煌々と浮かぶ満月が一巡り前と同じように紅魔館を照らしていた。
だが、変わらないのは館のみ。
周囲を取り巻くは美しき自然の結晶ではなく、禍々しき妖怪達の波であった。
デーモンロードとまで呼ばれることのあるレミリア・スカーレットが君臨する紅魔館に近付く妖怪は、幻想郷にはまず居ない。それは己が命を絶つことと同義なのだから。
しかし、ごく希に満月の狂気に当てられた知能の低い妖怪達が、館に染みた人間のニオイに惹き寄せられることがある。
そしてまさに今がその時だった。
館をぐるりと覆う高い塀にただひとつ取り付けられている大きな正門。
招かれざる来客を拒むはずの境界が、その役割に反して人ひとり分の綻びを見せた。
同時に微かに人間のニオイを含んだ空気が流れ出し、妖怪達は一斉にソレに注意を向ける。
しかし、次の瞬間綻びは閉じ、一分の隙無く合わされた門前にはひとつの影が生み出された。
「ここは高貴なる紅き館。下賤なお前達が踏み入れる場所ではない! 即刻立ち去れ!」
凛とした声が影から上がる。
身に纏うは大陸の衣装。帽子には月に光る星の飾り。一歩踏みだし月明かりに姿をさらした影――紅魔館が門番紅美鈴は、その躯に気を溜めつつ渦巻くモノ達へ警告を飛ばす。
徐々に高まる美鈴の妖力に妖怪達の歩みが留められる。アレに向かうは自殺行為。力の差を知り本能が撤退を叫ぶ。
だが妖怪達の狂気が恐怖を上回っていた。
一匹が身を留めていた縛を解き、塀を飛び越えんと上空へ舞い上がる。
「去らぬなら……」
飛び上がった妖怪に動じることなく言葉を紡ぐと、美鈴は溜めた気を両の足に解放して地を蹴った。
振り上げた右足を真っ直ぐ伸ばして鏃とし、放たれた矢の如く突き進み狙い違わず上空の妖怪を打ち落とす。
「せめて夜を飾る星屑となれ!!」
美鈴の一喝で妖怪達は動くことを思い出す。しかし、その時に美鈴は既に次の動作に入っていた。
着地と同時に後方に身を捻り、回転に合わせて踵を振り抜く。
気を纏った回し蹴りは虹色の気弾をまき散らしながら近くの妖怪をまとめてなぎ払い、そしてその蹴り足の遠心力を利用して、今度は前回し蹴りへ移行する。
右、左、右、左と交互に繰り出す足は都度速度を増し、合わせて放たれる気弾もその密度を濃くしていく。
それはさながら小さな颱風。
進むことも退くことも許さず、触れるモノ全てを吹き飛ばす極彩色の颱風。その圧倒的な暴力に妖怪達はただただ蹂躙されるだけだった。
颱風一過。
紅魔館は周囲で起きた騒ぎなど無かったかの様に佇んでいた。
無論完全に影響が無かった訳ではない。極々僅かではあるがその外観には変化があった。
けれどそれを知ることができるのは、おそらく館の主だけであろう。
ほんの少しだけ、塀の紅が深くなったことに気付くのは。
だが、変わらないのは館のみ。
周囲を取り巻くは美しき自然の結晶ではなく、禍々しき妖怪達の波であった。
デーモンロードとまで呼ばれることのあるレミリア・スカーレットが君臨する紅魔館に近付く妖怪は、幻想郷にはまず居ない。それは己が命を絶つことと同義なのだから。
しかし、ごく希に満月の狂気に当てられた知能の低い妖怪達が、館に染みた人間のニオイに惹き寄せられることがある。
そしてまさに今がその時だった。
館をぐるりと覆う高い塀にただひとつ取り付けられている大きな正門。
招かれざる来客を拒むはずの境界が、その役割に反して人ひとり分の綻びを見せた。
同時に微かに人間のニオイを含んだ空気が流れ出し、妖怪達は一斉にソレに注意を向ける。
しかし、次の瞬間綻びは閉じ、一分の隙無く合わされた門前にはひとつの影が生み出された。
「ここは高貴なる紅き館。下賤なお前達が踏み入れる場所ではない! 即刻立ち去れ!」
凛とした声が影から上がる。
身に纏うは大陸の衣装。帽子には月に光る星の飾り。一歩踏みだし月明かりに姿をさらした影――紅魔館が門番紅美鈴は、その躯に気を溜めつつ渦巻くモノ達へ警告を飛ばす。
徐々に高まる美鈴の妖力に妖怪達の歩みが留められる。アレに向かうは自殺行為。力の差を知り本能が撤退を叫ぶ。
だが妖怪達の狂気が恐怖を上回っていた。
一匹が身を留めていた縛を解き、塀を飛び越えんと上空へ舞い上がる。
「去らぬなら……」
飛び上がった妖怪に動じることなく言葉を紡ぐと、美鈴は溜めた気を両の足に解放して地を蹴った。
振り上げた右足を真っ直ぐ伸ばして鏃とし、放たれた矢の如く突き進み狙い違わず上空の妖怪を打ち落とす。
「せめて夜を飾る星屑となれ!!」
美鈴の一喝で妖怪達は動くことを思い出す。しかし、その時に美鈴は既に次の動作に入っていた。
着地と同時に後方に身を捻り、回転に合わせて踵を振り抜く。
気を纏った回し蹴りは虹色の気弾をまき散らしながら近くの妖怪をまとめてなぎ払い、そしてその蹴り足の遠心力を利用して、今度は前回し蹴りへ移行する。
右、左、右、左と交互に繰り出す足は都度速度を増し、合わせて放たれる気弾もその密度を濃くしていく。
それはさながら小さな颱風。
進むことも退くことも許さず、触れるモノ全てを吹き飛ばす極彩色の颱風。その圧倒的な暴力に妖怪達はただただ蹂躙されるだけだった。
颱風一過。
紅魔館は周囲で起きた騒ぎなど無かったかの様に佇んでいた。
無論完全に影響が無かった訳ではない。極々僅かではあるがその外観には変化があった。
けれどそれを知ることができるのは、おそらく館の主だけであろう。
ほんの少しだけ、塀の紅が深くなったことに気付くのは。
それはともかく、カッコイイ美鈴ありがとうございます。