☆ちょっぴりさとりが暴走していますので彼女のイメージを壊したくないという方はご注意ください。
夕暮れ時の、我が家の玄関。地下に暮らす私たちにとって夕暮れ時なんてのはただの言葉遊びなのだけれど、とにかくそんな時間帯。私――― 古明地さとり ―――は玄関にしゃがみ込んで、どうしたらよいものかと考え込んでいた。
いつもどおりの夕方。そろそろペットと私の晩ごはんの準備をしなければならない。作るのは私。
「は?あんたが? 何よそれ、信じられない。あなたそれでも屋敷の主のつもり?」
主自らが夕食を作るなんて威厳を投げ捨てるような行為だと、この間地上の宴会で会った吸血鬼が言っていた。が、別にいいじゃない。
うちの屋敷には基本的にペットしかいない。その中で人語を喋り人の姿を取れるものは一握り。そんな一握りのペットは、また別のペットの世話をしている。唯一の家族である妹だって、いつもどこかをふらふらとしていて、居ないことが多い。自然、食事を作る(作れる)人間は限られてくる。それに、普段ペットの世話なんてしていないし、せめてご飯くらいは作りたい。作ってあげたい。ご飯くらい用意してあげないで何が「ご主人さま」か。…ペットの世話を何から何までやっていた頃もあった。だけど、それは一人でするにはあまりにも大仕事で、そのうち火焔地獄跡の管理が疎かになってしまった。だから、今はご飯の世話だけをしている。苦渋の決断だった。
そういうわけで、作るのは私。そして私は私の食事を一人で食べる。本当は皆と一緒に食べたかったけど、色々あってペットたちから止められた。
ペットたちの、そして私の食事の時間。みんな、ごはんですよ、とささやかな幸せの時間を味わっていた私はある日お空に涙ながらに怒られた。
「さとり様!もう、いいから自分のご飯を食べてください!チビたちの面倒はわたしたちが見ますから!さとり様が食べてくれないとわたしたちも心配なの!ほら、おつゆもすっかりひえちゃって!」
ぎゃあぎゃあ喧嘩する子猫たち、餌のない場所へとうろつき始める鴉。エトセトラエトセトラ。自分の食事そっちのけで、手を生傷だらけにしながら仲裁したり誘導したり拭いてあげたりしていた私はお燐とお空に両脇から抱えられ、別の部屋に連れて行かれた。
どうしてよ、戻してよと抗議する私に向かってお燐は言った。
「限度があります!こないだはそうやってて結局一食抜いたでしょう!」
抜いたのではない。朝食をとっていたはずが世話の時間が少しかかっちゃって、結局私の食事が昼間にずれ込んだだけ。そう反論してみた。
でも二人は許してくれなかった。
だから、食事は私一人。あのあとしばらく私はむくれていたが、お燐とお空の懇願する様に、二回目の苦渋の決断をしたのだ。まあ、彼女たちにとっても苦渋の決断だったことに変わりはなかったようで(心の底からそう思っていた)、せめて、と人型を取れる者たち―――私が「必要以上」に世話を焼く心配のない者たち、…「必要以上」なんて思ったこともないけど―――は時々私と一緒に食事を食べてくれる。ちなみにあの間欠泉騒動のあと、食事会の頻度が少し増えた。「今回のことは私の管理不行き届きのためもあるの」と私が声を掛けて増やしたのだが。内心、はしゃいでいるのを、彼らは読み取ってくれているだろうか。
閑話休題。
今、私は夕暮れ時の玄関に居る。しゃがみ込み、対峙した相手をどう説得しようか大変悩んでいる。
これで何度目の呼びかけだろうか。私は興奮している目の前の相手に、ゆっくりと声をかけた。
「……ね、いいかしら。ちょっとこっちを向いてくれる?そう、いいこ。いいこね。だから私のお話をちょっと聞いてくれる?…おーい。」
ふしゃー!
返ってきたのは威嚇だった。二本の尻尾が左右にぱたぱた揺れている。だめだわ、この子完全に我を失ってる。
そう、目の前に居るのは私のペット、お燐。彼女は人の姿もとれる結構力のある妖怪なのだけれども、今は猫の姿。真っ黒な火車猫モード。口にはどこから捕ってきたのか、でっかい獲物をくわえてて。
えもの!あたいのえもの! さとりさまといっしょにたべるの!とっちゃだめ!はなさない!
心を読んでみた。興奮のせいか思考がずいぶん動物のものに戻っている。どうやらお燐は私と一緒に食べるためにこの獲物を捕ってきてくれたらしい。そのいっしょうけんめいなかわいさに、鼻の奥に熱いものがこみ上げるけど、何とか我慢する。私のために頑張ってくれたのね。ああもう、かわいすぎる。今すぐ喉をゴロゴロしてあげたい。頭をナデナデしてあげたい。しかし獲物を捕まえた興奮のためか、お燐は私を目の前にしても私を私と認識していない。ふうふうと鼻息荒く、目をくわ、と見開いて威嚇を繰り返す。揺れる尻尾はぶわ、と広がり警戒心をアピールしている。
どうしたものかしら。
とにかく落ち着いてもらわないと文字どおり話にならない。一晩も放っておけば明日の朝には我に返っているだろうが、そんな残酷なことは私にはできない。それに、一晩も彼女へのナデナデを我慢するなんて私にとっても残酷な拷問だ。
また、くわえている獲物にも多少の問題があった。
おさかな!でっかいおさかな!
「うん、でっかいおさかなね。でも、そのおさかなには足があるようね」
こともあろうに彼女の獲物は、竜宮の使いだった。
「だめじゃないの。人様の家のものを捕ってきちゃあ…」
先に述べた宴会の時、彼女とも会った。赤い羽衣が華やかな、私たち地底の住民とは真逆の世界、天界に住む妖怪。その華やかな世界に住む妖怪ということで、少なからず私の中にも彼女らに対し嫌悪感はあったのだが、彼女の住んでいるのは真っ暗な雷雲の海だということで、どことなく好感を持ったことを覚えている。
少し、話しをしたが彼女は私の能力に驚きこそすれ(「すごいですね」の6文字で済まされたけど)、気味悪がることもなく普通に会話をしてくれ、下なる者をいつも見下しているとの私の天界の住人に対するイメージが少し変わった。…彼女の主(なのかしら?)の天人は非常に高慢だったけど。
そんな彼女が、今、うつろな目でお燐に銜えられている。
…あの天人に謝らなきゃいけないのかしら。気が重い。知らんふりしようかしら。
一体どこで捕まったのか。羽衣はあちこち泥にまみれ、帽子は見当たらない。この痛々しい様子を見ると相当長い距離を引きずられて来たようだ。心を読んでみようとしたが駄目だった。意識を失っている。
光のない目からは涙が流れた跡があり、手足はだらりと力を失い地面に垂れている。
その様子はまさに猫にくわえられた魚。空気を読むことが彼女の能力だそうだが、完全無欠のその獲物っぷりに思わず感動すら覚えてしまう。
お燐が我を失い猫の姿のままなのも何となく納得できる。こんな巨大な魚を獲物にできるなんて、猫にとってこんな幸せなこともないだろう。…火車猫もそうなのかは分からないけど。
「ちょっとごめんね…とらないから」
お燐を刺激しないように、ゆっくり首をかしげて「獲物」の観察をする。と、裾が破けたスカートの端、それからぱっつんな羽衣の襟に、青草がくっついていた。地上のもののようだ。ということは彼女は地上で捕まった可能性大。
あとは、とさらに首を傾けて観察すると腕の羽衣の間にくしゃくしゃの紙。これは多分旧都で配られてるかわら版。…ああ、そうだ。飲み屋のチラシだ。
…って。じゃあお燐、もしかして彼女を引きずったまんま旧都を通って来たってわけ?
旧都の大通り、鬼や妖怪が目をむく中で、得意げな顔した(きっとそう)お燐が自分の体よりでっかい「おさかな」をずりずりと…
たっぷり時間を掛けてその場面を幻視する。
…かっ
かわいすぎる。かわいすぎるわお燐。
思わず伸びた手はマッハの猫パンチで撃墜された。
血のにじむ手をさすりながらお燐をよく見れば、黒の体毛に隠れて目立たないがいくつかの焦げ跡。
竜宮の使いも必死に抵抗したらしい。
目もくらむような稲光の中、自分よりも大きな相手に立ち向かってゆく黒猫のシルエットが視えた。
ああ、大決戦だったのね、お燐。
近づけた顔は光速の爪撃で90度横を向いた。
と、とらないで!これは、さとりさまといっしょにたべるの!あたいがつかまえたの!なにあんた!なによう!おさかなとらないで!あたいのなの!あたいのおさかななの!
未だに興奮が収まらないお燐は私の接近で大混乱に陥っていた。今だ私を私と認識していない。
私はそんなお燐を見て引きずられるようにヒートアップしていく。
「い、いたい…痛いけど可愛い…お燐、可愛いわ、可愛すぎるのあなた…」
もう、我慢の限界だった。
頬の傷口から血が垂れて口に入る。今の私にはそれも愛の1滴。
愛しい愛猫が私のために生死を掛けて巨大な獲物を捕ってきてくれた、そのあれやこれやのやり取りの副産物。この味は幸せの味なのだ。私を慕ってくれるペットからの幸せのプレゼントなのだ。
「ああお燐…!」
ふしゃー!
気が付いた時には私はお燐を抱っこしていた。
「よーしよしよしよあたっ しよしよしよしよしあうっ、あっ、よしよぶっ、おんっ」
ふぎゃあああ!ふぎゃああああああ!
爪や肉球が顔に食い込むが問題ない。
しゃああ!ふぎいいい!あおおおおおお!
問題はない。ないったらない。
「ああ、騒がしい…ってちょ、お燐、あんた何やってんのさ!うわぁ、さとり様!顔!顔!」
結局、騒ぎに気付いたお空が止めに来るまで、私は暴れるお燐を抱きしめていた。顔がちょっと大変な事になったけど、そんなことはどうでもいいのだ。
後で我に返ったお燐は泣いて泣いて御免なさいを言ってくれた。けど気にしていない。私もちょっと暴走したのだし。それよりもミイラの如く包帯で顔をぐるぐる巻きにするのはやめてほしかった。心配してくれるのは嬉しいけど、あなたの顔が見えないじゃない。
部屋の外からは無数の感情が流れてくる。他のペットたちだ。みんな私を心配している。ごめんね。私は大丈夫だから。それよりお燐を責めないであげてね。
どう?ただ威張るだけが威厳じゃない。そんなことしなくたっていい。そんなことしなくたって私にはこんなに愛しい家族がたくさん居るの。
泣きじゃくるお燐の頭を撫でながら、顔を覆い尽くす包帯の下、いつか会った吸血鬼に向かって、私は一人、にまりと笑った。
その晩は、みんなでお鍋をかこんだ。
夕暮れ時の、我が家の玄関。地下に暮らす私たちにとって夕暮れ時なんてのはただの言葉遊びなのだけれど、とにかくそんな時間帯。私――― 古明地さとり ―――は玄関にしゃがみ込んで、どうしたらよいものかと考え込んでいた。
いつもどおりの夕方。そろそろペットと私の晩ごはんの準備をしなければならない。作るのは私。
「は?あんたが? 何よそれ、信じられない。あなたそれでも屋敷の主のつもり?」
主自らが夕食を作るなんて威厳を投げ捨てるような行為だと、この間地上の宴会で会った吸血鬼が言っていた。が、別にいいじゃない。
うちの屋敷には基本的にペットしかいない。その中で人語を喋り人の姿を取れるものは一握り。そんな一握りのペットは、また別のペットの世話をしている。唯一の家族である妹だって、いつもどこかをふらふらとしていて、居ないことが多い。自然、食事を作る(作れる)人間は限られてくる。それに、普段ペットの世話なんてしていないし、せめてご飯くらいは作りたい。作ってあげたい。ご飯くらい用意してあげないで何が「ご主人さま」か。…ペットの世話を何から何までやっていた頃もあった。だけど、それは一人でするにはあまりにも大仕事で、そのうち火焔地獄跡の管理が疎かになってしまった。だから、今はご飯の世話だけをしている。苦渋の決断だった。
そういうわけで、作るのは私。そして私は私の食事を一人で食べる。本当は皆と一緒に食べたかったけど、色々あってペットたちから止められた。
ペットたちの、そして私の食事の時間。みんな、ごはんですよ、とささやかな幸せの時間を味わっていた私はある日お空に涙ながらに怒られた。
「さとり様!もう、いいから自分のご飯を食べてください!チビたちの面倒はわたしたちが見ますから!さとり様が食べてくれないとわたしたちも心配なの!ほら、おつゆもすっかりひえちゃって!」
ぎゃあぎゃあ喧嘩する子猫たち、餌のない場所へとうろつき始める鴉。エトセトラエトセトラ。自分の食事そっちのけで、手を生傷だらけにしながら仲裁したり誘導したり拭いてあげたりしていた私はお燐とお空に両脇から抱えられ、別の部屋に連れて行かれた。
どうしてよ、戻してよと抗議する私に向かってお燐は言った。
「限度があります!こないだはそうやってて結局一食抜いたでしょう!」
抜いたのではない。朝食をとっていたはずが世話の時間が少しかかっちゃって、結局私の食事が昼間にずれ込んだだけ。そう反論してみた。
でも二人は許してくれなかった。
だから、食事は私一人。あのあとしばらく私はむくれていたが、お燐とお空の懇願する様に、二回目の苦渋の決断をしたのだ。まあ、彼女たちにとっても苦渋の決断だったことに変わりはなかったようで(心の底からそう思っていた)、せめて、と人型を取れる者たち―――私が「必要以上」に世話を焼く心配のない者たち、…「必要以上」なんて思ったこともないけど―――は時々私と一緒に食事を食べてくれる。ちなみにあの間欠泉騒動のあと、食事会の頻度が少し増えた。「今回のことは私の管理不行き届きのためもあるの」と私が声を掛けて増やしたのだが。内心、はしゃいでいるのを、彼らは読み取ってくれているだろうか。
閑話休題。
今、私は夕暮れ時の玄関に居る。しゃがみ込み、対峙した相手をどう説得しようか大変悩んでいる。
これで何度目の呼びかけだろうか。私は興奮している目の前の相手に、ゆっくりと声をかけた。
「……ね、いいかしら。ちょっとこっちを向いてくれる?そう、いいこ。いいこね。だから私のお話をちょっと聞いてくれる?…おーい。」
ふしゃー!
返ってきたのは威嚇だった。二本の尻尾が左右にぱたぱた揺れている。だめだわ、この子完全に我を失ってる。
そう、目の前に居るのは私のペット、お燐。彼女は人の姿もとれる結構力のある妖怪なのだけれども、今は猫の姿。真っ黒な火車猫モード。口にはどこから捕ってきたのか、でっかい獲物をくわえてて。
えもの!あたいのえもの! さとりさまといっしょにたべるの!とっちゃだめ!はなさない!
心を読んでみた。興奮のせいか思考がずいぶん動物のものに戻っている。どうやらお燐は私と一緒に食べるためにこの獲物を捕ってきてくれたらしい。そのいっしょうけんめいなかわいさに、鼻の奥に熱いものがこみ上げるけど、何とか我慢する。私のために頑張ってくれたのね。ああもう、かわいすぎる。今すぐ喉をゴロゴロしてあげたい。頭をナデナデしてあげたい。しかし獲物を捕まえた興奮のためか、お燐は私を目の前にしても私を私と認識していない。ふうふうと鼻息荒く、目をくわ、と見開いて威嚇を繰り返す。揺れる尻尾はぶわ、と広がり警戒心をアピールしている。
どうしたものかしら。
とにかく落ち着いてもらわないと文字どおり話にならない。一晩も放っておけば明日の朝には我に返っているだろうが、そんな残酷なことは私にはできない。それに、一晩も彼女へのナデナデを我慢するなんて私にとっても残酷な拷問だ。
また、くわえている獲物にも多少の問題があった。
おさかな!でっかいおさかな!
「うん、でっかいおさかなね。でも、そのおさかなには足があるようね」
こともあろうに彼女の獲物は、竜宮の使いだった。
「だめじゃないの。人様の家のものを捕ってきちゃあ…」
先に述べた宴会の時、彼女とも会った。赤い羽衣が華やかな、私たち地底の住民とは真逆の世界、天界に住む妖怪。その華やかな世界に住む妖怪ということで、少なからず私の中にも彼女らに対し嫌悪感はあったのだが、彼女の住んでいるのは真っ暗な雷雲の海だということで、どことなく好感を持ったことを覚えている。
少し、話しをしたが彼女は私の能力に驚きこそすれ(「すごいですね」の6文字で済まされたけど)、気味悪がることもなく普通に会話をしてくれ、下なる者をいつも見下しているとの私の天界の住人に対するイメージが少し変わった。…彼女の主(なのかしら?)の天人は非常に高慢だったけど。
そんな彼女が、今、うつろな目でお燐に銜えられている。
…あの天人に謝らなきゃいけないのかしら。気が重い。知らんふりしようかしら。
一体どこで捕まったのか。羽衣はあちこち泥にまみれ、帽子は見当たらない。この痛々しい様子を見ると相当長い距離を引きずられて来たようだ。心を読んでみようとしたが駄目だった。意識を失っている。
光のない目からは涙が流れた跡があり、手足はだらりと力を失い地面に垂れている。
その様子はまさに猫にくわえられた魚。空気を読むことが彼女の能力だそうだが、完全無欠のその獲物っぷりに思わず感動すら覚えてしまう。
お燐が我を失い猫の姿のままなのも何となく納得できる。こんな巨大な魚を獲物にできるなんて、猫にとってこんな幸せなこともないだろう。…火車猫もそうなのかは分からないけど。
「ちょっとごめんね…とらないから」
お燐を刺激しないように、ゆっくり首をかしげて「獲物」の観察をする。と、裾が破けたスカートの端、それからぱっつんな羽衣の襟に、青草がくっついていた。地上のもののようだ。ということは彼女は地上で捕まった可能性大。
あとは、とさらに首を傾けて観察すると腕の羽衣の間にくしゃくしゃの紙。これは多分旧都で配られてるかわら版。…ああ、そうだ。飲み屋のチラシだ。
…って。じゃあお燐、もしかして彼女を引きずったまんま旧都を通って来たってわけ?
旧都の大通り、鬼や妖怪が目をむく中で、得意げな顔した(きっとそう)お燐が自分の体よりでっかい「おさかな」をずりずりと…
たっぷり時間を掛けてその場面を幻視する。
…かっ
かわいすぎる。かわいすぎるわお燐。
思わず伸びた手はマッハの猫パンチで撃墜された。
血のにじむ手をさすりながらお燐をよく見れば、黒の体毛に隠れて目立たないがいくつかの焦げ跡。
竜宮の使いも必死に抵抗したらしい。
目もくらむような稲光の中、自分よりも大きな相手に立ち向かってゆく黒猫のシルエットが視えた。
ああ、大決戦だったのね、お燐。
近づけた顔は光速の爪撃で90度横を向いた。
と、とらないで!これは、さとりさまといっしょにたべるの!あたいがつかまえたの!なにあんた!なによう!おさかなとらないで!あたいのなの!あたいのおさかななの!
未だに興奮が収まらないお燐は私の接近で大混乱に陥っていた。今だ私を私と認識していない。
私はそんなお燐を見て引きずられるようにヒートアップしていく。
「い、いたい…痛いけど可愛い…お燐、可愛いわ、可愛すぎるのあなた…」
もう、我慢の限界だった。
頬の傷口から血が垂れて口に入る。今の私にはそれも愛の1滴。
愛しい愛猫が私のために生死を掛けて巨大な獲物を捕ってきてくれた、そのあれやこれやのやり取りの副産物。この味は幸せの味なのだ。私を慕ってくれるペットからの幸せのプレゼントなのだ。
「ああお燐…!」
ふしゃー!
気が付いた時には私はお燐を抱っこしていた。
「よーしよしよしよあたっ しよしよしよしよしあうっ、あっ、よしよぶっ、おんっ」
ふぎゃあああ!ふぎゃああああああ!
爪や肉球が顔に食い込むが問題ない。
しゃああ!ふぎいいい!あおおおおおお!
問題はない。ないったらない。
「ああ、騒がしい…ってちょ、お燐、あんた何やってんのさ!うわぁ、さとり様!顔!顔!」
結局、騒ぎに気付いたお空が止めに来るまで、私は暴れるお燐を抱きしめていた。顔がちょっと大変な事になったけど、そんなことはどうでもいいのだ。
後で我に返ったお燐は泣いて泣いて御免なさいを言ってくれた。けど気にしていない。私もちょっと暴走したのだし。それよりもミイラの如く包帯で顔をぐるぐる巻きにするのはやめてほしかった。心配してくれるのは嬉しいけど、あなたの顔が見えないじゃない。
部屋の外からは無数の感情が流れてくる。他のペットたちだ。みんな私を心配している。ごめんね。私は大丈夫だから。それよりお燐を責めないであげてね。
どう?ただ威張るだけが威厳じゃない。そんなことしなくたっていい。そんなことしなくたって私にはこんなに愛しい家族がたくさん居るの。
泣きじゃくるお燐の頭を撫でながら、顔を覆い尽くす包帯の下、いつか会った吸血鬼に向かって、私は一人、にまりと笑った。
その晩は、みんなでお鍋をかこんだ。
ま・まて落ち着け、逆に考えるんだ
「食べられちゃってもいいさ」と考えるn(ロード…いや要石だッ!!
皆で衣玖さん「の」お鍋
一字違いで大違いの、まさにdead or alive状態
お鍋を囲んだってまさか……
い、衣玖さーーーーーーーーーーん!!!!!
リュウグウノツカイの実物はこんな感じらしいです
な ん て 幻 想 郷 な ん だ
食べたいですww
みすちーと仲良く幽々様から逃げる姿を幻視したw
地霊殿のほのぼの話は原作の各々の見事なすれ違いっぷりの分、殊更になごむなあ ええ話でした
鍋に入れる時は太刀魚みたいにぐるぐる巻いて煮るんですかねwww
ええい離せ!そいつは俺の物だ!!
「いやー、あの時は本当に食べられるかと思いましたよ。さすがに話の流れで食べられる空気は読みたくありませんでしたし」
とかだったらまだ救いようがあるかもしれないけどイクサァァァァァァァンドウナッタノォォォォォォ!!
ここまでの感想がことごとくイクサンのことばかりで笑ったwww
おーいこれ地霊殿の話、地霊殿の話!
笑いかけた吸血鬼にビクゥ!とかされてるに違いない!!
と思ってたら…!?
さとり様!動物好きでペットがそんなにいるんですから魚もペットになりますよね!?
衣玖さんは今、大きめの水槽の中で羽衣が危なく透けている状態で泳いでいるんですよね!?