照りつけると表現するにはまだ少し早い日差しの中、いつもの階段をいつもの様に上がっていく。元々客の来ない場所なのにこの階段がさらに客を減らしているような気がするのはきっと気のせいではないだろう。階段を上りきって鳥井を潜ると箒を掃きながら彼女はこちらを見つけると決まって一言……。
あらいらっしゃい、今日は何の用? 見ての通り掃除で忙しいのよね、そうだ、どうせだから手伝ってくれない?
そう言って当たり前の様に自分の持つ箒を渡してくる彼女とそれを見ながら縁側に座って笑っているもう一人の少女。そんな光景が浮かんでは消えていく。
誰も居ない境内を見渡すと気分を仕事用に切り替える。
「さて、今年も始めるとするか」
紅魔館の昼下がり、日の光の届かない館の中は静かに時を刻みながら隔離された世界を築き上げていた。長い年月で変わったのは微々たる物で運命と呼ばれる世界から見れば変化と呼ぶことすらきっとないだろう。
「美鈴、ちょっといいかしら」
静かな紅魔館に私の声だけが染み渡るように響く。それから少しして慌しい足音、扉を開け放ち呼ばれた当人は姿を見せる。
「な、何でしょうか…お嬢様」
全力で走ってきたせいか、それとも別の理由もあるのか、息を切らしながら用件を聞いてくる。そのまま用件を伝えてもいいけどそれでは面白くないので少しからかってみよう。
「慌しいわね、もう少し静かに、そして早く来れないのかしら?」
「む、無茶言わないでくださいよ~」
わかっている、美鈴にそんな事が出来るとは最初から思っていない。門番としてはそれなりの仕事をするがメイドとしての仕事は駄目なのは知っているからそれほど期待もしていないし。
「まあいいわ、お茶を入れて頂戴」
「うっ……それは私よりお嬢様の方が上手じゃないですか」
「何故私が自分でやらなきゃいけないのかしら? 文句を言わずに早く入れなさい」
渋々了承するとまた慌しく駆けていく。人の話を全く聞いていないらしい……。それにしても美鈴は文句が多い、以前なら……。
わかりました、少々お待ちください。
お待たせいたしました、今日のお茶は少し自信があるんですよ、葉もいつもより高級な物を使ってるし、そう言えばですね……。
私がお茶を飲んでる間、楽しそうにお茶の知識やそれ以外の事を話す姿が今でもはっきりと浮かぶ。けど過去の記憶にそれほど価値があるわけでもない、それでもよく思い出すのはきっと近くに置きすぎたからだろう。
「お待たせしました…味の方はいつも通りあまり期待は出来ませんが…」
そう言って私の前に紅い色をした紅茶が置かれる。最初は入れ方すら知らなかった頃に比べればマシと言えるが、味は一向に上昇しない。
「あ、そう言えばですね、この前また腕試しがしたいと言って人間が来たんですよ、皆よく飽きずに来ますよね…ってお嬢様? どうかしましたか?」
「何でもないわ、それで?」
「そうそう、それでですね~……」
楽しそうに、侵入者や旅人の事、何気ない会話の内容を話し続ける。きっと本当に楽しかったのだろう、いつもより話し方が軽い。
そんな話を聴きながらティーカップに口をつける。相変わらず不味かったが、少しはマシになったとも思えた。
私が紅茶を飲み終えると話をやめ空になったティーカップを片付けに部屋を出て行く美鈴に一言だけ告げる。
「週末、休みをあげるわ、準備しておきなさい」
それを聞いて振り返ると一礼をして今度こそ部屋から出て行く。
亡者達の住まう世界の先、たった二人の住人が住まう白玉楼、普段は静かなそこも慌しくなっていた。
「妖夢~、もう出来た?」
「もう少し待ってくださいよ~、そんな早く出来るわけないじゃないですかぁ」
そう言って忙しなく動き回る妖夢の周りには溢れかえらんばかりの料理の山、その全てを作ったのは妖夢で、今もまた別の料理の製作に取り掛かっている。そんな様子を見ながら寛いでたまに口を出すのが幽々子の今現在の楽しみだった。
「早くしないと間に合わないわよ~」
「まだ後二日もあるじゃないですか」
「あら、準備は早めにしておくのが一番よ、さあ後百品くらいは作らないと」
「そんな~」
嘆きながらも妖夢はとても楽しそうだった。それはやはり週末が近いのが関係してるだろう、私も気分が高揚している。けれどその度に思う事がある、それはいつかは妖夢の同じ様に……考えても仕方ないし、考えたくもない。それでも頭によぎるのはきっと私が弱いから…思えば私は昔から紫や妖夢の世話になってばかりで、甘えていた。
以前その事を妖夢に言ったら笑われてしまった、幽々子様がそんな事考えるなんて明日は槍でも降りそうですね……妖夢はたまに言う事が酷いと思う。
「幽々子様~、何か楽しそうにしてないでたまには手伝ってくださいよぉ」
「あらあら、妖夢も言うようになったわね、悲しいわ~」
「そんな嘘泣きされても反応に困るんですが……」
妖夢にはもう少し色々学ばせたほうがいいかも知れない。別にボケに対しての返し方とかでなく、もっと色々と…私の元に居る内に……。
でも今はこの時を楽しもう、年に一回の大事な日だから。
深い森の先、人の立ち入らない竹林にある永遠亭。ひっそりとした佇まいの屋敷には今では僅か三人の住人しか居なかった。
「輝夜様、妹紅様、そちらはどうですか?」
私が様子を見に行くと作業は低速ながらも進んでいるようだった。組み立て掛けの社はようやく社だとわかるくらいには出来ていた。
「中々上手くいかないわね」
「そもそも社なんて作った事がないのに上手く行くわけがない」
二人とも初めての作業に手間取っているようだった。本来なら二人に任せるべきなのだが、それでは間に合わなそうなので手を貸す事にする。
毎年任された仕事、いつもなら自分一人で済ませてしまうのだが、今年は珍しく自分たちも何かすると言い出したので社の作成を任せたが……まだ完全に任せるわけには行かないようだ。
「形や出来はともかく、ここまで完成しているのなら後は私に任せてお二人は休んでいてください。なれない仕事でお疲れでしょう」
「そうだな、なら私は村に行って慧音たちの様子を見てくる」
そう言うと軽く伸びをしてからさっさと部屋を出て行く。まだまだ態度はぎこちないが前よりも輝夜様と妹紅様の仲はよくなってると言える。その証拠に二人で共同作業をするなんて以前には想像も出来なかった。
「永琳、何を一人で楽しそうにしてるのかしら?」
「いえ、一時はこの屋敷も寂しくなったと思ってましたが……まだまだ賑やかなだなと思いまして」
「……そうね。でも今はそんな感情に浸ってる暇はないわよ、まだしなければいけない事は多いんだから」
そう……まだ私にはしなければならない事は多い。それはこの先、永遠に……。
「ええ、そうですね」
笑顔でそう返し、取り敢えず私がやるべき事の一つである目の前の社の作成に取り掛かる。週末までもうそんなに日はない……。
神社の縁側に腰を下ろして僕は今年の予定や出店の出展数などが記された紙を読みながらそれぞれの配置を決めていく。適当に決めると本番になって揉め事になる事もあるから真面目に取り組まなければならない。最初の頃はそれでよく始末に追われたものだ。
全く……我ながら厄介な仕事を引き受けてしまったよ。その文句を言う相手はもう居ないが……。
あの頃からもうどれだけ経っただろうか……毎年この時期になると考えてしまう、またあの頃に戻れないだろうかと自分らしくない考えさえ浮かぶ。
やめよう……過去を懐かしむのはともかく、過去に想いを馳せたらもう年だと感じてしまう。まだ僕は若いつもりだ。
「あら、頑張ってるかしら?」
僕以外誰も居ないはずの神社に声が響く。そして空間を裂いて当たり前の様に彼女は現れる。
「紫か、まあそれなりには頑張っているつもりだ」
「年に一回のお祭りだもの、しっかりやらなきゃね」
「わかってるさ、幻想郷があの頃に還る唯一の日だ」
普段は誰一人訪れるものはおらず、人の目には殆ど触れることない博麗神社が多くの人や妖怪たちで溢れかえり思い思いに騒ぎ、語らい、夜を明かす。誰もが待ち望んでいる祭事だ、手を抜くわけには行かない。
何より彼女たちから跡継ぎを頼まれたのも、それを受けたのも僕だから……。
「あの頃は本当によかったわね……」
「そう言う言葉が出るのは年になった証だ、いやもうとっくにそうか」
「否定はしないけど癪に障るわね……そういうあなたはどうなのかしら?」
「……僕も年さ」
そこで会話は終わり、ただゆったりと初夏の風を感じながら手元の資料に目を通す。紫もまた何をするでもなくそこに立ち少し寂れた神社を見続けていた。
霊夢、魔理沙……例大祭は今年もやってくる。一年の中でたった一日、君たちがまだ居た頃に幻想郷が戻る日。それはきっとこれからもずっと続くだろう、あの日を生きた者が残る限りは……。
あらいらっしゃい、今日は何の用? 見ての通り掃除で忙しいのよね、そうだ、どうせだから手伝ってくれない?
そう言って当たり前の様に自分の持つ箒を渡してくる彼女とそれを見ながら縁側に座って笑っているもう一人の少女。そんな光景が浮かんでは消えていく。
誰も居ない境内を見渡すと気分を仕事用に切り替える。
「さて、今年も始めるとするか」
紅魔館の昼下がり、日の光の届かない館の中は静かに時を刻みながら隔離された世界を築き上げていた。長い年月で変わったのは微々たる物で運命と呼ばれる世界から見れば変化と呼ぶことすらきっとないだろう。
「美鈴、ちょっといいかしら」
静かな紅魔館に私の声だけが染み渡るように響く。それから少しして慌しい足音、扉を開け放ち呼ばれた当人は姿を見せる。
「な、何でしょうか…お嬢様」
全力で走ってきたせいか、それとも別の理由もあるのか、息を切らしながら用件を聞いてくる。そのまま用件を伝えてもいいけどそれでは面白くないので少しからかってみよう。
「慌しいわね、もう少し静かに、そして早く来れないのかしら?」
「む、無茶言わないでくださいよ~」
わかっている、美鈴にそんな事が出来るとは最初から思っていない。門番としてはそれなりの仕事をするがメイドとしての仕事は駄目なのは知っているからそれほど期待もしていないし。
「まあいいわ、お茶を入れて頂戴」
「うっ……それは私よりお嬢様の方が上手じゃないですか」
「何故私が自分でやらなきゃいけないのかしら? 文句を言わずに早く入れなさい」
渋々了承するとまた慌しく駆けていく。人の話を全く聞いていないらしい……。それにしても美鈴は文句が多い、以前なら……。
わかりました、少々お待ちください。
お待たせいたしました、今日のお茶は少し自信があるんですよ、葉もいつもより高級な物を使ってるし、そう言えばですね……。
私がお茶を飲んでる間、楽しそうにお茶の知識やそれ以外の事を話す姿が今でもはっきりと浮かぶ。けど過去の記憶にそれほど価値があるわけでもない、それでもよく思い出すのはきっと近くに置きすぎたからだろう。
「お待たせしました…味の方はいつも通りあまり期待は出来ませんが…」
そう言って私の前に紅い色をした紅茶が置かれる。最初は入れ方すら知らなかった頃に比べればマシと言えるが、味は一向に上昇しない。
「あ、そう言えばですね、この前また腕試しがしたいと言って人間が来たんですよ、皆よく飽きずに来ますよね…ってお嬢様? どうかしましたか?」
「何でもないわ、それで?」
「そうそう、それでですね~……」
楽しそうに、侵入者や旅人の事、何気ない会話の内容を話し続ける。きっと本当に楽しかったのだろう、いつもより話し方が軽い。
そんな話を聴きながらティーカップに口をつける。相変わらず不味かったが、少しはマシになったとも思えた。
私が紅茶を飲み終えると話をやめ空になったティーカップを片付けに部屋を出て行く美鈴に一言だけ告げる。
「週末、休みをあげるわ、準備しておきなさい」
それを聞いて振り返ると一礼をして今度こそ部屋から出て行く。
亡者達の住まう世界の先、たった二人の住人が住まう白玉楼、普段は静かなそこも慌しくなっていた。
「妖夢~、もう出来た?」
「もう少し待ってくださいよ~、そんな早く出来るわけないじゃないですかぁ」
そう言って忙しなく動き回る妖夢の周りには溢れかえらんばかりの料理の山、その全てを作ったのは妖夢で、今もまた別の料理の製作に取り掛かっている。そんな様子を見ながら寛いでたまに口を出すのが幽々子の今現在の楽しみだった。
「早くしないと間に合わないわよ~」
「まだ後二日もあるじゃないですか」
「あら、準備は早めにしておくのが一番よ、さあ後百品くらいは作らないと」
「そんな~」
嘆きながらも妖夢はとても楽しそうだった。それはやはり週末が近いのが関係してるだろう、私も気分が高揚している。けれどその度に思う事がある、それはいつかは妖夢の同じ様に……考えても仕方ないし、考えたくもない。それでも頭によぎるのはきっと私が弱いから…思えば私は昔から紫や妖夢の世話になってばかりで、甘えていた。
以前その事を妖夢に言ったら笑われてしまった、幽々子様がそんな事考えるなんて明日は槍でも降りそうですね……妖夢はたまに言う事が酷いと思う。
「幽々子様~、何か楽しそうにしてないでたまには手伝ってくださいよぉ」
「あらあら、妖夢も言うようになったわね、悲しいわ~」
「そんな嘘泣きされても反応に困るんですが……」
妖夢にはもう少し色々学ばせたほうがいいかも知れない。別にボケに対しての返し方とかでなく、もっと色々と…私の元に居る内に……。
でも今はこの時を楽しもう、年に一回の大事な日だから。
深い森の先、人の立ち入らない竹林にある永遠亭。ひっそりとした佇まいの屋敷には今では僅か三人の住人しか居なかった。
「輝夜様、妹紅様、そちらはどうですか?」
私が様子を見に行くと作業は低速ながらも進んでいるようだった。組み立て掛けの社はようやく社だとわかるくらいには出来ていた。
「中々上手くいかないわね」
「そもそも社なんて作った事がないのに上手く行くわけがない」
二人とも初めての作業に手間取っているようだった。本来なら二人に任せるべきなのだが、それでは間に合わなそうなので手を貸す事にする。
毎年任された仕事、いつもなら自分一人で済ませてしまうのだが、今年は珍しく自分たちも何かすると言い出したので社の作成を任せたが……まだ完全に任せるわけには行かないようだ。
「形や出来はともかく、ここまで完成しているのなら後は私に任せてお二人は休んでいてください。なれない仕事でお疲れでしょう」
「そうだな、なら私は村に行って慧音たちの様子を見てくる」
そう言うと軽く伸びをしてからさっさと部屋を出て行く。まだまだ態度はぎこちないが前よりも輝夜様と妹紅様の仲はよくなってると言える。その証拠に二人で共同作業をするなんて以前には想像も出来なかった。
「永琳、何を一人で楽しそうにしてるのかしら?」
「いえ、一時はこの屋敷も寂しくなったと思ってましたが……まだまだ賑やかなだなと思いまして」
「……そうね。でも今はそんな感情に浸ってる暇はないわよ、まだしなければいけない事は多いんだから」
そう……まだ私にはしなければならない事は多い。それはこの先、永遠に……。
「ええ、そうですね」
笑顔でそう返し、取り敢えず私がやるべき事の一つである目の前の社の作成に取り掛かる。週末までもうそんなに日はない……。
神社の縁側に腰を下ろして僕は今年の予定や出店の出展数などが記された紙を読みながらそれぞれの配置を決めていく。適当に決めると本番になって揉め事になる事もあるから真面目に取り組まなければならない。最初の頃はそれでよく始末に追われたものだ。
全く……我ながら厄介な仕事を引き受けてしまったよ。その文句を言う相手はもう居ないが……。
あの頃からもうどれだけ経っただろうか……毎年この時期になると考えてしまう、またあの頃に戻れないだろうかと自分らしくない考えさえ浮かぶ。
やめよう……過去を懐かしむのはともかく、過去に想いを馳せたらもう年だと感じてしまう。まだ僕は若いつもりだ。
「あら、頑張ってるかしら?」
僕以外誰も居ないはずの神社に声が響く。そして空間を裂いて当たり前の様に彼女は現れる。
「紫か、まあそれなりには頑張っているつもりだ」
「年に一回のお祭りだもの、しっかりやらなきゃね」
「わかってるさ、幻想郷があの頃に還る唯一の日だ」
普段は誰一人訪れるものはおらず、人の目には殆ど触れることない博麗神社が多くの人や妖怪たちで溢れかえり思い思いに騒ぎ、語らい、夜を明かす。誰もが待ち望んでいる祭事だ、手を抜くわけには行かない。
何より彼女たちから跡継ぎを頼まれたのも、それを受けたのも僕だから……。
「あの頃は本当によかったわね……」
「そう言う言葉が出るのは年になった証だ、いやもうとっくにそうか」
「否定はしないけど癪に障るわね……そういうあなたはどうなのかしら?」
「……僕も年さ」
そこで会話は終わり、ただゆったりと初夏の風を感じながら手元の資料に目を通す。紫もまた何をするでもなくそこに立ち少し寂れた神社を見続けていた。
霊夢、魔理沙……例大祭は今年もやってくる。一年の中でたった一日、君たちがまだ居た頃に幻想郷が戻る日。それはきっとこれからもずっと続くだろう、あの日を生きた者が残る限りは……。
味は荒削りの感じはあるけどまぁまぁかな?
もしまた血迷うなら、もう少し味のある長めのシリアスストーリーで、
月ノ涙シリーズを超えるものとか、は贅沢は言わないから