無くなった左腕は、今は慧音が持っていた。
「ああ、やっとだ。やっと**れる。今宵の満月までずっと我慢していたんだ、お前を**るのを」
そう言って慧音は少年の左腕“だったもの”の親指の第一関節に歯を当てると、
きりきりきり……ぶち
そのまま歯でかじりとった。
むしゃむしゃ
と、恍惚の表情を浮かべる慧音。それを見る妹紅は、若干の不快感を表情に表していた。
「ああ、この味。これこそが私の求める味!なんと、なんと美味なことだろうか!」
慧音は、今度は左腕の人差し指を右手で持ち、爪をつまんで、ぐいと反対方向に思いっきりそらせて引き抜くと、今度は大三関節のところに歯を当ててぶちりとかじった。
むしゃむしゃむしゃ
「はぁ……美味しい」
きりきり……ぶちり
むしゃむしゃ
きりきり……ぶちり
むしゃむしゃむしゃ
きりきり
むしゃむしゃ
きりきり
むしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃごくん
と、少年の左腕を全て*べ終えて、しばらく余韻に浸る慧音。
少年は最早逃げると言う考えは捨て、ただ痛さだけが残りながら、ぼんやりと満月を見ていた。
「やはり、お前は格段に美味しい。これだから歴史に興味があるものは大好きなのだ。そのものの肉は特別に美味しいのだから」
口から血を垂らしながら、夢心地で言う慧音。
その言葉の意味を理解できない少年は、ただ『ああ、ここで死ぬんだな』としか思っていなかった。
「だから言ったろ?『もうすぐだぞ』ってな」
そこで少年は理解した。そうか、『もうすぐ』ってのは、『もうすぐで僕が死ぬ』って事だったのか。
それとも、もうすぐで慧音先生がこうするよ、ってことだったのかな?……そんなことを考えても、もう何の意味も無かったが。
「ありがとう少年。これで私は次の満月まで食欲を抑えることができる。……そしてさよならだ」
そういって、慧音は少年の右目の下と頭頂部に歯を当てて―――――――――
「夢想封印!」
そこで慧音は真横に吹っ飛んだ。
「慧音!」
妹紅が慧音に駆け寄る。
「さぁ、今のうちに早くこっちに来なさい!」
声の主が誰だか分からない。がしかし、少年は『ここで動かねば、死んでしまう』と言うのを感じ取り、おぼつかない足取りで声の元へと走り寄る。
「お前……巫女か!」
「えぇ、そうよ。悪い妖怪を懲らしめる、巫女」
そういって両手に護符を持つ巫女の名は、博麗霊夢。博麗神社の巫女であり、また妖怪退治の名を持つものでもある。
「それにしても、人間に友好的だと思ってたあんたらが、まさかこんなことをしてたなんて信じられないわね」
護符を前に出しけん制しながらしゃべる巫女。それに対して。
「ふん、別に友好的なわけじゃないさ。ただ慧音が人里でお世話になってるからこっちもお世話してるだけだ」
「その慧音が、こんな行動をしていたなんてね」
「言ったろ、慧音は半人半妖だ。半分とはいえ、妖怪なら人肉を口にしなければならない。これは自然の摂理だ」
「でも半分人間なんでしょ?どこぞの半人半霊は人間食だけで生活してるわよ?」
「それとこれとは話が別だろう」
これは話し合いで解決できそうに無いな。
霊夢がそう思うと、仕方なしに実力行使に移ろうとして。
「慧音?」
そこで先ほどから慧音が動かないことに気がついた。いくら霊夢特製のスペルカードだからといって、そこまでひどいダメージは無いはずだ。
だとすると何故動かない?霊夢は不思議に思った。だが、不思議に思ったのはどうやら霊夢だけではなかったらしい。
「慧音!慧音!返事をしてくれ!!」
どうやら妹紅のほうも動かない慧音を見てあせってるらしい。良くは分からないがこれはチャンスだと思った。
「今のうちに逃げるわよ」
「……え、あ」
霊夢は少年の右腕を引いて林の中を走る。一瞬追ってくるかと思ったが、妹紅は慧音のことで頭がいっぱいらしく、それどころではないらしい。
結局、霊夢は博麗神社に戻るまで、誰に襲われることも無く無事に戻ることができたのだった。
* * *
「いや、なんとなくいやな予感がしてあそこらへんを散歩してたら、偶然あなたに会えてよかったわ。
じゃなきゃ、今頃貴方この世にはいないわよ?」
「……」
少年は無反応であった。
それも当然と言えば当然で、先ほどまで愛恋していたものが急に自分を殺そうとしたのだから。
勿論、霊夢もそんな少年の内心は分かってるつもりだったので、あえて何も追求しなかったのだが。
「まあとりあえず、布団が一枚しかないから私と一緒に寝ることになるけど、それでもいいわね?」
「……はい」
反応有。
それが分かっただけでも霊夢は大分肩の荷が降りた気分になった。これでずっと放心されてたらこっちまで調子が狂ってしまう、そう思っていたからだ。
さて、布団に入って幾許(いくばく)かの時が過ぎ、日が昇ると、少年は大分落ち着きを取り戻したようだった。
それを見た霊夢も少しだけ安心し、そしていつもは迷惑がるのだが、魔理沙やアリス等を呼び、少年を紹介して少しだけ賑やかにすごした。
そうしていくうちに、少年も段々と調子を取り戻し、いつもの活発な少年に戻りつつあった。
なくなった片方の腕には、霊夢が『本当に応急処置よ?』と言って痛み止めを塗ってから包帯を締めた。
痛みは引いたのだが、やはり外見が不恰好なのは否めない。
一応霊夢が『香霖堂にいったら何かあるかもよ?』と勧めたのだが、少年はその勧めを断った。
少年にとっては、この傷は自らの心にある傷と同等と考えていたのだ。そのため、あえて治さないままでいた。
治ることの無い心の傷を表面上に出すことで、少年はずっと記憶にとどめておきたかったのだ。何故そうまでして覚えていたいのかは、当人にも分からないようではあったが。
そして、あの出来事から約31日後。満月。
霊夢は『ちょっと紅魔館までいってくる』といって神社を出て行ってしまった。
一応簡単な結界はしてあるので、そこらの妖怪は入ってこれないことになっていた。
少年は一人で布団を敷き、一人で布団の中に入った。
そしてしばらく目をつぶっていると、境内のほうから音がした。
こつ
それは、人が歩くときの音。
最初、少年は霊夢が来たのかと思って気に留めなかった。
こつ
しかし、どうも音から察する歩き方がおかしい。
いつもの霊夢なら、たたた、とこちらへ向かうはずだ。しかし、この歩き方はゆっくりとこちらへ向かってきている歩き方だ。
まるで――――――まるで、そう、こちらに恐怖を植えつけるように。
「れ、霊夢さん。分かりました。十分怖いですから、そういう冗談はやめてください」
少年が足音の主に語りかける。
しかし返事は無い。
こつ
そしてまた一歩こちらに向かって歩きだしてきた。
「も、もしかして魔理沙さんですか!?」
こつ
「アリスさん!?アリスさんなんですよねぇ!?お願いですからやめてください!!」
こつ
「もう……誰でもいいからやめてください!!!!」
こつ
そこで少年は布団を頭からかぶった。その間にも足音は絶えずこちらに向かって歩き出している。
こつ
こつ
こつ
こつ
音が段々と大きくなってくる。それは近づいてきてることに他なら無い。……そして、その音が止まった。
こつ……
少年は布団の中で、少し前のことを思い出していた。あの時、霊夢さんにやられて動かなかった慧音先生。
あれは、多分本当に“動かなかった”のだろうと思う。
流石の慧音先生でも霊夢さんを相手にするのは危険な行為。だったら、霊夢さんのいないときを虎視眈々と狙っていたのではないか。そんな仮説が頭をよぎる。
少年はしばらくがたがたと怯えていたが、音がやんで大分経っても何も起こらないことを不思議に感じて布団からゆっくりと顔を出した。
す
途端、障子がゆっくりと空けられた。
少年は恐ろしくなったが、そこから目を背けられない。
すすす
すすすすす
そして、とうとう障子の隙間から白い髪の毛と2本の角が露になって―――――
「みぃつけた」
少年の腕の怪我がめちゃくちゃ気になったわけだが
神社に行ってからはなんかスルーされてて・・・
てっきり慧音は歴史を喰って終わりかと思ってたらよもやガチで食べるとは。。。
…………関係ないことでしたね。自分は少年が救出された後満月では無くなっているはずだと感じたのですが、むしろ慧音さんは人間形でも飢えがあったのでしょうか?
最近ホラーなんて見たり読んだりしてなかったので良かった。やっぱホラーはこうでなくちゃ。
それとそもそも不特定多数の人間が見る場所ですから、個人の勝手な注意書きでそれを守らない人が悪いという態度はどうかと思います。
>少年の腕の怪我がめちゃくちゃ気になったわけだが
神社に行ってからはなんかスルーされてて・・・
あ、補足し忘れてました。
すみません。……一応追記しておきましたが、自分の不注意でした、すみません。
>逢魔さん
えーと、注意書きが簡潔だったため内容を見て後悔した、ということでしょうか?
それでしたら申し訳ありません、私の不注意でした。
一応強化してみましたけど、どうでしょうか?もう少し強化する必要がありましたらお伝えお願いします。
>間の使いすぎで話のリズムがかなりよろしくないです。
それとそもそも不特定多数の人間が見る場所ですから、個人の勝手な注意書きでそれを守らない人が悪いという態度はどうかと思います。
了解しました。前者についてはこれからの私の作品で改善していくよう勤めていきたいと思います。
後者につきましては本当に申し訳ありません。
今後はこういったことを絶対無いようにしていきます。
注意書きを見て不快な気分になった方、すみませんでした。
なのでその部分を削除させていただきました。
そして、今回の話を見て楽しんでくださった方、ありがとうございます。
今後はいい所は伸ばして、悪いところは改善していきたいと思います。
長くなってしまいまして、申し訳ありませんでした。
それでは、報告ありがとうございました。
でも・・・・・あり、だな。
ただ、このくらいの分量なら、一つにまとめても読めたかも。
今回は怖さを際立たせようとしてこういった感じになりました。
怖いと思ってくだされば私の目論見は成功したわけです。ありがとうございます。
3つを一つにですか。
今後長編を書くことがあったら検討してみます。
それでは、感想ありがとうございました。