「あー……困った」
霧雨魔理沙は困っていた。
「こんな所、誰か見せられないよな」
手痛い辛辣な嫌味を言ってくる巫女や魔法使いの姿を夢想し、ため息を吐く。
つくづくツイてない。まさか自分の部屋でこんな事になるなんて思っても見なかった。というか普通は考えないだろう、いくら物が捨てられなくて、部屋の中が混沌としているからといって。
「まさか……自分の家の部屋に閉じ込められるなんてなあ」
言って見ればきっかけは大した事ではなかった。何時ものように魔法薬の材料になる薬草など採集しに出掛け、何時ものように家に帰り、何時ものように愛用の箒を部屋の壁に立てかけ、何時ものように採集してきた物を保存用の四畳程度の小部屋にしまいに行った。
……行ったまでは良かったのだ。いくら魔理沙とて保管に気を使う必要のある物は流石に乱雑に扱ったりはしないので、薬草やきのこを細かく分けた専用の棚の上の段から順番にしまっている最中、小部屋の外でカランという軽い音がした。なんだ? と多少は気にしたものの、採集してきた物の中には急激に劣化するものもあったため、気にせず作業を続けることにしたのだ。
下の段に最後の薬草をしまい終え、さてお茶でも入れて一息つくかと小部屋を出ようとした所、開こうとしたドアが鈍い音と共に数センチだけの隙間を作った所で止まってしまった。
……しまった、と思わず言葉が漏れる。勘のいい彼女はすぐに原因に思い当たった。先ほどの物音はドアの近くの壁に立てかけた箒が倒れた音で、それがつっかえ棒になり開くのを妨げてしまってるのだろう、と。
とまあ原因が分かればあとは簡単。その原因を取り除けばいい……のだが、実はそう簡単に行きそうも無い。なぜならこの小部屋、保管のための必要最低限のものしか置いていないため、使えそうな道具が一切無いのだ。綺麗に片付けられ無駄な物が置いていないことが逆に仇となったのである。
「あー……困った」
歩きながら先ほどと同じ言葉を呟く魔理沙。歩くといっても四畳しかないこの部屋では小さくぐるぐる回るしかないのだが、どうにも落ち着かないらしい。
「はぁ」
椎茸に似た魔法きのこを何とはなしに突付きつつため息を吐く。助けを呼ぼうにも、残念ながらこの家の所在地は迷いの森。普通の人間はまず通りかかることはなく、普通の妖怪もあまり通りかかることは無い。まあ彼女の知り合いの、普通でない人間や普通でない妖怪なら別なのだろうが、生憎と彼女達がこの家に訪れることはまずないだろう。結局の所、自力で脱出するしかないということだ。仕方ないかと覚悟を決め、力を込めてドアを押す。
「ふん……っ……んん!」
押す力を更に込め、途中の引っかかりにも構わず体重をかける魔理沙。どうやら多少の被害は覚悟の上、力ずくで押し開けることに決めたらしい。
「はっ……ほっ……!!」
……一分経過……三分経過……五分経過
「……っはぁ!」
如何に力を入れようともびくともしないドア。流石に無理かと力を抜き、ずりずりと半開きのそれにもたれかかる。力を入れていた部分が赤くなり、ジンジンと痛みが刺す。
「あー、無理だなこりゃ」
流石に疲れたのか、はぁはぁと息をしながら呟く。折れても仕方がないと諦めつつ全力で押したのだが、考えてみれば引っかかっているあの箒、彼女が自分の無茶な飛行や乱暴な扱いにも耐えられるようにと、わざわざ職人に作ってもらったかなり頑丈な特注品だったのだ。いくら馬鹿げた火力の魔法を放つことが出来る魔理沙とはいえ身体能力は歳相応。それどころか同年代の少女達よりも小さな体の彼女はウェイトの面でも問題がある。総合して見ても一般的に非力と称してもいいそれでは、残念ながら箒の破壊は不可能だったのだ。
「さて、それじゃあどうするか……だが」
だらんと力なく投げ出していた手で、額に滲んだ汗を拭うと思案顔になる魔理沙。しかし次の瞬間。
「まあいいか」
考えるのはまた後でとばかりにあっけらかんとそう言うと、狭い小部屋の中でゴロンと寝転がってしまった。確かに今日は半日森の中を飛び回り、材料となる様々なものを集めて回っていたので疲れてもいるだろう。しかしこの状況でさっくりと眠りこけることが出来るとは、流石は霧雨魔理沙といったところか。
「……あん?」
軽い尿意を覚え目を覚ました魔理沙。そういえば、と現在の状況を思い出す。欠伸を一つつくと立ち上がり、服についた埃を払う仕草をする。まあこの部屋は塵一つ見当たらないほど綺麗に掃除してあるので、実際のところは気分的なものでしかないのだがなんとなくやってしまう。
「そろそろ暗いな」
真後ろに設置してあったランプに火を灯す。換気用の隙間はあるが、光を嫌う物が多いためこの部屋は窓が無いので、この小部屋は月明かりさえ入ってこない。光を嫌うなんてまるでどこかの誰かのようだ、などと益体も無いことを考える。が、そんなことを考えている場合ではないと、両手で頬をパシリと叩き気合入魂。
「さて、一眠りしたし、本格的に考えるとするか」
今度はブチ破るぞと言わんばかりの鋭い視線で目の前のドアを見つめ、腕を組んでしばらくの黙考。
「ん、肉体的な力押しが不可能なら、魔法的に力押せばいいんじゃないか?」
攻撃魔法は得意中の得意である魔理沙。思い付きを口にすると、さっそく懐のミニ八卦炉に手を伸ばす。
「思い立ったが吉日だ。やってみるか」
少しばかり間違った言葉を口にしつつ、ドアに向けてマジックミサイルを叩き込む。すると、ボンッという爆発音と共に辺りに煙が充満する。
「けほっ、けほっ」
すると思い切り煙を吸い込んでしまったのか、咳き込む魔理沙。煙のせいで目尻に涙を浮かべつつ、さてどうだと魔法を当てた個所を見やる。しかしその視線の先には、多少くすんではいる物の何ら被害を受けてはいないドアが佇んで居た。
「っと、そういやそうだったか」
至って簡単なことである。考えてみればドアを含んだこの小部屋は、用途的に密閉性を保つことが必要だったため、ある程度の衝撃ではびくともしないような造りになっていたのだ。先ほどの箒のことといい、今日の魔理沙はどこか抜けているのだろうか。
「まあそれならそれでやりようはあるんだが……」
彼女の言うとおり方法自体はある。このドアはある程度の衝撃には耐えられるが、所詮はある程度でしかない。なのでそのある程度以上の火力をぶつければ、破壊することだけなら可能なのである。
で、あるのだが……。
「マスタースパークは却下」
ガラクタまみれに見えるとはいえ、魔理沙にとっては大事なものがドアの向こうには山積みなのだ。マスタースパークなどを放ってしまえば、ドアごと一緒に消し飛び兼ねない。
「ノンディクショナルレーザーは……そもそもこの部屋の中が滅茶苦茶になるな。あー、箒があればブレイジングスター辺りでどうにかなったんだがなぁ」
無いものねだりをしても仕方が無いので他の案を練る。
「むー」
練るのだが、どうにもいい案が出てこない。先ほどから感じる尿意が原因で集中力を欠いてきているようだ。
「あー、厄介だぜ」
だがこのままここに閉じ込められつづければそれは着実に力を蓄え、いつか牙をむくであろうことは想像に難くない。
「流石にこの歳になってそれは……なあ?」
内心の動揺を押さえつつ誰にとも無しに話し掛けるが、もちろん返事は返ってこない。そもそも尿意を誤魔化すための一人芝居なのだから、そんなものは元から期待していないのだが。
だが口にすることで現実味を帯びたのか、どうにも魔理沙は焦りを感じドアを開けようと必死にガタガタいわせ始める。もしそんなことになって、あまつさえそれがバレたとしたらどんな嫌味を言われるか分かったものではない。特にあいつとかあいつ、具体的に言うと霊夢やアリス等が。
「なにかのはずみでコロっと外れないかね……って、あ」
ドガグシャ!
「えー……と」
洒落にならない破壊音がドアの向こうの部屋から聞こえてきた。そして間を置いてズズンという重々しい音と、何かが折れる音と何かが割れる音とetcetc……。嫌な予感を押さえつつ目の前のドアを押してみるが、帰ってくるのは重々しい手ごたえ。かろうじて空いた隙間は先ほどよりも更に小さく、既に”開いた”と呼べるものでは無かった。何が起こったのかは明白だろう。
「踏んだり蹴ったりだな」
老朽化の進んでいたテーブルの足が折れたのだろうか、などと考えながら大きくため息を吐く。次から次へと起こる事態に虚脱感を覚え、再び床に寝転がろうと手をついた――とその時、なにやら手のひらに違和感が。
「ん……ああ、そういえばここ、地下があったんだっけか」
考えてみればこの小部屋を保管庫にしたのは、地下室があれば常温保管し難い物も保存できる、という理由からだったことを、今更ながら魔理沙は思い出した。普段は殆ど使わないので完全に失念してしまっていたのである。そんなことまで気付かないとは、意外と彼女は焦っていたのかもしれない。もしくは尿意のせいかも知れないし、誰かさんを思い浮かべたせいかも知れない。しかしそんな微妙なマイナス気分も、もうすぐ出られると考えれば一転して大分愉快。
「たしかここは地上に繋がってるはずだ」
床板を外して下へと降りる。地下室というよりは地下道なそこは、真っ暗だが冷たい空気が流れており出口の方向は比較的簡単にわかる。なのでとりあえずはそちらへと歩を進めることにした。
「お」
下におりてから少し歩く。すると上方から僅かに明かりが漏れている場所へと到着した。薄明かりの中で目を凝らしてみるとそこには梯子があり、先の出口は板で閉じられている。どうやらここから外へ出ることが可能な様だ。
「この梯子、随分使ってないからかなり汚れてるな……まあ仕方ないか」
うだうだしていても始まらないので、魔理沙はそれに手をかけ出口を目指す……といってもたかが数メートルでしかないので、すぐに魔理沙は最上部まで到着して居た。
「到着、っと」
板を押し開け外に出ると、そこは魔理沙の家のすぐ裏だった。実際には数時間程度なのだが、随分と長いこと外に出ていなかったかのような錯覚に陥るが、それを振り払うかのようにして大きく伸びをする。
「あー、疲れたぜ」
すると嗅ぎなれた魔法の森の臭いが漂って来る。
「しっかしあれだな、もうちょっと部屋の物を整理した方がいいのかもな」
くるりと反転し、今更なことを呟きつつ自宅の玄関へと向かう魔理沙。正直、部屋の惨状を考えると鬱屈として来そうだが、結局は今回の出来事も自分が蒔いた種が元である。因果応報というか、自業自得と言うか。
「まあそれはあとで考えるとして……今はまず」
うかうかしているとそろそろ本気で拙い、と我慢の限界に来ていた尿意を堪えつつ魔理沙は家へと駆け込んでいった。
霧雨魔理沙は困っていた。
「こんな所、誰か見せられないよな」
手痛い辛辣な嫌味を言ってくる巫女や魔法使いの姿を夢想し、ため息を吐く。
つくづくツイてない。まさか自分の部屋でこんな事になるなんて思っても見なかった。というか普通は考えないだろう、いくら物が捨てられなくて、部屋の中が混沌としているからといって。
「まさか……自分の家の部屋に閉じ込められるなんてなあ」
言って見ればきっかけは大した事ではなかった。何時ものように魔法薬の材料になる薬草など採集しに出掛け、何時ものように家に帰り、何時ものように愛用の箒を部屋の壁に立てかけ、何時ものように採集してきた物を保存用の四畳程度の小部屋にしまいに行った。
……行ったまでは良かったのだ。いくら魔理沙とて保管に気を使う必要のある物は流石に乱雑に扱ったりはしないので、薬草やきのこを細かく分けた専用の棚の上の段から順番にしまっている最中、小部屋の外でカランという軽い音がした。なんだ? と多少は気にしたものの、採集してきた物の中には急激に劣化するものもあったため、気にせず作業を続けることにしたのだ。
下の段に最後の薬草をしまい終え、さてお茶でも入れて一息つくかと小部屋を出ようとした所、開こうとしたドアが鈍い音と共に数センチだけの隙間を作った所で止まってしまった。
……しまった、と思わず言葉が漏れる。勘のいい彼女はすぐに原因に思い当たった。先ほどの物音はドアの近くの壁に立てかけた箒が倒れた音で、それがつっかえ棒になり開くのを妨げてしまってるのだろう、と。
とまあ原因が分かればあとは簡単。その原因を取り除けばいい……のだが、実はそう簡単に行きそうも無い。なぜならこの小部屋、保管のための必要最低限のものしか置いていないため、使えそうな道具が一切無いのだ。綺麗に片付けられ無駄な物が置いていないことが逆に仇となったのである。
「あー……困った」
歩きながら先ほどと同じ言葉を呟く魔理沙。歩くといっても四畳しかないこの部屋では小さくぐるぐる回るしかないのだが、どうにも落ち着かないらしい。
「はぁ」
椎茸に似た魔法きのこを何とはなしに突付きつつため息を吐く。助けを呼ぼうにも、残念ながらこの家の所在地は迷いの森。普通の人間はまず通りかかることはなく、普通の妖怪もあまり通りかかることは無い。まあ彼女の知り合いの、普通でない人間や普通でない妖怪なら別なのだろうが、生憎と彼女達がこの家に訪れることはまずないだろう。結局の所、自力で脱出するしかないということだ。仕方ないかと覚悟を決め、力を込めてドアを押す。
「ふん……っ……んん!」
押す力を更に込め、途中の引っかかりにも構わず体重をかける魔理沙。どうやら多少の被害は覚悟の上、力ずくで押し開けることに決めたらしい。
「はっ……ほっ……!!」
……一分経過……三分経過……五分経過
「……っはぁ!」
如何に力を入れようともびくともしないドア。流石に無理かと力を抜き、ずりずりと半開きのそれにもたれかかる。力を入れていた部分が赤くなり、ジンジンと痛みが刺す。
「あー、無理だなこりゃ」
流石に疲れたのか、はぁはぁと息をしながら呟く。折れても仕方がないと諦めつつ全力で押したのだが、考えてみれば引っかかっているあの箒、彼女が自分の無茶な飛行や乱暴な扱いにも耐えられるようにと、わざわざ職人に作ってもらったかなり頑丈な特注品だったのだ。いくら馬鹿げた火力の魔法を放つことが出来る魔理沙とはいえ身体能力は歳相応。それどころか同年代の少女達よりも小さな体の彼女はウェイトの面でも問題がある。総合して見ても一般的に非力と称してもいいそれでは、残念ながら箒の破壊は不可能だったのだ。
「さて、それじゃあどうするか……だが」
だらんと力なく投げ出していた手で、額に滲んだ汗を拭うと思案顔になる魔理沙。しかし次の瞬間。
「まあいいか」
考えるのはまた後でとばかりにあっけらかんとそう言うと、狭い小部屋の中でゴロンと寝転がってしまった。確かに今日は半日森の中を飛び回り、材料となる様々なものを集めて回っていたので疲れてもいるだろう。しかしこの状況でさっくりと眠りこけることが出来るとは、流石は霧雨魔理沙といったところか。
「……あん?」
軽い尿意を覚え目を覚ました魔理沙。そういえば、と現在の状況を思い出す。欠伸を一つつくと立ち上がり、服についた埃を払う仕草をする。まあこの部屋は塵一つ見当たらないほど綺麗に掃除してあるので、実際のところは気分的なものでしかないのだがなんとなくやってしまう。
「そろそろ暗いな」
真後ろに設置してあったランプに火を灯す。換気用の隙間はあるが、光を嫌う物が多いためこの部屋は窓が無いので、この小部屋は月明かりさえ入ってこない。光を嫌うなんてまるでどこかの誰かのようだ、などと益体も無いことを考える。が、そんなことを考えている場合ではないと、両手で頬をパシリと叩き気合入魂。
「さて、一眠りしたし、本格的に考えるとするか」
今度はブチ破るぞと言わんばかりの鋭い視線で目の前のドアを見つめ、腕を組んでしばらくの黙考。
「ん、肉体的な力押しが不可能なら、魔法的に力押せばいいんじゃないか?」
攻撃魔法は得意中の得意である魔理沙。思い付きを口にすると、さっそく懐のミニ八卦炉に手を伸ばす。
「思い立ったが吉日だ。やってみるか」
少しばかり間違った言葉を口にしつつ、ドアに向けてマジックミサイルを叩き込む。すると、ボンッという爆発音と共に辺りに煙が充満する。
「けほっ、けほっ」
すると思い切り煙を吸い込んでしまったのか、咳き込む魔理沙。煙のせいで目尻に涙を浮かべつつ、さてどうだと魔法を当てた個所を見やる。しかしその視線の先には、多少くすんではいる物の何ら被害を受けてはいないドアが佇んで居た。
「っと、そういやそうだったか」
至って簡単なことである。考えてみればドアを含んだこの小部屋は、用途的に密閉性を保つことが必要だったため、ある程度の衝撃ではびくともしないような造りになっていたのだ。先ほどの箒のことといい、今日の魔理沙はどこか抜けているのだろうか。
「まあそれならそれでやりようはあるんだが……」
彼女の言うとおり方法自体はある。このドアはある程度の衝撃には耐えられるが、所詮はある程度でしかない。なのでそのある程度以上の火力をぶつければ、破壊することだけなら可能なのである。
で、あるのだが……。
「マスタースパークは却下」
ガラクタまみれに見えるとはいえ、魔理沙にとっては大事なものがドアの向こうには山積みなのだ。マスタースパークなどを放ってしまえば、ドアごと一緒に消し飛び兼ねない。
「ノンディクショナルレーザーは……そもそもこの部屋の中が滅茶苦茶になるな。あー、箒があればブレイジングスター辺りでどうにかなったんだがなぁ」
無いものねだりをしても仕方が無いので他の案を練る。
「むー」
練るのだが、どうにもいい案が出てこない。先ほどから感じる尿意が原因で集中力を欠いてきているようだ。
「あー、厄介だぜ」
だがこのままここに閉じ込められつづければそれは着実に力を蓄え、いつか牙をむくであろうことは想像に難くない。
「流石にこの歳になってそれは……なあ?」
内心の動揺を押さえつつ誰にとも無しに話し掛けるが、もちろん返事は返ってこない。そもそも尿意を誤魔化すための一人芝居なのだから、そんなものは元から期待していないのだが。
だが口にすることで現実味を帯びたのか、どうにも魔理沙は焦りを感じドアを開けようと必死にガタガタいわせ始める。もしそんなことになって、あまつさえそれがバレたとしたらどんな嫌味を言われるか分かったものではない。特にあいつとかあいつ、具体的に言うと霊夢やアリス等が。
「なにかのはずみでコロっと外れないかね……って、あ」
ドガグシャ!
「えー……と」
洒落にならない破壊音がドアの向こうの部屋から聞こえてきた。そして間を置いてズズンという重々しい音と、何かが折れる音と何かが割れる音とetcetc……。嫌な予感を押さえつつ目の前のドアを押してみるが、帰ってくるのは重々しい手ごたえ。かろうじて空いた隙間は先ほどよりも更に小さく、既に”開いた”と呼べるものでは無かった。何が起こったのかは明白だろう。
「踏んだり蹴ったりだな」
老朽化の進んでいたテーブルの足が折れたのだろうか、などと考えながら大きくため息を吐く。次から次へと起こる事態に虚脱感を覚え、再び床に寝転がろうと手をついた――とその時、なにやら手のひらに違和感が。
「ん……ああ、そういえばここ、地下があったんだっけか」
考えてみればこの小部屋を保管庫にしたのは、地下室があれば常温保管し難い物も保存できる、という理由からだったことを、今更ながら魔理沙は思い出した。普段は殆ど使わないので完全に失念してしまっていたのである。そんなことまで気付かないとは、意外と彼女は焦っていたのかもしれない。もしくは尿意のせいかも知れないし、誰かさんを思い浮かべたせいかも知れない。しかしそんな微妙なマイナス気分も、もうすぐ出られると考えれば一転して大分愉快。
「たしかここは地上に繋がってるはずだ」
床板を外して下へと降りる。地下室というよりは地下道なそこは、真っ暗だが冷たい空気が流れており出口の方向は比較的簡単にわかる。なのでとりあえずはそちらへと歩を進めることにした。
「お」
下におりてから少し歩く。すると上方から僅かに明かりが漏れている場所へと到着した。薄明かりの中で目を凝らしてみるとそこには梯子があり、先の出口は板で閉じられている。どうやらここから外へ出ることが可能な様だ。
「この梯子、随分使ってないからかなり汚れてるな……まあ仕方ないか」
うだうだしていても始まらないので、魔理沙はそれに手をかけ出口を目指す……といってもたかが数メートルでしかないので、すぐに魔理沙は最上部まで到着して居た。
「到着、っと」
板を押し開け外に出ると、そこは魔理沙の家のすぐ裏だった。実際には数時間程度なのだが、随分と長いこと外に出ていなかったかのような錯覚に陥るが、それを振り払うかのようにして大きく伸びをする。
「あー、疲れたぜ」
すると嗅ぎなれた魔法の森の臭いが漂って来る。
「しっかしあれだな、もうちょっと部屋の物を整理した方がいいのかもな」
くるりと反転し、今更なことを呟きつつ自宅の玄関へと向かう魔理沙。正直、部屋の惨状を考えると鬱屈として来そうだが、結局は今回の出来事も自分が蒔いた種が元である。因果応報というか、自業自得と言うか。
「まあそれはあとで考えるとして……今はまず」
うかうかしているとそろそろ本気で拙い、と我慢の限界に来ていた尿意を堪えつつ魔理沙は家へと駆け込んでいった。
ふう
と普段から思っている僕なので、これはナイス。
しかし箒で戦うとつy(ポクッ
”勘がいい”、よりも、”察しがいい”
の方が適切かな