うちのお嬢様は姉妹揃ってグルメである。食事のみてくれにはこだわりは無いのだが、
味にはかなり五月蝿い。今日の食事も姉の方のお嬢様は、
「ほんの少し、酸味がきついわ」
とおっしゃって、ほんの3口ほどで卓を離れてしまった。確かにここ最近はお世辞にも
良質の食材を用意できているとは言い難い状況である。
私は目利きには自信があるので、今からでもちょっと里に行けばすぐに良質の食材
を揃える事は出来るだろう。ただ、この食材に関しては仕入れ、流通手段が厳しく設
定されていて、一消費者の立場では気軽に買い求める事が出来ない。最も、仕入
れと流通に関しては明文化されているわけでなく、「現場責任者」とのいわば暗黙の
了解みたいな物なのだけど。
少し前まではそんな規制もお構い無しにお嬢様が食事を欲した時にそれを手に入
れに行っていたのだけど、とある一件で(この食事の事とはまた別の事。特に意味があ
るわけでもないので説明は省略)この現場責任者と大モメして以来、一応の手順を
踏む事にしたのだ。その食材が市場に出ているときだけ、きちんと対価を支払ってそれ
を手に入れる。幸いにもお嬢様方はそこの所は思ったよりもすんなりと受け入れてくだ
さったので、しなくてもいい気苦労を私が背負い込む事にはならなかった。
「さて、お次は妹様のほうね」
私が仕えるこの館の主はこの姉妹のお嬢様のうち、姉の方である。当主から先に食
事を済ませるというルールがあるわけではないが、ある事情により、この姉妹が食事の
席を一緒にすることは無い。なので妹様のお食事の際は、これを妹様のお部屋まで
お運びする必要がある。姉の方のお嬢様はきちんと食器に盛った物を召し上がられる
が、妹様の方はまだ礼儀作法といったものに疎いらしく、食材に直にかぶりつかれるの
であった。
「さ、お嬢様。本日のお食事でございます」
妹様の部屋に入った私は頭を下げ、妹様の前にそれを差し出した。
「わぁ、おいしそう!! いただきまぁす」
がぶり。
喜色満面。妹様は本当に嬉しそうにお食事をされる。マナーに則って礼儀正しい食
事も確かに宜しいが、妹様のように感情の赴くままの食事というのもまた楽しいものなの
だろう。
ただ、この後私には一仕事残って、いや、一仕事「増える」のだけれど。
「ごちそうさまぁ~」
妹様が食事を終えられるのを待って、私は残ったそれを下げながら妹様のお部屋を
後にした。ここから先は少々コツのいるスピード作業となる。まずはこの妹様の「食べ残
し」を食料室に運ばなければ、
と思っていた所に最早聞きなれた、うっとおしい叫び声が聞こえてきた。
「マスタースパークゥ!」
そして起こる地響き。例の揉め事以来、このお館にはたまにこうしてネズミが沸くよう
になってしまった。ネズミを止める役目のはずの門番も最近仕事をサボリ気味なので、
今一度己の職分についてきっちりと説明しておく必要があるようだ。
「はぁ、まったく……」
私はため息をつきつつ、とりあえず妹様の「食べ残し」を早々に食料室に放り込んでネ
ズミ退治へと向かうのであった。
少しして。何とかネズミの駆除に成功した私は、急ぎ足で食料室へと戻ってきた。「食
べ残し」の処理をしなければならかなったからである。
だが、時既に遅し。
うぼぉぁ~
ああ、面倒くさい事に。お嬢様方のお食事に使う食材は時々こうなってしまう。姉の
方のお嬢様のお食事だけなら一回の食事の量がそもそもそれほど多くは無いので、こ
うなる事はほとんど無いのだけど、妹様は加減を知らず「食い散らかして」しまうので、
お嬢様の持つ「吸血鬼」としての能力が発現してしまうのだ。
今、私の目の前には真っ黒に落ち窪んだ眼窩で、あるはずの無い視線をこちらに向
けながら、両足を引きずるようにこちらに向かってゆっくりと歩いてくる「食べ残し」の姿が
ある。その首元には妹様が先ほど口をつけた後がはっきりと残っていて、そこから赤黒
いものがだらだらと流れてきている。その口元には不自然に伸びた牙がそこだけやけに
白く輝いていた。そこからもだらだらと何かが流れ、時折「ぶるぁぁぁぁ……」と言葉にな
らない何かを吐き出していた。はぁ、床掃除が面倒ねこれは。
私はエプロンのポケットからいつも使っている懐中時計を取り出して今の時刻を確認
した。ネズミ退治で時間を食ってしまった分、今日一日の業務にどうやら少し支障が
出てしまいそうだった。
「……他のメイドたちの賄いを作っている余裕がなさそうね」
はぁ、と本日三度目のため息。目の前には口を大きく開けた「食べ残し」。
「あ、そうだ」
ふと名案を思い浮かべた私と「食べ残し」の間にひゅん、と銀色の線が一本疾った。
その日のメイドたちの賄いは久しぶりの肉料理という事で皆大喜びだった。最も、全
員にいきわたらせるには量が少なくそこかしこでメイドたちの喧嘩が始まっていたが、い
つもの事なので放っておく事にした。
私は、エプロンから懐中時計を取り出し、今の時刻を確認した。すぐ傍で起きている
喧騒から離れ、私はいつもよりちょっと遅い食事に取り掛かるのだった。
それは、一切れのパンと一杯のワイン。
この館と、二人のお嬢様と。それに仕える事の幸せを***に感謝を―
味にはかなり五月蝿い。今日の食事も姉の方のお嬢様は、
「ほんの少し、酸味がきついわ」
とおっしゃって、ほんの3口ほどで卓を離れてしまった。確かにここ最近はお世辞にも
良質の食材を用意できているとは言い難い状況である。
私は目利きには自信があるので、今からでもちょっと里に行けばすぐに良質の食材
を揃える事は出来るだろう。ただ、この食材に関しては仕入れ、流通手段が厳しく設
定されていて、一消費者の立場では気軽に買い求める事が出来ない。最も、仕入
れと流通に関しては明文化されているわけでなく、「現場責任者」とのいわば暗黙の
了解みたいな物なのだけど。
少し前まではそんな規制もお構い無しにお嬢様が食事を欲した時にそれを手に入
れに行っていたのだけど、とある一件で(この食事の事とはまた別の事。特に意味があ
るわけでもないので説明は省略)この現場責任者と大モメして以来、一応の手順を
踏む事にしたのだ。その食材が市場に出ているときだけ、きちんと対価を支払ってそれ
を手に入れる。幸いにもお嬢様方はそこの所は思ったよりもすんなりと受け入れてくだ
さったので、しなくてもいい気苦労を私が背負い込む事にはならなかった。
「さて、お次は妹様のほうね」
私が仕えるこの館の主はこの姉妹のお嬢様のうち、姉の方である。当主から先に食
事を済ませるというルールがあるわけではないが、ある事情により、この姉妹が食事の
席を一緒にすることは無い。なので妹様のお食事の際は、これを妹様のお部屋まで
お運びする必要がある。姉の方のお嬢様はきちんと食器に盛った物を召し上がられる
が、妹様の方はまだ礼儀作法といったものに疎いらしく、食材に直にかぶりつかれるの
であった。
「さ、お嬢様。本日のお食事でございます」
妹様の部屋に入った私は頭を下げ、妹様の前にそれを差し出した。
「わぁ、おいしそう!! いただきまぁす」
がぶり。
喜色満面。妹様は本当に嬉しそうにお食事をされる。マナーに則って礼儀正しい食
事も確かに宜しいが、妹様のように感情の赴くままの食事というのもまた楽しいものなの
だろう。
ただ、この後私には一仕事残って、いや、一仕事「増える」のだけれど。
「ごちそうさまぁ~」
妹様が食事を終えられるのを待って、私は残ったそれを下げながら妹様のお部屋を
後にした。ここから先は少々コツのいるスピード作業となる。まずはこの妹様の「食べ残
し」を食料室に運ばなければ、
と思っていた所に最早聞きなれた、うっとおしい叫び声が聞こえてきた。
「マスタースパークゥ!」
そして起こる地響き。例の揉め事以来、このお館にはたまにこうしてネズミが沸くよう
になってしまった。ネズミを止める役目のはずの門番も最近仕事をサボリ気味なので、
今一度己の職分についてきっちりと説明しておく必要があるようだ。
「はぁ、まったく……」
私はため息をつきつつ、とりあえず妹様の「食べ残し」を早々に食料室に放り込んでネ
ズミ退治へと向かうのであった。
少しして。何とかネズミの駆除に成功した私は、急ぎ足で食料室へと戻ってきた。「食
べ残し」の処理をしなければならかなったからである。
だが、時既に遅し。
うぼぉぁ~
ああ、面倒くさい事に。お嬢様方のお食事に使う食材は時々こうなってしまう。姉の
方のお嬢様のお食事だけなら一回の食事の量がそもそもそれほど多くは無いので、こ
うなる事はほとんど無いのだけど、妹様は加減を知らず「食い散らかして」しまうので、
お嬢様の持つ「吸血鬼」としての能力が発現してしまうのだ。
今、私の目の前には真っ黒に落ち窪んだ眼窩で、あるはずの無い視線をこちらに向
けながら、両足を引きずるようにこちらに向かってゆっくりと歩いてくる「食べ残し」の姿が
ある。その首元には妹様が先ほど口をつけた後がはっきりと残っていて、そこから赤黒
いものがだらだらと流れてきている。その口元には不自然に伸びた牙がそこだけやけに
白く輝いていた。そこからもだらだらと何かが流れ、時折「ぶるぁぁぁぁ……」と言葉にな
らない何かを吐き出していた。はぁ、床掃除が面倒ねこれは。
私はエプロンのポケットからいつも使っている懐中時計を取り出して今の時刻を確認
した。ネズミ退治で時間を食ってしまった分、今日一日の業務にどうやら少し支障が
出てしまいそうだった。
「……他のメイドたちの賄いを作っている余裕がなさそうね」
はぁ、と本日三度目のため息。目の前には口を大きく開けた「食べ残し」。
「あ、そうだ」
ふと名案を思い浮かべた私と「食べ残し」の間にひゅん、と銀色の線が一本疾った。
その日のメイドたちの賄いは久しぶりの肉料理という事で皆大喜びだった。最も、全
員にいきわたらせるには量が少なくそこかしこでメイドたちの喧嘩が始まっていたが、い
つもの事なので放っておく事にした。
私は、エプロンから懐中時計を取り出し、今の時刻を確認した。すぐ傍で起きている
喧騒から離れ、私はいつもよりちょっと遅い食事に取り掛かるのだった。
それは、一切れのパンと一杯のワイン。
この館と、二人のお嬢様と。それに仕える事の幸せを***に感謝を―
(目の前に人間がいても、教えられてないとそれがいつもの食事の材料とは気付かない、みたいな
ここに来る人は東方のSSを読みに来てるんで、アナタの冬コミの原稿なんか全く興味はないので安心して下さい。
一文が長くなる際には単語を分割しないように改行して頂くと助かります。
せっかく突入して来たんだし、
マリサが「食材」や「食べ残し」を目撃した時の反応が見てみたい
妹様の「食い散らかす」はきっと意味が違うとおもうw