「おや」
時は秋も深まり、これからという時期。
木々が次第に紅葉し、実りの収穫ももうすぐである。
そんな秋を迎え幾ヶ月振りの忙しい日々、秋静葉は帰途の途中にある土手でもう日も沈みかけているというのに一人寂しく座り込む子供を見つけた。
いや、よく見るとあれは妖怪であろうか?
兎も角、静葉はその一人ぼっちの者に近付き、声を掛けてみた。
「こんな時間に、一人でどうしたの?」
「……!」
不意に声を掛けられ、腕の中に埋めていた泣きじゃくりの顔を上げる。
その顔を見て思いだした。
確か、リグル・ナイトバグ。
「な、泣いてないもん……」
「いいえ、泣いてる。顔を見ればすぐ分かるわ。どこぞのメイド長の胸くらいすぐ分かる」
「……何その例え?」
リグルの怪訝な返答を特に気にしない様子で、静葉はリグルの頭を撫でながらその横にゆっくりと腰を下ろした。
「どうして、泣いているの?」
「うん……」
この今しがた隣りに座ってきた者が、自分の心配をしてくれていることは察したようだ。
リグルは何故こんな夕刻に一人で泣いていたのか、その理由を話し始めた。
「つまり、友達からプレゼントを送られたんだけど、それに少々問題があって喧嘩に発展してしまったのね?」
「わざとあんな物送ったんじゃないってのは分かるんだ、あいつバカだからさ……」
「でも怒ってしまった、と……。分かるわ、私も子供の頃穣子に『お姉ちゃんの似顔絵描いたよ!』って毛蟹に耳と鼻くっつけたもの見せられた時は晩ご飯の時間まで殴り合いをしたものだから」
「いや、流石に殴り合いは……っていうか蟹って下手とかじゃなくて明らかに悪意ない?」
「まあその後喧嘩両成敗ってことになったんだけどね。腹いせにサツマイモに目と鼻くっつけたのを送りつけてやったわ。確かこれこれこーいう……」
「ぶっ……! なにこれ、あはは!」
静葉が小石を拾って地面にヘンテコな絵を描くと、さっきまで泣きじゃくっていたあのリグルがすっかり笑顔を取り戻していた。
それを見て静葉はあくまで無表情を装おうとしつつも、僅かに満足そうな笑みを浮かべていた。
その僅かな笑みに気付いたリグルは、この女の人はさっきからヘンテコなことを言って、本当は自分を励ましてくれていたんだということに気付いた。
それに気付いて嬉しくもあり、しかし自分が情けなくも感じ、すっかり涙は引いたとはいえまた沈んだ表情に戻った。
「明日、あいつに会ったら何て言おう……」
「そうね、私も喧嘩することもあったけど、そういう時はこうしていたかな……」
「どう?」
「まずいつも通りに挨拶をしなさい。それから相手の落ち度にケチつけてやるの。それから自分の落ち度を謝って、最後に一緒にご飯を食べなさい」
「それで、本当にいいの?」
「どうかしら。私はそうしてきたっていうだけで、人によりけりだからね。けれど一番大切なのはそのあなたの仲直りしたいという気持ちよ。だから多分、大丈夫」
「多分って……うん、でも、有り難う」
「どういたしまして」
静葉は少しだけ、照れくさそうにしながらも、もう一度リグルの頭を撫でた。
もう紅に揺れる太陽も、沈もうとしている。
その最後の赤色の光片を、土手の上に放り投げられたキ●チョールの缶が眩しく跳ね返していた。
(あぁ、まだ蚊とか多かったからな……)
時は秋も深まり、これからという時期。
木々が次第に紅葉し、実りの収穫ももうすぐである。
そんな秋を迎え幾ヶ月振りの忙しい日々、秋静葉は帰途の途中にある土手でもう日も沈みかけているというのに一人寂しく座り込む子供を見つけた。
いや、よく見るとあれは妖怪であろうか?
兎も角、静葉はその一人ぼっちの者に近付き、声を掛けてみた。
「こんな時間に、一人でどうしたの?」
「……!」
不意に声を掛けられ、腕の中に埋めていた泣きじゃくりの顔を上げる。
その顔を見て思いだした。
確か、リグル・ナイトバグ。
「な、泣いてないもん……」
「いいえ、泣いてる。顔を見ればすぐ分かるわ。どこぞのメイド長の胸くらいすぐ分かる」
「……何その例え?」
リグルの怪訝な返答を特に気にしない様子で、静葉はリグルの頭を撫でながらその横にゆっくりと腰を下ろした。
「どうして、泣いているの?」
「うん……」
この今しがた隣りに座ってきた者が、自分の心配をしてくれていることは察したようだ。
リグルは何故こんな夕刻に一人で泣いていたのか、その理由を話し始めた。
「つまり、友達からプレゼントを送られたんだけど、それに少々問題があって喧嘩に発展してしまったのね?」
「わざとあんな物送ったんじゃないってのは分かるんだ、あいつバカだからさ……」
「でも怒ってしまった、と……。分かるわ、私も子供の頃穣子に『お姉ちゃんの似顔絵描いたよ!』って毛蟹に耳と鼻くっつけたもの見せられた時は晩ご飯の時間まで殴り合いをしたものだから」
「いや、流石に殴り合いは……っていうか蟹って下手とかじゃなくて明らかに悪意ない?」
「まあその後喧嘩両成敗ってことになったんだけどね。腹いせにサツマイモに目と鼻くっつけたのを送りつけてやったわ。確かこれこれこーいう……」
「ぶっ……! なにこれ、あはは!」
静葉が小石を拾って地面にヘンテコな絵を描くと、さっきまで泣きじゃくっていたあのリグルがすっかり笑顔を取り戻していた。
それを見て静葉はあくまで無表情を装おうとしつつも、僅かに満足そうな笑みを浮かべていた。
その僅かな笑みに気付いたリグルは、この女の人はさっきからヘンテコなことを言って、本当は自分を励ましてくれていたんだということに気付いた。
それに気付いて嬉しくもあり、しかし自分が情けなくも感じ、すっかり涙は引いたとはいえまた沈んだ表情に戻った。
「明日、あいつに会ったら何て言おう……」
「そうね、私も喧嘩することもあったけど、そういう時はこうしていたかな……」
「どう?」
「まずいつも通りに挨拶をしなさい。それから相手の落ち度にケチつけてやるの。それから自分の落ち度を謝って、最後に一緒にご飯を食べなさい」
「それで、本当にいいの?」
「どうかしら。私はそうしてきたっていうだけで、人によりけりだからね。けれど一番大切なのはそのあなたの仲直りしたいという気持ちよ。だから多分、大丈夫」
「多分って……うん、でも、有り難う」
「どういたしまして」
静葉は少しだけ、照れくさそうにしながらも、もう一度リグルの頭を撫でた。
もう紅に揺れる太陽も、沈もうとしている。
その最後の赤色の光片を、土手の上に放り投げられたキ●チョールの缶が眩しく跳ね返していた。
(あぁ、まだ蚊とか多かったからな……)