ある日のこと。
私が薬売りから戻ると、永遠亭に長蛇の列ができていた。
「これは、いったい!?」
「あら、ウドンゲ。戻ったのね」
「お師匠様! って、何で師匠も並んでるんですか?」
いつもは見せないような笑顔の師匠が列の最後尾に並んでいた。
「これはね、姫が悩みを解決してくれるのよ」
「!?」
「何でも「私くらい長生きしてれば悩みの一つくらいすぐにでも解決できるのよ」とか言い出して始めたらしいのよ」
姫様の思いつきのイベントらしい。
「はあ。大丈夫なんでしょうか……」
「そうね。無理じゃないかしら」
「ストレートに言いますね。それにしても、こんなにたくさんの相談者がいるんですね。驚きました」
「誰にだって心の中に何かしらの悩みを抱えているものよ」
「それも、そうですね」
私にだって悩みがある。
その種は姫様だったりもするが。
「心配だというなら様子を見てくるといいわ」
「……少し見てきます」
不安に思いながらも微かな期待を胸に秘め、私は永遠亭の中へと向かった。
―― case1 博麗霊夢 ――
「賽銭箱が何時も空なのよ」
「それは自業自得でしょ? 諦めなさい。以上」
「どうして諦めなきゃならないのよ! 死活問題なのよ」
「五月蝿いわね。それなら……はい、これ」
「何よ、これは」
「八意印の蓬莱の薬」
「飲め、と?」
「そう。これで問題は解決」
「……だが断る」
「少し悩んだわね」
「確かにいい話かもしれないけど、まだ人間をやめる気はないわ」
(既に人間離れしてるのに)
「それならもっと人間が来れる様な環境を作ればいいのではないかしら」
「例えば?」
「妖怪のいない神社」
「……」
「……?」
「……諦める」
―― case2 霧雨魔理沙 ――
「最近なんだがな。変な茸を食べた所為か身体がおかしいんだ」
「おかしいって、どういう風に?」
「身長が伸び縮みするんだ」
「……永琳に診てもらいなさい。はいっ次」
―― case3 ルーミア ――
「食べてもいい人間は何処にいるのか?」
「藤原妹紅ってのに会いに行きなさい。あれは食べてもいいわよ」
「そーなのかー」
(妹紅なら弾幕くらい付き合ってくれるでしょ。別に喰われてもいいし)
―― case4 紅美鈴 ――
「あの……」
「ごめん。無理」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「どーせ誰も名前で呼んでくれない、って相談でしょ? それはどうしようもないから」
「ひっ、酷いですよ~」
(↑に本名書かれてるだけで十分でしょ)
―― case5 四季映姫・ヤマザナドゥ ――
「聞いて下さい。最近の小町ときたら仕事をサボって何処かに行ってしまうしその所為で上司である私が責任を取らなければならないんです。そうなる度に小町に説教をするのですが私が死神の仕事の重要性と我々彼岸に関わる者の此の世への影響力を説いている最中に居眠りをしだす始末で。ですから先ず相手の話を聴くことの大切さと周囲の者との関係を巧く構築することで仕事が効率よく運ぶと何時も――」
「……」
………………
………
……
「もうこんな時間ですか。それでは失礼します」
(何だったのかしら……)
―― case6 魂魄妖夢 ――
「幽々子様の凄まじいほどの食欲を何とかしたいのですが……」
「亡霊が食事を取ること自体おかしいけど……。とりあえず、これでも持っていきなさい」
「何ですか、これ」
「蓬莱の薬。食事の際、近くに置いておけば効果あるんじゃない?」
「いいんですか、こんな貴重なものをお借りしても」
「別にいいわよ。服用さえしなければ」
「わかりました。試してみます」
―― case7 リグル・ナイトバグ ――
「おっ、女らしく見せるにはどうしたらいいんですか!」
「そーね。スカートでも穿いてみれば?」
「スカート……。持ってない」
「私のでよければあげるわよ」
「ありがとうございます!」
「それに化粧道具もあるから借りていいわよ。イナバが案内するわ」
―― case8 藤原妹紅 ――
「輝夜、殺す!」
「えっと、一回死んだ?」
「何度も喰われた!」
(あの娘、やるわね)
「まだ食べられ足りないのかー」
「ぎゃあああああぁ来るなあああああぁぁぁぁぁ――」
(ルーミア恐るべし)
―― case10 ミスティア・ローレライ ――
「リグルがっ、リグルが壊れた!」
「そう。彼女も変わろうとしているのよ。それだけは察してあげなさい」
「だけど、あんな顔をしてたらどうしても……」
「顔?」
「顔!」
「!?」
―― case11 リグル・ナイトバグ(2) ――
「うぇっ、ぐず。何故かみんな逃げていきました。ぐすん」
(これは……酷い顔ね。今まで化粧をしたことってなかったのかしら)
「とりあえず顔を洗って。……これからも、強く生きなさい」
「ばい゛」
―― case12 西行寺幽々子 ――
「妖夢にっ、妖夢に殺される!」
「落ち着きなさい。既に死んでるでしょ」
(まさかここまで効くなんて)
「幽々子さまー。帰りますよー」
「妖夢、ごめんなさい。これからは妖夢の言う事をちゃんと聞くから」
「幽々子様……。いいんですよ、もう。あっ、これはお返ししますね」
「えと、良かったわね」
(見事解決?)
(ほとんど解決してないし)
しばらく様子を見ていたが、相談内容から解決方法まで何もかもが滅茶苦茶だった。
「あらレイセン。いたのね」
「あ、はい。姫様の調子はどうですか?」
「まずまずね。どの悩みも大したものではないわ」
どれも解決できていないなんて口に出せない。それほどまでに姫様の今のお顔は輝いていた。
「レイセンはそこで見てなさい。相談者はまだいるのだから」
「……はい」
やはり不安だけが募る一方だった。
―― case EXTRA チルノ ――
(この妖精。悩みが何なのか予想できない)
「実はあたい……」
(クッ……。何なの、悩みは。⑨と呼ばれたくない? 否! そんなことで悩むのだったら⑨とは呼ばれない)
「その……」
(これまで生きてきた中で、こんなプレッシャーを受けたのは初めてだわ)
「あたいの悩みはっ」
(何なのっ!)
………………
………
……
「悩みが無いのが悩みなの」
「知るかーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「これで最後みたいですね」
姫様の悩み相談はどうにか全て終了した。
「呆気なかったわね。もっと凄い悩みでもあるのかと思っていたのだけど」
「凄い悩みって何ですか?」
「そうね。例えば仕事を止めたいとか」
それは凄い悩みなのだろうか。
誰でも持っていそうな悩みだと思うけど。
「では最後に私の悩みを聴いてくれますか?」
「永琳? 別にいいわよ」
そういえば師匠も並んでことを思い出した。
しかし、師匠の悩みとは何なのだろうか。
―― case Lunatic 八意永琳 ――
「そろそろ独立しようかと思うんですよ」
「……は?」
「ですから、永遠亭から出て行こうかと思いまして」
「どうして!? 何で!」
「ここに居ても、すること無いじゃないですか。というわけです」
「待って、お願い! ちょ、えーりーーん!」
―― Last case 蓬莱山輝夜 ――
「ねえ、レイセン……」
「はい、姫様」
「私……何がいけなかったのかな」
「何でしょうね……」
「……」
拝啓、お師匠様。今日も永遠亭は平和です……。
「えーりん、えーりーーん。ぐす」
……平和、です。
私が薬売りから戻ると、永遠亭に長蛇の列ができていた。
「これは、いったい!?」
「あら、ウドンゲ。戻ったのね」
「お師匠様! って、何で師匠も並んでるんですか?」
いつもは見せないような笑顔の師匠が列の最後尾に並んでいた。
「これはね、姫が悩みを解決してくれるのよ」
「!?」
「何でも「私くらい長生きしてれば悩みの一つくらいすぐにでも解決できるのよ」とか言い出して始めたらしいのよ」
姫様の思いつきのイベントらしい。
「はあ。大丈夫なんでしょうか……」
「そうね。無理じゃないかしら」
「ストレートに言いますね。それにしても、こんなにたくさんの相談者がいるんですね。驚きました」
「誰にだって心の中に何かしらの悩みを抱えているものよ」
「それも、そうですね」
私にだって悩みがある。
その種は姫様だったりもするが。
「心配だというなら様子を見てくるといいわ」
「……少し見てきます」
不安に思いながらも微かな期待を胸に秘め、私は永遠亭の中へと向かった。
―― case1 博麗霊夢 ――
「賽銭箱が何時も空なのよ」
「それは自業自得でしょ? 諦めなさい。以上」
「どうして諦めなきゃならないのよ! 死活問題なのよ」
「五月蝿いわね。それなら……はい、これ」
「何よ、これは」
「八意印の蓬莱の薬」
「飲め、と?」
「そう。これで問題は解決」
「……だが断る」
「少し悩んだわね」
「確かにいい話かもしれないけど、まだ人間をやめる気はないわ」
(既に人間離れしてるのに)
「それならもっと人間が来れる様な環境を作ればいいのではないかしら」
「例えば?」
「妖怪のいない神社」
「……」
「……?」
「……諦める」
―― case2 霧雨魔理沙 ――
「最近なんだがな。変な茸を食べた所為か身体がおかしいんだ」
「おかしいって、どういう風に?」
「身長が伸び縮みするんだ」
「……永琳に診てもらいなさい。はいっ次」
―― case3 ルーミア ――
「食べてもいい人間は何処にいるのか?」
「藤原妹紅ってのに会いに行きなさい。あれは食べてもいいわよ」
「そーなのかー」
(妹紅なら弾幕くらい付き合ってくれるでしょ。別に喰われてもいいし)
―― case4 紅美鈴 ――
「あの……」
「ごめん。無理」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「どーせ誰も名前で呼んでくれない、って相談でしょ? それはどうしようもないから」
「ひっ、酷いですよ~」
(↑に本名書かれてるだけで十分でしょ)
―― case5 四季映姫・ヤマザナドゥ ――
「聞いて下さい。最近の小町ときたら仕事をサボって何処かに行ってしまうしその所為で上司である私が責任を取らなければならないんです。そうなる度に小町に説教をするのですが私が死神の仕事の重要性と我々彼岸に関わる者の此の世への影響力を説いている最中に居眠りをしだす始末で。ですから先ず相手の話を聴くことの大切さと周囲の者との関係を巧く構築することで仕事が効率よく運ぶと何時も――」
「……」
………………
………
……
「もうこんな時間ですか。それでは失礼します」
(何だったのかしら……)
―― case6 魂魄妖夢 ――
「幽々子様の凄まじいほどの食欲を何とかしたいのですが……」
「亡霊が食事を取ること自体おかしいけど……。とりあえず、これでも持っていきなさい」
「何ですか、これ」
「蓬莱の薬。食事の際、近くに置いておけば効果あるんじゃない?」
「いいんですか、こんな貴重なものをお借りしても」
「別にいいわよ。服用さえしなければ」
「わかりました。試してみます」
―― case7 リグル・ナイトバグ ――
「おっ、女らしく見せるにはどうしたらいいんですか!」
「そーね。スカートでも穿いてみれば?」
「スカート……。持ってない」
「私のでよければあげるわよ」
「ありがとうございます!」
「それに化粧道具もあるから借りていいわよ。イナバが案内するわ」
―― case8 藤原妹紅 ――
「輝夜、殺す!」
「えっと、一回死んだ?」
「何度も喰われた!」
(あの娘、やるわね)
「まだ食べられ足りないのかー」
「ぎゃあああああぁ来るなあああああぁぁぁぁぁ――」
(ルーミア恐るべし)
―― case10 ミスティア・ローレライ ――
「リグルがっ、リグルが壊れた!」
「そう。彼女も変わろうとしているのよ。それだけは察してあげなさい」
「だけど、あんな顔をしてたらどうしても……」
「顔?」
「顔!」
「!?」
―― case11 リグル・ナイトバグ(2) ――
「うぇっ、ぐず。何故かみんな逃げていきました。ぐすん」
(これは……酷い顔ね。今まで化粧をしたことってなかったのかしら)
「とりあえず顔を洗って。……これからも、強く生きなさい」
「ばい゛」
―― case12 西行寺幽々子 ――
「妖夢にっ、妖夢に殺される!」
「落ち着きなさい。既に死んでるでしょ」
(まさかここまで効くなんて)
「幽々子さまー。帰りますよー」
「妖夢、ごめんなさい。これからは妖夢の言う事をちゃんと聞くから」
「幽々子様……。いいんですよ、もう。あっ、これはお返ししますね」
「えと、良かったわね」
(見事解決?)
(ほとんど解決してないし)
しばらく様子を見ていたが、相談内容から解決方法まで何もかもが滅茶苦茶だった。
「あらレイセン。いたのね」
「あ、はい。姫様の調子はどうですか?」
「まずまずね。どの悩みも大したものではないわ」
どれも解決できていないなんて口に出せない。それほどまでに姫様の今のお顔は輝いていた。
「レイセンはそこで見てなさい。相談者はまだいるのだから」
「……はい」
やはり不安だけが募る一方だった。
―― case EXTRA チルノ ――
(この妖精。悩みが何なのか予想できない)
「実はあたい……」
(クッ……。何なの、悩みは。⑨と呼ばれたくない? 否! そんなことで悩むのだったら⑨とは呼ばれない)
「その……」
(これまで生きてきた中で、こんなプレッシャーを受けたのは初めてだわ)
「あたいの悩みはっ」
(何なのっ!)
………………
………
……
「悩みが無いのが悩みなの」
「知るかーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「これで最後みたいですね」
姫様の悩み相談はどうにか全て終了した。
「呆気なかったわね。もっと凄い悩みでもあるのかと思っていたのだけど」
「凄い悩みって何ですか?」
「そうね。例えば仕事を止めたいとか」
それは凄い悩みなのだろうか。
誰でも持っていそうな悩みだと思うけど。
「では最後に私の悩みを聴いてくれますか?」
「永琳? 別にいいわよ」
そういえば師匠も並んでことを思い出した。
しかし、師匠の悩みとは何なのだろうか。
―― case Lunatic 八意永琳 ――
「そろそろ独立しようかと思うんですよ」
「……は?」
「ですから、永遠亭から出て行こうかと思いまして」
「どうして!? 何で!」
「ここに居ても、すること無いじゃないですか。というわけです」
「待って、お願い! ちょ、えーりーーん!」
―― Last case 蓬莱山輝夜 ――
「ねえ、レイセン……」
「はい、姫様」
「私……何がいけなかったのかな」
「何でしょうね……」
「……」
拝啓、お師匠様。今日も永遠亭は平和です……。
「えーりん、えーりーーん。ぐす」
……平和、です。