*この話にはオリキャラがいます。オリキャラについては『東方清流譚』をお読みください。
「紫さんって、無限と有限の境界が見えたりします?」
「……え?」
ある日、200年ぶりに不変の眠りから覚めた蒼衣とお酒を飲み交わしていたとき。
不意にそんなことを問われて、思わず呆けた声を返してしまった。
「どうしたの急に?」
「いえ、なんとなく聞きたくなったので」
う~ん。その割には真剣な表情ね。
まあ、嘘をついてもしょうがないし、ちゃんと答えてあげましょう。
「正直に白状させてもらうと、私にもよく分からないわ。
境界を認識することとは、その両側を理解するということ。
あなただって、無限なんて漠然としか理解できないでしょ?
例えば、この周りにある砂。いったい、なん粒あるのかしらね? 一万? 一億? それとも一兆?
数え切れるはずがないけど、そこには確かに限りが存在する。
有限の物ですらこうなのに、無限を知るなんて夢のまた夢よ」
私の回答に頷く蒼衣。どうやら予想していたらしく、特に落胆した様子はないみたい。
「それで、その無限と有限がどうかしたの?」
「妖怪は総じて長寿な存在。その中でも、特にわたし達は長い時を生きてきました。
下手をすると、永遠に生きるんじゃないかと思うほどに……」
「あなたは偶に停止して……「話の腰を折らないでください」……分かったわ」
おかしいわね。この程度の冗談なら、大抵笑って流してくれるのに。
蒼衣は今日に限っていつものような余裕がないみたい。
「こう思ったことはありませんか?
悠久をのうのうと過ごすにしても、刹那を謳歌して散るにしても、
できることはただ一つ。何かを得ることと失うことだけ、と。
ああ、そんな顔しなくても大丈夫です。話はちゃんと繋がりますから」
どうやら非難だが疑念だかの色を顔に出してしまっていたらしい。
私もまだまだ未熟…………つまり、まだまだ若いということね!
「もし、永久に生きるというのなら、それは、あらゆる物を無限に得て、無限に失うということ。
それはきっと、思い出とかも同じで。今楽しいと感じていることも、限りない流れの中、いつか忘れてしまって。
でも、それはたぶん悲しいことで……」
なんて思ってる間にも話は続いていた。
「忘れないように努力しようとも、きっと、わたし達が覚えていられることは無限ではなく有限で。
それでも失いたくないのなら、代わりに何かを得るのを諦めるしかなくて……」
「……でも、何も得ずに何も失わない。それは、あなたが最も嫌う『自身の不変』ではなくて?」
「ええ、そのとおりです。だからこそ、余計にもどかしいんですよ」
そう言って天を仰ぐ。その横顔は、わずかにだが泣いてるように見えた。
私も一緒に顔を夜空へと向ける。
見上げた先では、月が雲に霞んで朧気に光を放っていた。
やがて、蒼衣はこちらを向いて開口一番謝罪してきた。
「すみません。こんな暗い話につき合わせてしまって」
「別に構わないわよ。で、どう? 少しはスッキリした?」
「ええ。おかげさまで。不思議ですね。こういう話は人に聞いてもらうだけで心が落ち着きます」
文字通り憑き物が落ちたような表情。もう大丈夫みたいね。
何も解決はしてないけど、答えが出ないことは蒼衣だって分かっている。
ゆっくりと考えればいい。私達の時間は長いのだから。
「それにしても、なんで急にあんなことを言い出したの?」
「……きっと、不安だったからですね。
不変になっている間、わたし以外の全てのモノは刻々と変わっていく。もちろんあなたも。
だから、自分だけ取り残されてるんじゃないかと、不安になったんでしょう。
そうでもなきゃ、こんなどうにもならないことに愚痴なんて言いませんよ」
愚痴という自覚はあったみたいね。
まあ、理由とさっきの話になんら共通性も感じられないのは不問にしてあげましょう。
この娘にも、色々と思うところがあるみたいだし。
「そういう悩み事相談みたいなのは藍みたいな連中相手にしたほうがいいんじゃないかしら?
苦労している分、悩みとかも多そうだし、私よりも真摯に聞いてくれるわよ」
でも、ちょっとからかうくらいなら良いわよね?
「それとも、私にしか言えなかったのかしら?」
意地の悪い笑みを浮かべてるであろう私に、蒼衣は正面からしっかりと目を見据えて、
「当たり前です。こんな弱音、紫さんにしか吐けませんよ」
あろうことか、臆面もなくそう言い切った。
まったく、この娘には勝てないわね。
そんな風に素直に返されたら、これ以上弄る気になれないじゃない。
仕方がない、質問を変えるとしましょう。
「それで、私はどんなふうに変わった?」
「前より賑やかになりましたよ」
「あら。誉めても何も出ないわよ」
「ついでに、さらに胡散臭く」
「……それは皮肉?」
「いえいえ、誉め言葉ですよ。紫さん専用の」
言ってくれるわね。
自分だって、「最低一割心を込めてれば嘘じゃない」って豪語するぐらいの正直者のくせに。
でも、今回は許してあげましょう。ようやく顔に戻ってきた、その微笑みに免じてね。
「さて、とりあえず今夜は飲みましょう。ああ、そういえば乾杯をしてなかったわね」
「わざわざ、そんなことする必要ないですからねえ。で、仮にするとして何を祝うんです? 再会?」
「そうねえ、それに加えて変わらぬ友情も祈りましょうか」
「……それ、紫さんが言うと凄く胡散臭いですよ」
「あら。胡散臭さは私の味じゃなかったの?」
「……ハァ」
自らの負けを悟ったらしく、やれやれと溜息をつく。
言うまでもなく、その顔は嬉しそうだった。
「今度、幽々子さんも交えてやらないといけませんね」
「まあ、それは次の機会にでもとっておきましょう」
「そうですね。それでは、二人の再会を祝し……」
「未来永劫、変わらぬ友情を祈って……」
「「 乾杯 」」
あれ? 文頭に注意書きがあったはずj…………無い!? Σ( ̄□ ̄;
ジーザス。メモ帳からコピーしたときにドラッグし忘れてたようです。
本文に関係ないから見落としてました。ごめんなさい。
『東方清流譚』はプチじゃないほうにあります。