※この作品にはオリキャラが出てきます。大体オリキャラでできています。そういったものが苦手な方はブラウザの戻るをクリックしてください。
また、若干バイオレンスな表現もあるのでその辺が苦手な方もご注意を。
地底・・・地獄への入り口だったその場所は、地底に住む妖怪達が、地上へ遊びに出かけるための通路になっている。ここを地上の妖怪が通ることはほとんどない。
そこを駆ける足音が一つ・・・
「うわぁああああああ!!なんだこれ!?うわ・・・わわ」
足音の主は人間。だが今はその足は地に着く事無くむなしくバタバタと空を切るだけだった。
「おやおや。久しいねえ、ちゃんとした人間がかかるだなんて。」
その様子を、少し離れた所から眺めていたのは黒谷ヤマメ。彼女の両手から伸びる糸が洞窟を駆け下りていたその人間を捉えていた。
「ま・・・また化け物!?うわああああああ!!」
どたばた暴れまわる人間だがヤマメの糸はその体を絡めて離さない。
「嬉しいねえ。化け物だってよ、はっはっは!ほれほれもっと暴れなよ。どんどん絞まって・・・あれ?」
ヤマメは口元を歪ませて笑う・・・が。言っている途中でヤマメの糸は切れてしまった。そして糸から開放された人間は地底の方へと駆け下りていく。
「駄目だよ~ヤマメ、あっれっはっ私の獲物だよ~♪」
そこに現れたのは古明地こいし。どうやら糸を切ったのも彼女のようだ。
「いやいや、私の巣にかかってたから私の獲物って発想には至らないのかい?」
ヤマメは両手を上に向け、やれやれのポーズをとる。
「え~?難しい事わからな~い♪こういう時ってどうするんだっけ?」
こいしはにこにこ楽しそうにしながら空を飛ぶ。
「じゃんけん?」
ヤマメが片手を出す。
「さいしょはパー!あ、私の勝ち~♪」
こいしはまさにいたずらっ子のような顔で言う。ヤマメは特に悔しそうな顔をしてるわけではない。
「あちゃー、負けちゃったね。二回戦だっ!」
ヤマメは手でピースを作る。
「二回戦は何をするの~?」
こいしはわざとらしくたずねる。
「ふふん。決まってるだろ?」
ヤマメはいいながら弾幕を展開していく。
「あはは♪わかってる~!」
こいしは余裕綽々な様子でふわふわ飛ぶ。二人の弾幕ごっこが始まった。
その頃、なんとか難を逃れた人間は洞窟を通り抜け、開けた場所に出ていた。見える所には橋があり、その先には都のようなものが見える。
「はぁ・・・っはぁっ・・・!!」
人間は橋を渡り、明るい都の方へと歩を進める。
「なんで・・・こんなところに・・・」
橋を渡り切ったあたりで周りを見回す。そして一旦胸をなでおろした。
「助かった・・・のか・・・?でもここは・・・?」
再びあたりを見回した時、一つの明かりに気が付いた。先ほど渡った橋、その橋のかかる川のほとりに一つの明かりが見えたのだ。
何故そちらに惹きつけられたはわからない。だが人間は自然とそちらに歩いて行った。
「何よその顔。」
地底の入り口の橋の橋守、水橋パルスィは少しふてぶてしい声を、目の前の人物に投げつける。
「え?どんな顔してました?」
地底の屋台の店主、頭巾はそれをさらっと投げ返す。
「「昼間っから暇そうにしてんなぁ~」って顔だったわ。目玉潰して良い?」
先ほどからやたらとケンカ腰である。
「はっは!惜しいですねえ。お互い暇ですね~って顔だと思いますよ・・・あだだだだだだ!!」
頭巾は笑いながら言うとその頬を抓られた上にひたすら引っ張られる。
「はぁ・・・特に暇でもなさそうな連中が妬ましい・・・」
言いながら手は離さない。
「あららららら!!いらいれすパルスィふぁん!千切れる!千切れる!僕も暇人れすふぁら!・・・いったぁ・・・おや?」
ようやく開放された後、頬を自分の手で押さえる。目は涙目である。その状態で何かを見つけた。
「ここは・・・屋台か?」
ここに現れたのは人間、服などはぼろぼろだが、頭巾やパルスィとは大きく違った意匠の服なのはよくわかる。
「ん~?人間?」
パルスィは頬杖を付きながらじろじろと眺める。
「・・・?ヒッ!?また化け物!?」
自分をじろじろ見るパルスィを見た人間の男は、パルスィの耳、普通の人間のそれとは違う者を見てその顔を恐怖にゆがめる。
「あ~、大丈夫ですよ。パルスィさん、ここで襲い掛かるのは駄目ですよ」
頭巾はそう言ってどうどうと両手で落ち着かせようとする。
「うわぁああああ・・・!?」
男は頭巾の言葉を聞くことなくまた逃げ出そうとするが、その腕をパルスィが掴んだ。必死に振りほどこうとするが、パルスィの腕はそれを許さない。
「ふふふ、丁度いい暇つぶしね。あんた、落ち着きなさい。ここから離れたとして辺りには化け物しかいないわよ。」
パルスィは片腕で頬杖を付いたままの姿勢で語りかける。
「はぁ・・・はぁ・・・だったらどうしろというんだ!?」
どうしても振りほどけないため諦めたのだろう、しかしまだパニックな様子だ。
「そうね。あんたは運がいいわ。多分この辺で一番安全な場所はここよ。私は確かに化け物だけど、そこのアホ面は人間よ。一応」
そう言って頭巾を指差す。
「酷い言われようだ・・・えっと、外の人ですかね?久しぶりに見たな。」
頭巾はやや苦い顔をした後、じっと眺める。そしてその後。
「まあ、いいや。これからお昼の営業を始める所なんですけど、どうですか?彼女の言うとおり、多分ここは貴方にとって安全な場所ですよ。」
そう言って皿を取り出す。
「・・・」
男は黙ってカウンターに腰を下ろす。それを確認した後パルスィは男の腕を離す。
「あらあら、そんなに怖いかしら?はは、あんた禄な人生送ってないね。」
パルスィが腕を離した後、男はカウンターの隅の席に座る。パルスィは男を今一度じろじろとねめつけた。緑の瞳が一層光っているように頭巾には見えた。
「・・・」
男は喋らない。警戒しているのだろう。
「えーと・・・あんまり黙られると注文・・・これ、お品書きなんでどうぞ。」
頭巾はその様子を見て軽く苦笑いを浮かべた後お品書きを男に渡す。
「・・・銭?一体いつの・・・」
お品書きを見た男は声を上げる。
「ああ・・・えーと。・・・大体ひとつ百円でいいです。」
頭巾は頬をかいて答える。
「・・・安いな。毒とか入れる気じゃ・・・」
相当疑心暗鬼になっている様子だ。
「なんなら毒見もしますが?」
頭巾は堂々と答える。
「・・・じゃあ・・・これと・・・これをくれ。」
男はお品書きの中から2つほど選んで指で示した。
「はい、かしこまりました。なるべくすぐ用意しますのでお待ちください。」
「私は何時ものでいいわ。」
その横からパルスィが声を掛ける。
「はーい。」
「貴方は・・・あぁ、つまらない人間のようね。嫉妬なんてしようとも思えないわ。」
店主が調理を始めたところでパルスィは男に声を掛ける。
「・・・」
男はその言葉を無視し視線をそらす。
「ああ・・・無視するのね。構わないわ。・・・ねぇあんた、今日はこの後なにかあるの?」
すると今度は頭巾の方に顔を寄せるパルスィ。思いっきりカウンターに乗り出して、手で顎をす~っと触り少し小声で頭巾に話しかける。
「・・・顔、近いです。どうぞ。」
少し顔を赤らめてパルスィを座らせる。その後丼をパルスィに渡す。
男はそれまでパルスィの方を見る事はなかったのだが。このやり取りは見ていた、そしてパルスィが椅子に座るとき、彼女と一瞬目があった。
「ふふ、そんなに近かったかしら?ありがとう。」
パルスィはくすくす笑いながら丼を受け取る。
「お客さんもどうぞ。串焼きです」
そう言って男に串焼きを二本渡す。が、男は少し様子がおかしくすぐにそれを受け取らない。
頭巾が声を掛けようとするが。
「そうだ・・・どいつもこいつも・・・頭の良い奴はうまいこと上のやつに取り込んで・・・」
男はぶつぶつとうわごとのように独り言を言う。
「お客さん?・・・!!」
頭巾が声を掛けようと近づいた時、男はいきなり頭巾の胸倉を掴んだ。
「お前だってそうなんだろう!?こいつらみたいな化け物にうまく媚へつらってうまい汁すいまくって・・・」
その姿勢のまま男は大声を上げ頭巾に言葉を吐き散らかす。
「み~つっけた~♪」
「俺はお前みた・・・!?」
突然聞こえた声、その声の方を向いた男は、顔を酷く青ざめさせた。
「あ~!おにーさんが襲われてる!助けなきゃ~♪」
楽しそうに現れたのはこいし。服はなぜかぼろぼろである。
「こいしさん。できればここで暴れないで欲しいんですが・・・」
まだ胸倉を掴まれた状態のまま頭巾はこいしに声を掛ける。こいしはすでに飛び掛っている最中だったが、頭巾の言葉を聞いて「ちぇ~」とか言いながら空中で一旦停止する。
「・・・ヒィ!?うわ・・・うわぁぁぁぁぁあああああああああああああ」
少しの間パニック状態だったのだろう。頭巾を掴む自分の腕とこいしの方を二度三度確認した後、男は頭巾を乱暴に突き放し、奇声交じりに叫びながら旧都の方へと走って行ってしまった。
「あ・・・お金・・・どうしようこれ・・・。」
自分の手に持つ二本の串焼きを眺める。
「普段は商売してない時間にちゃっかり儲けようとした罰じゃない?」
そう言ってパルスィは箸を片手に笑う。
「はぁ・・・。パルスィさんが何かしたんでしょう?何をしたんですか?」
ため息をついてから
「ふふ、そこはほら。企業秘密よ、企業秘密」
そう言ってお茶をすする。
「ねー!それ頂戴♪さっきの人間の分でしょう?どうせ食べられないわ。」
こいしは頭巾の手に持った串焼き二本を指差す。
「はぁ・・・まあいいですよ。とっておくので後で取りに来てくださいね。」
頭巾はため息をついた。
「やった~!それじゃあちょっと行ってくるね~♪」
そういうとこいしは楽しそうに駆け出して行った。
「「・・・」」
そして頭巾とパルスィは黙ったまま手を振るだけでこいしを見送った。少し無言の時間が流れる
「やっぱり助けたかった?あんたも人間だもんねえ。」
最初に口を開いたのはパルスィだった。頭巾に問いかける
「どうですかね。どうせ何も出来なかったと思いますが。さっきこいしさんがあそこで止まってくれた事に驚いてるくらいですよ。」
「ああ、そういえばそうねえ。」
パルスィは先ほどの光景を思い出すように言う。
「いちちち・・・」
ここで屋台に現れたのはヤマメ、服が酷くぼろぼろである。破れた服から素肌がちらちら見える。
「うわわっ!?ボロボロじゃないですか。」
頭巾はその様子を見て声をあげる。
「あら、その様子じゃ誰かにぼっこぼこにされたみたいね。誰とやりあってたの?」
パルスィもヤマメの状態を見て声を掛ける。
「ちょっとこいしちゃんとね。やっぱあの子は強いわ~」
にしし、と笑うヤマメ。
「ああ、そういえばこいしさんも少し服が汚れてましたね。」
頭巾はヤマメの格好をじろじろ見ながら言う。
「あらやだ、その視線いやらしいね。」
ヤマメはさっと露出している肌の部分を隠す。
「あわわわ!?そんなつもりで見てたわけじゃ・・・・!?」
わたわたと慌てる。
「あら?慌てるって事は怪しいわね。ヤマメ、気をつけた方がいいわよ~」
ニヤニヤ笑いながらパルスィも言う。
「まあこいつは所謂むっつり助平みたいだからね。パルスィもいつこんな目で見られるかわからないよ。」
ヤマメも同じくニヤニヤ笑いながらパルスィと顔を合わせ「やーねー」などなど言い始める。
「ぐぬぬ・・・」
少し悔しそうに頭巾はうなり声を上げるだけしかできなかった。
その後、ヤマメもカウンターに座り串焼き等を注文して、暫く時間がたった頃。
「たっだいま~♪遊びすぎちゃった。」
そこにこいしが帰ってきた。その手は赤黒く染まっている。服などはほとんど先ほどの状態と変わらないが。
「あーあー、その手で色々触らないでくださいよ?これで手を洗ってください。」
頭巾はそういうと桶を取り出し、水瓶の水をすくってこいしの前に出す。
「ありがと~!あれ?私の串焼きは!?」
手を洗いながら辺りを見回していたこいしは先ほどもらう約束をしていた串焼きがない事に気づく。
「さっきのは冷めてしまいそうだったのでヤマメさんが。そろそろだと思って次のを焼いてありますよ。丁度焼きたてですよ~。」
そう言うと、桶の水を捨ててから焼き網に乗っている串焼きを二本、こいしに渡す。
「さっすがお兄さん~気が利くぅ!」
こいしは嬉しそうにそれを受け取りカウンター、ヤマメの隣に座る。
「おかえり、こいしちゃん。今日は負けたけど今度は負けないよ~?」
ヤマメはこいしに声を掛ける。
「ふっふ~ん♪いつでもリベンジは受け付けるよ~」
こいしは得意げ言う。
「お店の近くでやるのはやめてくださいね?」
頭巾はその様子を見て言う。
「あらあら、そんな事言ってるとそのうち・・・」
と、パルスィ。
「やめましょう、この話題。本当に色々壊されそうです。」
頭巾はそういって話を切り上げる。
「あはは!なるべく気をつけるね~♪」
「・・・しかし、今日は皆さん妖怪してましたねえ。」
そう言ってカウンターの三人を見る。
「あたしらはいつだって妖怪さ。忘れてたのかい?」
ヤマメは頬杖を付きながら言う。
「いえいえ、そういう訳ではなくですね。暫く自分が襲われない生活をしていたもので・・・」
「襲われないって・・・ねぇ?」
パルスィはそういってヤマメとこいしを見る。
「「ねぇ~?」」
ヤマメとこいしも顔をあわせる。
「え?何・・・?何ですか?」
本当にわからない様子で、頭巾は少し慌てる。
「不味そうだからね」
「不味そうだからよ」
「不味そうだもん」
三人同時に言う。
「ぐぅ・・・いや・・・それはわかってましたけれども。」
なんともいえない気分になったのだろう。微妙な表情で頭巾は肩を落とす。
「あはは~♪落ち込んでる~?元気出してっ。」
ぽんぽんと頭巾の肩を叩く。
「あんたは一切怖がってくれないからねえ。人の肉を喰うあたしらにとったってあんたみたいのはたまったもんじゃないさ。心を喰う妖怪ならなおの事だね」
ヤマメは両手を組んでその上に顎を乗せて言う。
「昔ちょっとだけ血を舐めたけど本当に不味かったしね~」
こいしも思い出すように言う。頭巾は「え?いつ?」と少し驚いている様子だ。
「ん~・・・はあ~。何か食べるかぁ~。」
頭巾はため息をついたあと、茶碗を取り出しお櫃から米をよそった。その後自分でおかずを用意し屋台の中から出てカウンターに座り、のんびりと談話に加わった。4人は食ったり飲んだり会話をしながら、地底の夜が訪れるまでそこで過ごした。。
また、若干バイオレンスな表現もあるのでその辺が苦手な方もご注意を。
地底・・・地獄への入り口だったその場所は、地底に住む妖怪達が、地上へ遊びに出かけるための通路になっている。ここを地上の妖怪が通ることはほとんどない。
そこを駆ける足音が一つ・・・
「うわぁああああああ!!なんだこれ!?うわ・・・わわ」
足音の主は人間。だが今はその足は地に着く事無くむなしくバタバタと空を切るだけだった。
「おやおや。久しいねえ、ちゃんとした人間がかかるだなんて。」
その様子を、少し離れた所から眺めていたのは黒谷ヤマメ。彼女の両手から伸びる糸が洞窟を駆け下りていたその人間を捉えていた。
「ま・・・また化け物!?うわああああああ!!」
どたばた暴れまわる人間だがヤマメの糸はその体を絡めて離さない。
「嬉しいねえ。化け物だってよ、はっはっは!ほれほれもっと暴れなよ。どんどん絞まって・・・あれ?」
ヤマメは口元を歪ませて笑う・・・が。言っている途中でヤマメの糸は切れてしまった。そして糸から開放された人間は地底の方へと駆け下りていく。
「駄目だよ~ヤマメ、あっれっはっ私の獲物だよ~♪」
そこに現れたのは古明地こいし。どうやら糸を切ったのも彼女のようだ。
「いやいや、私の巣にかかってたから私の獲物って発想には至らないのかい?」
ヤマメは両手を上に向け、やれやれのポーズをとる。
「え~?難しい事わからな~い♪こういう時ってどうするんだっけ?」
こいしはにこにこ楽しそうにしながら空を飛ぶ。
「じゃんけん?」
ヤマメが片手を出す。
「さいしょはパー!あ、私の勝ち~♪」
こいしはまさにいたずらっ子のような顔で言う。ヤマメは特に悔しそうな顔をしてるわけではない。
「あちゃー、負けちゃったね。二回戦だっ!」
ヤマメは手でピースを作る。
「二回戦は何をするの~?」
こいしはわざとらしくたずねる。
「ふふん。決まってるだろ?」
ヤマメはいいながら弾幕を展開していく。
「あはは♪わかってる~!」
こいしは余裕綽々な様子でふわふわ飛ぶ。二人の弾幕ごっこが始まった。
その頃、なんとか難を逃れた人間は洞窟を通り抜け、開けた場所に出ていた。見える所には橋があり、その先には都のようなものが見える。
「はぁ・・・っはぁっ・・・!!」
人間は橋を渡り、明るい都の方へと歩を進める。
「なんで・・・こんなところに・・・」
橋を渡り切ったあたりで周りを見回す。そして一旦胸をなでおろした。
「助かった・・・のか・・・?でもここは・・・?」
再びあたりを見回した時、一つの明かりに気が付いた。先ほど渡った橋、その橋のかかる川のほとりに一つの明かりが見えたのだ。
何故そちらに惹きつけられたはわからない。だが人間は自然とそちらに歩いて行った。
「何よその顔。」
地底の入り口の橋の橋守、水橋パルスィは少しふてぶてしい声を、目の前の人物に投げつける。
「え?どんな顔してました?」
地底の屋台の店主、頭巾はそれをさらっと投げ返す。
「「昼間っから暇そうにしてんなぁ~」って顔だったわ。目玉潰して良い?」
先ほどからやたらとケンカ腰である。
「はっは!惜しいですねえ。お互い暇ですね~って顔だと思いますよ・・・あだだだだだだ!!」
頭巾は笑いながら言うとその頬を抓られた上にひたすら引っ張られる。
「はぁ・・・特に暇でもなさそうな連中が妬ましい・・・」
言いながら手は離さない。
「あららららら!!いらいれすパルスィふぁん!千切れる!千切れる!僕も暇人れすふぁら!・・・いったぁ・・・おや?」
ようやく開放された後、頬を自分の手で押さえる。目は涙目である。その状態で何かを見つけた。
「ここは・・・屋台か?」
ここに現れたのは人間、服などはぼろぼろだが、頭巾やパルスィとは大きく違った意匠の服なのはよくわかる。
「ん~?人間?」
パルスィは頬杖を付きながらじろじろと眺める。
「・・・?ヒッ!?また化け物!?」
自分をじろじろ見るパルスィを見た人間の男は、パルスィの耳、普通の人間のそれとは違う者を見てその顔を恐怖にゆがめる。
「あ~、大丈夫ですよ。パルスィさん、ここで襲い掛かるのは駄目ですよ」
頭巾はそう言ってどうどうと両手で落ち着かせようとする。
「うわぁああああ・・・!?」
男は頭巾の言葉を聞くことなくまた逃げ出そうとするが、その腕をパルスィが掴んだ。必死に振りほどこうとするが、パルスィの腕はそれを許さない。
「ふふふ、丁度いい暇つぶしね。あんた、落ち着きなさい。ここから離れたとして辺りには化け物しかいないわよ。」
パルスィは片腕で頬杖を付いたままの姿勢で語りかける。
「はぁ・・・はぁ・・・だったらどうしろというんだ!?」
どうしても振りほどけないため諦めたのだろう、しかしまだパニックな様子だ。
「そうね。あんたは運がいいわ。多分この辺で一番安全な場所はここよ。私は確かに化け物だけど、そこのアホ面は人間よ。一応」
そう言って頭巾を指差す。
「酷い言われようだ・・・えっと、外の人ですかね?久しぶりに見たな。」
頭巾はやや苦い顔をした後、じっと眺める。そしてその後。
「まあ、いいや。これからお昼の営業を始める所なんですけど、どうですか?彼女の言うとおり、多分ここは貴方にとって安全な場所ですよ。」
そう言って皿を取り出す。
「・・・」
男は黙ってカウンターに腰を下ろす。それを確認した後パルスィは男の腕を離す。
「あらあら、そんなに怖いかしら?はは、あんた禄な人生送ってないね。」
パルスィが腕を離した後、男はカウンターの隅の席に座る。パルスィは男を今一度じろじろとねめつけた。緑の瞳が一層光っているように頭巾には見えた。
「・・・」
男は喋らない。警戒しているのだろう。
「えーと・・・あんまり黙られると注文・・・これ、お品書きなんでどうぞ。」
頭巾はその様子を見て軽く苦笑いを浮かべた後お品書きを男に渡す。
「・・・銭?一体いつの・・・」
お品書きを見た男は声を上げる。
「ああ・・・えーと。・・・大体ひとつ百円でいいです。」
頭巾は頬をかいて答える。
「・・・安いな。毒とか入れる気じゃ・・・」
相当疑心暗鬼になっている様子だ。
「なんなら毒見もしますが?」
頭巾は堂々と答える。
「・・・じゃあ・・・これと・・・これをくれ。」
男はお品書きの中から2つほど選んで指で示した。
「はい、かしこまりました。なるべくすぐ用意しますのでお待ちください。」
「私は何時ものでいいわ。」
その横からパルスィが声を掛ける。
「はーい。」
「貴方は・・・あぁ、つまらない人間のようね。嫉妬なんてしようとも思えないわ。」
店主が調理を始めたところでパルスィは男に声を掛ける。
「・・・」
男はその言葉を無視し視線をそらす。
「ああ・・・無視するのね。構わないわ。・・・ねぇあんた、今日はこの後なにかあるの?」
すると今度は頭巾の方に顔を寄せるパルスィ。思いっきりカウンターに乗り出して、手で顎をす~っと触り少し小声で頭巾に話しかける。
「・・・顔、近いです。どうぞ。」
少し顔を赤らめてパルスィを座らせる。その後丼をパルスィに渡す。
男はそれまでパルスィの方を見る事はなかったのだが。このやり取りは見ていた、そしてパルスィが椅子に座るとき、彼女と一瞬目があった。
「ふふ、そんなに近かったかしら?ありがとう。」
パルスィはくすくす笑いながら丼を受け取る。
「お客さんもどうぞ。串焼きです」
そう言って男に串焼きを二本渡す。が、男は少し様子がおかしくすぐにそれを受け取らない。
頭巾が声を掛けようとするが。
「そうだ・・・どいつもこいつも・・・頭の良い奴はうまいこと上のやつに取り込んで・・・」
男はぶつぶつとうわごとのように独り言を言う。
「お客さん?・・・!!」
頭巾が声を掛けようと近づいた時、男はいきなり頭巾の胸倉を掴んだ。
「お前だってそうなんだろう!?こいつらみたいな化け物にうまく媚へつらってうまい汁すいまくって・・・」
その姿勢のまま男は大声を上げ頭巾に言葉を吐き散らかす。
「み~つっけた~♪」
「俺はお前みた・・・!?」
突然聞こえた声、その声の方を向いた男は、顔を酷く青ざめさせた。
「あ~!おにーさんが襲われてる!助けなきゃ~♪」
楽しそうに現れたのはこいし。服はなぜかぼろぼろである。
「こいしさん。できればここで暴れないで欲しいんですが・・・」
まだ胸倉を掴まれた状態のまま頭巾はこいしに声を掛ける。こいしはすでに飛び掛っている最中だったが、頭巾の言葉を聞いて「ちぇ~」とか言いながら空中で一旦停止する。
「・・・ヒィ!?うわ・・・うわぁぁぁぁぁあああああああああああああ」
少しの間パニック状態だったのだろう。頭巾を掴む自分の腕とこいしの方を二度三度確認した後、男は頭巾を乱暴に突き放し、奇声交じりに叫びながら旧都の方へと走って行ってしまった。
「あ・・・お金・・・どうしようこれ・・・。」
自分の手に持つ二本の串焼きを眺める。
「普段は商売してない時間にちゃっかり儲けようとした罰じゃない?」
そう言ってパルスィは箸を片手に笑う。
「はぁ・・・。パルスィさんが何かしたんでしょう?何をしたんですか?」
ため息をついてから
「ふふ、そこはほら。企業秘密よ、企業秘密」
そう言ってお茶をすする。
「ねー!それ頂戴♪さっきの人間の分でしょう?どうせ食べられないわ。」
こいしは頭巾の手に持った串焼き二本を指差す。
「はぁ・・・まあいいですよ。とっておくので後で取りに来てくださいね。」
頭巾はため息をついた。
「やった~!それじゃあちょっと行ってくるね~♪」
そういうとこいしは楽しそうに駆け出して行った。
「「・・・」」
そして頭巾とパルスィは黙ったまま手を振るだけでこいしを見送った。少し無言の時間が流れる
「やっぱり助けたかった?あんたも人間だもんねえ。」
最初に口を開いたのはパルスィだった。頭巾に問いかける
「どうですかね。どうせ何も出来なかったと思いますが。さっきこいしさんがあそこで止まってくれた事に驚いてるくらいですよ。」
「ああ、そういえばそうねえ。」
パルスィは先ほどの光景を思い出すように言う。
「いちちち・・・」
ここで屋台に現れたのはヤマメ、服が酷くぼろぼろである。破れた服から素肌がちらちら見える。
「うわわっ!?ボロボロじゃないですか。」
頭巾はその様子を見て声をあげる。
「あら、その様子じゃ誰かにぼっこぼこにされたみたいね。誰とやりあってたの?」
パルスィもヤマメの状態を見て声を掛ける。
「ちょっとこいしちゃんとね。やっぱあの子は強いわ~」
にしし、と笑うヤマメ。
「ああ、そういえばこいしさんも少し服が汚れてましたね。」
頭巾はヤマメの格好をじろじろ見ながら言う。
「あらやだ、その視線いやらしいね。」
ヤマメはさっと露出している肌の部分を隠す。
「あわわわ!?そんなつもりで見てたわけじゃ・・・・!?」
わたわたと慌てる。
「あら?慌てるって事は怪しいわね。ヤマメ、気をつけた方がいいわよ~」
ニヤニヤ笑いながらパルスィも言う。
「まあこいつは所謂むっつり助平みたいだからね。パルスィもいつこんな目で見られるかわからないよ。」
ヤマメも同じくニヤニヤ笑いながらパルスィと顔を合わせ「やーねー」などなど言い始める。
「ぐぬぬ・・・」
少し悔しそうに頭巾はうなり声を上げるだけしかできなかった。
その後、ヤマメもカウンターに座り串焼き等を注文して、暫く時間がたった頃。
「たっだいま~♪遊びすぎちゃった。」
そこにこいしが帰ってきた。その手は赤黒く染まっている。服などはほとんど先ほどの状態と変わらないが。
「あーあー、その手で色々触らないでくださいよ?これで手を洗ってください。」
頭巾はそういうと桶を取り出し、水瓶の水をすくってこいしの前に出す。
「ありがと~!あれ?私の串焼きは!?」
手を洗いながら辺りを見回していたこいしは先ほどもらう約束をしていた串焼きがない事に気づく。
「さっきのは冷めてしまいそうだったのでヤマメさんが。そろそろだと思って次のを焼いてありますよ。丁度焼きたてですよ~。」
そう言うと、桶の水を捨ててから焼き網に乗っている串焼きを二本、こいしに渡す。
「さっすがお兄さん~気が利くぅ!」
こいしは嬉しそうにそれを受け取りカウンター、ヤマメの隣に座る。
「おかえり、こいしちゃん。今日は負けたけど今度は負けないよ~?」
ヤマメはこいしに声を掛ける。
「ふっふ~ん♪いつでもリベンジは受け付けるよ~」
こいしは得意げ言う。
「お店の近くでやるのはやめてくださいね?」
頭巾はその様子を見て言う。
「あらあら、そんな事言ってるとそのうち・・・」
と、パルスィ。
「やめましょう、この話題。本当に色々壊されそうです。」
頭巾はそういって話を切り上げる。
「あはは!なるべく気をつけるね~♪」
「・・・しかし、今日は皆さん妖怪してましたねえ。」
そう言ってカウンターの三人を見る。
「あたしらはいつだって妖怪さ。忘れてたのかい?」
ヤマメは頬杖を付きながら言う。
「いえいえ、そういう訳ではなくですね。暫く自分が襲われない生活をしていたもので・・・」
「襲われないって・・・ねぇ?」
パルスィはそういってヤマメとこいしを見る。
「「ねぇ~?」」
ヤマメとこいしも顔をあわせる。
「え?何・・・?何ですか?」
本当にわからない様子で、頭巾は少し慌てる。
「不味そうだからね」
「不味そうだからよ」
「不味そうだもん」
三人同時に言う。
「ぐぅ・・・いや・・・それはわかってましたけれども。」
なんともいえない気分になったのだろう。微妙な表情で頭巾は肩を落とす。
「あはは~♪落ち込んでる~?元気出してっ。」
ぽんぽんと頭巾の肩を叩く。
「あんたは一切怖がってくれないからねえ。人の肉を喰うあたしらにとったってあんたみたいのはたまったもんじゃないさ。心を喰う妖怪ならなおの事だね」
ヤマメは両手を組んでその上に顎を乗せて言う。
「昔ちょっとだけ血を舐めたけど本当に不味かったしね~」
こいしも思い出すように言う。頭巾は「え?いつ?」と少し驚いている様子だ。
「ん~・・・はあ~。何か食べるかぁ~。」
頭巾はため息をついたあと、茶碗を取り出しお櫃から米をよそった。その後自分でおかずを用意し屋台の中から出てカウンターに座り、のんびりと談話に加わった。4人は食ったり飲んだり会話をしながら、地底の夜が訪れるまでそこで過ごした。。
ご馳走様でした。