「一輪は鬼子なのよ! そのはちきれんばかりのボディが白蓮と共鳴することで世界の律が崩れるの!」
※この作品は猫井はかまさんの星熊勇儀の鬼退治シリーズと見せかけて中身はムラ一のような何かです。
姐さんへ、この声が届くとは思いませんが、私はいま、天界にいます。
できればそっちで昼寝をしているであろう村紗に、ボンテージ姿で愛の鞭を振るってあげてくださるととても嬉しいです。
もちろん録画もお願いします。当然高画質でお願いします。PSXを買いましたんで。
ところで、いま目の前に居る天女さんは物凄い淡々としてます。
表情も全然変わらなくて、何を考えてるかさっぱりわからなくてちょっと怖いです。
表情筋をどこかに落としてきてしまったんじゃないかと思うぐらい能面です。
どうしましたか? 筋弛緩剤でもぶち込まれましたか?
「このたびはわざわざ遠いところまで足を運んでいただきありがとうございます。
ムチムチボインな尼さんだと聞いたのですが、意外と貧相なボディなんですね」
「その古臭い言い方で伝えたのって村紗ですよね。そうですよね。ちょっと今からしばいてきていいですか」
「まぁ、それはいずれ。私が仕事を押し付けられている七面倒な女がいまして」
「はぁ」
「寺にでもぶち込んだら多少マシになるんじゃないかと思ったんですが」
「はぁ」
「やだやだ地上にしばらく住むなら衣玖、そいつらを連れて来いとほざくので、このたびお願いしたという」
「なるほど」
「引き受けてくれますか」
「嫌です」
やっと表情が変わった。
でもここで驚愕の表情をされてもすげぇ困るんだけど。
なんなのこの幻想郷。
「そこをなんとか。おっぱいぐらいなら服の上から揉ませてもいいんで」
「それが同性に通ると思っているのがおかしいです」
「船長さんがそういえばなんとかなると言っていたので」
「あぁあいつやっぱ殺すわ」
とか言いつつ断りきれないのが私の悪いところなんだと思う。
連れてかれるがままに、見たこともないような屋敷の通路をてくてくと。
無言で。
「あの、どんな子なんでしょう」
「わがままで無遠慮で、おっぱいがないです。名前は比那名居天子」
おっぱい関係ねーだろ。
「知っていますか。雲居ひょっとこ斉さん」
「おいちょっと待て、どっからきたその名前は」
「ああいえ、船長さんにお名前を伺ったら雲居ひょっとこ斉という名前なのだと」
なんで本気で不思議そうな顔をするのか教えて欲しい。
ひょっとこ斉のほうがよっぽど不思議でしょうが。
「私の名前は雲居一輪です。ひょっとこ斉なんかじゃないです。
そんなかぶくのが生き甲斐の大男なんかじゃないです」
「まぁ人それぞれですしね。私はいいんじゃないかなって思いますよ、他人事だし」
「他人事だからでしょ」
「ちなみに私の名前は永江衣玖なんですが、この名前もちょっと厄介でベッドの上で」
「今日は天気がいいわねー!!」
「そうですね」
中の人ごと消されるところだったぜ。危ない危ない。
しかもさらっと爆弾発言してるくせに、表情の変化がない。
もしかすると、相当デキるのか、この女。
「とりあえずこの部屋に、今週のびっくりドッキリメカが」
「貴女のほうが七面倒な部類なんじゃないかって思い始めてきたんだけど」
「それは非常に面白い物の見方ですね。上に報告しておきますよ」
「わーたわーた。で、なんだっけ」
「はぁ、私の上司の娘っ子である比那名居天子の世話をしとけって言われてるんですけどね、この子がまた厄介で。
それこそ運だけで勝ち組掴みましたヒャッホーみたいな。天界の端っこに事故で縛り付けて事故でそのまま落としても問題がないみたいな」
「なんかよくわからないけど、天子ちゃんっていうのね?」
「はい。じゃあちょっと私は用事があるのでこの辺で失礼します。適当にお寺さまっぽいことしてくれればいいんで」
ワーオ。超投げっぱなしでどっか行っちゃったよ。
「まぁ村紗よりマシでしょ。あいつよりめんどくさい奴は滅多にいないんだし」
というかあのレベルが三人ぐらい居たら幻想郷は滅ぶと思う。
「えーと、天子ちゃん入りますよーっておわあああああああああ!」
「×××××ッ!」
扉を開けたらそこは桃源郷だった。
目隠しボールギャグに亀甲縛りしてるよ、何してんのこの子やべぇ。
私良かった。本気で悟ってなくてよかった。
だって天人って煩悩とかを捨てないとなれないとかなんとか。
じゃあ、姐さんも悟ってたらこうなってたのかな。
そういえば姐さんの弟さんは高名な僧侶だったとかうにゃむにゃ……。
ううん。姐さんの血筋を引いてるならきっとイケ☆メンなんだろうし、それがこう、縛られてると私もやぶさかではないっていうか。
むしろ大好物みたいなところもあるしね。
きっと線が細くて色白で金髪碧眼で……あぁいっけねぇ、一応いまは尼なんだから禁欲しなくっちゃな。
「とりあえずどうすればいいんだろ、これ」
尻叩いとくか。
「えいっ。ペチンペチーン」
「フギー!フギー!」
こりゃぁいいや。
「どれ、尻が明るくなつたろう」
私の中の無倫がもっとやれと囁いてくるけれど、あとで責任問題になると厄介だ。
ボールギャグを外して話を聞いてやることにしよう。
「フヒィ」
「きもっ!」
もっかい付け直してやろうか。
「……ねぇ、そこにいるのは衣玖なの? お願い目隠しを外して。いい子にするから。もうお寺に行ったっていいから」
いやだよ、くんなよ。
というかこんなのを送り込もうとしてたのかあの女。
勘弁してくれ、うちには既に、頭におハナ畑が咲き乱れているアホ船長がいるんだから。
「ねぇ衣玖、バナナ食べたいの。剥いて食べさせて……」
耳栓がついているせいで、私のことを衣玖だと思い込んでいるらしい。
ベッドの上でくねくねっと体を捩じらせはじめた。
どうしよう収拾つけようね、これ。というかこの人たちは普段何してんの。
「はやくぅ。おなか空いて死にそうなのぉ」
よだれ垂らしてる。うわぁ。
仕方がないので、傍らにあった房バナナから一つをもぎ取って、剥いて口元に。
「れろれろぉ……」
うん、やると思ったよ。
「おいしぃ衣玖のバナナ」
私の目が正しければ、大きく地底印が刻まれている。
そう、少しだけお世話になったことがある地霊殿の人々は、最近は地底をリゾート開発するんだとかよくわからないことに熱心。
人工太陽を浮かべて南国(?)の木々を輸入して、今ではこういった果物も流通するようになっている。
「温泉? 何を言ってるんですか。今の時代はワイハですよ、ワイハ」とか葉巻を咥えた地霊殿の主人は相当儲かってるみたい。
土建屋の鬼も職にあぶれていた橋姫もその工事のおかげで潤っているんだとか。どうでもいいことだけどね。
しかし、私を衣玖だと信じ込んでいるこの子はどうしよう。
さっきからバナナをR-18紛いにぺろぺろ嘗め回していて、細かく描写すると尼を続けることが難しくなりそうだった。
「とりあえず、話が進まないし耳栓外しとくか」
「んっ……」
くねくね。
「あのもしもーし、比那名居天子さんでしたっけ。永江衣玖さんに言われて命蓮寺から来た雲居一輪ですけど」
「っ……!? 衣玖じゃないのっ!?」
「はぁ」
「あの手首のスナップ……。衣玖にしては味気ないと思ってたけど」
私でも結構いい音鳴ってたのに。スパーンッて。
「嘘でしょ……。今日は一日中、団地妻ゴッコしてくれるって言ってたのに……」
なんだよそれ。
「私が暇を持て余した若奥さんで、衣玖が電気工事のお兄さん役だったのに、そんな……。私、裏切られたの?」
「たぶん面倒だったんだと。私に押し付けるようにしてどっかいったし」
「放置プレイ!?」
「やたらと前向きね。うちにもそんな輩が一匹いるのよ。しかも、私と姐さんの前以外だと猫被ってるのが」
「衣玖ったらうふふ……」
「聞けよ」
確かにこの手の相手を一日するのは骨が折れる。
私だって村紗と二人っきりでいると、三十分で悪人正機という言葉が頭をよぎりはじめる。
一発殴るだけなら誤射かもしれないのだ。
できればこのピンクな言葉を発し続けるお口にバナナを突っ込んでついでに尻には頭が来世で良くなることを祈ってネギを突き刺しておきたい。
淫らなるものしか抜けない聖剣とかいう伝説をでっち上げておけば完璧だろう。
しかし都合よくネギがあるわけもなく、代わりにバナナを突っ込んでおいた。南無三。
「ちょっとこの子の再起動までに時間がかかりそうだから、永江さんでも探しますかね。文句言わなくちゃ」
面倒な相手だとは思うけれど、流石に仕事を押し付けられると困る。
文句の一つぐらいは言っても罰は当たらないだろう。
廊下に出ると、丁度荷物をたくさん抱えた永江さんとぶつかりそうになった。
おうふ。
「あら雲居さん。お帰りですか?」
「いや、あの子の相手を押し付けるのはどうなのかなぁって文句を言いに」
「あぁ、そのことですか。そしたらちょっとだけ待っててくださいますか。
そうですね、話しやすい場所に行ったほうが良いと思いますので」
「あの子はあのままで?」
「ええまぁ。大丈夫ですよ。ちゃっちゃと片付けてきますので、ここで待っていてください」
私も放置プレイされるかと思っていたが、十分もしないうちに彼女はこの場へと戻ってきた。
「お待たせいたしました。ではご案内しますね」
彼女に連れられるまま、天界の端っこへと。
ここから落とされるかと思ったら、丁度座るのにぴったりな石があり、そこを勧められた。
「ほんの少し前までの話をしましょうか」
隣に座る彼女の表情はやはり、感情が抜け落ちたようなものだった。
「ここにあの子はいつも座っていたのですよ。勉強も修行もせずにずっと下界を見ていました。
彼女の境遇は恵まれているわけではなくて、むしろ、望まずに天人になってしまいましたから。
きっとそれは不幸なのでしょうね。」
桃いかがですか? と、木からもぎ取った桃を差し出されて、私はそれに齧り付いた。
「退屈は緩慢に人を死に至らしめるもので、享楽の限りを尽くしていてもすぐに飽きてしまうものなのですよ。
今日だってあの子の思いつきでごっこ遊びをしていましたが、そうでもしなきゃ気が狂ってしまいそうなのだと言います」
「だから私を呼んだと?」
「それでは五十点ですね。適度にガス抜きをしてあげないと、以前のように緋想の剣を持ち出すかもしれないという危惧はもちろんあります。
といっても私の仕事はお守りだけではありませんし、四六時中ついているわけにもいかないのですが、今では萃香さんも時折見かけますしね」
「ふむ」
「だから、もう五十点は、あなたのことなのですよ。雲居さん」
「私? どうして?」
「それは……。船長さんに直接聞いてみたらいいんではないでしょうかね」
「村紗に? あいつ、何考えてるんだか……」
「きっと、待ってますよ。それじゃあ、私はそろそろあの子のところへ。今日は不躾なお願いをして申し訳ありませんでした」
ぺこり、と頭を下げて、彼女はそそくさと去っていった。
私はというと、少しばかり石に腰掛けたままで下界を眺めていた。
ここからじゃもちろん、何も見えやしないけれども、ここに座り続けていたあの子は、そこに何を見ていたのか。
「ふむ……」
私にゃ、何も見えやしない。
「ただいまー」
「ん、おかえり。皆なら夕方に出て行っちゃったよ。聖とぬえは博麗神社で、星とナズーリンは地底らしいけどね」
「ふーん」
晩に命蓮寺に帰ると、居るのは村紗だけだった。
一日中着ていた服を洗い場へと持っていって、替えの甚平に着替える。
夏はこれが楽だ。
「一人で留守番してたの?」
「まぁね。何その目。私だってたまにはちゃんとやるわよ」
「咎める目に見えたかしら」
「近眼なんじゃないの? 眉しかめてるし」
「別のことでしかめてるんだけどね」
「ん、ご飯食べる? 全然豪華じゃないけど」
「一汁一菜で十分よ」
「そうね」
村紗が席を立って、台所へと消えていく。
私と村紗しかいない命蓮寺は、妙に広く感じた。
思えばあいつと二人きりになるなんていつぶりだろう。
封印が解かれてからは星とナズーリンがずっと一緒だったし、聖を解放してからはぬえも加わって賑やかになって。
今では妙にハイテンションで、わけのわからないことばっかりやってばかりだけど。
初めて会ったときの村紗は正直暗い奴で、この世の全てを呪ってるような顔をしていた気がする。
「おまたせー。私もう食べちゃったから」
「気にしないでいいよ」
「ん」
何かを忘れてるような気がするんだけども。
目の前に座っている村紗を見ていても、それが何なのかが思い出せなかった。
「ねぇ村紗」
「ん?」
肘を突いてぼーっとしていた村紗が、私のほうへと向き直る。
「私たちってさ、聖が封印されて、雲山ともはぐれて、星とナズーリンが離れていったあとって、何してたっけ」
「あー」
聖を信奉していた妖怪の殆どは、力の強い者に庇護されることで安寧を得ているような連中ばっかりだった。
肝心の聖が封印されると、蜘蛛の子を散らすように居なくなってしまって、残ったのは私と村紗だけ。
「何してたっけねぇ」
ぽりぽりと頭を掻いている。
「毎日、泣いてたっけ」
「まぁ、だいたいそんな感じかなぁ」
二人で肩を寄せ合って、毎日のように少なくなっていく仲間だった妖怪たちを鼓舞して、最後は封印されて。
「いいや、うん。やめとこ」
「ねぇ一輪」
「ん?」
たまにこいつはマトモだ。
ほんとうに、たまに。
そしていまが、そのたまの表情だった。
「一輪、これからはもっと外に出な。私たちはさ、もう、肩肘張ったり、無理に聖を奉ったりしなくたっていいんだよ。
星とナズだって、私たちを裏切ったわけじゃなかったじゃないか。千年越しなんだよ。これって、凄い奇跡でしょ?」
「……うん、そうだね」
「もう、誰かの裏切りに怯えるだとか、やめようよ。誰しもが気楽に生きてるとは言わないけれどさ」
箸を机へと置く。
「ごめん、気、遣わせてたんだね」
「いいよ別に。付き合い長いんだしさ」
顔が熱くなってきた。多分、今耳まで真っ赤になっている気がする。
「泣いてもいいよ? 薄い胸でも良かったら、おいで」
「うん、ごめん。使わせて」
これ以上、喉にご飯が通るものか。
他に誰も居ないことをいいことに、私は村紗の胸で泣きじゃくった。
今日に限らず、幻想郷に来てからずっとそうだった。
村紗と姐さんと、それと相棒の雲山以外とはほとんど喋らずに、事務的な会話以上のことはしなくって。
私はそれでも良いと思い込んでいたけど、きっと、外から見たら無理があったんだと思う。
「ごめんね……村紗、ごめんね……」
「だから、謝ることじゃないってば。……大体、もう二度と、あんな日々は来させないよ。絶対に、ね」
ぎゅっと、抱き締めてくれている力が強くなった。
「大丈夫だって。聖も、私も居なくなったりしない。だからもう、怯えなくていいよ」
「……でも、マトモになってね」
「うぐっ」
「変なことばっかりしてたら、嫌いになっちゃうからね」
「それは、その、困るかも」
「じゃあ、明日からまともになるように」
「私、めちゃくちゃマトモだと思うけど……なぁ……」
「……ぶぁーか。明日からだから、今日までせーふにしといてあげる」
村紗が困った顔をしていたから、もう一回、胸元に沈んでやった。
ありきたりな言葉だけど、こいつが居てくれて、本当に良かった。
まだまだ、命蓮寺の中ですら、いびつな私たちだけど、ね。
でも最後は良いお話でした!
衣玖さんの天然?と一輪さんのツッコミが冴えてますね。
一輪さんも村紗ももっと幸せになるべき。
でも、寄り添える相手がいてよかったなぁ。
前半の村紗と後半の村紗が別人すぎるwでも一輪のこと良く見ていたんだなあ。いやはやいい話でした。
ツッコミたい所が多々あるけどwww
しかし前半…wこのイクさんいいキャラしてるなぁw
どっちのシーンもとてもよく出来てるのでもったいない