Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

古明地さん家のペット事情

2011/11/11 05:40:16
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 ※この作品にはやや暴力的な表現などが含まれています、ご注意ください。




 霧の湖時間は深夜、湖のほとりに空から降り立つ人影が一つあった。その人影の主、不死人藤原妹紅は釣竿を片手にあたりを見回す。

「やっとついた・・・稗田のが言うには今夜あたり大物が釣れるって話だけど。」

 妹紅は片手を広げて炎を出す。真夜中の幻想郷、おまけに人気の少ないこの場所では星や月より他に明かりはない。自分の腕すら見えていなかった。

「ううん、あんまり目が見えん・・・。やっぱり来る途中で聞こえてきたのは夜雀の歌だったか。帰りにあの屋台でも寄ってくかな。」
 目を擦りながら妹紅は湖に来る途中の事を思い返す、やたらと騒がしい歌が竹林から出た辺りを騒がせていた。

「さて、今はあのグロテスクな鰻より魚だ魚。今日は釣りに来たんだからな。大物釣って帰って女将さんを驚かせてやろう。おわっ!・・・ってて」 
 パンパンッと頬を叩いて気を撮り直した後、丁度良い釣り場を探して歩き始める。しかし、歩き始めてすぐに、何かに躓いて転んでしまった。

「なんだ?つめたっ!・・・氷?でもどうしてこんなところに・・・」
 妹紅は思い切り打った鼻の頭をさすりながら、躓いた物を拾い上げる。手で持って氷である事がわかった。しかも、結構な大きさでそこら中に転がっているようだ。

「こおおおおらああああああああああああ!!!またお前らかあああああああああああ!!」
 妹紅が炎であたりを照らして見回していると、不意に上空から大きな声とともに氷塊が降ってきた。

「わたたた!あた!あたたた!・・・ふん!」
 視界がはっきりしないためうまくかわすことができないと判断した妹紅は、一気に炎を展開してその氷弾をすべてかき消す。

「おわちちち!あれ?お前あいつらじゃないな。お前誰だ!というかお前か!私の家を壊したのは!」
 霧の湖に住む氷の妖精、チルノはビシッと妹紅を指さす。

「家?家ってこれ?随分変わった家だなあ。」
 妹紅は先ほど躓いた氷のブロックを指さしていう。

「違うよ!ソレはあたいの家の壁だ!あたいの家の恨みを食らえ!!氷符、アイシクルフォール!!」
 言ってチルノは両の手を前に掲げて氷弾を放つ。

「あれ?もしかして冗談ってわかってない?っていうか気づいてすら・・・ちょっ・・・おわ!ちょっと!今こっちはあんまり目が見えないんだって!待った待った!!あだだだだ!!」
 妹紅は必死に飛んでくる氷弾をかわそうとするが、視界が悪いようだ。正面から来る弾以外ほとんど見えていない様子だ。左右から飛来する氷弾を避けられず被弾しまっている。先ほどのように炎で打ち消そうにも数が多い上にあっちこっちから飛んで来るためそれもうまくいかないようだ。

「どうだ!思い知ったか!私の家の恨み!」
 そう言って腕を組んで妹紅の前に仁王立ちのような姿勢でチルノは言い放つ。

「参った!もう参ったでいいから待て!!お前の家を壊したのは私じゃあない。私が来た時には壊れていたんだ。」
 
「犯人は誰だってそう言うぞ!お前が犯人じゃないってしょーこをだせ!」

「む、妖精の癖にちょっとだけ難しい言葉を使うな。ふむ。証拠・・・証拠・・・うーん。そうだな、確かに証拠はない。だが私には動機もないぞ?」

「どーき?どーきってなんだ?」
 チルノは腕を組み頭を傾げながら言う。

「お前の家を壊す理由さ。私達は初対面だろう?」

「なるほど!理由か!確かにないな!」

「だろ?じゃあ私は行くよ。それじゃあね。犯人探しがんばってくれ」
 妹紅は振り返ってその場から去ろうとする・・・が。

「待て!理由がないなら犯人じゃないのか?」

「ふむ。確かに理由がないからといって犯人じゃないっていう証拠にはならないな。」

「やっぱりお前うさんくさいな!よしわかった!お前を倒してお前を犯人にしてやる!」
 もう一度ビシッと妹紅の方を指さしてチルノは大声をはりあげる。

「・・・その理屈はおかしいと思うが、いいだろう。私もやられっぱなしは性にあわんからな。」
 それに答えるように妹紅は自分の前で拳を打ち合わせた。それを合図に二人の弾幕ごっこが始まった。









「うがー!!お前あつくるしいな!苦手だぞ!!」
 そう言ってチルノは額の汗を拭う。

「暑苦しいって・・・しかし妖精の癖にやるなあ。こっちの視界が悪いの差し引いたって十分な強さだ」

「そりゃそうだ!あたいは妖精界じゃあ最強だからな!」
 褒められて気を良くしたのかチルノは嬉しそうにその場でくるりと一回転、空中でバク宙の動きをする。

「さて、そろそろいいだろう。私は釣りをしに来たんだ。あんまり騒ぐと魚も逃げてしまう。」

「そうだな、あたいもあつくるしい奴の相手は疲れるからな。・・・お前釣りするのか?でもこの湖ほとんど魚なんていないぞ?」

「むう、暑苦しいって・・・まあいいや、忠告ありがとう。私は妹紅、藤原妹紅だ。」
 少しだけ眉間にシワを寄せてから自己紹介をする。

「あたいはチルノ、氷の妖精だ。だから炎とか暑いのとか苦手だからお前は苦手だな!」

「あはは!嫌われたもんだなこりゃ、まあ普通にしてれば炎なんて出ないから安心しな。お前の事は里の人やら稗田のやらから聞いたことはある。まあ死なない同士仲良くしようじゃあないか。」
 眉間に寄せていたシワを伸ばして笑顔で妹紅は答えた。

「・・・まあ、火とか出さないなら仲良くしてやってもいいぞ。・・・えーと」
 チルノはそう言って眉間にちょっとだけシワを作って照れくさそうに妹紅に片手を差し出す。

「私の事は妹紅でいいぞ。よろしくな、チルノ!」
 妹紅はその手をとって笑顔を作る。

「おう!よろしくな!もこー!」
 チルノもそれに答えるようににっこりと、屈託の無い笑顔で返事を返した。

「さて・・・もうこの辺でいいや、これ座っていい?あ、お尻が濡れちゃうか。」
 妹紅はチルノの家だった氷のブロックを一つ取り上げて言う。

「あたいの氷はそんな簡単にとけないから濡れたりしないよ!それより本当にここで釣るの?あたいさっきも言ったけどこの湖ほとんど魚なんていないよ?」
 チルノは妹紅の持つ釣竿を見て言う。

「なあに、釣れないなら釣れないでいいのさ。暇な間の話し相手もできた事だしね。」

「あたいの話が聞きたいの?ふふん、いいだろう!あたいのぶゆーでんはげんざいしんこーけーだからな!」

「現在進行形ねぇ・・・ひっくち!・・・冷えるな今日は。」

「そう?」

「お前の仕業か?氷の妖精なんだろ?」

「うっ・・・やっぱりあたいの側にいるのは・・・嫌?」

「まあ、わざとそうしてるんじゃないなら私は別に構わないよ、どうせ死ねん身体だしな。それよりほら、武勇伝はどうしたんだ?」
 チルノの表情が若干暗くなったのに気づいてか、妹紅は自分の隣のスペースをポンポンと叩く。

「・・・うんっ!」
 チルノはにっこりと笑って妹紅のとなりにちょこんと座りうれしそうに語り始めた。











 幻想郷の地底、地上で、人間や地上の妖怪に忌み嫌われた妖怪達が住むこの世界、しかし住んでる物達は地上の者達と同じように、祭事や宴会、酒が好きな妖怪たちで溢れている。彼らは毎日のように、どこへとなく集まり酒を飲み、歌い踊り騒ぎまくる、そんな日常が送っている。


 そんな日常が、ある日―





 爆発した。





 どうしてそんな事になったのか、時は爆発が起こる少し前に遡る。


 この日も地底の妖怪たちは酒を呑む。この日の会場は、地底の入り口にある屋台。彼らにとってはいつも通りの事、いつも通りの宴会であった。

 いつものように酒を飲んだり、食べたり、歌い踊り、そして喧嘩もした。しかし、この日の喧嘩・・・もとい弾幕ごっこをしていた面子が悪かった。

「おーいおい!!そんなんされちゃあ酒が蒸発しちまうよ!零さないように気をつけてる意味がなくなるじゃあないか!」
 弾幕ごっこをしている片割れ、星熊勇儀は笑いながら飛んでくる弾幕をかわす。大きな盃を片手に余裕綽々といった様子で声を張り上げるが、弾幕をかわす動きはそこそこ鋭い。

「うー!うるさいうるさい!ぜったいぜったいぜーったい!さとり様の所まで引っ張っていって謝らせてやるんだから!」
 そしてもう片方は霊烏路空、少し興奮した様子で勇義に照準をあわせては、激しい弾幕を撃ちまくる。

「あっつ~・・・どうしたんですか?あれ」

 宴会場になっている屋台の店主が料理を出しながら飲みに来ていた客、黒谷ヤマメに尋ねる。周囲は空のスペルのお陰でだいぶ暑くなっているようで、はたはたと胸元を煽って着物の中へ風を送る。

「おお~!来た来た。あああれ?ほら、古明地の姉の方、さとりがこっちに出てこないからって勇義さんが「偉そうしてに引き篭ってる。つまらん奴だ!」とかそんな感じの事言っちゃってさ、それを近くで聞いてた空が怒りだしちゃって。」

「あいつもわかって喧嘩売ってんのよ、どうにかしてさとりを引っ張り出して一緒に飲みたいんでしょう?」
 ヤマメの隣で飲んでいた水橋パルスィが軽く補足を加える。

 そして、彼女達は上空を見上げる。どうやら空の方が苦戦をしているようで、しかしそれは、勇義がそこそこ本気を出しているからであるという事なのだろう。普段より激しい「ド派手な」といった表現がよく似合う弾幕ごっこに宴会に参加していた者たちは目を奪われていた。戦況は若干勇義が有利なようで、空自慢の火力の弾幕は弾いたりギリギリの所でかわしたりしている。



「ああもう!当たらないなあ!!こうなったら核融合の力でみんな溶かしつくしてやる!!爆符「ペタフレア」!!!!」

 空は片腕を宙に向けて火球を創り上げる。その火球はみるみる内に巨大化していき・・・それはまるで、太陽のようである。彼女が自身をそれと形容するように、自身の弾幕も太陽を意識しているようだ。

「ちょっおい!こっちは・・・」
 勇義が若干顔を引きつらせる。勇義が飛んでいる場所、そこは皆が飲み食いをしている屋台、そして空で太陽のような弾幕を生成している場所との丁度真ん中。

 地底の屋台で飲んでいた妖怪たちは、それぞれ自分の皿や酒を抱えて避難する。が、屋台の店主は丁度また屋台の中で料理をしていたため、気づくの遅れてしまい気づいた時には手遅れで

「え――?」
 屋台の店主が何か声を発したが、声は誰に届く訳でもなく屋台とその周囲一帯は一瞬で太陽のような光と熱に包まれた。










 あたり一面焦土となってしまった先ほどまで屋台のあった場所に、勇義はゆっくり着地する。

「ったくよくもまあやってくれたねえ。あたしの負けだよ、酒もみーんな蒸発しちまったし。」

「え?ほんと!?やったぁ!勝ったぁ~!!」

「はいはいおめでとうおめでとう。」
 ヤマメが空の頭を撫でる。どうやらぎりぎりの所で避難したようだ、片手には桶を抱えていて中からキスメが顔を出している。

「あんたねぇ、加減しなさいよ。ばっかみたいな火力で好き勝手ぶちまけたらこうなるってわかってるでしょ。」
 と、パルスィ。こちらは両手に自分の料理の皿を持っている。

「えー?皆ちゃんと避けたじゃない~。」
 空がそう言って見回すとと周りから避難していた妖怪達が集まってきた。それぞれ料理の盛られた皿を持って帰って行った。

「避けてないのもいるから言ってるのよ・・・」
 パルスィはそう言って近くに皿を置くと、真っ黒焦げの瓦礫の中から飛び出ている足を掴み、その足を引っこ抜く。どうやら屋台の店主のようだ。真っ黒こげになってぐったりしている。

「さて・・・それじゃあいこうかね。」
 勇義はパルスィから屋台の店主をひったくると肩に担いで歩き始めた。キスメが箸でツンツンとつつくがあまり反応はない、どうやらまだ若干息があるようだが完全に伸びている。

「あれ?行くってどこへ?」
 空は頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。どうやら戦っていた理由を忘れたらしい。

「あんたの飼い主の所さ、あたしを連れてくんだろう?」

「うにゅ~?そうだっけ?」

「そうそう、それじゃ皆で行くよ~。」
 勇儀はそう言って旧都の中心、地霊殿の方へ向かって歩き始める。

「は?皆でって・・・」
 パルスィが呆けていると、他の妖怪たちはさっさと勇儀について行ってしまった。

「ししし、ありゃまだまだ飲む気だね。」
「二次会だー!」
 ヤマメと、彼女に抱えられたキスメがそれに続く。

「はぁ・・・」
 パルスィはため息をつきながら彼女達に付いていく。そして他の妖怪達もそれに続く。旧地獄街道を大いに酒気を纏った集団が、それぞれ手に皿や徳利、お猪口の載ったお盆を抱えて地底の中心へと行進を始めた。











「・・・それでこんな事になってるんですね?」

 地霊殿の主、古明地さとりはそう言うとすこしため息をつくようにうつむいた後、あたりを見回す。地霊殿のロビーは先ほどまでの屋台にいた者たちと地霊殿のペット達が宴会を初めていた。

「そゆこと~、あんたも大変ねぇ~・・・ヒック」
 パルスィはそう言うとさとりに絡みつく。随分と酔っ払っているようだ。

「・・・もう結構出来上がってるじゃないですか。パルスィさんって普段からこんなに飲まれる方でしたっけ・・・?」

 さとりはそれを鬱陶しそうに引き剥がすと今度は黒谷ヤマメが背後から抱きつく。

「あはは~、パルパルはねぇ~、だぁいすきな料理が出てちょお~っとテンションが上がっちゃったんだよぉ。」
 
「ヤマメさんも随分とまあ・・・」
 パルスィと同じようにヤマメをひっぺがす。こちらは大分酒が入っているようでさとりから離れるとへにゃりと床にへたりこんだ。

「ヤマメちゃんはこのお酒で一発だったんだよぉ~。お酒にこーひー混ぜてみたんだって。結構美味しいよお~?」
 そう言ってキスメがさとりにコップを手渡す。

「・・・珈琲の酒・・・?また、試したかっただけでしょう。ヤマメさんに珈琲って。」
 さとりは手渡された酒を観察したり臭いを嗅いだりしている。

(やれやれ・・・騒がしいですねえ。)

 第三の目で周囲を見渡す、どうやら蜘蛛に珈琲を飲ませたら酔っ払うという事を誰かが言い始めた事が原因らしい。

「ほどほどにお願いしますね・・・と言っても無駄のようですが。それでは頑張ってください。」

 そう言ってさとりは振り返って館の奥へと戻ろうとする。が、すぐにその足は進まなくなる。さとりの服の袖を勇義が掴む。

「おぉっと、逃がしゃしないよ。今日はあんたと飲みたくてやってきたんだ、最後までみっちり付き合ってもらうからね。今宵は色々と語り明かそうじゃないか」

「・・・はぁ、そうですね。わかりました。」

 少し間を開けて返事をしてからさとりは観念したように勇義の近くの椅子に腰を下ろす。その後チラリと勇義の座っている横に転がっている黒い物体・・・もとい消し炭のようになってしまった屋台の店主を一瞥する。

「あとでお空とはみっちりお話をする必要がありそうね。」
 さとりがわざと大きめの声でそう告げる、少し離れた所にいる空に届くように。空はビクッと一瞬反応する。

「はっはっは!あんまりきつく叱ってやるなよ?」

「あなたも同罪でしょう・・・全く。」
 さとりは近くに置いてあったグラスにリキュールを注ぎ軽くレモンを絞る。

「洒落た飲み方だねーまったく!あたしも嫌いじゃあないがやっぱりこう・・・ぐいっ!といかないと飲んだ気にならない事ないか?」
 そう言って手に持った特大の盃に入った酒をくいっと飲み干す。皮肉にも聞こえそうな言い方だが、勇義が言うとそうは聞こえない。

「お酒なんて楽しんだ者勝ちなのでしょう?私はこの飲み方が好きなのですよ。」

「そーかいそーかい!まあなんでもいいさ!」

 そうして地霊殿では暫くの間、どんちゃん騒ぎが続くのだった。














 地上にある迷いの竹林、その近くの少し開けた場所がある。そこでは毎夜のように夜雀の歌が響く。また、その屋台から漂う香りは、その近くを通る者の食欲を激しくくすぐる・・・のだがこの日は客が少なかった様子で、その香りもほとんど出番を迎えてはいなかった。

「邪魔するよー、女将さん今日夕方くらいにもなんか歌ってたでしょ。お陰で色々大変だったんだから」
 暖簾を潜ったのは藤原妹紅だった。若干忌々しげな様子でミスティアに声をかける。

「あらいらっしゃい、何を歌おうが私の勝手じゃない。隣のは?初めて見る顔かしら」
 ミスティアは妹紅の服の袖を掴みながら彼女の隣に立っているチルノを指さす。

「あんた会ったことあるよ!花がいっぱい咲いてた時に会ったでしょう!あたいの事覚えてないっての!?」
 まるで初対面のような反応をするミスティアに抗議の声をあげる。

「チルノもさっきまで忘れてたろう。私が女将さんの話しをした時知らないって言ってたじゃないか。」
 妹紅がすかさずチルノに突っ込みを入れる

「花がいっぱい・・・ああ、あの時とは私の格好が違うからかしらねえ?・・・まあなんでもいいから座りなさい。食べて行くんでしょう?」
 そう言ってミスティアは湯のみにに茶を注ぎカウンターに置く。その様子を見て妹紅とチルノはそれぞれ湯のみが置かれた場所に腰をかける。

「八つ目お願い。あと適当に安い酒見繕って頂戴。」
 妹紅は座ってすぐにミスティアに注文をする。

「はいはーい、かしこまりました~っと。」
 ミスティアはそう言うとすぐに

「う~ん?あたいは~・・・よくわかんないから妹紅と一緒でいいや!」

「はいはい~ってもう焼いてるけどね~」

「なにそれ!あたいが他の頼んでたらどうしたの?」

「さぁ~?まあいいじゃない。結局おなじの頼んだんだし~♪」
 言いながらミスティアはガラスの杯を二つ取り出しそれに酒を注いでいく。

「そ・・・それもそうね?」

「ぶふっ!ははは!なんだそりゃあ!」
 チルノが首をかしげる様子を見て妹紅は吹き出してしまった。

「笑うな~!」
 うがー!とチルノは妹紅に詰め寄るが、妹紅は「あー、はいはい」と受け流して、杯を口に運ぶ。

「・・・んん゙!?」
 突然妹紅が口元に杯を持っていった姿勢のままうめき声をあげた。その様子にチルノは爆笑する。

「あーっはっは!妹紅が悪いんだぞー!」
 どうやらチルノが妹紅が飲んでいる酒を妹紅の口ごと凍らせてしまったらしい。

「あら、あなたそれそういえば便利な力ねぇ。冷気を操るんだっけ?」
 その様子を見ていたミスティアがぽつりと呟く。

「え?そう?便利かな?えへへ~。」

「ところであんた、お代は持ってるの?」

「あたい知ってるよ!お代ってお金とかの事だろ?持ってる訳ないじゃん!」
 チルノは元気にそう言い放つ。

「あぁ女将さん、こいつの分はあたしが払うよ。だから・・・」
 妹紅はやっとの事で杯を口から離すことに成功し、チルノを軽く小突いてからミスティアに向き直る。

「ん?いや、そういう事じゃあなくてね?ねぇ、あなたなら氷とか作るのなんて簡単よね。」

「うん!そんなの楽勝だよ!」

「じゃあ今度お願いしていいかしら。」

「いいよ!」

「もう秋の中頃だよ?こんな時期に氷なんているのかい?女将さん。」

「きれいな氷があると色々と便利なのよ・・・っと、焼けたわよ~。」
 そう言ってそれぞれに八ツ目鰻の串焼きをそれぞれに渡す。

「お、うまそー!」
「ん~、いい匂いだ。」

「まあのんびりしていきなさいな。今は他に客もいないことだし。」
 そういうとミスティアはふぅ、と一息ついた後、団扇で自分をあおぐ。カウンターの内側はやはり暑いらしい。

「・・・あら涼しい、私に冷気を送ってくれてるの?ありがとう。でもほら、私はそこまで暑いのが苦手な訳じゃあないからこっちは気にせずゆっくり食べなさいな。」
 ミスティアの様子を見てチルノが彼女なりに気を効かせたらしい。お礼を言われたチルノは少し照れるような顔をした後自分の串焼きにかぶりついた。














「あ~あ、大分静かになっちまったねぇ。」
 辺りを見回してから勇義は呟く。

「あなたがやたらと酒を煽るからでしょう?」
 さとりは近くでぐったりしていた猫を一匹自分の膝の上に乗せてその頭を優しく撫でる。他の妖怪やペット達もぐったりとしていてその様子は死屍累々といった様子だろうか。

「はっはっは!久々にあんたらと飲めて楽しかったからねぇ!ついついはしゃいでしまったよ。」

「勝手に上がってきて勝手に騒いでいただけじゃないですか。うちのペットもほとんど全滅させて・・・」
 さとりは、猫を撫でながら辺りの妖怪やペット達に目を向ける。

「最近あんたの顔を見てなかったからねぇ、寂しくってついね。」

「・・・これでも忙しかったんですよ。閻魔様にお空の事で色々とお説教を頂戴しましてね。」

「あぁ、お空ねぇ。そういや私からも説教してやろうと思ってたんだけど忘れちまってたな!ははっ」
 そう言って勇義は笑う。

「それに、あまり頻繁に私がそちらに出て行っても快く思わない方の方が多いじゃないですか。」

「皆が皆がここにいる奴らみたいにあんたの能力を気にしないワケじゃあないからねえ・・・ったく、心なんて読まれても大した事ないだろうに」

「それ、心の底から思ってるのは貴女くらいのものですよ。」
 さとりはそう言ってくすくすと笑った。

「あっはっは!そうだったか!」
 そう笑いながら遠くで酒瓶を抱えて眠りこけている空を見る。

「空の事がそんなに気になりますか?」

「・・・まあ今日戦ってみた感じ、危険な力だがだいぶ制御にも慣れてきてるようだしそこまで心配はいらないだろう。間抜けが一人丸焦げになってたけど無事だったしな。」

「あぁ、そういえば屋台が吹き飛んだみたいですね。私の所に請求が来るんですかねぇ?」
 さとりはまるで他人事のように言う。

「なぁに、明日皆で建て直して、できたら新築祝いさ。また酒を呑む口実ができただけさ、気にしなくてもいいんじゃないか?」

「そうですか、でも建てなおすならお空にも手伝わせないといけませんね。」

「あんたも来なよ、酒持ってさ。」

「・・・はい。」
 さとりはそう言って、少しだけ笑った。

「・・・なぁ、あの子は今日はいないのかい?」
 勇義はそう言って地霊殿の天井をぼーっと眺める。

「・・・ようやく本題ですね。お察しの通りですよ、今日も地上へ行くと言って出て行きましたよ。」
 ふぅ、と一息ついた後一気に言葉を吐き出す。まるで用意していたかのように。

「そうかい。なあ、あんたならわかるだろう?あの子は何をしようとしてるんだと思う?ちょい前からのあの子の様子はありゃ何か企んでるよ。」
 そう言ってさとりの方を見る。偽ることも、隠すことも許さない。そう言わんとするばかりの顔で。

「・・・私は・・・私には――













「今日はなんだか静かだね。」

「そうね、その子も寝ちゃったみたいだし。」
 ミスティアは皿を洗いながら妹紅に話しかける。その膝を枕にチルノが眠りこけているようだ。

「・・・つめたい。」
 チルノの頭を撫でながら一言。

「ふふ、結構な冷気がこっちにもきてるわね。大丈夫?」

「まあ、平気だけど・・・って若干つらいな。」

「はいこれ」
 ミスティアはそう言って屋台の奥から毛布を一枚取り出して妹紅に渡す。

「ん・・・」
 妹紅はそれを受け取ると、チルノにかけてやった。その様子を見てミスティアが若干怪訝な顔をする。

「そいつにかけてどうすんのよ。使うなら足と頭の間に挟むなり、枕にしてその頭をどかせるなりでしょ。」

「ああ、そういうこと・・・。」
 妹紅は毛布をチルノの頭と自分の膝との間に挟んだ。

「・・・釣り、行ってたみたいねぇ。川?」
 ミスティア妹紅の荷物の釣竿を見て尋ねる。

「いや、湖だよ。そこでこいつと会ったの。」

「全然釣れなかったでしょう。」

「むぅ、確かに今日は釣れなかったけど、私結構釣り上手いのよ?」
 妹紅は若干むっとした様子で答える。

「・・・人間にはわかりにくい事かもね。」

「どういう事?」

「その湖って、あの霧の出るとこでしょ?紅い館の近くの。あそこ、魚とかは結構いるのよ?私もたまに取りに行ってるし。」

「ふぅん・・・?でも私が釣ってた時は生き物の気配なんてあんまりなかったけど、こいつも魚なんてほとんど見ないとか言ってたし」

「まだわからないの?貴女も大概ねえ。もうざっくり言うけど、そいつの近くだからよ。鳥でも獣でも魚でも、大体は寒い所にはいられないもの。」

「あれ、でもチルノの事知らなかったんじゃ?」

「顔を忘れていただけ、すぐわかったわよ結構有名だもの。」

「ふーん、有名なんだ?まあ確かに妖精にしちゃありえないくらい強かったけど。」

「そうね、確かに結構な力も持ってるみたいね、妖精の癖に。でも違うわ、鳥達が時々噂してるのよ。「あそこの湖、氷精の住んでる場所の対岸は餌の魚達が沢山いる」ってね。」

「・・・」
 妹紅は自分の膝の上で眠りこけるチルノを見る。その寝顔は、どこか幸せそうに微笑んでいるように見える。

「・・・中々面白い顔で寝てるじゃない。」
 ミスティアは屋台から出てきてチルノの顔を覗く。

「ふふっなんだか歌いたくなってきちゃった。」

「おいおい、起こさないような歌にしてあげてくれよ?」
 妹紅が軽く笑いながらミスティアの方を見る。ミスティアはそれに答える事なく歌い始めた。




―ああこれは・・・子守唄だろうか?優しい歌声だなあ。

 目を閉じると、自然と歌に聞き入ってしまった。

―こいつ、そういや側にいるのがどうのこうの言ってたな・・・

 妹紅はチルノの頭を優しく撫でながらミスティアの歌に耳を傾ける。



 ミスティアの歌が終わり、妹紅は小さな拍手を送る。ミスティアも妹紅の方を向いて少し恥ずかしそうににっこりと笑う。そして直後なぜか少し驚いた顔になる。

「・・・?私の顔に何か付いてる・・・横?うわっ!?」
 妹紅は、その視線の先を追う。追った先・・・自分の肩に頭を乗せて眠る少女がいた。妹紅が驚いた際に肩から頭が落ちて起きてしまったようだ。

「どこかで見た顔ね・・・まあ覚えてないんだけど」
 ミスティアは目を細めてその少女の顔を覗き込み、首を傾げる。

「むぅ・・・ふぁぁ。あれ?私寝ちゃってた?」
 眠そうに目を擦りながらその少女は顔をあげる。

「あー、あんた確か地底の・・・」

「そうだよー!ここで会った事はあるよねっ!でも自己紹介はまだだったかな?私は古明地こいし、よろしくね?妹紅おねーちゃんに女将さん♪」

「お、おう。」
 いきなりの事にまだ少々面食らっているのか、妹紅は一言で返事を返す。

「あー、はいはい。それで何?食べていくの?」 
 ミスティアはそうでもない様子で屋台の中に戻る。

「ん~ん?私はもう食べたよ?ほらっ」
 こいしはそう言って自分の前にある皿と串をミスティアに見せる。

「・・・え?あれ?」

「あはは♪びっくりした?大丈夫、お金はちゃんと払うから~」

「そう、ならいいわ。二人とも、まだ何か食べる?そろそろ他の客も来なさそうだし注文するなら今が最後にして頂戴」

「あー、じゃあ枝豆と酒ちょうだい。しかし、女将さん慣れてるなあ・・・ずっといたの?」
 妹紅はそうこいしに尋ねる。

「そうだよ~、無意識を操ってたの。すごいでしょー?あ、私はお酒と~・・・天ぷら!」

「枝豆と天ぷらね。無意識ねぇ・・・ってことは何?私は気づかない内に料理出してたって事?」

「うんっ!そうだよー」

「変わった能力だな。そんな妖怪あんまり聞いた覚えがないや。」

「ううん、いちおう覚って妖怪だよ~、心を読む妖怪!お姉ちゃんと一緒!」

「あー・・・そんな感じのがいたな、思い出してきた。確かここで一緒に飲んでたな。だいたい思い出してきたよ。」

「ああ・・・いつだったかここで大騒ぎになった時ね。大変だったわ、ほぼ宴会だったもの。」

「ははっ!女将さんが覚えてるなんて相当だな!・・・痛い!!」
 妹紅の額に串焼き用の串が突き刺さる。

「あれ?あんまり嫌がらないんだ?覚って聞いたら人間なんて特に嫌な顔するのに。」
 こいしは少し意外そうな顔をする。

「あ~?まあ、今更心の中読まれたところでなぁ。」

「ふーん、そうなんだ。じゃあやっぱり妹紅お姉ちゃん強いんだねー!」

「へ?」

「だって私のお姉ちゃんが言ってたもん!心を読まれるのを嫌がらない奴は厄介だって!大体強い力を持ってるし、力も効きにくいって。」

「・・・ん?あんたは読めないのか。」

「そうだよー、私は覚りの瞳を閉ざしちゃったからね。心なんて読めてもつまらない事ばっかりだったもの。でもおかげでこの無意識の力を手に入れたわ♪」

「二人とも、できたわよ。私は片付け始めるけど、気にせずのんびりしていってね。」

「「はーい」」

「いただきまーす!これつけて食べるのかな?もぐもぐ」
 こいしは早速出てきた天ぷらに、手元にある塩をつけて食べ始めた。

「ほんとにもぐもぐ言いながら食べる奴なんて初めて見た・・・もぐもぐ。」

「あんたも言ってるわよ。」
 妹紅の言動に皿の片付けを始めていたミスティアがツッコミを入れる。

「え?嘘?」
 と、妹紅。

「言ってた言ってた。」

「・・・何かした?」
 妹紅はそう言ってこいしを見る。

「あははははっ!面白いでしょー!妹紅おねーちゃんはちょろいねー!」

「面白いわねー、もっと何かやって頂戴よ。」
 ミスティアがにやにやしながらこいしに言う。

「えー、そんな事言われてもなぁ~、どうしようかなぁ~。枝豆もぐもぐ」

「ちょっ女将さん!やめてよ!」

「へぇー、こりゃ本当に私も気を付けないと無銭飲食されかねないわねー」
 ミスティアは関心したようにこいしを見る。

「大丈夫だよー!一応まだやった事ないから!妹紅おねえちゃんのお豆さんもぐもぐ」

「ほら女将さん、まだとか一応とか言ってるよ。危ないって」

「そうねー気をつけるわ。あ、その皿洗うから出して頂戴。」
 ミスティアはそう言って妹紅に手を出す。

「へ?あれ?私の?うそっない!?」
 ここでようやく自分の皿の状況に気づいた妹紅がこいしの方を見る。丁度最後の一房を食べ終えた所だった。

「ごちそうさまー!」
 こいしは妹紅に向かってにこりと笑う。

「こ~の~や~ろ~!!」

「い~た~い~!!妹紅お姉ちゃん痛いよおっ!!」
 こいしは妹紅にこめかみをグリグリと締め上げられて悶える。

「ふふっ、私のまかないを分けてあげるからその辺にしときなさい。」
 そう言ってミスティアが徳利とお猪口、そして皿に盛られたかき揚げのような物を持って屋台の中から出てきた。

「わー、美味しそう!なにこれ!」

「野菜の皮のかき揚げよ。まあ、皮だけじゃないけど。」

「へぇー、女将さんは普段こんなの食べてるんだ。」

「ねえ!私もこれ食べていい?」

「あんた自分の天ぷらが残ってるじゃない!」

「えー!じゃあこれ皆で分けましょう?それならいいでしょ?」
 そう言ってこいしは自分の皿を差し出す。まだあまり手はつけていないようだ。

「うー・・・でも枝豆ぇ~・・・」
 妹紅は何か釈然としない様子だ。うーうー唸っている。

「あんたもねちっこいわねー、いいじゃないもう。ほら、食べましょう?」

「そーそーっ♪いっただっきまーす!」


 妹紅はチルノを膝から、ミスティアの用意した長椅子に寝かせる。

「へぇー、死ねない人間!じゃああれ?きめらとかほむんくるすとかそんな感じ?」

「なんだそりゃ。」

「えっとねっ山の神社の巫女の部屋にあった絵本に描いてあったの!身体の一部が鉄になってたり動物と合体した人間が出てくるお話!」

「あら、面白そうじゃない。」

「ふぅん、あそこは外の世界がどうのって誰かが言ってたっけ。確かに面白そうだね」
 こいしの話に妹紅もミスティアも興味を示した。

「ふふっだったら今度読ませてあげるよー!」

「あら、それは楽しみねえ。」

「ん?あんたの本じゃないんじゃあ・・・」

「それでね!私今ペットを探しているの!」

「無視かよ、まあいいや。迷子?」

「ううん、違うの。」
 こいしはそう言って首を横に振る。その様子に妹紅とミスティアは首を傾げる。

「えっとねー、私のペット子になれそうな子を探していたの!」

「・・・はぁ?」
 ますます訳がわからないといったふうな様子で妹紅は声をあげる。それを気にすることなくこいしは続ける。

「っというわけでー!妹紅おねーちゃん!私のペットにならない?」

「あー?やだよ。ペットってあれ、食事とか碌な物食べさせてくれないんでしょう?」
 そう言って妹紅はおちゃらける。

「え?そこなの・・・?」
 ミスティアが皿を洗いながらツッコミを入れる。

「大丈夫だよお、うちのペットの食事はお燐がちゃんと用意してくれるから!」

「・・・それ、断ったら里の人間にも同じ事を言うんじゃあないだろうな。」
 妹紅が少し声色を変えてこいしに尋ねる。

「あははっ大丈夫だよー、普通の人間なんかじゃダメダメだもの」

「・・・ふぅん、まあ里の人に手を出さないならいいわ。」

「あれぇ?じゃあ私のペットになってくれるの~?」
 こいしは嬉しそうに妹紅に擦り寄る。

「・・・何を企んでるかによるなぁ。」

「あ、バレちゃった?ふふっすごいなー、私の心がわかるの?おねーちゃんでもわからないのに!」

「割と長生きしてきて色々見てきたからな。その目は何かを企んでる目だ、まぁ何を企んでるかまではわからんがな。」

「あー、人間って人の顔色うかがうの大好きだもんね。」
 昔を思い出すようにこいしは顎に手を当てて、思い出すような仕草をする。心が読めた頃の事を思い出しているのだろうか。

「まあな、私も昔は気にしてたし。そのお陰で色々わかるようになったし」

「あら、今は気にしてないの?」
 ミスティアがバリバリとかきあげをかじりながら尋ねる。

「ん~まぁね、ここには長生きな奴らも多いしな。それに・・・そういう生き方は疲れるのさ。特に私みたいな人外にはな。」

「ふふっ、じゃあ私と一緒だね!これから仲良くしましょう?」
 両手をあわせてにっこりとこいしは笑う。

「あぁ、まあよろしく。」
 そう言って妹紅は手を差し出す。

「うん!それじゃあ早速行きましょう?」
 こいしはその手を取ると嬉しそうに妹紅を屋台から引っ張り出す。

「・・・ん?ちょっと待った。仲良くするってそれは・・・何として?」
 妹紅は引っ張られながらこいしに尋ねる。

「もちろん・・・ペットとして♪」
 こいしはそう言って妹紅を引っ張り飛んで行ってしまった。


「行っちゃったわね。・・・あ、これお代か。」
 こいしの座っていた席の前に小銭がいくらか置いてあった。ミスティアはそれを手にとって確認する。

「ひぃふぅみぃ・・・えぇと、あぁ、これで丁度ね。」
 ミスティアは小銭を数え終わると、それを売上を入れている袋に入れる。


「・・・あれ?」
 代金の確認をし終えた所でミスティアは少し頭を抱えるのであった。












「ちょっ・・・ちょっと待ってよ!」
 妹紅はこいしに引かれる手を振り払う。

「わっ、どおしたの?」
 こいしは払われた手をぷらぷらさせながら言う。

「どこへ連れて行く気だ!っていうかそれ以前にペットなんて・・・」

「ふふっどこへ行くかしりたい?それはまだないしょ~♪」

「ないしょ~♪じゃないよ!っとにかくもう帰るわよわた・・・し・・・」
 妹紅は宙で振り返る。そして片手をあげてこいしの元から去ろうと、去り際に一言声をかけようとした。しかしその声は最後まで発せられる事はなかった。

「だぁめだよ~、飼い主の言うことは聞かないとぉ~♪」
 妹紅の背中にぴたりとくっつき耳元でこいしは囁く。

「か・・・ぁ・・・この・・・」
 妹紅は自分の胸のあたりに手を当てる、こいしの腕が妹紅の背中から胸を貫いていた。

「あ~、やっぱり不死っていっても痛いんだ~?」
 こいしは悶える妹紅の耳元で囁く。

「当たり前・・・く・・・あぁっ・・・!」

「ふふっおねーちゃんかわいい~♪」
 こいしはそう言いながら妹紅の胸を貫いている腕をゆっくりと動かす。

「・・・何・・・を・・・」

「だから、まだないしょだよ~♪さっ行きましょう?」












「ふぁぁ・・・よく寝た。あれ?妹紅は?」
 長椅子で眠っていたチルノが目をこすりながら身体を起こす。

「あら、起きたの。あの人なら他の客に連れていかれちゃったわ。まあ、お代がまだだから呼び戻してる最中なんだけどね。ちょっと待ってたら・・・あら?」

 そこに一羽の雀が飛び込んで来た。帰ってきた雀がミスティアの指に乗り、何やらミスティアに向かって話しかけているようだ。

「あら・・・それは大変。」

「どうしたの?」
 その様子が気になったチルノがミスティアに尋ねる。

「いえね、この子に手紙を渡してあの人を呼んで来てもらおうとしてたんだけれども、どうやらさっき言ってたお客に誘拐されちゃったみたいね。」
 そう言ってミスティアはチルノに雀を見せる。雀の足には折りたたまれた紙がくくりつけられていた。

「なんだって!?妹紅は大丈夫なの?」
 チルノはミスティアに詰め寄る。慌てるチルノとは対照的にミスティアは落ち着いた様子でチルノの肩をポンと叩く。

「大丈夫よ、あの人間は丈夫にできてるから安心なさい。今は少々痛い目に合ってるみたいだけど死ぬことはないわ。」

「・・・本当に?」

「そうねぇ・・・そんなに心配ならあなたが迎えに行ってあげなさいな。そういえばあの人、あなたの分のお代を払うって言ってたし。」

「うん!そうする!」

「この子が言うには妖怪の山に向かって行ったそうだから・・・ちょっと待ってなさい」
 ミスティアは雀の足に括りつけられた紙を外した後、屋台の中に入って行った。

「はいお疲れ様、おつかいありがとうね。」
 そう言って手の平に乗ったままの小鳥に米粒を与える。

「あーもう!!そんなの後でいいから早くしてよ!」
 ミスティアの焦る様子もないゆっくりした動きにチルノはたまらず急かし始める。

「だから落ち着きなさいって、はいこれ。」
 急かすチルノを軽くなだめた後、ミスティアはチルノに木の板のようなものを渡した。

「なんだこれ?」
 チルノは渡された木の板を眺める。板には大きい文字で[通行証]と掘られており、伊吹萃香の名前と手形があった。

「妖怪の山の通行証よ。天狗に邪魔されそうになったらこれを見せれば通してもらえるはずよ。」

「うん!ありがとう!」

「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
 
 ミスティアは軽く手を振りチルノを見送る。

「さてと・・・最後にもう一つだけお願いしていいかしら?」
 ミスティアは手の平の雀に米粒をあげつつ話しかけた。












 早朝の妖怪の山の頂上付近、守矢神社の一柱洩矢諏訪子は神社の近くを一人歩いていた。
「ふぁぁ、この時間は静かでいいねぇ。」

 妖怪達の活動も少し大人しくなる時間帯なのであたりは木の葉が擦りあう音すら聞こえる爽やかな静けさに身を包んでいた。

「んん~今日はまた一段と・・・ん?」
 諏訪子は足を止める。彼女の視線の先に、木の根とも落ち葉とも違う物があったからだ。

「んん~・・・?ありゃっ」
 それは、人の形をした物がうずくまっているような格好をしていた。それに気づいた諏訪子は少し駆け足でそれに駆け寄る。

「おおーい、生きてる?それとも人形か何かかな?・・・ってこりゃあ大変だ。」
 駆け寄って確認すると紛れも無く人間だった。しかも大量の血を流している。

「ん~?こんなとこにいるんだし普通の人間じゃないみたいね?すごい血の量だけどまだ生きてる・・・まあとりあえず神社に連れてってあげるよ、助かるかはわかんないけど」

 諏訪子は屈みこんで頭をつんつんつついた後、その人間を抱えて振り返り、神社の方へ飛ぼうとする。その人間の顔を見ると微かに目が開き、口元も動いている事に気づいた。何か言おうとしているようだが、声はほとんど出ていない。

「お~?すごいね、これだけの怪我でそんだけ動けりゃ大したもんだ、いいからじっとしてるんだね。」
 構わず諏訪子はふわりと宙に浮き、そのまま神社の方へと向かう。しかし、人間はまだ口を動かし何かを伝えようとする。

「・・・・・・ろ・・・」
 諏訪子の耳に微かな声が届いた。
「ん?」
 その声は少しづつはっきりと彼女に届くようになっていく。
「・・・に・・・・ろ・・・」

「ん?なんだって?」
 声を聞きとろうと諏訪子がその人間の口元に耳を近づける。その時

















「あはっ♪おとりご苦労様お姉ちゃんっ!それとお久しぶりですね?カミサマ♪」



 諏訪子と・・・その手に抱えられた少女、藤原妹紅の背後に立つのは古明地こいし。妹紅にしたのと同じように諏訪子の小さな体をこいしの腕が貫いた。そしてそのまま一気にその手を引きぬくと、こいしの手にはぼうっと光る石のような物が握られていた。諏訪子の身体は土塊となり崩れ落ち、彼女の帽子がふわふわと地面に向かって自由落下していった。
「これが神様の力の塊かな~?おっと・・・」

「お姉ちゃんだいじょうぶ?」
 諏訪子の手から放り出され、そのまま地上に落下した妹紅にこいしが話しかける。

「ぐぅ・・・何しやがった・・・」

「ごめんねー?おねーちゃん思ったより怪我が治るの早いからちょお~っと長引いてもらおうと思っておねーちゃんの無意識を操ったの」

「私・・・の?」

「そうだよー!心臓を動かすのは無意識、身体に血をめぐらせるのも無意識のうち、だったら傷を治すのも無意識だよね♪でもふつーにズタズタにする方が好きだからあんまりこんな使い方しないんだー」

「いい趣味してるわね」

「それほどでも~♪」

「・・・褒めてないわよ」

「ふふ~ん、私が勝手に褒め言葉って受け取っちゃうもんね~!危ない危ない~」
 ここでこいしの背後から諏訪子がとびかかったが、こいしはひらりとそれをかわしおまけに一蹴り浴びせて諏訪子を吹き飛ばす。

「ぐぅ・・・やってくれるね。地底の妖怪ってのは手癖も悪けりゃ足癖も悪いのかい?」
 片膝を付いて忌々しそうに顔を歪める。

「てへへ、また褒められちゃった」
 こいしはそう言ってぺろりと舌を出す。

「チッ・・・それで、その私の力と信仰の詰まった依代の一部をどうする気だい?」

「前にお願いしてもくれなかったから貰いに来たのよ、カミサマの力をね♪これで私のペットを強くできるわ~♪」

「・・・一応教えといてやる、それはミジャグジ様って言ってね・・・あんたなんかに使いこなせるようなシロモノじゃあないよ。」

「あらそうなの?まあ、なんでもいいけどねー♪今回の目的は半分あなた達への仕返しってのもあったしー」

「仕返し?」
 諏訪子は余り見に覚えがないので尋ねる。

「そうっあなたは知らないでしょうけど、この間のお空が起こした騒ぎでね?うちのお姉ちゃん閻魔さまにすごーくすごーく叱られちゃったの!「ペットの起こした不始末は飼い主に責任がある!」とかね。おねーちゃんは悪くないのに・・・酷いはなしだよねー?」

「はんっ、そりゃ確かにお門違いさね。あの阿呆烏が調子に乗らなきゃあんな事起こらなかったさ」

「あら、そこがかわいいのにわかってないねー。それにしても口だけは随分と動くカミサマね?ふふっでも口だけみたい、さっきから立ち上がるのすら辛そう♪」

「あー・・・よくわかんないけど私は関係ないわよね?それじゃ・・・」
 妹紅は立ち上がり振り返る。どうやら傷も大分塞がったようだ、こいしが能力を解いたのだろう。

「だめー!」
 帰ろうとする妹紅にこいしが下段蹴りを放つ。たまらず転倒した妹紅の上にこいしは馬乗りの体制で乗りかかった。

「ッてぇ!泣き所はやめろ!どんな屈強な人間でも泣いちゃうようなとこなんだぞ!」

「ごめんねー、つい」

「つい、じゃない!・・・っていうかなんでまだ私が関係あるのよ!もう囮はお終いでしょう!」

「えっとー、私のペットにも神様の力を与えて強くしたかったの。」

「さっきそう言ってたね」

「それで、おねーちゃんは私のペットじゃない?」

「私は認めてないわよ」

 一瞬の間の後妹紅とこいしは顔をあわせてにこーっとお互いに笑う。諏訪子はその背後で隙を伺っているようだ

「やめろー!んな危なげな力なんかいらないわよ!」
 妹紅はじたばたと抵抗する。

「大丈夫だよ~、一瞬で終わらせるから♪あれ?でもこれどうすればいいんだろう?」

 こいしが首をかしげた時

―氷符「アイシクルマシンガンッ!!」


 その背後から氷の弾幕がこいしめがけて飛来する。ギリギリのところでこいしはそれを躱した。

「っとと、危ないじゃない。不意打ちなんてひきょーだぞー!」

「「お前が言うのか」」
 妹紅と諏訪子が同時に言う。

「妹紅!大丈夫!?」
 チルノはまだ倒れた姿勢のままの妹紅に駆け寄った。

「ああ、助かったよありがとう。よくここがわかったね」
 ゆっくりと起き上がり妹紅はチルノの頭を撫でる。

「うん!えっとね・・・ってわああ!?血がいっぱい!大変!止めなきゃ!!」
 起き上がった妹紅の格好を見たチルノは慌てて妹紅の服の、血に染まった部分に手を当てる。

「ぎゃああああ!!冷たい冷たい!もう血は止まってるから!ほとんど服が汚れてるだけだから!!」

「そうなの?本当に?」

「ああ、もう大丈夫だよ・・・っと、どうする?このまま続ければ多分3対1だよ?」
 妹紅は立ち上がりこいしに向かって退魔札を突きつける。それにあわせてチルノもこいしの方を向く。

「うーん・・・それでも妖精と人間に力を大分奪ったカミサマでしょう?これならやってみないとわからないと思うけどな~♪」

「それに、多分この身体はその神様の力は受け付けないぞ。あと私を舐めすぎよ、正々堂々正面から勝負したならあんな一方的な事にやられてやらないわよ」

「えー?そうなの?」

「そーだよ。だからさっさと諦めて帰るんだね」

「えー・・・でも私、ちょっと暴れたりないなーっというワケでー♪」
 そう言ってこいしはスペルカードを取り出す。

「散々好き勝手やってた癖にまだ言うか!っとまあ好戦的なとこは嫌いじゃないわね。」
 それに合わせて妹紅もスペルカードを取り出した。

「いいねいいねー♪楽しくなって来ちゃった!」

「チルノ、そこの神様。手を出すなよ?」
 臨戦態勢に入っていたチルノと諏訪子に制止をかける。

「いいの?私は3対1でも構わないよ?」

「いーんだよ!枝豆の恨み!ここで晴らしてやる!」
 楽しそうに思い切り言葉を吐き散らす妹紅。対してこいしは禍々しく、そして愉快そうに口元を歪めて、それでいて楽しそうな表情で

「あははハはっ♪おねーちゃん面白い!面白いよ!殺しちゃうのがもったいないくらい!」

「そりゃどうも、まあ殺されても死ねないんだけどねっ!!」

















 妹紅とこいしの弾幕ごっこが始まったのと同じ頃、妖怪の山の麓では烏天狗の射命丸文が腕を組んで渋い表情をしていた。

「はぁ~・・・なんだかよくわからない内に通してしまいましたがよかったのでしょうか・・・でもあんな物出されちゃあ・・・しかしもしこれで問題でも起きたら・・・ハッ!?というか何かしらのスクープだったのでは!?そうですよ!氷精が萃香さん印の通行証なんて持ってる時点でスクープじゃないですか!!」

「おいそこの、今氷精っつったね?」

「なんでしょう!?これは私の独占取材です!!邪魔をすると言うの・・・なら・・・」

「私もその氷精に用があるんだ。案内してくれるかい?」














 こいしと妹紅の弾幕ごっこは中盤といったところで、ややこいし有利といった状況だった。妹紅は負傷していたためだろうか、体力の消耗が激しいようで疲労の色が出てきている。
「わー!もこーおねーちゃんほんとにつよいね!全快のおねーちゃんとやりたかったなー!」
 妹紅の様子を見てかこいしは一旦弾幕を止めて妹紅に声をかける。

「はぁっはぁっ・・・そりゃどーも」
 肩で息をしながら妹紅は返事をした。

「もこーがんばれー!」
 地上からはチルノが妹紅に声援が聞こえてくる。

「ほら、がんばってーだって!」

「あぁもうなんか調子狂うなあ」
 応援されながら戦う事にあまり慣れていないのか、少し照れくさそうに一瞬だけチルノの方を見る。

「あー、おねーちゃん照れてるかわいいー」

「あああもう!いい加減にしろ!」
 一気に妹紅は弾幕を放つ。いきなりのそれにこいしは少々面食らったようで、かわしきれずに一発被弾する。

「いたーい!いきなりなんてひどい!」

「油断してるのが悪い」

「うー・・・あ、そうだ!もこーおねえちゃん」

「あ?なんだ?」

「おねーちゃんあの屋台の店主さんの事好きでしょ」

「はあ!?なななななにを」

「すきありー!!」
 こいしの発言に動揺し真っ赤になっていた妹紅の顔にこいしのフライングニードロップが炸裂した。

「ぶあっ・・・ってめぇいい加減にしろよこの・・・ん?」
 妹紅が鼻頭を押さえながらこいしの方を見ると彼女はなにやらきょろきょろ辺りを見回している。

「あれ?あれれ?」

「どうした?」

「うーん、カミサマの力の塊落っことしちゃっ・・・きゃっ!?」
「うわっ!?」
 こいしが妹紅の方を向いた瞬間、地面から巨大な白蛇が現れてこいしの身体を捉えて一気に絞め上げる。

「なんじゃこりゃ!?って考えるまでもないか」
 妹紅はそう言うと地上を見る。彼女が見据えた先には先程まで力を奪われて、戦えるようには見えなかった諏訪子が地面に手を当てて巨大な白蛇をコントロールしているのがわかった。

「おーい!こっちの勝負はまだ終わってないんだ!邪魔しないでくれー!」
 妹紅はそう叫ぶが彼女は力を解くことなく、白蛇の力はさらに増しているようで、こいしから小さな嗚咽が漏れ始めた。

「おい!もこーが邪魔するなって言ってるだろ!」
 その様子に気づいたチルノが諏訪子に詰め寄る。

「五月蝿い」

 諏訪子はそう言うと、チルノの足元からも白蛇が現れて今度はチルノまで絞め上げ始めた。それを見た妹紅は鳥を象った炎の弾幕を二人を絞めつけている二匹の白蛇と諏訪子に向けて放ち、チルノの方に飛んでいく。諏訪子が回避動作のために白蛇のコントロールを緩めたためか、妹紅がチルノを締め上げる白蛇に札の弾幕を放つとチルノは白蛇から解放され妹紅に抱きかかえられた。

「あー・・・もしかしなくてもキレてる?」

「・・・神の怒りは恐ろしいんだ、特にミジャグジ様はね」
 諏訪子は静かに妹紅に向かってそう告げる。

「だからってこいつは関係ないだろ」
 大事そうにチルノを抱えながら妹紅は言う。

「あんたには力を取り戻すきっかけをもらったし感謝してる。だがあんまりやかましいとどうなるかわからないよ。」



「あっ!」
 少しの間の後、妹紅に抱えられていたチルノが空中を指さす。そこには今だに締め上げられるこいしの姿があった。若干ぐったりと力なく垂れる彼女の腕と彼女の頭にかぶりつこうとする白蛇が妹紅の目に映る。

「おい!!そこまですること・・・!?」

 妹紅が飛び出そうとした時、突然あたり一帯の地面がドスンと大きく揺れた。諏訪子の仕業かと思った妹紅が彼女を見るが彼女もやや動揺している様子だった。妹紅達が動揺している間に二度目の大揺れ、今度はさらに大きく地面が割れるのではないかと思うくらいの揺れだった。そして――




「三歩必殺!!」




 掛け声と共に地面が砕け、轟音とともにこいしを絞め上げていた白蛇が消し飛んだ。そして力なく落下するこいしを、彼女とほぼ同じ背丈の少女、彼女の姉古明地さとりが優しく受け止めた。

「小鳥の知らせでやって来てみりゃ面白い事になってるじゃあないか。」
 星熊勇儀はそう言って諏訪子の方を見る。

「かつての山の大将のお出ましかい?今じゃ地底に隠居してるらしいが」
 神が放つものにしては随分禍々しい気を放ちながら諏訪子は勇義に向かって言葉を放つ。しかし勇義は全く気圧される様子もない。

「隠居なんてとんでもない、あっちはあたしたちにとっちゃ楽園だよ。飲んで暴れて歌い踊って・・・ああ、最近じゃあ食っても楽しい毎日だよ。こっちより忙しいかもしれないくらいさ」

「こいし、大丈夫?」
 さとりはぺちぺちとこいしの頬をたたく。

「あっおねーちゃん?どうしてここに?」

「あなたがこっちで暴れて大変だって夜雀さんから知らせが来たから迎えに来たの。ダメじゃないあんまりこっちで騒ぎを起こしちゃあ」

「あう・・・ごめんなさい・・・」
 さとりにしかられこいしはしゅんとなって謝る。

「・・・うちの妹が随分と失礼をなさったようで。」
 さとりが静かな目で諏訪子を見据える。

「教育がなってない、とは言わないよ。覚りってのは元々下衆な妖怪だと聞いてるからね。」
 諏訪子もさとりの目をじっと見据え返す。

「そうですか・・・ああ、そういう事・・・」
 さとりは怯むことなく言葉を続ける。

「私の能力は神格には通じない、そう思っていましたが違ったようですね。何せ今まで関わったことのある神格の方は閻魔様だけだったもので・・・。」

「あぁ、あんたはそいつと違ってちゃんと心が読めるようだ、やっぱり随分と下衆な能力だこと。不快なその目を潰してその仲の良さそうな妹と同じにしてあげようか?」
 その言葉にこいしが諏訪子に飛びかかろうとするが、さとりが片手でを制止する。

「ふふ、どんなに本心を隠そうとしても無駄ですよ?それを実行するには、勇義さんが気になるようですね?私がやられたら彼女が黙っていないんじゃないかと気が気じゃない様子。ふふ、見た目だけは私よりずうっと幼い格好をしているのに随分と頭は回るご様子で。まあそれをしたとしてもその人はそこまで極端な事はしないと思いますよ?」

 さとりがそう続けると諏訪子は黙ってしまった。迂闊に喋るとまずいと考えたのだろう。

「ふふ、私の言葉なんて信じられませんよねぇ?さて・・・山の産業革命・・・ですか。そう、そしてそのためのエネルギーに空に力を授けたと。・・・ふふっあははっ」
 さとりは笑い始める。

「・・・何が可笑しい」
 ギロリと敵意をむき出しにしてさとりを睨む。

「だって可笑しいじゃあありませんか。外の世界が栄えたために外で必要とされなくなったあなた達が、こちらで外の人間の真似事をしてその上で「栄えさせてやる!産業革命だ!」なんて言って回っている訳ですよね?あまりに滑稽で・・・」
 さとりは一息で言い切った後、じっとりとした目つきで諏訪子を睨み返した。そしてさらに言葉を続ける。

「あぁ、その上で私達からも信仰が得られないかなんて考えていたようですねぇ?でも無駄だと思いますよ?地底の方々にとってはあなた達のいう[繁栄]なんかより近所に飲み屋ができたほうが100倍喜ばれますからねぇ・・・ああ!そうだ、こんなのはどうです?地底に来て食べられそうなカエルでも焼いて配って回ってみてください。これなら信仰も得られるかもしれませんよ?」
 そしてけらけらと笑い諏訪子を挑発する。これだけ一方的に言葉を並べられた後なら、力でねじ伏せられたとしても敗北感を味わうのは諏訪子だけだと言わんばかりに。

(おまえのねーちゃん超こええな。)
 その様子を後ろで見ていた妹紅が小声でこいしに話しかける。

(だねー、でもほんとはすごーくやさしいんだよー)
 同じく小声でこいしは返す。

「・・・それでは失礼します。」
 さとりはそう言って振り返り、今度は妹紅の方を向く。妹紅はビクッとして背筋を伸ばす。

「藤原妹紅さんですね、会うのは初めてではないですがきちんと話すのはほとんど初めてですね。こいしがお世話になった上に随分とひどい事もしてしまったようで。」
 そう言ってさとりは頭を下げる。

「わわわ、そんなっ大した事ないです!」
 慌てる妹紅、先ほどまでのさとりを見ていたからだろうか。

「ふふっそんなに畏まらないでください。失礼をしたのはこちらですから。」

「さとりー終わったかー?飲んで帰ろうぜー」
 ここまで静観していた勇義がようやく声をあげる。

「あなた今日そればっかりじゃないですか。まあ、丁度良いですしこちらで少し飲んでから帰りましょう。あなた達も一緒に、ね?」
 さとりはそう言ってチルノを見る。

「え?あ、そうだった!妹紅!おかみが呼んでたよ!お代がまだだって!」

「あー!そうだった!やべー、怒ってるかな。」

「それじゃー騒がしくなる前にれっつごー!」
 こいしの掛け声で一斉に歩き始める。先ほど勇義が放った技のおかげか、あたりは大分騒がしくなってきていた。誰一人振り返る事なく妖怪の山を後にする。誰一人、諏訪子の様子を振り返る事なく。












「・・・はぁー、山の神に喧嘩売ってたの?無茶するわねー」
 ミスティアは一旦たたみかけていた店を再び開く準備をしている。

「あーすまないね、こんな時間に来ちまって」
 
「構わないわよ、あなたのお友達の酔いどれ鬼なんて私が寝てるのたたき起こしてまで飲み食いしていくんだから。」

「はっはっは!萃香がねぇ、そりゃあんた気に入られてるんだよ!」

「まあそういう事みたいね、色々良くしてもらってるわ。あなた達の話もよく聞かされてたから今回そっちに知らせも出せたわけだし」

「なんだか色々気が利きすぎてるなあ。あなたほんとに女将さん?偽物だったりしない?」
 妹紅がそう言ってミスティアの頬を軽く引っ張る。

「あら?神様の次は私に喧嘩を売るのかしら?」
 ミスティアはにっこり笑いながら妹紅の頬を思い切り抓る。

「いだだだだだごめんなさいー!!」

「あー!ねえお姉ちゃん!女将さんが準備している間にさっきの続き、やりましょう?」
 そう言ってこいしが屋台から飛び出す。

「おー、そうだったな。大分私も回復したし今度はさっきまでみたいに行かないからな!」
 妹紅も肩をパキパキ鳴らし、それに続く。

「こりゃいい余興になりそうだ」

「もこーがんばれー!」
「おう!」

「こいし、あんまり無茶はしないのよ?」
「はぁーい」

 そう言い残して二人は飛び立つ。朝日でやや眩しい空がさらに眩しくなった。

「今回はどうもうちの妹が色々お世話になったようで・・・」
 さとりはそう言ってミスティアに頭を下げる。

「ん~?まあ私は大したことしてないけどね~、お礼ならその子に言って頂戴。」
 そう言ってミスティアは屋台のカウンターの隅っこで米粒を食べている雀を指さす。

「ふふ、そうですね。うちにこの子が飛び込んで来た時は何事かと思いましたよ。」

「あ~、あんたの所猫やら何やらが多いみたいね。」

「うちのペットが随分と怖い思いをさせてしまったみたいで・・・ごめんなさいね?」
 そう言ってさとりはやさしく雀の頭を撫でる。

「お陰で随分この子もちょっと雀離れできてきたわ、そろそろ化けたりできないかしら。」

「あなたもありがとう、最強の妖精さん?」

「・・・?あたいあんたに何かしたっけ?」
 チルノは首を傾げる。

「あの子の事・・・いえ、良ければこれからうちの妹と仲良くしてくださいね?」

「ん~?まあ仲良くするくらい別にいいけど」

「そろそろ注文聞こうかしらね。外の二人はどんな感じ?」
 コトッと包丁を置いて観戦中の三人に声をかける。

「ん~、まだまだ長引きそうだね。あっちの人間はタフそうだしこいしちゃんは避けるの上手いし」

「こいしは適当で良いと思いますよ。」

「そう?まああと一人は常連だしなんとなく何頼むかわかるしあなた達も注文して頂戴」

「ん~、私はそうだね・・・これに合いそうなの適当に見繕ってくれ。」
 勇義はそう言って自前の大きな瓢箪をミスティアに見せる。

「あ~、それって鬼の酒?じゃああの酔いどれと同じで良さそうね。」

「あたいはさっき食べたやつがいい!」

「え~と・・・あなた何頼んだっけ?」

「え?なんだっけ?覚えてないや、こんなやつ!」
 チルノが手でジェスチャーをするが一切伝わらない。

「何よそれ・・・?」

「ふふっ・・・ええとこれは・・・ヤツメの串焼きみたいですね。」
 その様子を横で見ていたさとりが笑いながら言う。

「あら、人の覚えてない事までわかるの?便利ね~」

「いえ、名前を覚えていないだけでどんな物かは覚えていたようなので。まあ記憶を漁るのもやろうと思えばできますが・・・あ、私とこいしも同じもので。あと皆さんで食べれるような・・・そうですね、枝豆をお願いします。」

「はーい」
 ミスティアはごそごそと準備に取りかかる。

「あ、もこーがモロに喰らった。」
 三人が弾幕ごっこの観戦に戻ると丁度妹紅が被弾した所だった。

「おー、でもすぐに復活したぞ。あの人間タフだなー」

「不死人らしいですよ」

「へぇ、そりゃ面白そうだ。そのうちあたしとも遊んでもらおうかね」




 そんな感じの適当な会話が屋台では繰り広げられていた。そして、眩しい朝日の中で妹紅とこいしの弾幕ごっこは、激しく、そして華やかに映えわたる。地底に篭りがちだったさとりにとっては、それがすこし眩すぎるように感じるくらいに。
 ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。久しぶりの投稿で、しかも(個人的には)長めのものなので色々とハラハラしている次第です。いかがだったでしょうか。前に投稿してから5ヶ月とか・・・うわぁ・・・もう初めましてって言った方が良い気がしてきました。

 自分が思う幻想郷の人たちをそれっぽく書いて行ったら大体こんな感じになりました。殺伐としていてそれとなく適当に生きててそれでいて好戦的で・・・みたいな。だからなのかやっぱりこいしちゃんは動かしていて本当に楽しいですね。

 本当は戦闘中の表現とか、書いてみたいなーとか思ったりもしていたのですが難しすぎて断念。これのせいで長い間放置してたなんて言えない・・・!!

 そして最後に、諏訪子さん好きな方、本当にごめんなさい!これは冒頭に注意書き書くまであるレベルな気がする。もう一つ不安に思っている事もあるけどこちらは今は心の隅に止めておきます。できれば隅っこにそのまま置いておきたい・・・。

2012/6/15 追記
 ほんとだ二回担いでるー!?指摘ありがとうございます、早速修正させて頂きました。
読みなおしをした記憶はあるのですが・・・。うぅむ恥ずかしい、今後に繋げたいと思います。
汚3
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コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ちょっと諏訪子様がキレる場面以降が唐突だったような気がしますね。
こいしが諏訪子様の信仰を落としてから蛇に捕まるまで、もう1クッション欲しかったかも。
2.名前が無い程度の能力削除
こいしちゃんはこういう感じだなぁ…。神様を怒らすと怖いんやでぇ…。
3.名前が無い程度の能力削除
黒こげになった屋台の店主さん…
二回、勇義がバルスィからひったくって肩に担いでます…