「お前、お茶は好きか?」
「いきなりどうしたの」
普通の魔法使いの少女、霧雨魔理沙が唐突にそういって話を切り出したのは秋も半ばとなり、空気が少しだけ冷たさを帯び始めたそんな時期だった。
「いやぁ…実はな、ここに来る前にちょっと用事で町によったんだがな。そこでこんなものを配ってたんだ」
「うん?」
魔理沙がそういってポケットから取り出した一枚の折りたたまれたチラシを紅白の巫女服の少女、博麗霊夢は広げてみてみた。
「えーっと…喫茶店ジャック開店記念セール、今ならお茶とケーキのセットがお得です?」
「だそうだ。せっかくだし行ってみないか」
「いいけど、魔理沙のおごりよね?」
「なんでそうなるんだ?」
「普通誘ったほうがおごるとか言わない?」
「いうか!いや…いいぜ、ただし弾幕ごっこで私に勝ったらだ!!」
「いいわよそれで、私が負けたら私が魔理沙におごってあげる、それじゃ……さっさとはじめましょうか」
結果……見事なまでに霊夢にぼろ負けした魔理沙が、悔し涙をこらえつつおごる事になった。
目的の喫茶店は赤レンガの建物で、扉を開けるとドア鈴が耳に心地よい音を響かせて霊夢と魔理沙の二人を出迎えた。
店の中はやさしい夕日のような照明と、店のすみに置かれた蓄音機がピアノの音色をゆっくりと流し、穏やかで暖かな雰囲気を作っていた。
ただ。開店したばかりでチラシを配っていたわりには客がほとんど居らず。どこにでも座れそうなくらい空いていた。
「ふうん、悪くはない雰囲気のお店ね」
「いらっしゃいませ、ありがとうございます」
そうってカウンターから店の雰囲気と同じ穏やかな笑みを浮かべ二人に挨拶したのは、おそらくこの店のマスターであろう歳は三十くらいの中年の男だった。
「えーっと…私はマスターのお勧めセットってやつを頼む」
いつの間にか、開いている席に座っていた魔理沙がメニューをざっと見た後、ほとんど迷うことなく注文を決める。
霊夢も魔理沙の向かいの席に座るとメニューを一通り見た後、魔理沙と同じ注文をした。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」とマスターは応えると、注文の品をてきぱきと用意し始める。
二人がそんな様子を眺め始めて、それほどかからない内に、注文したものがテーブルの上に運ばれてきた。
そしてテーブルの上に並んだ物を見て「あれ?」と魔理沙は疑問の声を上げた。
「マスター、私たち同じものを頼んだはずなんだけど、着たものが違うぜ?」
「お二人が頼んだのは〝お勧めセット〟でございましょう、それは、私が、それを注文したお客一人一人にお勧めのものを出すというものでございまして、故に、お二人の前に並んでいるのはそれであっているのですよ」
「ふうん……で、そういうのはどういう基準で決めてるんだ?」
マスターは人差し指を一本立てて口の前に持ってくると「それは秘密です」と言ってはぐらかした。
「じゃあ仕方ない」と魔理沙もそれ以上追求することはなく、目の前のお茶とケーキを楽しむことにした。
「これは…普通に美味いな」
「そうね。お茶もいい葉っぱ使ってちゃんとした手順で淹れてるからおいしいわ」
それから霊夢と魔理沙の二人は談笑を交えつつ思っていた以上においしかったお茶とケーキを楽しんで帰った。
「いやはや、予想以上に美味かったな」
帰り道、魔理沙は上機嫌で話しながら歩いていた。
「そうね…あの味を維持できるようなら、たまには一緒に行ってもいいわね」
「お、珍しいな霊夢が、そういうこと言うのも」
「そう?ま、あなたの機嫌を完璧に良くしちゃうくらいだから、私も少し影響を受けてるのかもね」
「ん?何のことだ?」
「なんでもないわ」
そう言った霊夢もまた。口元に笑みを浮かべ機嫌がよさそうだった。
その夜、扉にはすでに「閉店」の看板がかかっていたが霊夢は気にせずに扉を叩いた。少しの間の後、扉が開き、マスターが中から出てくる。「おや…忘れ物か何かでしょうか?」
マスターは霊夢が店に来ていたことをちゃんと覚えていたらしく、そう尋ねてきたが。
霊夢は首を横に振り、
「違うわ、あなたに用があってきたの」
そういった霊夢の眼はとても真剣なもので、マスターは「立ち話もなんですから」と店の中に入れて椅子に座らせた。
「それで、私に用とは?」
マスターは本当は霊夢がくることが分かっていたかのように、落ち着いた様子で霊夢と自分の分のお茶淹れ、霊夢の前に置くと、霊夢の向かい側に座った。
「あまり長居する気はなかったけど…まあいいわ、ありがたく頂戴するわね」
そういって出されたお茶を飲む霊夢、マスターはそれを見て、うれしそうに微笑んでいた。
そんなマスターの様子とお茶の味をみて霊夢は確信したようにつぶやいた。
「ふむ……やっぱり悪い〝妖怪〟じゃないみたいね」
「おや…やはりばれていたのですね」
マスターはゲームに負けた子供のように残念そうな笑みを浮かべてうなずいた。
「別に退治しに来たわけじゃないわ、ただ一つだけ確認しておきたかっただけ」
「何をですか?」
「あなた何者?悪意とかそういう邪気は感じないから気にしてなかったんだけど、外で何が〝幻想〟になってあなたが生まれたのかわからないのよね。だからあなたに聞きに来たってわけ」
「なるほど、私は――〝店の心〟とでも言いましょうか、それを生きがいとして接客する店員の心、それが外では珍しいものとなってしまった為に気がついたら幻想郷に流れ着いていたものなんですよ」
「そんなものまで幻想になっちゃうなんて、世も末ね」
「そうですねぇ」
〝外〟で何が幻想になったのかを聞き、お茶を飲み終えた霊夢は、マスターにこんな夜更けに来たことを謝ると、星空を見上げながらゆっくりと歩く、
「……〝幻想〟が〝幻想〟でなくなっちゃう日も近いのかしらねぇ……」
そんなことを一人ごちながら霊夢は夜の散歩を少しだけ楽しみながら神社へと帰っていった。
「いきなりどうしたの」
普通の魔法使いの少女、霧雨魔理沙が唐突にそういって話を切り出したのは秋も半ばとなり、空気が少しだけ冷たさを帯び始めたそんな時期だった。
「いやぁ…実はな、ここに来る前にちょっと用事で町によったんだがな。そこでこんなものを配ってたんだ」
「うん?」
魔理沙がそういってポケットから取り出した一枚の折りたたまれたチラシを紅白の巫女服の少女、博麗霊夢は広げてみてみた。
「えーっと…喫茶店ジャック開店記念セール、今ならお茶とケーキのセットがお得です?」
「だそうだ。せっかくだし行ってみないか」
「いいけど、魔理沙のおごりよね?」
「なんでそうなるんだ?」
「普通誘ったほうがおごるとか言わない?」
「いうか!いや…いいぜ、ただし弾幕ごっこで私に勝ったらだ!!」
「いいわよそれで、私が負けたら私が魔理沙におごってあげる、それじゃ……さっさとはじめましょうか」
結果……見事なまでに霊夢にぼろ負けした魔理沙が、悔し涙をこらえつつおごる事になった。
目的の喫茶店は赤レンガの建物で、扉を開けるとドア鈴が耳に心地よい音を響かせて霊夢と魔理沙の二人を出迎えた。
店の中はやさしい夕日のような照明と、店のすみに置かれた蓄音機がピアノの音色をゆっくりと流し、穏やかで暖かな雰囲気を作っていた。
ただ。開店したばかりでチラシを配っていたわりには客がほとんど居らず。どこにでも座れそうなくらい空いていた。
「ふうん、悪くはない雰囲気のお店ね」
「いらっしゃいませ、ありがとうございます」
そうってカウンターから店の雰囲気と同じ穏やかな笑みを浮かべ二人に挨拶したのは、おそらくこの店のマスターであろう歳は三十くらいの中年の男だった。
「えーっと…私はマスターのお勧めセットってやつを頼む」
いつの間にか、開いている席に座っていた魔理沙がメニューをざっと見た後、ほとんど迷うことなく注文を決める。
霊夢も魔理沙の向かいの席に座るとメニューを一通り見た後、魔理沙と同じ注文をした。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」とマスターは応えると、注文の品をてきぱきと用意し始める。
二人がそんな様子を眺め始めて、それほどかからない内に、注文したものがテーブルの上に運ばれてきた。
そしてテーブルの上に並んだ物を見て「あれ?」と魔理沙は疑問の声を上げた。
「マスター、私たち同じものを頼んだはずなんだけど、着たものが違うぜ?」
「お二人が頼んだのは〝お勧めセット〟でございましょう、それは、私が、それを注文したお客一人一人にお勧めのものを出すというものでございまして、故に、お二人の前に並んでいるのはそれであっているのですよ」
「ふうん……で、そういうのはどういう基準で決めてるんだ?」
マスターは人差し指を一本立てて口の前に持ってくると「それは秘密です」と言ってはぐらかした。
「じゃあ仕方ない」と魔理沙もそれ以上追求することはなく、目の前のお茶とケーキを楽しむことにした。
「これは…普通に美味いな」
「そうね。お茶もいい葉っぱ使ってちゃんとした手順で淹れてるからおいしいわ」
それから霊夢と魔理沙の二人は談笑を交えつつ思っていた以上においしかったお茶とケーキを楽しんで帰った。
「いやはや、予想以上に美味かったな」
帰り道、魔理沙は上機嫌で話しながら歩いていた。
「そうね…あの味を維持できるようなら、たまには一緒に行ってもいいわね」
「お、珍しいな霊夢が、そういうこと言うのも」
「そう?ま、あなたの機嫌を完璧に良くしちゃうくらいだから、私も少し影響を受けてるのかもね」
「ん?何のことだ?」
「なんでもないわ」
そう言った霊夢もまた。口元に笑みを浮かべ機嫌がよさそうだった。
その夜、扉にはすでに「閉店」の看板がかかっていたが霊夢は気にせずに扉を叩いた。少しの間の後、扉が開き、マスターが中から出てくる。「おや…忘れ物か何かでしょうか?」
マスターは霊夢が店に来ていたことをちゃんと覚えていたらしく、そう尋ねてきたが。
霊夢は首を横に振り、
「違うわ、あなたに用があってきたの」
そういった霊夢の眼はとても真剣なもので、マスターは「立ち話もなんですから」と店の中に入れて椅子に座らせた。
「それで、私に用とは?」
マスターは本当は霊夢がくることが分かっていたかのように、落ち着いた様子で霊夢と自分の分のお茶淹れ、霊夢の前に置くと、霊夢の向かい側に座った。
「あまり長居する気はなかったけど…まあいいわ、ありがたく頂戴するわね」
そういって出されたお茶を飲む霊夢、マスターはそれを見て、うれしそうに微笑んでいた。
そんなマスターの様子とお茶の味をみて霊夢は確信したようにつぶやいた。
「ふむ……やっぱり悪い〝妖怪〟じゃないみたいね」
「おや…やはりばれていたのですね」
マスターはゲームに負けた子供のように残念そうな笑みを浮かべてうなずいた。
「別に退治しに来たわけじゃないわ、ただ一つだけ確認しておきたかっただけ」
「何をですか?」
「あなた何者?悪意とかそういう邪気は感じないから気にしてなかったんだけど、外で何が〝幻想〟になってあなたが生まれたのかわからないのよね。だからあなたに聞きに来たってわけ」
「なるほど、私は――〝店の心〟とでも言いましょうか、それを生きがいとして接客する店員の心、それが外では珍しいものとなってしまった為に気がついたら幻想郷に流れ着いていたものなんですよ」
「そんなものまで幻想になっちゃうなんて、世も末ね」
「そうですねぇ」
〝外〟で何が幻想になったのかを聞き、お茶を飲み終えた霊夢は、マスターにこんな夜更けに来たことを謝ると、星空を見上げながらゆっくりと歩く、
「……〝幻想〟が〝幻想〟でなくなっちゃう日も近いのかしらねぇ……」
そんなことを一人ごちながら霊夢は夜の散歩を少しだけ楽しみながら神社へと帰っていった。
全体的に落ち着いていて、読み心地の良い作品でした。
あと、そういえばこないだコンビニの店員さんにお釣を間違えていると指摘したら凄く嫌な顔されましたね。悲しい限りです。
笑顔の店員を見なくなって久しい今日この頃。
そのお店固定の店員というものが極端に減り、
使い捨て同然のバイトばかりになってきたところからのお話、
ただ、言葉が少し乱暴だったために消されてしまった方の感想にもあったように、
もう少し店長に関する伏線や店の中の雰囲気とかもきちんと書けてれば良かったなと反省しております。
東方の世界観は難しいですね。
現世がどんどん進歩していく中で、幻想郷がどれくらいの文化レベルなのかとか、あの幻想郷の広さはどれくらいなのだろうか?とか、考え出したらきりがなく、途方にくれそうになったりもします。
次はもっといいものがかけるようにがんばります。
感想、ありがとうございました。