※少々グロテスクな表現がありますので注意してください。
くるい くるえど おとなきしっこく やみにまどうは おぼろづき
「姉さまッッ!!姉さまッッ!!!」
歩くたびに足の下で上がる飛沫。びちゃらびちゃら。液体は少女の踝にまで到達している。
部屋の中に充満する死臭が、噎せ返るほどの赤が、少女を啼かせる。
それを意に介さず少女はステップを踏んで姉さまと叫ぶ。
「お歌を教えてッ!!姉さまッ!!」
その声は酷く明るく、この部屋にはあまりにも似つかわしくないものだった。
呻り声にも似たそのか細くも甘い声音は部屋に満ちている。
手についた赤い液体を拭うことなく、少女は踊るように部屋の中を巡回する。
だらりと力なく横たわる身体を撫でながら、嗤った。
数分前には『生』があり『メイド』と言われていた悪魔達だ。
その首やら、腕やらを拾いながら、赤に身を浸す。
「ふふ、ねぇねぇねぇ、歌って欲しいの?ねぇねぇ?」
少女の脳裏に焼きついているのは、むかしむかしの旋律。
見ている、少女は、歌う少女を。
『ねえさま』と呼ぶと、答えの代わりに音がやってくる。
綺麗に微笑んで『姉さま』が歌うものだから、少女も嬉しくなってリズムを取った。
この部屋にやってくるヒトの形のいきものは、皆簡単に壊れてしまう。
皆弱くて紅くなってしまう。退屈をしのぐのも億劫だ。
誰か歌って、遊んで、だったらその『誰か』は『姉さま』が良い。
薄れてしまった旋律と『姉さま』を思い出したい。
うとうとと少女は悪魔の臓物を引きずり出すのを止めた。
そのままゆっくり大きな熊のぬいぐるみを手繰り寄せ、柔らかなそれに顔をうずめる。
(明日が、明日が永遠の終わりでありますように。)
(もう悪魔のメイドたちは要らないから)
(起こしに来るのは姉さまでいて)
目覚めても目覚めても、赤い夢が続く無限。
495年を永遠と名づけたくない少女の溜息。
ていうあれ、いろいろ変わりすぎ
あれが正しい資料とはいえないんじゃないか?