「お姉ちゃんが犬になったらさとり犬、名前みたいだね。サトリーヌ」
その声にはっ、と古明地さとりは読んでいた本から顔を上げる。視線の先には、同じように
本を手にして、しかしそれを読むわけでなく呆けたような妹の、古明地こいしの姿があった。
そのこいしも、投げかけられた視線に気付いたのか姉の方を振り向く。
「こいし」
「お姉ちゃん、私何か変なこと言った?」
「はぁ、私が犬になったらさとり犬だと。サトリーヌ、と名前みたいだと」
「そう……あはは、自分で言っといてなんだけど、面白いね、お姉ちゃん」
「ふふふ、はい」
そこで会話は途切れる。始終二人の間に流れる空気は穏やかなもの。さとりは妹の不可思議な
発言に眉をひそめることはない。第三の目を閉じた妹が無意識に何かを呟き、無意識から己を
現実に引き戻して後、姉にその内容を尋ねるなんてことは何度も繰り返されたことだ。だからこそ、
さとりは妹に優しく言葉を返す。それがこのふたりの、どこかぎこちなく、それでいて優しい関係
であった。
「と、いうわけで犬になってみましたワン」
ごん、と転んで頭をしとどに床に打つこいし。顔を上げた先には犬耳を頭に生やし、首輪を
つけ、四つんばいになった姉がいた。いつもの仏頂面に見えるが、こいしにはそれが完全な
どや顔であると、姉妹ゆえに分ってしまう。先の会話から三日後のことであった。
「……お姉ちゃん、一体どうしたのよ」
痛む頭を抱えながら、問いかける姉は一瞬目を吊り上げた。
「お姉ちゃんじゃありません。サトリーヌとお呼び! ワンワン!」
「お呼び! じゃないよ!」
「じゃあ何も答えませんわんわんがるるるる」
唸ってるつもりだろうか、棒読みのがるるるるがどうしようもなく滑稽に思えて頭痛が酷く
なるこいし。まぁたんこぶのせいもある。このままじゃ絶対話が前に進まないと長年の経験
からこいしも分っている。地霊殿の底に溜まりそうな重い重い溜息を一つして、こいしは
呼びかける。
「……どういうことかしら、サトリーヌ」
「そろそろこいしにもペットが必要かと思いまして。飼いやすい犬から始めてみてはどうかと
思った次第ですワン」
「……なんで本物の犬じゃないのよ」
「心意気は犬ですがワンワン」
いつものあの表情でわんわん言う姉にチルノですら到達できそうもない冷たい視線を向ける
こいし。流石にちょっと堪えたか、さとり、いやサトリーヌは言葉を紡ぐ。
「……今、うちにちょうどいい犬がいないんですよ……ワン。流石にこいしでも地獄の三面猛犬
ケルベロスを飼いこなせるにはまだ早いと思いますし。ワン。」
思い出したようにつける犬の鳴き声が非情にわざとらしい。
「……じゃあお姉ちゃん……サトリーヌなら私でも飼いこなせるとこんなことを?」
「ええ。全く妙案でしょうこいし。わおーん」
今すぐ妙案という言葉に菓子折り持って土下座して許してもらえるまで帰ってくるなと言いそう
になるこいし。だが、何とかこらえた。
「おねえ……サトリーヌ。あなたにはプライドってないの?」
「それがですね、こいし。わんわん。地面に植えたら花でも咲くかと思って埋めてみましたが、
一向に芽吹く気配も無いのですよきゃうーん。なにがいけなかったのでしょう、水も、肥料も
やったのに……きゃいんきゃいん」
頭かな、という言葉も何とか我慢したこいし。今度、閉じた目を開くのに良いといわれる値札
シールをはがす液、アレを買ってこようと、そして姉の頭の中を覗いて後悔するんだろうな、と
めっためたに気分が重くなったこいしである。そういえばなんか自分が目を閉じた理由ってそこらに
なかったか、と思い出してみるが、いまいち思い出せない。まぁ思い出せないならたいした理由じゃ
ないんだろうと諦めた。
「で、サトリーヌ」
「はいなんですかご主人さま、わんわん!」
「くぉ……」
実の姉にご主人さまと呼ばれて、多少くらりと頭が揺さぶられるこいし。無意識下に妙な性癖
でも開花したかと思って高鳴り始めた鼓動を落ち着けてから向き直る。
「本当に、私の言うことを聞いてくれるの?」
「もちろん! わうーん。こう見えても人間並みに賢い犬なんですよ、わふっわふっ」
ダウトだ。こいしはそう思いつつ、
「ダウトだ」
口に出た。と、流石にサトリーヌも一瞬顔をしかめた。
「ならばご主人さm」
「それはやめて。こいしでいいから」
「ならこいし、ちょいと命令を与えてみてご覧なさいわうわう。見事やってのけてみせましょう
わおーん!」
そりゃやれなきゃどうかしてる、と渋い顔をしつつ、こいしは仕方なく命を下した。
「お手」
「わん!」
ぽふ、こいしの差し出した手に姉の手が重ねられる。
「お回り」
「わんわん!」
四つんばいのままなにが楽しいのかと思えるような声でくるくる回った。
「ちんちん」
「ついてません」
こいしは姉をダンボールに詰めて是非曲直庁前に放り出した。
仕方が無いから俺がしっかり調きょ(
耳とかの描写のくだりを5回は見返したのに尻尾の記述がなかったので、頭の中で適当な尻尾付けておいた。
死ぬほどかわいかった。
だがしかし……
オチが最高だwwwwwww
いや、どう考えても躾がなってないでしょwwww
尻尾ー!!!とっても可愛かったです!
だがしかし引き取るのは俺だ!
ここは紳士が多い創想話ですね。
あとさとりさま、リアリティを出すならまず服を脱がないといけな(テリブルスーヴニール
でもSの波動に目覚めたこいしちゃんも……。
皆がサトリーヌを引き取るって言うなら、俺は代わりにこいしちゃんの犬としての人生を謳歌するぜ。わおーん。