Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

春の始まり

2007/03/22 01:54:01
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※前作「春がくる」の続きです。微妙に。










 リリーホワイト。
 春を運ぶ妖精。
 春になるとどこからともなくやってくる妖精。
 彼女の通った後には、色とりどりの綺麗な花々が咲き誇り、
 人間の里の人々をことのほか喜ばせる。
 春の使徒。
 それがリリーホワイトである。

 「春を告げにきたわ。」

 
 幻想郷と外の世界の境界。
 博麗神社に彼女は今年もやってきた。
 目一杯の春を引き連れて。
 
 「今年もよろしくね、リリー。みんなに春を伝えてあげて。」
 「もちろんよ、博麗の巫女。それが私の役目だもの。」
 「ついでにここの桜も咲かせてくれないかしら。」
 「おやすい御用よ、人形遣いさん。今日は春を祝って宴会かしら?」
 「ええ。あなたも参加するわよね?というか、しなさい。
  今年も元気なあなたを歓迎する会にするから。」
 「嬉しいわ。時間は夜から?みんなのところへ一端挨拶に行ってきたいの。」
 「挨拶しながら声かけてきなさいな。そうすれば、あなたが戻り次第始められるから。」
 「ありがとう、素敵な巫女さん。それじゃ行ってくるわね。」
 「あぁ、そうそう。レティがこの前からあなたのこと待ってたわよ。暖かくなってきたから。
  春がきたら行かなきゃって言ってた。一番に行ってきた方がいいんじゃない?」
 「そう。レティは今年もどこかに行くのね。わかったわ。
  1年に1回、私が春を伝える日にしか会えないし。
  今日もいつもみたいにレティが行ってしまうまで、一緒にいようかしら。教えてくれてありがとう。
  お礼を兼ねてご要望にお答えするわ。」 

 リリーはその場で優雅に両手を広げて1回転。
 彼女の羽から春の光があたり一面を照らし出す。
 
 「それじゃ行ってくるわね。」

 リリーが飛び去った後には、見事に咲いた桜が神社を華やかに彩っていた。

 

 紅魔館の近く、とある湖をねぐらにする妖精がいる。
 チルノ。氷の妖精。悪戯好きの元気者。
 その明るく愛らしい性格は妖精、妖怪、人間問わず人気がある。
 たまに元気が過ぎて周りに迷惑をかけるときがあるが、
 それすらも彼女の魅力の1つといえよう。
 そんなチルノは今日、普段の元気がなかった。
 春が来た。それは嬉しい。氷の妖精とはいえ、やっぱりみんなが明るい春は好きだ。
 しかし、1つだけ哀しいことがある。
 それは寒さ、というチルノと共通点を持つ冬の妖怪、レティ・ホワイトロックが
 春の到来とともにどこか ― 誰も知らないどこか ― に行ってしまうからだった。
 レティは冬の間しか活動しない。暖かくなるとどこかへ行ってしまうのだ。
 冬眠ならぬ春眠といえばいいのか。
 冬の間中ずっと一緒にいたレティ。
 チルノにしてみれば、近所のお姉さんといったところ。
 親友の大妖精とチルノとレティと。
 冬はいつも三人で遊んでいた。
 そのレティがしばらくいなくなってしまう。
 それが哀しい。

 「レティ、今年も行っちゃうの?」
 「ええ。春が来たらね。」
 「ちぇっ。つまんないの。また大ちゃんと2人きりかー。」
 
 しょんぼり顔でチルノ。レティは思った。正直、お持ち帰りしたい。
 
 「大妖精以外にもルーミア、ミスティア、リグルがいるじゃない。
  サニー達だって誘えば一緒に遊んでくれるわよ?」

 自分だって、このかわいい妹分と離れるのはつらい。
 しかし、冬の妖怪として、自身の存在意義として、
 春はいられないのだ。
 幻想郷内で冬眠ならぬ春眠をしてもいいのだが、遊べないことに変わりはない。
 おしゃべりくらいならできるかもしれないが、それでも非常に力を使ってしまう。
 それになにより、暖かな春を楽しみにしている人や妖怪達に、
 再び冬をもたらすのはどうも忍びない。
 自分は冬の妖怪。それは、冬以外の季節に活動することを許されていないことと同義である。
 冬に生きる。それが私のルール。

 「ルーミア達と遊ぶのも楽しいけど、レティがいればもっと楽しい!」
 
 ・・・本当に連れて行っちゃおうかしら。
 レティは心の底から思った。
 なんとかわいらしい。お馬鹿な子ほどかわいいと言うが、
 この子はまさにそれである。
 春の間、ねぐらに連れ帰って思う存分に愛でたい。
 そして、来年の冬までにはこう呼ばせるのだ。
 お姉さま、と。
 ぐふぐふぐふ、いやらしい笑みを浮かべるレティ。
 黒幕たるにふさわしい不気味な顔であった。

 「こんにちわ。」

 タイミングがいいのか、悪いのか。
 妄想特急大暴走中の不思議空間に柔らかな声がかけられた。
 空間内の2人は揃って上を見上げる。
 チルノはキョトンとした顔で、レティは驚愕に目を見開いて。
 
 そこにいたのは、春を運ぶ妖精リリーホワイトだった。
 
 「お久しぶりね、2人とも。今年もまた会えて嬉しいわ。」
 「おー、リリー!春が来たのかー!?」
 「・・・今年は少し早いのね。」

 久しぶりに会う友人の挨拶に輝かんばかりの笑顔で答えるチルノ。
 何かをごまかすようによそよそしいレティ。
 妄想中に声を掛けられることほど恥ずかしいことはない。
 反省。

 「ええ、暖冬だったから早くに冬が明けたの。レティ、今年も行くの?」
 「もちろん。私は冬の妖怪。春に私の居場所はないわ。」
 「そう。じゃあ、また今日しか一緒にいられないのね。寂しいわ。
  あなたとは一度、一年中思い切り遊んでみたいものね。」
 「それは叶わぬ夢よ、リリー。私が冬で、あなたが春である限り。」
 「なら、今日ぐらい一緒におしゃべりでもしましょう。いつものように。」
 「ええ。今日一日、一年に一回、あなたが春を伝えにやってくるこの日だけが、
  私とあなたの約束の日。一緒にいましょう。いつものように。」

 2人の挨拶。毎年のように行われる儀式。再会と別れの挨拶。交し合い、微笑み合う。
 長年の親友同士の交流。1年にたった1度しか会わずとも心は通い合っている。
 幻想郷に知り合いは数多けれど、浅いようで深い、知らないようで知っている、
 そんな関係はお互いにお互いしかいなかった。

 「あたいも一緒にいる!」
 
 チルノが叫ぶ。大好きなレティといられるのが今日まで。絶対、今日は離れない。
 これも毎年のことだった。

 「ええ、もちろんそのつもりよ、チルノ。」

 レティとリリーの声が重なる。これもいつものことだった。





 ふわふわふわふわ。ふわふわふわふわ。
 3つの影が空を飛ぶ。幻想郷内のどこからでも見えるように、くまなく空を飛び回る。
 それはおなじみの光景。春が来たことを伝える光景。
 リリー、レティ、チルノ。
 楽しげに空を舞う。
 3つの影が絡み合い、もつれ合い、解け、また重なる。
 これは合図。春の合図。そして、宴会の合図。
 しばらくの間、去り行く友の送迎会。
 しばらくの間、留まる友の歓迎会。
 春の宴会。始まりの宴会。
 さぁ、今日も楽しく騒ごう。
 この春の始まりの日に。
こんにちは。羊です。二作目です。
相変わらずのオリ設定です。
リリーもレティも自分の季節以外は
絶対,誰も知らないようなねぐらに篭ってると思って書いてみました。
始めはリリーとレティのギャグのつもりだったんです。
それがいつの間にかチルノが出てきて、
前作と非常に似通った雰囲気の作品になってしまいました。
ていうか、このチルノ誰?って感じです。
もっとハジケさせるつもりだったのですが・・・
難しいです。
コメント



1.名無し妖怪削除
この春冬の二人が会う時期は、春の嵐やら寒の戻りが起こりそう。
何はともあれ、爽やかな作品ありがとうございました。
落ち着いた話し方をするリリーって珍しいかも…
2.名無し妖怪削除
春だねぇ...