Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

カリスマの水面下

2010/12/23 19:09:29
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今、私はお嬢様と庭を歩いている。

この、寒く冷えた夜の庭を、ゆっくりと歩いていく。

ふいに、お嬢様が「ほら、空を観てみなさい」と言った。

見上げると、無数の星が空に瞬いている。この上なく美しい光景だ。きっと、お嬢様は私にそれを見せたかったのだろう。

私が感想を述べると、お嬢様は嬉しそうに「そうね、…本当、素敵だわ」と言った。

その時の表情が、とても優美で、私はつい見惚れてしまっていた。



それからも、お嬢様が時々見せる表情は何処か儚く、また、憂いを感じさせる。それは、また別の魅力を持っていた。



そして、館に入る。私がお休みになさいますかと聞くと、お嬢様はポツリと一言呟いた。



「…その前に、暖かい紅茶を頂けるかしら」




------




今、レミリアは一人で部屋にいた。

「もう、こんなに寒いと思わなかったわ」

レミリアは後悔していた。ちょっとばかり出歩きたくなったので、メイドを連れて庭を散歩したのだ。

館を出る前まではうきうきしていたのに、玄関から出ると、途端に寒波が襲ってきた。

(うわ、何よこの寒さ)

そう思ったが、隣のメイドに気取られるのも嫌なので、毅然とふるまっておいた。



早足で歩いてさっさと暖かい館に戻ろうと思ったが、それも不自然だ。

どうせなら、カリスマを感じさせたい。寒い寒いと速歩きするカリスマなど、今昔聞いたことがない。

『私が”寒い寒いカリスマ”の第一人者になる!』という手もあったが、流石にそんなギャンブルを起こす気は無かったので、渋々ゆっくりと歩いた。

そしてしばらくすると、寒くて体が震えてくる。歯を食いしばっていても、ガチガチと音を立ててしまいそうだ。

それを見られないように、時々空を見上げる。

寒いと星が綺麗に見えるとは聞く。つまり今の、星々がそれぞれを主張し瞬く姿、これが指しているのは…『今日はとても寒い日だ』という事実だ。

綺麗というよりも、寒さが辛いな。そっちの方が重要だ。そう思いつつ、レミリアは震えていた。



その内、震えの波が来る。あまりに震えては気づかれると、咄嗟にメイドに対し「ほら、空を観てみなさい」と言った。

メイドは素直に空に目を向けた。ああ、安心した、と同時にブルっと肩を震わせるほどの寒気が来た。

危なかったとレミリアが思っていると、メイドが空を見上げたまま、遠い目をしてこう言った。

「お嬢様、…今宵の空は、とても美しく、星達が幻想的な世界を作り出していますわ」

何を言っているんだこのメイドは。幻想的も何も、ただ光ってるだけじゃないか。

余裕の無さに短気になるレミリアだが、怒ってしまえばカリスマのカの字も無い。そこは優美に決めなければ、と抑える。

「そうね、…本当、素敵だわ」

気がつくと、メイドがレミリアの方を見ていた。「どうかしたの?」と出来るだけ我慢しながら言う。早く違う方を向いて欲しい。

「いえ、何でもございません」

なら見るな!と怒鳴りそうになったが、そこはカリスマだ。なんとも無い、怒らない。落ち着け私と自分をたしなめる。



少しずつ尿意も出てきた。こんな寒い夜に薄手で外に出れば当然だ。これが二重苦か。

レミリアはだんだんと絶望的な気持ちになって来た。演技しているせいであるが、メイドは寒さに(内心)震えている私に気にかけもしない。

そもそも、「お嬢様、今夜は冷えるので、何かを上に着て出られたほうが宜しいかと」とか言う気配りはないのか。

そして、出た後に気づいたのだとしても、「寒いようなので、上に羽織るものを持ってきましょう」とでも言えないか。

そう思って、メイドの方を見る。よく考えたら、彼女もそれ程厚着をしていない。普通のメイド服だ。

にもかかわらず、そんなに寒そうではない。どうした事か。もしかして、彼女も我慢しているのか?

「ねぇ、咲夜」

「はい、お嬢様」

「今日は、冷えるわね」

「ええ、そうですね」

「貴方は大丈夫?寒くない?」

「大丈夫です。お気遣いなさらずに」

喧嘩を売っているように思える。いけない、さらに心の余裕が無くなってきた。

このメイドは、どうやら寒いのを物ともしないようだ。肌の性質でも違うのか。

そんな事を考えているうちに、尿意の方も増して来た。寒いのは千歩譲って我慢できるが、こちらはどうしても我慢が難しい。

「…そろそろ、館に戻りましょうか」

そう言うと、メイドはニッコリと微笑み、

「畏まりました、お嬢様」

と言った。



それで私は、ようやく暖かい場所に戻ることが出来た。




------




やがて、メイドが紅茶を運んできた。

レミリアはそれを受け取り、飲んで、一息つく。

「ありがとう、咲夜」

先程まで余裕がなかった分の反動で、心にゆとりが出来ていた。トイレにも行ったので、そっちの意味でもすっきりしている。

「咲夜の淹れてくれた紅茶は、やっぱり美味しいわ」

「そう言っていただければ幸いです」

それでも、さっきの無神経さはいただけない、と思った。

が、よく考えれば、事前に自分が寒いことに気づけば良かっただけで、彼女に全面的に非があるわけではない。

気持ちに余裕がある今のレミリアは、今そう考えてみて、結局自分と咲夜の3:7の過失という所で落ち着いた。

「お嬢様」

「あら、どうしたの?」

「今日の星空…本当に、綺麗でしたね」

思い出しているように、しばし目を瞑り、メイドが言った。

実のところ、外にいた頃の余裕のないレミリアは、空なんてちゃんと見ていなかった。

だから、綺麗だとか言われても、よく覚えていない。ただ、たくさんの星が輝いていたことが漠然と思い浮かぶだけで、それ以上は何もなかった。

しかしまあ、ここは話を合わせるのがいいだろうとレミリアは思った。

「ええ、確かに、綺麗だったわね」

「…お嬢様」

突然、声色が変わった。見ると、咲夜が少し恥ずかしそうに、俯いている。

一体何があったのか、私が一瞬目を離した隙に、あの鉄仮面の少女に何が起きてしまったのか。

…鉄仮面は言い過ぎだが、普段の表情に乏しい、良く言えば無駄な感情を見せない咲夜が、こんな姿を見せるとは。

レミリアは内心驚いたが、いいものを見たとも思った。

「…なに?」

「お嬢様は、その…、あの時、流れ星をご覧になりましたよね?」

流れ星?そんなのがあったのか。当然見た記憶がない。が、ここでそれを言ってしまえば、今眼の前の彼女が可哀想だ。

「ええ、見たわ」

「失礼ですが…何を願われたのかだけ、お聞きしたいのです」

全く意味が分からない。何処かで頭をぶつけてしまったのか?寒すぎて頭が変になったのか?

どんどん目の前の彼女がおかしくみえてくる。

すると、急に我を取り戻したか如く、咲夜が表情を変え、謝った。

「…申し訳ございません、お嬢様。今のは、私の失態です」

「あ、ああ。そうなの」

「このような不躾な質問をしてしまい、すみませんでした」

「いや、いいのよ別に。謝らなくても」

「…では、お教え頂けると言う事で、宜しいのですか?」

え、今私、なんか言った?なんでそんな結論に?

どうやら咲夜が、また元気を取り戻したようだ。

「え、ええ。勿論よ」

ええい、こうなったら、なにか言うしか無い。でも、何を?

願い事なんて言っても、急に思いつくはずがない。ご飯をたらふく食べたいとか、カリスマ性に欠ける。

そう、問題はカリスマなのだ。いかにカリスマっぽく、かつ私のイメージに沿った答えを出せるか。

思ってもないことを言う気はない。でも、いざとなって考えてみれば、非常に難しい…



そして思案を重ねた末、こういう結論になった。




------




「それはね、貴方のことよ、咲夜」

「…私の、事」

「ええ、そう。貴方が何時までも私の側にいて、美味しい紅茶を淹れてくれるのなら、それ以上の願いはないわ」

「…」

「貴方の事、信頼しているのよ。…貴方自身が思っているよりも、私は貴方を必要としている」

「お嬢様…」

「これからも、私には貴方が必要なの。…いいわね?」

断る理由が、何処にあろうか。

「私は、お嬢様を、心の底から、敬服しておりますので。決して、離れるようなことは御座いません」

そう言うと、お嬢様は微笑んだ。

「そう。どうやら、私の願いは叶ったみたい」

「…私もです、お嬢様」



「もういいわ。ありがとう、咲夜」

そう言われて部屋を出る。ドアをしめた途端に、飛び跳ねたくなった。

「あ、メイド長」

…が、タイミングが悪かった。とりあえず無難に指示を出し、はぁとため息一つつき、自分も残った仕事にとりかかる。

後もう少しは、休むことは出来そうにない。部屋に戻ったら、思う存分この気持ちを解放しよう。



ああ、美しいお嬢様。私は、貴方のことをいつまでもお慕い申し上げます。




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なんとかなった。ピンチの時の饒舌さは、私の特技になるかもしれない。

「はぁ~」

疲れたので、ベッドに横になる。全身の力が抜けてしまったようだ。



レミリアは、ほっとしていた。

咲夜の最後の言葉が気になるが、その時は場を乗り切った達成感で満たされていて、特に考えなかった。

『私もです』という事は、どうやら叶ったという事らしいが。

「私に仕えていたい、って意味なら、面白い願い事ね」

一人で言って、くすくす笑う。

「それにしてもねえ…もう、眠くなっちゃったわ。ふぁあ」

大きく口を開けて、あくびをした。絶対に他の者には見せられない、間抜けな表情だろうなぁ、と自分で思う。

でも、この切り替えが大事だ。カリスマを魅せる所ではしっかり決めて、気を抜くところではとことん抜いてしまう。

一人の時間は、気を抜くために重要だ。



そう思っているうちに、どんどん眠くなってきた。

「部屋の中なのに寒いわ…もう嫌になっちゃう」

ベッドのシーツに潜り込む。上に寝転がっていたからか、既に少し暖かくなっていた。好都合だ。

「ん~…ベッドの中は気持ちいいわ。もう瞼が重くなって…」



と思っていたら、突然ドアがノックされた。思わず飛び上がる。

「は、びっくりしたぁ…コホン、えーと、どうしたのかしら?」

完全に気を抜いていたから、調子が出ない。出来るだけ声を作る。

「すみません。もしかして、起こしてしまいましたか?」

ドア越しに聞こえる声。恐らく咲夜だ。

「い、いいえ。大丈夫よ。それより、何か言いたいことがあるのでしょう?」

「…特に、これといったことは」

咲夜は、口ごもっているようだ。気になってしまう。

「そんな所で話さないで、部屋に入ったらどう?」

「宜しいのなら」

「入りなさい」

「失礼致します」

そう言うと、咲夜が入ってきた。



「もう、お休みになられる所でしたか」

「ええ、もうすぐ」

そこで話が途切れる。

「…えっと、何か報告とか、話があって来たんじゃないのかしら」

「報告と言いますと…本日の仕事は、ほぼ終了しました」

「そう。ご苦労だったわね、咲夜」

普段ならこんな事は言いに来ない。先程もそうだったが、今日の咲夜は若干おかしい。

「それで…それだけなの?」

「…」

「咲夜?」

「申し訳ございません!」

急に咲夜が頭を下げた。

「えっ、な、何?」

「お嬢様の姿を拝見したかった物で…つい、御用も無く来てしまいました」

「は、はぁ。そうなの」

本当に、熱でもあるのではないか、とレミリアは思った。明らかに様子が変だ。

「ねぇ咲夜、貴方大丈夫なの?休んだほうがいいんじゃない?」

ついつい、そんな事を口にしてしまう。

「いいえ、大丈夫です。健康には気を使っておりますので、病気などでは」

「病気でないにしろ、多分疲れているのよ。もう寝たら?ゆっくり休むのが大切よ」

正直なところ、レミリアも早く寝たかった。

「お嬢様…」

「貴方のことを心配して言ってるの。…大事な従者なんだから、倒れられたら困るのよ」

本当は自分が眠いから早く寝たいのだが、これは事実だ。

彼女ほど優秀なメイドが倒れてしまうと、館としても非常に困った事になる。

それに、私の戯言にここまで付き合ってくれるのも、彼女しか居ない。

「…はい、お気遣い、本当に、ありがとうございます」

咲夜がまた深く一礼する。次に顔を上げたときには、普段では見せないような、穏やかで自然な、暖かい笑みが浮かんでいた。

「それでは、お嬢様。おやすみなさいませ」

「ええ、貴方もね」



咲夜がドアを閉める。居なくなったのを確認してから、ほっと胸を撫で下ろした。

「もう、急に来るとは思わなかったわ…あぁ、びっくりした」

驚いたせいで、また少し目が覚めてしまった。

「…変な咲夜」

かつてあんな咲夜を見たことがあっただろうか。いや、記憶していないだけかもしれない。

「まあ、ともかくねぇ」

一人でにやりとする。さっきといい、今日は咲夜の見たこともない面を見られたのだ。

それだけでも、充実した一日だったように思える。まあ、発端の出来事は最悪であったが。



「さて。おやすみなさい、なんて言われてしまった事だし、寝ないといけないわ」

レミリアはまたベッドに潜り込む。

「…何はともあれ、明日もカリスマでいなきゃ。従者を、失望させないためにもね」

そう言って、目を瞑る。すぐに、ゆっくりと、夢の世界へ落ちていく。体が沈んでいく感覚だ。



その中でレミリアは、良い夢を見られそうな気がしていた。
頑張り屋さんのレミリアかわいい。
お嬢様大好きな咲夜さんの言動もかわいい。

いいコンビですね、全く。かわいいなぁ。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。
手巻寿司
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
所々でクスリと笑える場面があってとても面白かったです
2.名前が無い程度の能力削除
寒い屋外に出る
紅茶を飲む
トイレに行かずベッドに入る

翌朝のピンチフラグですねわかります