Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

短い昼と永い夜

2006/08/22 05:36:44
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―――暇ね。


彼女は唐突に、そう呟いた。


―――ああ、暇だぜ。


隣に座っている少女もまた、そう言葉を返した。

少女は二人の間に置いてある二つの湯飲みのうちの片方を手に取り、口に運ぶ。

ずずず、と熱い緑茶をすする音は、静かな神社の中でひときわ目立った響きを立てた。

熱い熱いと言いながらも緑茶を飲み干された湯飲みは、もとにあった場所へ置かれる。

そして、その先ほど口から出てきた暇を潰すためか、少女は隣にいる彼女に話しかけた。






―――なぁ、霊夢。

―――何よ、魔理沙。

―――お前、毎日こんな生活してるのか?暇で暇で仕方ないぜ。

―――失礼ね。いくら私でも、毎日こんなにダラダラしてるわけないじゃない。それに、そんなに暇なら境内の掃除でもやってほしいものだわ。いつも箒持ってるんだし。

―――おっと、それは遠慮しておくぜ。私の箒は掃除用じゃないしな。…それと、境内の掃除こそ霊夢の仕事じゃないのか?

―――格段汚れてるわけじゃないから、掃除なんて数日に一度で十分なのよ。どうせここには、あんたや妖怪ぐらいしか来ないし。そもそも誰も汚さないから掃除と言っても落ち葉を掃いたりする程度よ。

―――今の時期は宴会もないから、か?

―――そうよ。宴会があるっていうなら、流石に掃除しないわけにはいかないじゃない。……でも、近いうちに月見でもすることになるんじゃない?

―――なんでそう言えるんだ?

―――決まってるじゃない、私のカンよ。……あと、『今夜が満月だから』、ってのもあるけどね。

―――今夜が満月なら、月見をするのは今夜じゃないのか?

―――何言ってんの。うちの宴会は、妖怪ばっかりでしょ?満月の中で月見なんてやったら、どうなるかわかったもんじゃないわ。それに、今夜なんて言っても何の準備もないじゃない。

―――なるほど。どっかのメイド長じゃないが、十五夜よりも十六夜月のほうが合ってる、ということなんだな?

―――そういうこと。でもあくまで私のカンだし、本当にやるかどうかは知らないけど。

―――おいおい、そこまで言っておいてやらないのか?私は今の話を聞いて、もう十分に宴会気分なんだが。

―――なら、魔理沙が準備と人数集めを頼まれてくれるの?

―――そりゃないぜ、霊夢。別にめぼしい連中を呼ぶくらいなら構わないけどな。

―――私もやる気がないわけじゃないけど、こうも唐突に「宴会やろう」と言い出して、何人が集まることやら。

―――それは別に気にしなくてもいいと思うぜ?一部は誘わなくても勝手に宴会に入ってくることだし。

―――それは、確かにそうなんだけど……

―――どうした?いつもの霊夢らしくなく弱気な考えじゃないか。それに……





ふとしたことから始まった話も、弾んでしまえば止まらなくなる。

昼に話し始めたというのに、その宴会話が一息つくころには、既に日は傾き始めていた。



自宅に戻る時間を考えた少女・魔理沙は、傍らに置いてあった自分の箒を手に取り、それに跨って話す。


―――私はそろそろ帰ることにするぜ。新しい魔法の研究もしたいしな。

―――魔法の研究がしたかったんなら、わざわざここに来なくても良かったんじゃないの?

―――別にいいじゃないか、たまにはこんな日があったって。

―――それじゃ、宴会の呼びかけと準備は頼んだわよ?

―――あーわかったわかった。でも、お前のほうこそ掃除くらいしておけよ?私が言えたことじゃないんだがな。

―――それくらいやるわよ。宴会の時くらい。

―――それじゃ、帰るとするぜ。熱いお茶をごちそうさん。

―――まるで味わおうともせずに一気に飲み干した人にそんなこと言われても……。って、ちょっと魔理沙、帽子忘れてるわよー?



魔理沙は箒に跨ったまま宙に浮かび上がり、神社を飛び去った。

だが、いつもの帽子を置き忘れていることに気が付いたらしく、すぐに踵を返して戻ってきた。

置きっぱなしになっていた愛用の帽子を改めてかぶり、再び宙に浮かぶ。


―――……あー、そうだ。忘れ物ついでに、帰る前に一つだけ言っておくぜ。

―――……何?またろくでもないものだったりしない?

―――ろくでもないものって何のことだ。それはともかく……、今日の夜は、何かが起こりそうな気がするぜ。それも、長く続きそうな何かが。……私のカンだけどな。

―――魔理沙のカン?……まぁ、何か起こったらそれはそれで楽しめるかもしれないけど。

―――異変を解決する巫女が、異変を楽しがってどうするんだ。まぁ、私には関係のないことだけどな。……それじゃ、今度こそ帰るぜ。またな。



別れの挨拶を済ませると、今度は物凄い速度で魔理沙は空に姿を消した。

一人残った霊夢は、二人分の湯飲みを片付けながら、一応の夕飯の支度をするために中へ入っていった。



―――何か起こる、ね……。確かに、なんとなく何かを感じはするけど、それが何かはわからないし…。はっきりした異変じゃないなら、特に気にする必要もなさそうね。


日が沈む前に自室に入っていった彼女らは、その日の月を見上げようとはとても思わなかった。













その時、確かに異変は起こりつつあった。

だが、彼女達はそんなことを知る由もなかった。

知っていたら、本来は彼女達のほうが我先にと動き出すはずだからである。



だからこそ、既に異変に気が付いている妖怪達は不信に思った。

なぜ彼女達が何も行動を起こさないのか、と。

そしてその不信感は、すぐに行動を起こすこととなった。




それはもちろん、彼女達に異変の存在を知らせ、解決に乗り出させることであった。




















―――え、紫?紫がこんな夜に何の用よ?ただの冷やかしじゃないでしょうね?



―――大変よ霊夢。すぐに外に出て空を見上げてごらんなさい。これは一刻を争うわ。
―――そして、永い夜は始まった。






ただ、書いてみたかっただけだった。
明らかに私の文章力が足りてないような気がする。
敢えて「カギカッコ」を使わずに会話させてみたけど、それが良いのかどうか。

そんなことより、永夜抄の始まりを書きたかった、というお話。
蚯蚓
コメント



1.名無し妖怪削除
永夜抄のふいんき(何故か変換できない)がよく出ていて良かったように思います。
──ところで、ダッシュは二つ繋げて使うのが一般的らしいですよ。
──……あとダッシュの後に三点リーダーが来るのがちょっと見づらかったです。