「あたいったら――」
浴衣姿の氷精が、夜空へと華麗に跳躍。
「今日は最高に、最強ね!」
拳を振り上げ星空に向かい、吼えた。
濃密な熱気の漂う、茹だるまでに暑い夏。
「やっとさー、やっとさー!」
蛸を水揚げした途端に、即効で茹蛸が出来上がりそうな、そんな夜。
「あ、やっとさー、やっとさー!」
チルノは元気に飛び跳ねていた。
「やっとやっとー!」
手も足も何もかもが出鱈目に、飛び跳ね続ける。
「やっとさー、やっとさー!」
浴衣だから色々と見えちゃう危険も勿論あったのだが、チルノは全然気にしていない。
「あ、やっとやっとやっとやっとー!」
一人、何も無い更地の様な場所で、ひたすらに飛び跳ね続けていた。
チチンチチンチチンチチン。
「夜雀って思ったそこの貴方、一応だけど正解よ」
誰にとも無くやって来たのは、みすちーこと、ミスティア・ローレライ。
「だけど卑猥だからね、失礼しちゃって鳥目にしてやるー」
鉦の音も独特に、何処からか浴衣姿でパタパタと飛んできた。
ひゅろ、ひゅろ、ひゅろっひゅろっひゅろっひゅろっ。
「ひぇぇじゃないよ、ひゅろ~ろろ~ろろ~ろろ~ろ」
軽やかな笛の音色と共に、リグル・ナイトバグはすらりと闇から姿を現す。
「あんま見つめたら駄目だよ? 指の動き、間違えちゃうから」
浴衣姿にマントという、これまた似合わない組み合わせで、ご登場。
集まる影は、それだけでは無い。
「祭りも踊りも、嗜む程度には好きだぜ」
鼓片手に、黒白魔法使いが。
「こういうのは、私みたいな都会派の方が得意なのよ」
三味線構えて、七色の人形使いが。
「ま、たまには自分から参加するのも、悪くは無いわよね」
締太鼓を付けて、紅白の素敵な巫女が。
「ゆ、幽々子様~……これ、少し大き過ぎやしませんか~……?」
大太鼓に足元を崩されて、半人前の庭師が。
「おう! どんどん来い! 最高で最強な今日のあたいは、選り好みをしないよ!」
自称最強の氷精の元に、幻想郷中の奇人変人趣味人が、ぞくぞくと寄り集まる。
やがて、集まりはうねりとなり、ぞめきが脈動する。
一個と為る、大多数。
情緒も何も無く踊り奏で、しかし自ずと一個へ為る。
今や氷精は、その中心で乱舞していた。
「――ねぇ、チルノちゃん」
「ん? 大妖精じゃん、どうかしたの?」
混沌の中心で、二人の妖精が擦れ違いざまに言葉を交える。
「何で、今日のチルノちゃんは最高に最強なの?」
疑問は、至極当然の物。最強なのは重々理解していたが、最高に最強な理由は不明だったからだ。
「んっふっふー……今日の踊りはね――」
もったいぶった様に、チルノは得意気に微笑んだ後。
「散々〝馬鹿〟と呼ばれたあたいこそが、最強に格好良く見えるからよ! 踊る馬鹿に見る馬鹿、踊らにゃ損々!」
拳を振り上げ星空に向かい、冬の忘れ物が外れない様に頭を押さえながら、勢い良く吼えた。
「あたいったら、今日は最高に最強ね!」