紅魔館の地下には、大きな地下室がある。
館内のヴワル図書館の入り口近くにある普段は固く閉ざされた扉の奥、細長く薄暗い螺旋状の階段をしばらく下るとその入り口が見えてくる。
地下深くに作られた割にその入り口に備えられた両開きの扉は大きく非常に豪勢な作りで、もし初めて紅魔館に訪れた者にここが宝物庫であると言えば誰もが信じるだろう。
だが、そこは宝物庫などではない。物置、いやいや。では悪魔の館らしく拷問部屋・・・と言うこともなく、単純に館の住人の個室である。
そこに住まうのはフランドール・スカーレット。紅魔館の当代当主であるレミリア・スカーレットの妹である。
当主の親族の部屋とだけあって、その広さはこの館に百数十とある使用人用の部屋とは比べものにならないほどに広い。
勝るものを挙げるとすれば、姉・レミリアの個室、紅魔館大食堂、それとヴワル図書館ぐらいなものだ。
まぁ、とかく長たらしい説明を述べたが、要は「だだっ広い空間」なのである。
そして今。
その広大な部屋の内は今にも溢れ出さんばかりの膨大な量の弾幕で埋め尽くされていた。
「避っけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「んなこと言われふぉぉぉぉぉぉ!!!?」
轟!と勢いよく物体が空気を裂く音が部屋の中に轟く。
同時に、巨大な炎剣が地下室中を驚異的な速度と威力を持って空間を裂く。
部屋を埋めつくさんばかりの炎と熱、目を焼くほどの光を放つその炎剣は、レミリアの妹、フランドール・スカーレットの持つスペルカードによるものだ。
禁忌「レーヴァテイン」
原典は北欧神話の一節で、悪神・ロキが造り出したとされる「災いの杖」。
形状や用途に様々な諸説があるが、多くは剣として語られている。後に巨人・スルトの手に渡るそれは、正に巨人が持つにふさわしい大きさを誇り、世界を焼き払うとまで伝えられる威力をもつ災厄の神器である。
フランドールの使用するスペルカードのレーヴァテインは、神話に登場する神器の万分の一の威力もない、
模造品とも呼ぶに値しない偽物である。
だが、単純な魔具として言うのであれば、悪魔一体程度を滅するには余りにも凶悪に過ぎる代物だ。
その凶悪な災いの塊が、一直線にフランの姉...レミリア・スカーレットに襲いかかっている。
「うわ、あぶっ、あぶなぁぁあぁ!!?」
だが、まさに間一髪の所で炎剣は獲物を捉えらるのに失敗する。
「チッ・・・ふんっ!!」
舌打ち一つ。一呼吸おいて、再びまた轟!振り抜かれた炎剣が空気を揺らす。
今度はレミリアに炎がちろりとかすめた程度だ。だがこの程度では、彼女らにとって決定的なダメージにはなり得ない。
「ちょちょっ!たんmぁあぢ!!?めっちゃ熱っ!フランそれめちゃくちゃ熱いんですけど?!スペカじゃないのそれぇぇええ!!?」
「『レーヴァテイン・悪☆即☆斬バージョン』よ、お姉さま。・・・とっとと燃えて灰になれぇぇぇえ!!!」
「バージョンとかあるの?!てっ、ちょ、おぉぉぉ!!?」
再び轟音と共に振り抜かれる『レーヴァテイン・悪☆即☆斬バージョン』。
だが、それは姉を消し炭にする直前、ガシャーンと金属同士がぶつかり合うような甲高い音と共に突然動きが止められた。
「?!」
フランが炎の先に目をこらす。
レーヴァテインは姉との間の部屋の壁や天井、床などから突然に現れた無数の紅い鎖によって軌道を阻まれていたのだ。
姉のスペルカードか。惜しいところで止められた。
「運命『ミゼラブルフェイト』。・・・流石にちょっとオイタが過ぎるわよ、フラン?」
「ちっ・・・」
瞬く間にレーヴァテインは次々に現れる無数の紅い鎖によって雁字搦めにされていく。いくら動かそうとしても、もはやびくともしない。
「無駄よ。単なる力だけでは、運命の鎖は断ち切れないわ」
「・・・」
気付けばレーヴァテインを絡め取った鎖が、まるで植物の”つた”の様にフランの手元へ向かって迫っていた。
「くっ!」
すかさずスペルカードを解除する。
ドウッ!と音がしてレーヴァテインの炎が消失する。それに数瞬遅れる形で、姉のスペルも光子に解けた。
危うく、自分も鎖に繋がれてしまうところだった。さきほどまでヘタレな悲鳴を上げていたが腐ってもスカーレットデビル。スペルの相性、特性、発動のタイミングの見極めは流石、といったところか。
どちらが先に先制をかけるか・・・にらみ合うレミリアとフランドール。しばらく無言で対峙した二人だったが、やがて姉のレミリアが口を開く。
「――フラン、いくらなんでも今のはやりすぎじゃない?」
「――そう?別に、全然。むしろ適当な威力だったと思うよ」
この状況で今更話し合いを持ち出すとは。実に姉らしい。
フランは不意を打たれないよう緊張した体を緩めず、神経を張りつませながら言葉を返す。
「私だったから何とかなったけど、もしこれが咲夜や魔理沙なんかだったら、下手したら死んでいるわよ」
「咲夜やマリサに使うほどのものじゃないよ。・・・なに、私がなんか悪いって?」
「おふざけでも、そういう危険性を理解していないのは悪い事よ」
「はっ、おふざけ?」
フランの小馬鹿にしたような口振りに、思わずレミリアが食いつきそうになる。
フランはソレよりも先に、言葉を続ける。
「元はと言えば、お姉さまが私の部屋に・・・ベッドに無断で侵入してあまつさえそこでぐーすか寝てたのが悪いんでしょ?
それがおふざけかしら?おかしいわ。確か上に見張りも立ててたはずなのだけれど」
レミリアは目をそらした。フランの蔑むような目を見ていられなかった。そんな目で見ないで欲しい。あれは仕方なかったのだ。たまたま・・・そう、たまたまフランの部屋へ続く階段へのドアが開いていたのだ。その時ふと、大した用事はなかったが、「そういえばこの間外のマンガを貸したなぁ。久しぶりに読みたいから返させて貰うか」と思い至ったので入ったのだ。
それに私はこの館の主。どの部屋に入ろうがたいした問題などないはずだ。
入り口で門番隊所属の妖精が2人ほどいて声をかけてきたが、仕事をサボるなと外の詰め所に戻らせた。ゴネてたからちょっとひねってやったけど。それがなんだというのか。
「その上、なに持ってたっけ?今回は私のドロワーズと、ショーツだったかな?」
レミリアは顔を伏せた。フランの断罪するような視線に耐えられなかった。そんな視線を向けないで欲しい。確かに持っていたかもしれない。けどそれは、元を辿ればフランが部屋の中に脱ぎ散らかしていたのが悪いのだ。
部屋に備え付きの浴室の脱衣所の洗濯かごの中なんて、不衛生にも程がある。さっさと洗わなければダメではないか。全く、最近は何故か自室に洗濯機や乾燥機を持ち込んでいるから自立してきたかと思えば、まだまだ子供である。それならば最初からこんなのは咲夜にでも任せればいいことなのだ。
だから親切心で、そう。親切心で咲夜の所に持っていってあげようとしただけなのだ。その途中で、不意に強烈な眠気が襲ってきたのだ。私は抵抗するまもなく、その眠気に負けてしまった。恐らくあれは魔法の一種だろう。誰の陰謀かは知らないが、私は紛れもなく偶然に、ベッドに紛れてしまっただけなのである。だからこれ以上疑わないでお姉ちゃん辛い。
「これで、今年何回目だっけ?そういえば今月はもう9回目か。先月までで42回だから、もう50回越えたよね」
レミリアはしゃがみガードに姿勢にはいった。もうなにも聞きたくない。フランが私を信じてくれない。
なんて事だ、こんなに悲しいことはない。あぁ、私は悪くないのに何故こんなに疑われなくてはならないのか。
フランは、やっぱりまだ私の事を信じ切れていないのだろうか。しかし、よくよく考えてみればそれもそうだろう。
長い間酷いことをしてきてしまった。きっとどんなに贖罪を重ねても足りないのだろう。
でもきっといつか分かりあえると私は信じているよ。きっとまた仲の良かった姉妹に戻れるんだ。それまでは、私はどんな悪役にもなろうじゃないか。
あ、でも今回はホント違いますんで。ホントだよ。
「聞けよ人の話」
「あいたぁっ!?」
叩かれた。それも、結構痛い。吸血鬼でなければ頭蓋骨が陥没する程度の威力はあったかもしれない。
「た、叩かなくても良いじゃない!DVよ!」
「家族にされるセクハラはDVじゃないの?」
「・・・・・・いや、どうかなぁ」
なんもいえねぇ。
「ちょっと、お姉さま。とりあえずそこになおりんさい」
フランはそこ、と言ってアゴで床を指す。
「・・・・・・」
レミリアはそれにぷいっと顔を逸らし、無言で拒否の意を示す。
5年しか違わないが、一応レミリアの方が姉なのである。姉として、年長者としての威厳という物がある。
また、社会的な立場もある。どちらとしても私の方が上なのだ。片や運命を操る能力を持ち、スカーレットデビルと謳われ百数十単位の従者を従える歴代きってのカリスマ当主。
片や、日がな部屋にこもるか図書館で本を読むか、まぁ良いとこ数の少ない友人と遊んでいる程度の半自室警備員である。
どちらが優れているかなど火をみるより明らかであるのd
「なおれよ」
「はい・・・・・・」
もはやカリスマもへったくれもなかった。効果音を付けるのであれば「きゅーん」とかである。
あぁ、私のカリスマどこに行っちゃったんだろう。さっき燃えちゃったのかな。
と、言うかフラン怖っ。こんなに怖いフランをみるのは一昨日の夕食にでたデザートのストロベリーフロートを奪い合って以来である。
普段ならとても可愛く、まるで小鳥のさえずりのように話すと言うのに今はどうだろうか。地獄の裁判官・ミノス王をも震え上がらせるだろう冷徹ぶりだ。
半ば強制的に、レミリアは先程の弾幕戦でぼろぼろになってしまった床の上で正座をさせられる。
日本かぶれといえど、元は西洋育ちのレミリアである。正座は苦手である。特に、し始めてからちょっとした頃にくる神経の痺れがだめだった。
あれ、痛い訳ではないけれど嫌な感覚なのだ。回復にも時間がかかるし、なおかつ直ぐには立てなくなってしまう。何故日本ではこんな妙な座り方があるのかと、いまだに甚だ疑問である。
そんな事を考えつつフランが口を開くのを待つが、どれほど待ってもフランはずっと黙ってレミリアを見てるだけだ。
せめて何か話してくれればいいのに何故そんなに黙っているのだろうか。言葉を選んでいるにしても、ちょっと長すぎる気がする。
かと言って、自分から口を開ける空気でもない。あぁ、どうしよう。もしかしたら新手の監視付き放置プレイかもしれない。
そんなことを思っている間に徐々にレミリアの脚にはあのぴりぴりが襲ってきていた。
「・・・毎回聞いてる気がするけど、何でお姉さま私の衣服とかパクってく訳?」
「ぱ、パクってないわよ。・・・借りてるだけよ」
「黒白みたいなこと言わないでよ。大体、借りなくても自分で揃えればいいでしょ」
「わ、わかってないわね。そう言えばフランには言っていなかったけど今ウチは財政難なのよ。手短なところは人の下着を流用してでも節約したいところなのよ」
「そうなんだ、いつも私の下着が何時の間にか減ってるから最近買って貰うことが多くてねぇ。後いちいちお姉さまが抵抗しなきゃ私の部屋の調度品が壊れなくて済む気がするのよね」
「ソウダネ・・・」
あぁ、みるみるうちにフランの機嫌がどんどん悪い方に進んでいっている。
足の感覚もなくなってきた。ジンジンと神経の痺れる感覚だけが残る。
フランは結構、怒ると分かりやすい。言動にすぐでるのだ。
特に、嫌に冷静できつい皮肉が多くなってきたらもうデッドラインである。
あぁ、今回もダメだったなぁ。レミリアは自分の身を振り返ってみた。
そうさ、入り口の見張りを倒して忍び込んだよ。脱衣所からフランの服を盗る為に。あわよくば下着とか盗ろうと考えてたよ。
ベッドで寝てたのも、そこからフランの良い香りがしていたからさ。まさか寝ちゃったのは計算外だったけど。
敗因は何だろう、と考えればやはりベッドに捕まった事だ。あれがなければ今頃は自室の隠し部屋の中で即席で作らせたビンテージ物のワインを片手に戦利品を吟味していた所である。主に被ったり嗅いだりして。
このスカーレットデビルが、レミリア・スカーレットがなぜそんな愚かな過ちを犯してしまったのか。
答えは明白である。
あぁ、しかし幻想郷の紳士諸君。そう、そこで罪を被ってる君たちだよ。
よく考えて欲しい。フランのベッドだよ?あの可愛いらしくて良い意味で乳臭くて、悪魔が言うのはおかしいけれど天使みたいに愛らしいフランが、いつも寝ているベッドだよ?用がなくても寝っ転がってるようなベッドだよ?
それはもう、見過ごせない程のフランのスメルがするってものじゃないか。
フランの使ってる枕からはフランの髪の柔らかい匂いがするしタオルケットからはフランの甘い匂いがする。あの子がいつもいる所にいる事で、なんだか妙に気分が高まってしまうのもうなずける筈だ。
そこに今朝のドロワとか加われば、もう、スメル天国だよね。抜け出せないよ。
ああ、あの時の昂ぶりを知らしめたい気分だが、絶対誰にも味合わせてやんない。
「はぁ・・・なんでこんなのが私の姉なんだか・・・」
「いっつでぃすてぃにー・・・」
「もっとマシなのが良かったわ。脳的な意味で」
「例えどんな私であろうと、フランの可愛らしさに心動かされないことなどあるだろうか。いやない」
「なんの断言なのそれ。・・・とりあえずいつものいっとく?イージーとハード、どっちが良い?」
そう言いつつフランはどこから取り出したのか、文様のようなものの描かれた皮ベルトであっという間にレミリアの腕・脚・翼を固めてしまった。
いつもの、とは拘束状態での段幕ごっこ(必然的に全て耐久スペル)の事である。
無論拘束されるのはレミリアのみである。あえて言うなら移動しないで弾幕避けてみ、って奴だ。
普通に考えればそんなものは日本語的にもおかしい。避ける、という物はある事象に干渉しないよう移動することである。動けないのに、避けるってなんなの。それはサンドバックじゃないか。こんな風に縛られて、妹のいいようにされてしまうなんて
・・・おぉ、ダメだ興奮してまう。
ん?あ、残機?無制限なんだよね、これが。
しかし、何というか今回の拘束はいつもより痛かった。ちょっ、なんでこんなガチガチなの。いつもだったら、もそっと余裕というか、優しさがあったじゃない。ちょっと変な方向に目覚めちゃうかも知れないあのぎりぎりの締め付け感だったはず。今回、既に痛いんですけど。
「じゃ、じゃあイージーで・・・」
「え、なにルナティックが良いの??がんばるねぇお姉さま。うまく避けてね?(ニコッ」
「えっ」
まじか、と問わずともフランの表情が物語っている。本気だ。うわ、コイツ本気で殺る気だよ。
レミリアは今更になってフランが怖ろしくなる。流石は最終鬼畜と言われるだけはある。
だが、レミリアもただ黙って弾幕の濁流に飲まれる気はない。例え全身が雁字搦めにされようと簀巻きにされようと、どんな状況でも最善を尽くすのがスカーレットの当主、スカーレットデビルというものなのだ。
うまく動けずともせめて動く構えだけでもしておけば、程度の対処は出来るかもしれない。そうしたら、ちょっとは当たらないかもしれない。多分。
すかさず、モタモタと起き上がろうとした。瞬間。
「う、あぁぁぁぁ・・・?!」
脚が痺れていた。それはもう、びりびりだった。これでは立つどころか、まともに動けるかも怪しい。
・・・あ、そうか。正座ってこの為だったんだ。
ふと見ればフランはスペルカードにギュンギュンと魔力を急速充填しながら微笑んでいた。
その笑顔は可愛らしい事この上ないが一皮向けば殺意で出来ているに違いない。わぁ、怖い子。
「なにか遺言は?」
「あるわ・・・・・・フランのドロワおくれ」
「そ。来世でよろしく」
にべもなかった。
3時間後、フランの部屋に花を届けにきた美鈴によってボロボロになったレミリアが発見された。
同時に、レミリアを抱き枕に眠る、満足そうなフランも。
館内のヴワル図書館の入り口近くにある普段は固く閉ざされた扉の奥、細長く薄暗い螺旋状の階段をしばらく下るとその入り口が見えてくる。
地下深くに作られた割にその入り口に備えられた両開きの扉は大きく非常に豪勢な作りで、もし初めて紅魔館に訪れた者にここが宝物庫であると言えば誰もが信じるだろう。
だが、そこは宝物庫などではない。物置、いやいや。では悪魔の館らしく拷問部屋・・・と言うこともなく、単純に館の住人の個室である。
そこに住まうのはフランドール・スカーレット。紅魔館の当代当主であるレミリア・スカーレットの妹である。
当主の親族の部屋とだけあって、その広さはこの館に百数十とある使用人用の部屋とは比べものにならないほどに広い。
勝るものを挙げるとすれば、姉・レミリアの個室、紅魔館大食堂、それとヴワル図書館ぐらいなものだ。
まぁ、とかく長たらしい説明を述べたが、要は「だだっ広い空間」なのである。
そして今。
その広大な部屋の内は今にも溢れ出さんばかりの膨大な量の弾幕で埋め尽くされていた。
「避っけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「んなこと言われふぉぉぉぉぉぉ!!!?」
轟!と勢いよく物体が空気を裂く音が部屋の中に轟く。
同時に、巨大な炎剣が地下室中を驚異的な速度と威力を持って空間を裂く。
部屋を埋めつくさんばかりの炎と熱、目を焼くほどの光を放つその炎剣は、レミリアの妹、フランドール・スカーレットの持つスペルカードによるものだ。
禁忌「レーヴァテイン」
原典は北欧神話の一節で、悪神・ロキが造り出したとされる「災いの杖」。
形状や用途に様々な諸説があるが、多くは剣として語られている。後に巨人・スルトの手に渡るそれは、正に巨人が持つにふさわしい大きさを誇り、世界を焼き払うとまで伝えられる威力をもつ災厄の神器である。
フランドールの使用するスペルカードのレーヴァテインは、神話に登場する神器の万分の一の威力もない、
模造品とも呼ぶに値しない偽物である。
だが、単純な魔具として言うのであれば、悪魔一体程度を滅するには余りにも凶悪に過ぎる代物だ。
その凶悪な災いの塊が、一直線にフランの姉...レミリア・スカーレットに襲いかかっている。
「うわ、あぶっ、あぶなぁぁあぁ!!?」
だが、まさに間一髪の所で炎剣は獲物を捉えらるのに失敗する。
「チッ・・・ふんっ!!」
舌打ち一つ。一呼吸おいて、再びまた轟!振り抜かれた炎剣が空気を揺らす。
今度はレミリアに炎がちろりとかすめた程度だ。だがこの程度では、彼女らにとって決定的なダメージにはなり得ない。
「ちょちょっ!たんmぁあぢ!!?めっちゃ熱っ!フランそれめちゃくちゃ熱いんですけど?!スペカじゃないのそれぇぇええ!!?」
「『レーヴァテイン・悪☆即☆斬バージョン』よ、お姉さま。・・・とっとと燃えて灰になれぇぇぇえ!!!」
「バージョンとかあるの?!てっ、ちょ、おぉぉぉ!!?」
再び轟音と共に振り抜かれる『レーヴァテイン・悪☆即☆斬バージョン』。
だが、それは姉を消し炭にする直前、ガシャーンと金属同士がぶつかり合うような甲高い音と共に突然動きが止められた。
「?!」
フランが炎の先に目をこらす。
レーヴァテインは姉との間の部屋の壁や天井、床などから突然に現れた無数の紅い鎖によって軌道を阻まれていたのだ。
姉のスペルカードか。惜しいところで止められた。
「運命『ミゼラブルフェイト』。・・・流石にちょっとオイタが過ぎるわよ、フラン?」
「ちっ・・・」
瞬く間にレーヴァテインは次々に現れる無数の紅い鎖によって雁字搦めにされていく。いくら動かそうとしても、もはやびくともしない。
「無駄よ。単なる力だけでは、運命の鎖は断ち切れないわ」
「・・・」
気付けばレーヴァテインを絡め取った鎖が、まるで植物の”つた”の様にフランの手元へ向かって迫っていた。
「くっ!」
すかさずスペルカードを解除する。
ドウッ!と音がしてレーヴァテインの炎が消失する。それに数瞬遅れる形で、姉のスペルも光子に解けた。
危うく、自分も鎖に繋がれてしまうところだった。さきほどまでヘタレな悲鳴を上げていたが腐ってもスカーレットデビル。スペルの相性、特性、発動のタイミングの見極めは流石、といったところか。
どちらが先に先制をかけるか・・・にらみ合うレミリアとフランドール。しばらく無言で対峙した二人だったが、やがて姉のレミリアが口を開く。
「――フラン、いくらなんでも今のはやりすぎじゃない?」
「――そう?別に、全然。むしろ適当な威力だったと思うよ」
この状況で今更話し合いを持ち出すとは。実に姉らしい。
フランは不意を打たれないよう緊張した体を緩めず、神経を張りつませながら言葉を返す。
「私だったから何とかなったけど、もしこれが咲夜や魔理沙なんかだったら、下手したら死んでいるわよ」
「咲夜やマリサに使うほどのものじゃないよ。・・・なに、私がなんか悪いって?」
「おふざけでも、そういう危険性を理解していないのは悪い事よ」
「はっ、おふざけ?」
フランの小馬鹿にしたような口振りに、思わずレミリアが食いつきそうになる。
フランはソレよりも先に、言葉を続ける。
「元はと言えば、お姉さまが私の部屋に・・・ベッドに無断で侵入してあまつさえそこでぐーすか寝てたのが悪いんでしょ?
それがおふざけかしら?おかしいわ。確か上に見張りも立ててたはずなのだけれど」
レミリアは目をそらした。フランの蔑むような目を見ていられなかった。そんな目で見ないで欲しい。あれは仕方なかったのだ。たまたま・・・そう、たまたまフランの部屋へ続く階段へのドアが開いていたのだ。その時ふと、大した用事はなかったが、「そういえばこの間外のマンガを貸したなぁ。久しぶりに読みたいから返させて貰うか」と思い至ったので入ったのだ。
それに私はこの館の主。どの部屋に入ろうがたいした問題などないはずだ。
入り口で門番隊所属の妖精が2人ほどいて声をかけてきたが、仕事をサボるなと外の詰め所に戻らせた。ゴネてたからちょっとひねってやったけど。それがなんだというのか。
「その上、なに持ってたっけ?今回は私のドロワーズと、ショーツだったかな?」
レミリアは顔を伏せた。フランの断罪するような視線に耐えられなかった。そんな視線を向けないで欲しい。確かに持っていたかもしれない。けどそれは、元を辿ればフランが部屋の中に脱ぎ散らかしていたのが悪いのだ。
部屋に備え付きの浴室の脱衣所の洗濯かごの中なんて、不衛生にも程がある。さっさと洗わなければダメではないか。全く、最近は何故か自室に洗濯機や乾燥機を持ち込んでいるから自立してきたかと思えば、まだまだ子供である。それならば最初からこんなのは咲夜にでも任せればいいことなのだ。
だから親切心で、そう。親切心で咲夜の所に持っていってあげようとしただけなのだ。その途中で、不意に強烈な眠気が襲ってきたのだ。私は抵抗するまもなく、その眠気に負けてしまった。恐らくあれは魔法の一種だろう。誰の陰謀かは知らないが、私は紛れもなく偶然に、ベッドに紛れてしまっただけなのである。だからこれ以上疑わないでお姉ちゃん辛い。
「これで、今年何回目だっけ?そういえば今月はもう9回目か。先月までで42回だから、もう50回越えたよね」
レミリアはしゃがみガードに姿勢にはいった。もうなにも聞きたくない。フランが私を信じてくれない。
なんて事だ、こんなに悲しいことはない。あぁ、私は悪くないのに何故こんなに疑われなくてはならないのか。
フランは、やっぱりまだ私の事を信じ切れていないのだろうか。しかし、よくよく考えてみればそれもそうだろう。
長い間酷いことをしてきてしまった。きっとどんなに贖罪を重ねても足りないのだろう。
でもきっといつか分かりあえると私は信じているよ。きっとまた仲の良かった姉妹に戻れるんだ。それまでは、私はどんな悪役にもなろうじゃないか。
あ、でも今回はホント違いますんで。ホントだよ。
「聞けよ人の話」
「あいたぁっ!?」
叩かれた。それも、結構痛い。吸血鬼でなければ頭蓋骨が陥没する程度の威力はあったかもしれない。
「た、叩かなくても良いじゃない!DVよ!」
「家族にされるセクハラはDVじゃないの?」
「・・・・・・いや、どうかなぁ」
なんもいえねぇ。
「ちょっと、お姉さま。とりあえずそこになおりんさい」
フランはそこ、と言ってアゴで床を指す。
「・・・・・・」
レミリアはそれにぷいっと顔を逸らし、無言で拒否の意を示す。
5年しか違わないが、一応レミリアの方が姉なのである。姉として、年長者としての威厳という物がある。
また、社会的な立場もある。どちらとしても私の方が上なのだ。片や運命を操る能力を持ち、スカーレットデビルと謳われ百数十単位の従者を従える歴代きってのカリスマ当主。
片や、日がな部屋にこもるか図書館で本を読むか、まぁ良いとこ数の少ない友人と遊んでいる程度の半自室警備員である。
どちらが優れているかなど火をみるより明らかであるのd
「なおれよ」
「はい・・・・・・」
もはやカリスマもへったくれもなかった。効果音を付けるのであれば「きゅーん」とかである。
あぁ、私のカリスマどこに行っちゃったんだろう。さっき燃えちゃったのかな。
と、言うかフラン怖っ。こんなに怖いフランをみるのは一昨日の夕食にでたデザートのストロベリーフロートを奪い合って以来である。
普段ならとても可愛く、まるで小鳥のさえずりのように話すと言うのに今はどうだろうか。地獄の裁判官・ミノス王をも震え上がらせるだろう冷徹ぶりだ。
半ば強制的に、レミリアは先程の弾幕戦でぼろぼろになってしまった床の上で正座をさせられる。
日本かぶれといえど、元は西洋育ちのレミリアである。正座は苦手である。特に、し始めてからちょっとした頃にくる神経の痺れがだめだった。
あれ、痛い訳ではないけれど嫌な感覚なのだ。回復にも時間がかかるし、なおかつ直ぐには立てなくなってしまう。何故日本ではこんな妙な座り方があるのかと、いまだに甚だ疑問である。
そんな事を考えつつフランが口を開くのを待つが、どれほど待ってもフランはずっと黙ってレミリアを見てるだけだ。
せめて何か話してくれればいいのに何故そんなに黙っているのだろうか。言葉を選んでいるにしても、ちょっと長すぎる気がする。
かと言って、自分から口を開ける空気でもない。あぁ、どうしよう。もしかしたら新手の監視付き放置プレイかもしれない。
そんなことを思っている間に徐々にレミリアの脚にはあのぴりぴりが襲ってきていた。
「・・・毎回聞いてる気がするけど、何でお姉さま私の衣服とかパクってく訳?」
「ぱ、パクってないわよ。・・・借りてるだけよ」
「黒白みたいなこと言わないでよ。大体、借りなくても自分で揃えればいいでしょ」
「わ、わかってないわね。そう言えばフランには言っていなかったけど今ウチは財政難なのよ。手短なところは人の下着を流用してでも節約したいところなのよ」
「そうなんだ、いつも私の下着が何時の間にか減ってるから最近買って貰うことが多くてねぇ。後いちいちお姉さまが抵抗しなきゃ私の部屋の調度品が壊れなくて済む気がするのよね」
「ソウダネ・・・」
あぁ、みるみるうちにフランの機嫌がどんどん悪い方に進んでいっている。
足の感覚もなくなってきた。ジンジンと神経の痺れる感覚だけが残る。
フランは結構、怒ると分かりやすい。言動にすぐでるのだ。
特に、嫌に冷静できつい皮肉が多くなってきたらもうデッドラインである。
あぁ、今回もダメだったなぁ。レミリアは自分の身を振り返ってみた。
そうさ、入り口の見張りを倒して忍び込んだよ。脱衣所からフランの服を盗る為に。あわよくば下着とか盗ろうと考えてたよ。
ベッドで寝てたのも、そこからフランの良い香りがしていたからさ。まさか寝ちゃったのは計算外だったけど。
敗因は何だろう、と考えればやはりベッドに捕まった事だ。あれがなければ今頃は自室の隠し部屋の中で即席で作らせたビンテージ物のワインを片手に戦利品を吟味していた所である。主に被ったり嗅いだりして。
このスカーレットデビルが、レミリア・スカーレットがなぜそんな愚かな過ちを犯してしまったのか。
答えは明白である。
あぁ、しかし幻想郷の紳士諸君。そう、そこで罪を被ってる君たちだよ。
よく考えて欲しい。フランのベッドだよ?あの可愛いらしくて良い意味で乳臭くて、悪魔が言うのはおかしいけれど天使みたいに愛らしいフランが、いつも寝ているベッドだよ?用がなくても寝っ転がってるようなベッドだよ?
それはもう、見過ごせない程のフランのスメルがするってものじゃないか。
フランの使ってる枕からはフランの髪の柔らかい匂いがするしタオルケットからはフランの甘い匂いがする。あの子がいつもいる所にいる事で、なんだか妙に気分が高まってしまうのもうなずける筈だ。
そこに今朝のドロワとか加われば、もう、スメル天国だよね。抜け出せないよ。
ああ、あの時の昂ぶりを知らしめたい気分だが、絶対誰にも味合わせてやんない。
「はぁ・・・なんでこんなのが私の姉なんだか・・・」
「いっつでぃすてぃにー・・・」
「もっとマシなのが良かったわ。脳的な意味で」
「例えどんな私であろうと、フランの可愛らしさに心動かされないことなどあるだろうか。いやない」
「なんの断言なのそれ。・・・とりあえずいつものいっとく?イージーとハード、どっちが良い?」
そう言いつつフランはどこから取り出したのか、文様のようなものの描かれた皮ベルトであっという間にレミリアの腕・脚・翼を固めてしまった。
いつもの、とは拘束状態での段幕ごっこ(必然的に全て耐久スペル)の事である。
無論拘束されるのはレミリアのみである。あえて言うなら移動しないで弾幕避けてみ、って奴だ。
普通に考えればそんなものは日本語的にもおかしい。避ける、という物はある事象に干渉しないよう移動することである。動けないのに、避けるってなんなの。それはサンドバックじゃないか。こんな風に縛られて、妹のいいようにされてしまうなんて
・・・おぉ、ダメだ興奮してまう。
ん?あ、残機?無制限なんだよね、これが。
しかし、何というか今回の拘束はいつもより痛かった。ちょっ、なんでこんなガチガチなの。いつもだったら、もそっと余裕というか、優しさがあったじゃない。ちょっと変な方向に目覚めちゃうかも知れないあのぎりぎりの締め付け感だったはず。今回、既に痛いんですけど。
「じゃ、じゃあイージーで・・・」
「え、なにルナティックが良いの??がんばるねぇお姉さま。うまく避けてね?(ニコッ」
「えっ」
まじか、と問わずともフランの表情が物語っている。本気だ。うわ、コイツ本気で殺る気だよ。
レミリアは今更になってフランが怖ろしくなる。流石は最終鬼畜と言われるだけはある。
だが、レミリアもただ黙って弾幕の濁流に飲まれる気はない。例え全身が雁字搦めにされようと簀巻きにされようと、どんな状況でも最善を尽くすのがスカーレットの当主、スカーレットデビルというものなのだ。
うまく動けずともせめて動く構えだけでもしておけば、程度の対処は出来るかもしれない。そうしたら、ちょっとは当たらないかもしれない。多分。
すかさず、モタモタと起き上がろうとした。瞬間。
「う、あぁぁぁぁ・・・?!」
脚が痺れていた。それはもう、びりびりだった。これでは立つどころか、まともに動けるかも怪しい。
・・・あ、そうか。正座ってこの為だったんだ。
ふと見ればフランはスペルカードにギュンギュンと魔力を急速充填しながら微笑んでいた。
その笑顔は可愛らしい事この上ないが一皮向けば殺意で出来ているに違いない。わぁ、怖い子。
「なにか遺言は?」
「あるわ・・・・・・フランのドロワおくれ」
「そ。来世でよろしく」
にべもなかった。
3時間後、フランの部屋に花を届けにきた美鈴によってボロボロになったレミリアが発見された。
同時に、レミリアを抱き枕に眠る、満足そうなフランも。
とっても面白かったです!
でも、妹が可愛すぎてそうなるのもまた仕方ない。
しかし、そこは作者様の技量で非常に楽しむことができました。
レミフラかわいいよー かあいいよ
次もお願いします
「例えどんな私であろうと、フランの可愛らしさに心動かされないことなどあるだろうか。いやない」この一言は名言として残すべきですね(えw
また次もレミフラ書いてくれるの楽しみにしてます
あと一応誤字の報告
いつもの、とは拘束状態での段幕ごっこ(必然的に全て耐久スペル)の事であ
てところ弾幕が段幕になってます
この姉妹にとってはwww
期待を裏切らないお方だww
楽しませてもらい、ありがとうございました!
>レミリアはしゃがみガードに姿勢にはいった。
に、の所は誤字ですか?
良いレミフラありがとうございます。面白かったです。
相変わらず素晴らしいレミフラだ。