注・毛玉が出なくてもぶっ飛んでます。注意して下さい。
河城にとりは、人間が大好きなのに人見知りする、大変な河童である。
彼女は元々から恥ずかしがり屋である上に人見知りが激しく、妖怪の山に済む天狗をはじめとした山の住民どころか、同族の河童、挙句に毛玉が相手であっても、まともに顔を合わせられない。
『にとりは河童が持つテクノロジーの限界の体現である』とは、河童達の共通認識である。
これが、にとりの苦心を何とかしようと立ち上がった河童達の挑戦と、度重なる完全敗北から生まれた言葉であることに関しては、また別の機会に語られるだろう。
しかし今、彼女にとって最も重要な事は、そんな瑣末なことでは無い。
明後日までに、人里に下りて平然と行動できる程度の手段を確保しなければならないと言う、極めて困難な現実。
それが、彼女がぶち当たっている絶望的な壁であった。
宴会の席で、誰かが言った言葉。
「人間とより良い関係を結ぶために、皆で里に行って人間とお祭りをやろう。」
そんな一言が、いつの間にか山の妖怪も神様も里に行こうと言う約束になり、そして契約になり、ルールになった。
そのルールには、悲運にも非情にも、にとりが里へ行く事も含まれていた。
河童なら誰もが知っているほど重度の人見知りであるにとり。
とは言え、普段の生活の上では、彼女が苦しむことは無い。
彼女をよく知る河童は、彼女と会話する時には近くにある適当な道具を手に取り、それを見ながら話をするようにしている。
直接じっと見られるのは苦手なにとりも、これなら「見られてないから平気」なのだ。
もちろん、会話中は道具を逆手に持つなり手を止めるなりして、にとりを無視している訳では無いとアピールするのも重要だ。
と、少なくとも河童達は思っている。
将棋仲間として親しい犬走椛は、特に何かを意識すること無くにとりに接している。
将棋の勝負中は、相手の目線や顔色から指し方を予測したりせず、盤上に広がる千里先に集中する。
それ以外の時には、哨戒を担当とする白狼天狗としての任務を忘れず、にとりと話をする時でも侵入者への警戒を続けている。
だが、どちらにしろ椛はにとりを蔑ろにしているのではない。
むしろお互いに親友だと思っている。
何にしろ、にとりにすれば椛は付き合いやすい相手だ。
森の道具屋の物言わぬ店主と名高い(と、天狗の新聞から抜粋)森近霖之助とは、彼自身の……非道な常連によるものか、それとも彼本来のものなのかはともかく、客が相手でも本や道具ばかり見ているその態度もあって、会話くらいは出来る。
ついでに道具へ対する探究心と向上心と好奇心が手伝って、つい最近は道具の修理と交換も出来た位の仲だ。
しかし、それ以外の相手となると、こうも上手くは行かない。
射命丸文は、にとりが相手でも真っ向から取材を慣行してくる。
お陰で、ちょっと少し苦手な相手と言うのが正直な気持ちだ。
霖之助と外の道具に関して相談していれば、店に(客では無い)常連達が突撃して来てしまい、にとりは文字通り逃げ帰る以外無くなってしまう。
天才と名高い八意永琳と彼女の薬を頼ろうとすれば、永遠亭に住む純真な兎達の注目の的になる。
それ以前に、竹林毛玉の警備を突破すること自体が大変なぐらいだ。
今回、自分の人見知りを治したくて誰かの力を頼ろうとしたにとりだったが、どうもその判断は間違っていたのだろうかと疑い始めている彼女であった。
しかし、呆然としても時間は過ぎる。
エンジニアの鑑、河城にとりは作業を止めなかった。
その手の中で調整されているのは、お手製の新作「光学迷彩スーツNEO」である。
以前使用していた光学迷彩スーツは霊夢に故障させられ、それを改良して作った光学迷彩スーツ改は魔理沙に強奪された。
だが、そんな薄情な運命にもめげずに作ったこのNEOスーツは、彼女にとって大切な一品となった。
その理由は、まず第一に、材料とする部品は一つ一つ、にとり本人が厳選した点が有る。
彼女が普段何か道具を作る時には、そこら辺の材料と自前の工具で作り上げてしまう。
それが今回は「ここの川が綺麗なのも教えてくれたし、早苗が世話になったんでしょ?だから、これ使って!」と諏訪子が提供してくれた。
帽子に見られているようでちょっと怖かったのだが、にとりは喜んで諏訪子の用意した大量の部品を使う事にした。
第二に、今までになく様々な人々の意見を取り入れたことも有る。
今までは河童の視点でしか見る事の出来なかった道具に対して、人間である早苗、半人半妖にして道具屋の経験豊富な霖之助、天狗の椛に文、そして守矢神社の神である神奈子、諏訪子。
試作しては意見を聞いて、助言をもらっては改良をしてと言う工程を繰り返し、その結果として作られたNEOスーツは、にとりが知る誰に聞いても「完璧」と言う答えが返って来るまでに仕上がった。
そして、何よりもこの新作は、彼女が人間の里に出て、愛する人間達に見てもらう一番最初の道具だ。
最初は酒の席での勢いで決まった(らしい)お祭りだったが、よく考えてみれば人間と触れ合うのに最適な機会。
今回の様々な邪魔や困難も、相次ぐアクシデントも疲労も絶望も、全てはにとりの人見知りを改善するために神(近くにいっぱい居るけど)が用意した試練なのだろう。
もしかしたら、自分の事を考えて、わざわざ酒の席でお祭りなんてイベントを考えた妖怪が居るのかも知れない。
そうだったら何とお礼を言ったらいいだろう。
色々な考えがごちゃごちゃと頭を駆け巡るが、頭の中とは対照的に両手は正確な調整を続けていた。
お祭り前日。
にとりは、調整の終わった光学迷彩スーツを着て、里の近くまで下りて来ていた。
竹林毛玉の警備網を巧妙に抜けた彼女は今、竹林の端から里を見下ろしている。
明日からは失敗は許されない。
人間達が楽しそうに生活している里の光景を見て、彼女は覚悟を決める。
ここの人間達と仲良くなるために、今日から早速頑張ろう。
決意と共に、竹林からごそごそと匍匐前進で里へと向かうにとりであった。
~三十分前、寺子屋~
「慧音。」
両手をポケットに突っこんだまま、ぶっきらぼうに足で襖を開ける少女に対し、里の守護者である上白沢慧音はため息交じりに振り向いた。
「あのな妹紅、ここが寺子屋である事を含めなくても、襖や障子は足で開けるものじゃないと何度言ったら……どうした?」
顔を向けるとそこに立っていたのは、いつもの様に照れ隠しのような微妙な表情でも無く、かと言って少し前までいつもそうしていた憮然とした面持ちでも無い親友、藤原妹紅。
真剣な話なんだ。そう妹紅は前置きして、言葉を選びながら、絞り出すように告げた。
「きゅうりがいっぱい歩いてた。」
「は?」
(続け)
としか言い様がないw
もし困ったら襟を立てると良いんじゃないかと。
はーどぼい~るどがでふぉる~とさ!
> 重度の顔見知りであるにとり。
> にとりの顔見知りを改善するために
これらの「顔見知り」というのは、「人見知り」のことですよね?
素で勘違いしているのかと思いましたが、本文に二箇所「人見知り」とありますし。
続きを楽しみにしています。
頑張ってください。
某裸蛇くらいのカモフラージュ率…いやいや見つかってるからにとり!
にとりの迷彩服はミラージュコロイドなのかECSなのかサニーフラッシュなのか、気になるところですが
きゅうりだけ何故みえていた!カバンに詰め込んだきゅうりが見えていたのか!?そうなのか!?
石鹸屋風な感じで考えてたわ
まさかのキュウリ製w
それとも、完璧すぎて持ってたキュウリだけが透けてたってこと?
いずれにしてもみんなつっこんでやれよw
キュウリ製の時点でスーツじゃないしw
てか完全に迷彩なら誰からも認識されなさそう