Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

上海温泉旅行

2011/07/04 02:01:49
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「上海温泉旅行」



幻想郷も遂に梅雨に入り、じめじめとした毎日が続いている6月の終わり。
今日も窓の外はどんよりとした曇り空が広がって居た。

「こうも毎日毎日曇り空ばかり見ていると気分も沈んでくるわね」
「シャンハーイ……」
丁度昼過ぎ。少し前まで雨が降っていた空は、幾分か明るい曇り空になっていた。
それを見ながらの昼食を終えた私達は、食後の紅茶をゆっくりと楽しんでる所だった。

蒸し暑い室内の空気を換気したいのだが、また何時雨が降り出すのかもわからない。
それ以上に窓を開け放った所で、結局家の中も外も同じような状態になっているので意味を成さないのだろうが……
 
そんな事を、紅茶を一口飲みながら考えていると、突然家のドアが開かれ外から白黒の固まりが転がり込むような勢いで中へ入って来た。
「よう、アリス遊びに来たぜ」
「魔理沙、あんたノックぐらいしなさいよ」
私はそれを確認する事無く「魔理沙」と言いあてると、溜息を吐きながら彼女の方へと向いた。
自身のトレードマークでもある白黒の服に魔女を思わせる三角帽子、そして竹箒を持った霧雨魔理沙が自慢げな顔をしてそこに立っていた。

「いやー雨が止んでくれてよかったぜ」
「? どうかしたの?」
帽子を叩きながら、魔理沙は何処か落ち着かない様子で部屋の中を歩き回り、家具や置物を見て回っている。
頻繁にこの家に遊びに来ているのだから、今更物珍しい物など無い筈なのだが。

やがて窓に近づき、おもむろに開け放つと身を乗り出して空を眺め始めた。
「アリス、今日暇だろ?」
彼女の行動に驚き茫然とその後姿を眺めていると、そう背中越しに声をかけられた。

「暇だろって失礼ね。絶対しなきゃいけない事が無いだけよ」
「それって暇って事だろ? なら、露天風呂に行こうぜ」
魔理沙はスカートを翻しながら、その場で回転てしこちらを向くと、私に満面の笑みを向けそう言った。

☆★☆

そんな事があり、私と魔理沙は今妖怪の山を登っていた。
魔理沙が
「河童に秘密の温泉を教えてもらったんだ!」
と、目を輝かせ楽しみだと表情で語りながらすごい勢いで言っていたのだが、はたしてこんな所に温泉なんて物が本当にあるのだろうか……

「ところで魔理沙」
「ん? なんだアリス」
「なんでこんな蒸し暑い時期に温泉なのよ」
空は相変わらず灰色の雲におわれており、雨が降るのか降らないのか微妙な平行線をたどっている。
山の中は風通りも悪いため体温が下がらず汗ばかり掻き、髪の毛が首筋に張り付くのが何とも気持ち悪い。

こんな気分的に熱い時期になぜ温泉なのだろうか……
「そりゃこんな纏わり着くような暑さで掻く汗より、温泉ですっきり汗を掻いた方が気もち良いからに決まってるだろ?」
「魔理沙、なんだかオジサンみたいよ。って、あっ……」
魔理沙の言葉に呆れ、緊張を解いた一瞬。数日の雨でぬかるんだ山道に私は足を取られ、前のめりに倒れ始めていた。
世界がスローになり、ゆっくりと周りの景色が流れて行く。

目の前に地面が見えたかと思うと、グッと肩を取られそのまま抱き上げられるようにして地面に再び足を着けていた。
「気をつけろよアリス、転んだらその綺麗な顔が汚れるぜ?」
「え? ええ……ありがとう」
魔理沙に抱きしめられたまま、呆けた様に私はそう返事をした。

返事をしてから事態を徐々に把握し、転びそうになった私を魔理沙が抱き起こしてくれたのだという事に気付く。
自分が転びそうになったというカッコ悪さと、背中を向けていた魔理沙が転びそうになっている私に気付いて助けてくれたという事に思わず顔が赤くなっていく。

魔理沙は何事もなかったかのように再び前を向いて歩きだし、私は早鐘を打つ胸を押さえながら、真っ赤な顔を隠すように俯き彼女の後ろを無言で着いて行った。
「それにしても、本当にアリスの人形は便利だな」
「ほぇ!?」
「先を行って邪魔な小枝なんかを切ってくれるから安全に歩けるぜ」
思わず間抜けな声をあげてしまい、慌てて口をふさぐも魔理沙はさほど気にしてはいないようだった。
その事に胸をなでおろし、顔が赤いという事に気付かれないよう前を歩く魔理沙の横から顔を出すと、更に前で奮闘している上海の後姿が見えた。

褒められた上海人形は、私の視線に気づくと自慢げに「シャンハーイ!」と私に向かって声をあげてきた。
「ま、まぁそんなすごい訳じゃないのよ?」
「シャ、シャンハーイ……」
「そんな事無いって、私にはこんな繊細な物は作れないぜ」
「シャンハーイ!」
上海人形が二人の言葉に一喜一憂していると、木々が開け窪地のような場所へ出た。
丁度周りを木で囲まれる様な形で、お皿の様にその場所だけが開けている。
頭上にはぽっかりと穴が開いたように空が見え、灰色の雲が顔をのぞかせていた。

「おおお! ここだ、間違いない!! ほらあそこ!」
魔理沙が指さした先には急いで作りましたと言わんばかりのボロ小屋が建っており、その先から白い湯気が上っていた。
近づいてみると、ボロ小屋はベニヤとトタン屋根で出来ており、ちょっとした強風で倒れてしまうのではないかと思うほどガタガタしている。

「これ、大丈夫なの?」
「大丈夫だろ」
興味なさげにそういうと、魔理沙は小屋のドアを開け躊躇い無く中に入っていってしまった。
「あ、ちょっと待ってよ!」
追うようにして私も小屋に入る。
中は湿気でじめじめとしており、入った瞬間むわっとした空気が私の体を取り巻く。
どうやらあまり換気されていないらしい。

中を見ると、2段造りの棚に無数の竹かごが棚に並べられるようにして置かれている。
お世辞にも素敵とは言えないが、一応脱衣所らしい作りだ。
小屋の外見同様、急いで作ったのかガタガタしており、ちょっと重い物を乗せれば落ちてしまいそうだ。

「よし、それじゃあ温泉に入ろう!」
中を観察していると、魔理沙がおもむろに自分の着ている白いエプロンの紐を解きその場に脱ぎ捨てだした。
思わず私は背を向けると、いそいそと魔理沙の後ろ側へと回って行き、初めて服に手を書けた。
「ま、魔理沙、あまりこっちを見ないでね?」
「え? なんか言ったか? 私は先に行ってるぜ!」
服に手をかけたまま後ろを見ると、露天風呂へ続いて居るだろうドアから外に飛びだして行く魔理沙の後姿が見えた。
「早いのね……」
「シャンハーイ?」
変な期待と恥ずかしさを胸に秘めたまま、私は一人出入り口を眺めていた。

☆★☆

服を脱ぎ丁寧に畳み籠の中に仕舞うと、私も露天風呂へと続く硝子戸を横に開いた。
カラカラカラと軽い音と共に戸が開き、目の前に白い煙と石造りの床が姿を現す。
後ろ手に戸を閉め冷たい石の上を歩いて行くと、数歩で温泉が姿を現した。
「ふぅ~、早く来いよーアリス」
魔理沙は両手を横に広げ、大きめの石に寄り掛かるように肩下までお湯に浸かっていた。
気持ち良さそうに目を細め、大きく溜息を吐くと私の方を見上げる。
と、その目がスッと細められた。
「おいおいアリス、温泉に入るのに体にタオル巻いたままってのはいけないな」
「し、しょうがないじゃない、恥ずかしいものは恥ずかしいのよ」
私は体に巻かれているバスタオルがしっかり固定されているか、無意識のうちに結び目を触って確認していた。
魔理沙の前だと言う事を意識するとどうしても大胆な行動が出来なくなってしまう。
それじゃなくても元々恥ずかしくて無理なのだが、それはそれ、これはこれだ。

「恥ずかしい? まぁいいが、とにかく湯船に入るなら外さなきゃダメだぜ」
「わかってるわよ……」
拗ねたように返事をすると、温泉の縁に座り足だけお湯に浸けてみる。
じんわりとした温かさが、お湯から足に伝わってきて気持ちが良い。

「魔理沙、熱く無いの?」
「熱いぜ」
「それなら足湯にしたら? これだけでも十分気持ち良いわよ」
「あん? アリス、お前は温泉の楽しみ方を全然わかって無いな」
ニヤニヤと意味ありげな笑いを浮かべ魔理沙は私に背中を向けると、桶を取り出しお湯に浮かべた。

「ほんとは盆が良かったんだが、流石にバランス的に不安だからな」
そう言うと、更に同じ場所から小さめの瓶とグラスを取りだす。
「それ、なに?」
「酒だよ酒、熱い温泉に入りながら飲む酒はうまいだろ?」

魔理沙は瓶のキャップを回して外し、グラスに少しだけ注ぐと一気に飲み干した。
グラスに注がれた透明な液体が、健康的な赤色をした唇の中に飲み込まれていく。
「まぁ流石に冷えてはいないけどな」
そこだけが不満なのか、やけに不機嫌そうな声でそう付足した。

「とにかくアリスもこっち来いよ、ちゃんとアリスの分も準備したんだぜ」
「そうなの? な、なら入ろうかしら……」
体に巻かれているバスタオルと外すとゆっくりと湯船に体を沈めて行く。
体が急に温められ、おでこから汗が一気に滲み出た。

ゆっくりとお湯の中を魔理沙の方に進んでいき、隣の石に背中を預けるようにして並んで座る。
すると、魔理沙が桶を私と自分の間に移動させてくれた。
ぷかぷかとお湯に浮く桶の中には、逆さにされたグラスと、魔理沙が手の持っていたお酒の瓶が置かれている。

「ほら、このグラス使ってくれよ」
「ありがとう。あ……」
グラスに手を伸ばそうと腕をお湯から出すと、その腕に小さな水滴がぽつりと着いた。
空に飛んだ水しぶきかともはじめは思ったが、やがてそれは数を増やすと、湯船に小さな波紋を作り出して行く。
「ふふふ、小雨の中温泉っていうのも一興かしら」
「どうせ濡れちまえばおんなじだからな」

空を見上げると、無数の雨粒がこちらに向かって落ちて来ていた。
このぐらいならあまり気にならないし、土砂降りにならなければむしろ涼しく感じて良いかもしれない。
「なかなかに綺麗に見えるものね、これで周りに紫陽花でも咲いて居れば最高なのだけれど」
白い湯気に雨粒が映し出され、普段あまり気にならないそれもなんだか映えて見える。
更に水面に波紋が広がる様も、普段じっと見る物ではないのでなんだか新鮮味があって良い。

「紫陽花か、河童の奴に一応言ってみるか」
魔理沙はグラスを傾けながら、冗談気味に言った。
私はそんな彼女の横顔を眺めながら、グラスに注いだお酒を少しだけ飲んだ。
お腹の辺りが中から暖かくなり心地が良い。

「ねぇ魔理沙」
「ん?」
「誘ってくれてありがとう」
「おう」
含みを込めたと言うのに彼女の返事は素っ気ない。
(何かほかに感じる物は無いの?)
そう思わず聞きたくなってしまうほどに。

「魔理沙」
「なんだ? アリス」
「あのね魔理沙――」
ストレートに思いを伝えようとして、どうしても遠回りしてはぐらかしたくなって。
きっとそれが私と魔理沙の関係を停滞させている原因なのだと、私は感じている。

一人の時の寂しさ、二人で居る時の楽しさ。
(それを魔理沙に伝える事が出来れば、もっともっと二人で居れるの?)
でも、もし魔理沙がそれを背負ってくれなかったら?
私と一緒に時間と言う永遠を背負ってくれなければ今の関係はきっと壊れてしまう。
それが堪らず怖かった。

「魔理沙は、私の事好き?」
「え……?」
温泉で体が温まっているせいか、お酒で酔っているせいか、魔理沙の頬は朱色に染まっていた。
「私が魔理沙の事を、好きだって言ったら迷惑? それとも――」

――嬉しい?

そう、言おうとして、世界が反転した。
気づけばお湯に顔をつけていて、おかしいなと思いながらも私は意識を失った。

☆★☆

目を覚ますと、目の前に魔理沙の顔が見えた。
固い何かの上に寝かされており、背中に刺さって痛い。
それなのに何故か頭だけは柔らかく温かい何かに乗せられていた。

「アリス?」
「魔理沙……?」
ぼんやりとぼやけた視界の中、濡れた金色の髪の毛がこちらに向かっている。
そこでようやく、自分が膝枕をされているのだという事に気付き、急に恥ずかしさを感じた。

「私、どうして?」
「のぼせたんだ、のぼせて倒れた」
どうやらお酒を飲んで温泉に入っていたせいで、何時もよりのぼせ易くなっていたようだ。
視線を横にすると白い湯煙を立てる温泉が見える。
なるほど、背中が痛いのは石畳のせいか。

「ごめんな、石の上だから体痛いだろ?」
「ううん、平気よ」
視線を戻すと、今度は魔理沙が視線をそらした。
何処か落ち着かない様子で、こちらを見ようとしてはよそを見てという事を繰り返している。

「その、アリス、なんて言って良いかわからないんだが……」
「ん? なに?」
ぎこちない動きで魔理沙は私と視線を合わせると、口を小さく動かし言葉を紡ぎだしていく。

「さっきの話の返事なんだが、アリスが起きたらしようと思って。その、なんて言うか、私はそんな風な事を一度も考えた事が無くて……あ、でもアリスが嫌いな訳じゃないんだ! でも、なんて言うか、良くわからないから……」
そこまで言うと、魔理沙は言葉を一旦切り呼吸を合わせると。
「だ、だから、この後私の家に泊まりに来て、色々話さないか?」
真っすぐ私の目を見て、顔を赤く染めた魔理沙がそう言った。
遅くなりました。その一言に尽きる。

週1SS第5弾。
実際小説は1週間以上前に出来あがっていたのですが、色々忙しすぎて投稿が今日になりました。
ああ、温泉にでもいって3日間ぐらいゆっくりしたいです。

さて、相変わらずぜっ不調、ちったぁ良くなったと思いますが、急いで誤字脱字の確認を適当にしてしまったので何かあったらびしびしいっちゃってください。

俺自身確認次第訂正いたしますので。

制作?日
文字数「5,208」

追記・7/4
誤字訂正いたしました。
那津芽
http://twitter.com/#!/seihixyounatume
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
>どうやらあまり喚起されていないらしい
換気?
こっちが真っ赤っかになるわ
2.月宮 あゆ削除
マリアリいいですね
アリスの純情さに心持っていかれました。
温泉は何時入ってもいいものです!

これからもがんばってください。
3.名前が(以下同文)削除
とても良かったです。那津芽さんの作品はこれが初めてなのですが、今から過去の作品を読んできます。あと気になったことがあるのですが、温泉に入っている時に飲むお酒ってグラスで飲むものなのですか?お酒に詳しくないので間違ってたらすいません。長々と失礼しました。
4.名前が無い程度の能力削除
すばらしい
5.名前が無い程度の能力削除
王道マリアリですねー。良いものを読ませていただきました。
6.名前が無い程度の能力削除
雨の降る中温泉に入るというのも風情があっていいですね
7.那津芽削除
>>奇声さん
誤字指摘ありがとうございます、訂正させていただきました!
毎度毎度コメントありがとうございます!

>>月宮 あゆさん
コメントありがとうございます!
温泉は良いですよねぇ、ほんとゆっくり一人旅でも……
これからもがんばって行きたいと思いますので応援よろしくお願いいたします!

>>名前が(以下同文)さん
ありがとうございます、気に入っていただけたようで嬉しいです!
グラスに関してですが、今更ながらワンカップ物でも有りだったな、なんて思って居たりします(笑)

>>4さん
コメントありがとうございます!
気に入っていただけたなら幸いです、また他の作品でも会いましょう?(ぁ

>>5さん
王道には王道の理由があるのです!
また良き作品が書けるよう頑張ります!
コメントありがとうございましたっ!

>>6さん
風情を考え書いたつもりなので、うまく伝わったようで大変うれしいですねっw
雪だとか雨だとか、温泉から見る風景って綺麗に見えますよね?w
コメントありがとうございました~!
8.ぺ・四潤削除
なんで行くときに飛んでいかないのかってツッコもうかと思いましたが、きっと魔理沙のことだから「秘密の場所に簡単に行けちゃ面白くないだろ!」って変なポリシーがあるんだと思ったら妙に納得。
温泉は冬に頭を冷やしつつ雪見露天が好きですが、梅雨時期の温泉というのもなかなかいいものですね。
しかしなんという寸止め。このあとの二人がどうなるのか想像するとニヤニヤが止まらない。
9.那津芽削除
ぺ・四潤さん
コメントありがとうございます!
魔理沙なら秘湯と聞けば間違いなく山登りで探し出すぜ!みたいな気持ちがある様な気がして歩かせましたw
夏ですから雪見温泉も良いのでしか今回は梅雨時の温泉へ。
多分冬にそれらしきものを書くんじゃないかな俺は?w
きっとこの後少し散らかった魔理沙の家で二人は顔を赤くしながら晩ご飯を食べたり……
wktkがとまりませんね。