その日、霧雨魔理沙は暇であった。
研究やら考察やら部屋の片付けやら新しい呪文の開発やら、
色々とやるべき事はあるものの、どれもやる気にはなれなかった。
ならば、他の事でこの暇を潰そう。
彼女がその結論に至るのに、さほど時間はかからなかった。
それこそ、いつも自身の箒の飛ぶスピードが如く、即決である。
さて、それでは暇を潰しにいざと、いつもの装備をし、愛用の箒を持ち、
ドアノブに手をかけたところで、彼女の足は止まった。
(……待てよ。またパチュリーのとこでゆったり本を読んだり、博麗神社でほのぼのお茶飲んだり、
アリスの家でまったりしたり、香霖堂からアイテム永久借用か? うむむ……少し味気ないな)
どうせやるなら思いっきり。
霧雨魔理沙は、そんな人物だ。
なので、このような小さい事とはいえ、手は抜かない。
普通の魔法使いは常に全力がモットーなのだ。とは彼女の持論である。
そんな訳で、彼女はもう一度、椅子の上に腰を下ろし、
思いつく限りの暇が潰せそうなことを、次々とリストアップしてみた。
①霊夢と愛の逃避行劇場
②アリスと昼メロごっこ(誤植編)
③フランドールと紅茶を飲みながら優雅に猥談
④魅魔を尋ねて三千里
⑤パッチュパチュにされてやんよ!!
⑥リリカはいらない子じゃないと、約一時間程ヤマザナドゥに説明
⑦香霖! 香霖! 助けて香霖!!
⑧「うふふ……」と笑って黒歴史。それが旧作クオリティ
⑨
とりあえず、魔理沙は⑧は見ないことにした。
これでもかという位に、何重にも線を引き、そこだけを塗りつぶした。
「そもそも、⑧の選択肢など歴史にない!」って、けーねが言ってた。
⑨については、想像にお任せする。あたいったら、最強ね!!
ともかく、残った七つから、どれか一つを選ぶわけだが、
それぞれが魅力的な選択で、彼女はどれを選ぶべきか、悩んだ。
(むぅ……どれも、面白そうだなぁ)
魔理沙は一つ一つをシミュレートしていく。
まずは①の霊夢との逃避行劇場。
どこに行くかなんて、当てはない。
だが、それがまたいい。
どこか遠くに、ふらふらと主人公組二人だけで飛んで行くのも悪くない。
ちょっとした旅行だ。
そして二人は知らない土地で愛の巣を築き上げ、新世界の神となるのだ……。
「うん。いい……」
頬杖をつき、ニコニコとしながら彼女は頷いた。
その腕には鼻血が伝い、真っ赤に染め上げていた。
「……さて」
二人の子供が就職するところで想像を止め、
腕についた血を拭き取り、彼女は、次の案をシミュレートしてみた。
②のアリスと昼メロごっこ(誤植編)
漫画家と編集者との間に生まれる愛。
だがそこには、打ち切りやら何やらで二人に立ちはだかる壁があったのだった。
そして、そのごっこの後、二人は博麗神社でゴールインを果たす……。
「これも、捨てがたい……」
アリスって料理うまいんだよなと呟く。
やはりその表情は笑顔で鼻血付である。
余談ではあるが、もちろんこれの完結編もある。
だが、編集の都合上3ページで書ききる技能は作者にありません。
申し訳ありませんが、他の作者の次回作にご期待下さい。
そうやって、全ての候補をシミュレートしていったが、
どれも手軽に実行出来そうだし、何よりどれも捨て難かった。
選ばなかったものはまた今度という手もあるが、それを許さないのが霧雨魔理沙だ。
彼女は悩みに悩んだ。残機をじわじわと削りながら悩んだ。
時には腕を組んで唸りながら、またある時は窓を全開にし「P A D!!」と、
某紅い館に向かって全力全壊で叫んでみたりしながら、懸命に悩んだ。
因みにテンコーはしていない。
そして、数分後、一つの彼女は閃きとともに、妙案を思いついた。
(そうだ。個々に全部実行しようとするからダメなんだ。
色々と混ぜてみれば、面白さがもっと増すかもしれない)
そうして彼女はもう一度、リストアップしたものを眺めてみる。
そこから、組み合わせが出来そうな箇所をつなぎ合わせて、
より面白そうなものだけを拾い上げていく。
途中、烏天狗の新聞屋が取材兼勧誘に来たが、居留守を使ってやり過ごした後で、
「射ぁ 命ぃぃ 丸ぅ!!(cv若本)」と叫んだり、
考えに詰まった時に「きり ☆ さめ ☆ う~」と某紅い館の当主の様に、
幼女臭あふれるポーズをとったりしたが、しっかりと作業は続けていた。
普通の魔法使いに、抜かりはない。
「……できた。できたぞ!!」
そして、ついに完成した。
魔理沙の暇を潰すためだけの計画。
数刻の時を経て、今ようやく、それは完成したのだ。
「ふっふっふ、見るからに楽しそうなこの計画。
今から実行することを考えるだけで、笑いが止まらないぜ」
さっそく実行だと、さっきの3倍のスピードで準備を開始する。
かなり大きな計画である。
それをするとなると、色々なものが必要となってくる。
故に彼女は、いつもは使っていないマジックアイテムも、倉庫から引っ張り出してきていた。
「よし! これで準備完了だぜ!!」
準備を終えると、そこには、いつもより重装備な彼女がいた。
いうなれば、フルアーマー魔理沙だ。
別に、初代のやつとは全く関係ないのであしからず。
あと、蛍は台所に出るGではない。覚えておこう。
そうして、彼女はいつも通り、だが、いつもより気迫溢れる様で、
愛用の箒にまたがって、大空へと飛び出していった。
家主も誰もいない部屋で、一枚の紙が風に吹かれ、はらりと床に落ちる。
どうやら、家主は鍵もかけずに飛び出していったようで、扉は開けっ放しになっていた。
そこからもう一度、風が部屋を吹き抜け、紙が宙を舞い、字の書かれた面を上にして落ちた。
何度も消しては書いたその紙面には、たった一文、こう書かれていた。
幻想郷は私の嫁
紙は三度、風に吹き飛ばされ、そして外へ出たまま、もう家の中に戻ることはなかった。
ネタ的には③~⑦のを膨らました方がもっと面白かったかと思います。
でもこれもありだと思います。