「実は私、中国人じゃないんです」
「「「マジで!?」」」
「マジです」
この日この時この場所この瞬間より、幻想郷の歴史からその創造の根底に至るまでに大混乱を招く恐れがある一言が発せられた。
『美鈴は中国人じゃない』
そもそも彼女は妖怪の類であるからして「人」という呼称を使っているのは間違っている気もするが、それはそこ、とりあえず出生地を表す符合ということで。
「だったらあなた、一体何処の出身よ!」
力の限り狼狽しながらも美鈴に反撃を試みるメイド長。
「ユーゴスラビア」
「聞いたことはあるけど具体的な場所はよく思い出せねぇーーー!」
予想以上に強烈な返り討ちを浴び、そのまま地に伏すメイド長。
あぁダメですよ! そんなに全身でうつむいたら胸のアレが……!
「でもあなた、見た目が中華っぽいじゃないの!」
見事撃沈した咲夜に代わって迎え撃つは紫もやし。
「ココに最初に配属されたときにメイド服の予備が無くて、代わりとしてお嬢様が衣装室から用意してくれたのがコレだったのです」
「レミィーーーーーッ!」
即座に友人に向かって睨みを効かす一人大図書館。
しかし、その当人は涼しい顔。『流石にコレはかわせ無いでしょ』と自信満々に不敵な笑みで目の前の中国(仮)を見つめ、その切り札を解き放つ!
「でもあなた、二つ名の『華人小娘』は最初からついていたじゃない」
「仕様です」
仕様です
仕様です
仕様です
涼しげな顔してさらっと言い放つそれは、絶対の法すらも容易く打ち砕く究極呪文、アルティミットスペル。
深く重く、その言葉が脳髄に響き続ける。
レミリアは決して間違っていなかった……。ただ、相手の隠し札には何をどうやって太刀打ちできない、越えられぬ壁とかそんな感じだったのだ。
そして、幼きデーモンロードは従者と共に、地に膝と手をついた。
紅魔館主要陣、全滅。
この日より、美鈴は中国では無くなった。
二日後
「門番他のシフトについて話があるんだけど、今時間は大丈夫かしらち………………メイリン?」
「ちゅ………メイリン、そこの本取ってくれる?」
「ちゅうご………っ メイリン、門番隊の躾がすこし甘いと思うの。もう少し厳しくしたらどう?」
そうだよなー、そうですよねー。
みんな中国中国呼んでますもんねーーー、そりゃぁ言いづらい筈ですよねーーー。
アレから直ぐに「美鈴を中国と呼ぶな」「ヤツは華人小娘じゃない、仕様だ」「那个巨乳的存在不是中国(あの巨乳的存在は中国ではない)」と言ったお触れが天狗経由で幻想郷中に出された。
それを見て
ある紅白色腋巫女は「ふ~~~~~ん」と無関心だったり
ある黒とか白とかは「な、なんだってーーーーーー!!?」と素晴らしいリアクションを見開きで見せてくれたり
ある物知りスキマは「え、あれ? 知らなかったの?」と別の意味で驚きを見せたり
ある白玉大食い姫は「あらあら、じゃぁユーゴスラビア料理ね」と何故か妙にワクワクしてたり
ある引き篭もり姫は「えーりん、ビビンバ御代わり」と従者の心労を重ねたり
ある闇を漂う妖怪は「そーなのかー」と実に分かりやすいコメントで締めてくれた。
やーー、それにしても本当に驚きました。まさか美鈴さんが中国人じゃなかっただなんて
あははー、やー、ウソなんですけどねー
あ、そうなんですか?
たまには私だって反撃したいんですよ
そうですかー、でもワタシに言っちゃっていいんですか?
別にかまやしませんよ。わざわざ記事にするとは思えないし。
まーネタとしては薄いですね。なによりこれからもっと面白いネタが来そうですし。
あら、新聞記者の直感が鳴り響いてたりとかするんですか?
いや目の前に
ぇ?
「天知る地知る、メイド知るもやし知るロリが知る ってとこですかね」
「四季さまー 次の死者なんですけどー……そのー……」
「メンドイから舌を抜いた後に送り返してあげなさい」
蘇生後、美鈴は半年ほど「ユーゴスラビア」と呼ばれた。
って慧音が言い淀んでた。
……以外にいいかも