一言言います。
やっちゃったZE☆
――春。卯月。
それはなにもかもが新しく始まる季節――
西行寺 幽々子は今日から新学期で高校2年になる。
舞い散る桜の花弁が見事な並木道を歩いていた。
晴れ晴れとした顔が映っている。
……いかにも女子高生らしい姿だった。普段の彼女からは想像できないが。
そんな希望に満ち溢れている心に毒を浴びるような事がこの後起きようとは思っても見なかった。
彼女は鼻歌交じりに並木道を歩いていた。
近くに他の生徒は見当たらない。
なぜならこの日の為に家を早く出たからだ。
有頂天になっている幽々子の目の前に驚愕した景色が浮かび上がった。
……人が、
首を吊っている!!
幽々子はとっさに飛び出した。
パニックになっているのか、いろいろと叫びながらその人の胴体をブンブンと揺らしていた。
最初に前に押したので男性の首がさらに締まった。
ロープは男性を支えるだけでいっぱいいっぱいなようで余計な力が加わるとすぐに切れてしまいそうなものだった。
やがて、ロープが千切れた。
同時にその人と幽々子は勢い余って倒れこんだ。
幽々子は起き上がるとその人を確認した。
男性だ。銀髪で眼鏡をかけている。結構知的そうな男性だ。
ロープは緩くなっている。輪になった部分が首にかかっていた。
男性はゲホゲホとむせた。
どうやら、生きているようだ。
ほっと息をつく。
途端、涙目になった男性は幽々子に視線を合わせると怒鳴った。
「死んだらどーする!!」
この発言に耳を疑った。
矛盾しているのだ。やっていたことと言ったことが。
男性は「あ」と間抜けな声を出したあとに視線を逸らすとふっと鼻で笑った。
同時に立ち上がる。幽々子もつられて立ち上がった。
そして、独り言のように「また死ねなかった……」と呟いた。
一拍おくと、男性は口を開いた。
「なぜ止めたりしたんですか?」
「え……、今『死んだらどーする』って……?」
話を聞いていなかったのか、男性は「私は生きていても価値のない人間なんです」と続けていた。
幽々子も話を聞いておらず、こう言った。
「死ぬ気なかったんですよね?」
男性は振り返ると「死ぬ気マンマンでしたよ!!」と叫ぼうとしたが、幽々子が叫んでいる最中に割り込んで「ですよね!」と何か納得したような声を上げた。
「こんな素晴らしい春の日に自ら命を絶とうとする人なんているはずがありません!」
両腕を広げて幽々子は言った。
男性は反論しようとしたがこの少女はなおも続けた。
それから独り言のように詩のようなことをいろいろと言い、そろそろ終わりかなというときに男性は口を開いた。
「あの、わた――」
「こんな日に自ら命を絶とうなんて桃色ガブリエルが許しませんよ!」
「ももいろ……ガブリエル?」
独特なネーミングに男性は思わず聞き返してしまった。
それから少女はこの一番立派な桜の木のことですよ、と言ってまた長い説明が始まった。
そして終わったときには、
「――だから桃色ガブリエルってつけたんです。今」
「い、今?」
次に幽々子はあれこれ桜の木を指して「あれが桃色大魔王」とか勝手な名前を言っていた。
おそらく、今つけているのだろう。
そして(おそらく)最後は空を飛んでいる、鳥に向かって言った。
「そしてあれが私の夕ご飯です!」
なんか目が違った。
口は笑っているが、まるで狩人になったような目だ。
「……妖雀じゃないですか。ていうか、あれを食べるのですか!」
「小骨は多いですけど好き嫌いはよくありません」
「こ、小骨……」
「あ、普通の雀を食べた時の見解です。妖怪はまだ食べたことがないので今から楽しみです。雀の味は私が保証します」
少女は手を胸に当てにっこり笑った。
ツッコんでしまいそうだったが男性は辛うじてそれを飲み込んだ。
どうやらこの少女は鳥は食べるためにあるようなものらしい。
上空にいた妖雀は彼女の目に気づいたのか、一目散にこの場から立ち去ろうとしていた。
「逃げますよ。いいんですか?」
追ってくれればこちらは死ぬことができる……
男性はそう考えていた。
「大丈夫です。奴のにおいは覚えましたから」
「犬か!てめぇは!!」
「犬でもそこまで嗅覚はよくありませんよ」
男性はまだ何か言いたそうだったが、少女はところで、と話を変えてきた。
「あなたはなんて呼びましょう?」
またわけの分からない発言をした。
名前を聞くのではなくていきなりなんて呼びましょうと来たからだ。
男性は唖然としていた。
幽々子がそうね……と考えていた。
ダメだ、やめさせないと。と思ったときにはもう遅かった。
「桃色若社長にぶら下がっていたから……桃色係長で!」
どうやら、私のぶら下がっていた木は桃色若社長という木らしい。
それにしても若社長にぶら下がっていてどうして係長なんですか?
男性は呼び名に驚愕してしまった。
「私、これからあなたのことを桃色係長って呼びます!」
「勝手に呼ばないで下さい!!」
少女が何か言う前にこちらが先に言った。
「大体、今の世の中は勝手に名前をつけてはいけない世の中なんです。命名権と言って何かに命名するのもお金がいるんです」
桃色係長(仮)は一拍おいた。
幽々子はおとなしく聞いている。
「そのうち、博麗神社はスカーレット神社なんかになりかねない!!」
「私、桃色係長と呼ぶためなら50円ぐらい払いますよ」
「払わなくていいから呼ばないで下さい!」
彼は何か嫌なことを思ったらしい。
かなり暗くなっていた。
何でも金、金、金……と俯きながら何やら呟いていた。
後半部分は声が小さすぎて聞き取れない。
桃色係長(仮)はついには顔を上げて叫びだした。
「絶望した!金汚い世の中に絶望した!!」
桃色係長(仮)はやっぱり死のう、と呟きどこからかロープを出した。
首を吊るべく、もう一度桜の木にロープを掛けた。
首を掛ける寸前に幽々子はやだなぁ、と言った。
「世の中、希望に満ち溢れています。さっきも言ったとおりこんな日に死のうなんて人いるわけないじゃないですか」
「じゃあ、さっき私がしていたことは何していたと言うんですか!」
首を吊るのを一旦やめた桃色係長(仮)が叫んだ。
「あなたの発言からそれは分かっていますよ。……身長を伸ばそうとしていたんですね」
…………………
また、わけも分からない言葉を言った。
ロープを手から放し、思わず少女を顔を見てしまった。
どうして首を吊っていたのにそんなことを言うのでしょうか。この少女は。
とりあえず、「はい?」と聞き返しておいた。
「私のお父さん代わりだった、おじいさんもよく身長を伸ばしていました……辛いことがあるといつも身長を伸ばそうとしていました」
「いや、それはちょっと違うと思うんですけど」
幽々子は桃色係長(仮)から少し歩いて、後ろを向いたまま言った。
「あの時ばかりはお母さんも身長を伸ばそうとしていました」と言った。
たまらず、桃色係長(仮)は「もう、いいですから!」と叫んでいた。
少女は男性の前に立って手を伸ばすと口を開いた。
「でも、桃色係長。全然身長低くないじゃないですかぁ」
「だから、身長を伸ばしていたわけではないんですよ」
――桜の花弁が舞っている並木道で
何事もネガティブにしか取れない「男」……
何事もポジティブにしか取れない「少女」……
出会ってはいけない2人が出会ってしまった。
「私は本当に死のうとしていたんですっ!!」
こう言い残すと、男性は走り去っていってしまった。
幽々子は変わった人ね、と思いながら学校を目指していた。
今日の夕食のことでも考えながら……
学校のチャイムが鳴った。
教室の生徒が席に座る。
ガラガラと教室の戸が開き先生が入ってきた。
座っていた幽々子が「桃色係長!」と叫ぶと入ってきた先生は顔色を変えた。
教室は「桃色係長?」「何それ……?」と少しざわついていた。
気を取り直して……
「今日からここの担任をすることになった――」
黒板に名前を書く。
森近 霖之助と書いてあった。
「森近 霖之助と言います」
「霖之助先生と言うんですか。桃色係長」
「だからそれで呼ばないで下さい!」
(東方絶望帳 其の壱 終)
おまけ
今日のみすちー
「……なんか、凄い殺気がしたような……」
夕暮れ、ミスティア・ローレライは空を飛んでいた。
さっきから何やら気配を感じている。
自分の身の危険を知らせるためのものだ。
さっさと逃げ出したいが、逃げれば逃げるほどそれは近づいているように思える……
ふと、目の前が暗くなった。
何も聞こえない……
私、どうしたの……
目を開こうとした。
しかし、力が入らない。
何かに持ち上げられたような気はした。
けたたましい笑い声も聞こえたような気もした――
(今日のみすちー 終)
やっちゃったZE☆
――春。卯月。
それはなにもかもが新しく始まる季節――
西行寺 幽々子は今日から新学期で高校2年になる。
舞い散る桜の花弁が見事な並木道を歩いていた。
晴れ晴れとした顔が映っている。
……いかにも女子高生らしい姿だった。普段の彼女からは想像できないが。
そんな希望に満ち溢れている心に毒を浴びるような事がこの後起きようとは思っても見なかった。
彼女は鼻歌交じりに並木道を歩いていた。
近くに他の生徒は見当たらない。
なぜならこの日の為に家を早く出たからだ。
有頂天になっている幽々子の目の前に驚愕した景色が浮かび上がった。
……人が、
首を吊っている!!
幽々子はとっさに飛び出した。
パニックになっているのか、いろいろと叫びながらその人の胴体をブンブンと揺らしていた。
最初に前に押したので男性の首がさらに締まった。
ロープは男性を支えるだけでいっぱいいっぱいなようで余計な力が加わるとすぐに切れてしまいそうなものだった。
やがて、ロープが千切れた。
同時にその人と幽々子は勢い余って倒れこんだ。
幽々子は起き上がるとその人を確認した。
男性だ。銀髪で眼鏡をかけている。結構知的そうな男性だ。
ロープは緩くなっている。輪になった部分が首にかかっていた。
男性はゲホゲホとむせた。
どうやら、生きているようだ。
ほっと息をつく。
途端、涙目になった男性は幽々子に視線を合わせると怒鳴った。
「死んだらどーする!!」
この発言に耳を疑った。
矛盾しているのだ。やっていたことと言ったことが。
男性は「あ」と間抜けな声を出したあとに視線を逸らすとふっと鼻で笑った。
同時に立ち上がる。幽々子もつられて立ち上がった。
そして、独り言のように「また死ねなかった……」と呟いた。
一拍おくと、男性は口を開いた。
「なぜ止めたりしたんですか?」
「え……、今『死んだらどーする』って……?」
話を聞いていなかったのか、男性は「私は生きていても価値のない人間なんです」と続けていた。
幽々子も話を聞いておらず、こう言った。
「死ぬ気なかったんですよね?」
男性は振り返ると「死ぬ気マンマンでしたよ!!」と叫ぼうとしたが、幽々子が叫んでいる最中に割り込んで「ですよね!」と何か納得したような声を上げた。
「こんな素晴らしい春の日に自ら命を絶とうとする人なんているはずがありません!」
両腕を広げて幽々子は言った。
男性は反論しようとしたがこの少女はなおも続けた。
それから独り言のように詩のようなことをいろいろと言い、そろそろ終わりかなというときに男性は口を開いた。
「あの、わた――」
「こんな日に自ら命を絶とうなんて桃色ガブリエルが許しませんよ!」
「ももいろ……ガブリエル?」
独特なネーミングに男性は思わず聞き返してしまった。
それから少女はこの一番立派な桜の木のことですよ、と言ってまた長い説明が始まった。
そして終わったときには、
「――だから桃色ガブリエルってつけたんです。今」
「い、今?」
次に幽々子はあれこれ桜の木を指して「あれが桃色大魔王」とか勝手な名前を言っていた。
おそらく、今つけているのだろう。
そして(おそらく)最後は空を飛んでいる、鳥に向かって言った。
「そしてあれが私の夕ご飯です!」
なんか目が違った。
口は笑っているが、まるで狩人になったような目だ。
「……妖雀じゃないですか。ていうか、あれを食べるのですか!」
「小骨は多いですけど好き嫌いはよくありません」
「こ、小骨……」
「あ、普通の雀を食べた時の見解です。妖怪はまだ食べたことがないので今から楽しみです。雀の味は私が保証します」
少女は手を胸に当てにっこり笑った。
ツッコんでしまいそうだったが男性は辛うじてそれを飲み込んだ。
どうやらこの少女は鳥は食べるためにあるようなものらしい。
上空にいた妖雀は彼女の目に気づいたのか、一目散にこの場から立ち去ろうとしていた。
「逃げますよ。いいんですか?」
追ってくれればこちらは死ぬことができる……
男性はそう考えていた。
「大丈夫です。奴のにおいは覚えましたから」
「犬か!てめぇは!!」
「犬でもそこまで嗅覚はよくありませんよ」
男性はまだ何か言いたそうだったが、少女はところで、と話を変えてきた。
「あなたはなんて呼びましょう?」
またわけの分からない発言をした。
名前を聞くのではなくていきなりなんて呼びましょうと来たからだ。
男性は唖然としていた。
幽々子がそうね……と考えていた。
ダメだ、やめさせないと。と思ったときにはもう遅かった。
「桃色若社長にぶら下がっていたから……桃色係長で!」
どうやら、私のぶら下がっていた木は桃色若社長という木らしい。
それにしても若社長にぶら下がっていてどうして係長なんですか?
男性は呼び名に驚愕してしまった。
「私、これからあなたのことを桃色係長って呼びます!」
「勝手に呼ばないで下さい!!」
少女が何か言う前にこちらが先に言った。
「大体、今の世の中は勝手に名前をつけてはいけない世の中なんです。命名権と言って何かに命名するのもお金がいるんです」
桃色係長(仮)は一拍おいた。
幽々子はおとなしく聞いている。
「そのうち、博麗神社はスカーレット神社なんかになりかねない!!」
「私、桃色係長と呼ぶためなら50円ぐらい払いますよ」
「払わなくていいから呼ばないで下さい!」
彼は何か嫌なことを思ったらしい。
かなり暗くなっていた。
何でも金、金、金……と俯きながら何やら呟いていた。
後半部分は声が小さすぎて聞き取れない。
桃色係長(仮)はついには顔を上げて叫びだした。
「絶望した!金汚い世の中に絶望した!!」
桃色係長(仮)はやっぱり死のう、と呟きどこからかロープを出した。
首を吊るべく、もう一度桜の木にロープを掛けた。
首を掛ける寸前に幽々子はやだなぁ、と言った。
「世の中、希望に満ち溢れています。さっきも言ったとおりこんな日に死のうなんて人いるわけないじゃないですか」
「じゃあ、さっき私がしていたことは何していたと言うんですか!」
首を吊るのを一旦やめた桃色係長(仮)が叫んだ。
「あなたの発言からそれは分かっていますよ。……身長を伸ばそうとしていたんですね」
…………………
また、わけも分からない言葉を言った。
ロープを手から放し、思わず少女を顔を見てしまった。
どうして首を吊っていたのにそんなことを言うのでしょうか。この少女は。
とりあえず、「はい?」と聞き返しておいた。
「私のお父さん代わりだった、おじいさんもよく身長を伸ばしていました……辛いことがあるといつも身長を伸ばそうとしていました」
「いや、それはちょっと違うと思うんですけど」
幽々子は桃色係長(仮)から少し歩いて、後ろを向いたまま言った。
「あの時ばかりはお母さんも身長を伸ばそうとしていました」と言った。
たまらず、桃色係長(仮)は「もう、いいですから!」と叫んでいた。
少女は男性の前に立って手を伸ばすと口を開いた。
「でも、桃色係長。全然身長低くないじゃないですかぁ」
「だから、身長を伸ばしていたわけではないんですよ」
――桜の花弁が舞っている並木道で
何事もネガティブにしか取れない「男」……
何事もポジティブにしか取れない「少女」……
出会ってはいけない2人が出会ってしまった。
「私は本当に死のうとしていたんですっ!!」
こう言い残すと、男性は走り去っていってしまった。
幽々子は変わった人ね、と思いながら学校を目指していた。
今日の夕食のことでも考えながら……
学校のチャイムが鳴った。
教室の生徒が席に座る。
ガラガラと教室の戸が開き先生が入ってきた。
座っていた幽々子が「桃色係長!」と叫ぶと入ってきた先生は顔色を変えた。
教室は「桃色係長?」「何それ……?」と少しざわついていた。
気を取り直して……
「今日からここの担任をすることになった――」
黒板に名前を書く。
森近 霖之助と書いてあった。
「森近 霖之助と言います」
「霖之助先生と言うんですか。桃色係長」
「だからそれで呼ばないで下さい!」
(東方絶望帳 其の壱 終)
おまけ
今日のみすちー
「……なんか、凄い殺気がしたような……」
夕暮れ、ミスティア・ローレライは空を飛んでいた。
さっきから何やら気配を感じている。
自分の身の危険を知らせるためのものだ。
さっさと逃げ出したいが、逃げれば逃げるほどそれは近づいているように思える……
ふと、目の前が暗くなった。
何も聞こえない……
私、どうしたの……
目を開こうとした。
しかし、力が入らない。
何かに持ち上げられたような気はした。
けたたましい笑い声も聞こえたような気もした――
(今日のみすちー 終)
それと、妖雀ではなく夜雀です。
誤字は修正ました。
そして、見事な感想の統一感。
うん。実際書き終えたとき、僕も同じようなことを思いました。
さくさく書き進めたが悪かったですかね……
今度はもっと捻ります。
……みすちー?
誰それ? 本編中にはみすちーとは一言も言ってませんよ。
おまけとは別の他人の空似でしょう。
プチじゃなくて普通の創想話の方だったかな?