こんにちは、小悪魔です。皆様からはこあ、とか、こぁちゃん、と呼ばれていたりもします。
小文字と大文字の区別に意味はないとパチュリー様が仰っていました。よくわかりませんけども。
主に紅魔館の図書館で司書兼パチュリー様のお手伝いをするのが私の仕事であり、存在価値でもあります。
いつから司書の仕事に就いていたのかは正直なところ、よく覚えていません。
いわくつきの本から召喚されたとか、パチュリー様がその辺からとっ捕まえてきたとか、まあ色々説があるようですが、
結局の所本人である私が覚えてないので(パチュリー様も覚えてませんでした)そこらへんの解釈はどうとでもなるというか、二次設定って便利というか。
まあ司書兼お手伝いといっても、実際のところパチュリー様は日がな一日中本をお読みになられているだけで、
あれ持ってきてとかこれ持ってきてなどはあまり言われません。数時間に一回、読み終わった本を片付けたり、新しく本を出してきたりする程度です。
だから正直な話、ほぼ一日中は退屈、です。
用事がある時は呼ぶからそれ以外は自由にしてていいとは言われていますけども、その用事がいつ飛んでくるかわからないので
図書館から離れる訳にもいかず、この広大な図書館で何をすればいいかなんて本しかないんだから読書するしかないのです。
ですがこの館内から魔法の心得がない私には読めない本、つまり魔術書の類を抜いてしまうと残るのはごく一部の本で、
それはひらがなのみで書いてあったり、簡単な漢字にふりがなが振ってあったりするいわば児童向けの本くらいしかありません。
あとはパチュリー様が香霖さんから興味本位で買った外の世界の本なども読めることには読めますが、書いてある内容はやっぱり私にはちんぷんかんぷんでした。
するとやっぱり里の子供が読むような本しかないんだなあと思いつつ、やっぱり今日もそのような本が置いてある部署にきてしまいました。
ごく一部とはいえそれはこの図書館にある本の総数から見たごく一部なので、一応児童図書だけでもどこかに臨時図書館が作れそうなくらいの数はありますが。
あっても誰も読みません。私くらいしか読んでませんし、いっそのことハクタクさんに寄付したらどうでしょうかね。お会いしたことはないんですけども。
そんなわけで今日も一冊、薄い本をとり出してはめくり、読み終わっては片付けます。
桃から生まれた少年が鬼を退治するお話、伊吹山という山に住むお酒好きの鬼のお話、竹から生まれたわがままなお姫様のお話etc。
一通り読み終わった頃、本棚に一冊見慣れないというか、これこんなところにあったかなと思うような本をみつけました。
背表紙からわかるように、その本からはなんといいますか、著しく場違いな雰囲気が漂っているものでした。
興味本位から、私はその本を手にとって表紙をめくってみました。
『
「う~~~~(>ヮ<)パチュリーパチュリー」
今 パチュリー様を求めて全力疾走している私は
図書館に住むごく一般的な小悪魔
強いて違うところを上げるとすればパチュリー様激萌えってところでしょうか―――
名前(?)は小悪魔です
おつかいを終えて紅魔館にある図書館に帰ってきました
入り口の扉を開けると
パチュリー様がロッキングチェアーに座っていました
ウホッ、いいぱっちゅん……
そう思っていると突然パチュリー様は、
私の見ている目の前でスペルカードを取り出したのです。
「弾幕 ら な い か」
(中略
「よ、避けました……」
「ええ……次はレーザーよ」
(中略
「ところで私のスペカを見て。こいつをどう思う?」
「すごく……アグニシャインです…」
(以下略
』
静かに本を閉じます。
『こあくまテクニック』と題されたその本は、『著者・こあ川くま一』となっているあたり、私が書いた本のようです。
あー、そういえば書きましたっけね、こんなの。暇潰しの一環として、私はたまに本を書きます。
これはいつ書いたんだっけ、懐かしい……。紙の具合から、結構前のものだと思うんですが。
「小悪魔ー? ちょっと来てー」
と、そこでパチュリー様からお呼びがかかりました。
久方ぶりのお仕事です。うーん、もうそんなに時間が経ちましたか。
懐に例の本を突っ込みながら、私はかけ足でパチュリー様の下へ向かいました。
パチュリー様はこの図書館の主です。この広い図書館で日夜魔法の研究や、読書や、読書や、主に読書などをしています。読書ばっかです。
前述した通り、そんなパチュリー様のお手伝い(雑用ともいいます)をするのが私の主な仕事であるわけです。
相変わらずな仏頂面で、パチュリー様は椅子に座っておられました。どうされましたか、パチュリー様。
「これ、片付けてきてくれる?」
パチュリー様が私に手渡したのは、謎な言語がたくさん詰まっている分厚い本、つまり魔導書です。無論、私には読めません。
こうして読み終わった本を片付け、新しく他の本を出してくるのが私の――って、何回説明するんでしょう。ていうか誰に説明してるんですか?
「それ片付けてきたら紅茶もお願いね、二人分」
かしこまりました。お辞儀をして本を片付けようとした時、しかしそこでふと思い立ちました。
……はて。二人分、ですか?
「うん」
はぁ。どなたかお客様でもいらっしゃるんですか?
そこで魔理沙様、とでも言おうものなら私首吊ってきますけど。
「なんでよ。魔理沙は今日は来ない、多分。とりあえずは私とあなたの分」
あー。私の分ですかー。……えぇー。
これは完全に予想外でした。えーとそれはつまり、パチュリー様が私と会話するという時間を自発的に設けるという事であって、ということはうわーなんか悪い想像しかできません。
この間パチュリー様の服を勝手に着ちゃったのがバレちゃったんでしょうか。ちょっと胸キツいかな……、という呟きは聞かれてしまっていたのでしょうか。
それともあれですか、先ほどの『こあテク』が露見してしまったか、それとも私が他に書いた多数のえにっき(どうじんし、ともいいます)が見つけられてしまったのでしょうか。
その他にも、思い当たる節色々。なんにせよ、いい話は期待できなさそうな予感です。
パチュリー様とお話ができること自体は素直に嬉しいんですけども。ええ、ええ。
いやー、お仕置きはなんでしょうか。ロイヤルフレア(霊力無限改造パッチ付)でしょうか、賢者の石(なくならない)でしょうか。
「小悪魔? なにをしてるの、さっさと片付けてきて」
ひゃっ、ひゃいぃ!(裏返りました……
ことん。
静かに紅茶を、まずはパチュリー様のところへ。
「ごくろうさま。座って」
パチュリー様に向かい合う形で、私は椅子に座ります。中間には大きくも小さくもない机と、ふたつの紅茶。
体の微妙に震えているのは喜びとかそういったプラスの感情からくるものではなく、いわゆる畏怖とか恐怖とかそっちのあれです。
一口、パチュリー様が紅茶に口をつけました。つられて私も少しだけ口にします。
「上達したわね」
恐らく紅茶のことでしょう。ありがとうございます。
そのまま何分か膠着状態が続きました。さながら浅間山のようです。一方私の心臓は活火山のようになっていました。
そんな私をよそにパチュリー様は変わらず本を読みながら紅茶を口にして、また本に目を落とします。
そのまま無言。
……なにか仰ってくれないと非常に不安な訳ですが。あのー、パチュリー様ー?
「……ん、なに? 小悪魔」
いえ、パチュリー様にいわれてここに座っている小悪魔ですが。あの、なにも無いようでしたらお仕事の方に……。
「いいじゃない、別に仕事なんてないでしょ。ここにいて」
はあ、いやまあそれはそうなんですけども。読書のお邪魔になりそうなので……。
「ならない」
そしてパチュリー様はまた本に意識を戻しました。
……別になにか怒るとか、話があるわけではないようですけども……謎です。謎すぎる。
もしかしてフラグが立ってたりするんでしょうか。パチェルート突入ですか。本望すぎます。
そして、ぱたん、と本を閉じる音がしました。そして一言。
「……さて、小悪魔。聞きたい事があるんだけど」
そう言ったパチュリー様はどこからか、
「これはなに?」
一冊の薄い本を手にしていました。
どこかでみたことのある色合いの表紙なその本は、『恋する小悪魔は切なくて、パチュリー様を想うとすぐ被弾しちゃうの』と題されている本で、
私が書いたえにっき(どうじんし、ともいいます)のなかでも一番の出来である屈指の名作やっぱり見られテータッ!?(メキシカン調)
「あなたが書いたのよね? 面白かったわよ」
くすり、と微笑むパチュリー様。目は、笑っていませんでした。むしろ私が笑うしかないです。あははー。
ちなみにパチェ総受け本です。ネチョくはないですが15禁くらいは入ってるでしょうか、通販での販売はメロンさんで7月頃を予定しています。
あははー……パチュリー様ー、その本どこにありましたー……?
「そこの本棚。このあいだあなたが風邪を引いて寝込んでる時に見つけた」
ああ、迂闊でした。そういえばあの時はパチュリー様が自分で本出し等したんでしたっけ。お疲れ様です。
それは見つかっても仕方ない。うわー。無理してでも隠しておくべきでした。
「さて小悪魔、覚悟は? 使い魔風情が主人であれやこれや妄想するなんてなげかわしい、歯ァ食い縛りなさい」
ごごごごごごごごごごごご。
天に高く突き出したパチュリー様の両手に、太陽ができました。それでも満面の笑みなのが怖い。
さながら「魔導書のみんな、オラに魔力をわけてくれ!」とでも言っているようです。
「よく反省すること」
射出体勢、発射5秒前ー。
ま、待ってくださいパチュリー様っ。あの、見つけたのはその本だけですか? その、他の本は……?
「他の本……? なんのこと?」
うわー墓穴ー。
「まあいいわ……あとでゆっくりと、ね」
3秒前。
あのーパチュリー様ー、そんなもんここで放ったら本消し飛びますってあははー。
「ヒント・保護の魔法」
そうでしたーあははー。マスタースパークぶつけても無事ですもんねここの本。
「言い残したことは?」
こんどから一箇所にまとめて隠しておきまヒギィ
「やりすぎたかしらね……」
「パチュリー様、どうされたんですか? 小悪魔がぼろ雑巾みたいになってましたが」
「……咲夜。ううんなんでもない。ちょっとね、小悪魔がヘマやらかして」
「そうなんですか……」
「追い出すほどじゃなかったかな……ちょっと心配かも……いいえ、当然の報いだわ」
(なんだかんだいって、パチュリー様もこあちゃんの事が好きよねえ……)
「なんか言った?」
「いえ、なにも?(笑顔」
ううううぅうぅぅ……。
「こぁちゃん、なにがあったか知りませんけど、元気だしてください。ね?」
うぅ、ありがとうございます中国さん……。
「ちゅ、中国って言うな!」
名前があるだけマシじゃないですか中国さん……。
「そ、それはそうですけど……」
中国さん中国さん。
「う、うわぁぁぁあん!」
どっとはらい。
ところで『えにっき』はどうすれば手に入りm…ヒギィ