Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

鉄壁スカート

2012/09/15 02:41:07
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「諸君、鉄壁スカートというものがこの幻想郷に存在することはすでに周知のことであろうと思う」
 厳粛な声色が講堂に響くのはある暑い夏の日のことである。教鞭を取り、さながら福澤諭吉のごとき腕組みを決め込んだ上白沢慧音がそこにはいた。
 彼女はドヤ顔にドヤ顔を重ねながら、さも学術的価値に富んだ講釈を行っているかのごとく、実に下らない内容を話しはじめたのだ。
 それに対する生徒たちの対処は、これはもうお手の物としか言い様がなく、二秒で眠りの世界に旅立つものがいれば、かわやへ向かうと言ってこっそり教員室から氷水をかっぱらってきてそこに足をつっこんでいるもの、等身大ヒトシ君人形を置いて窓から逃げ出すものまで、実に多種多様な時間の有効活用を行っているのだった。
 しかしながら、熱の入った慧音女史の視界にはそのような不埒な連中ですらとまらないようであった。
「鉄壁スカートをひもとくにあたって、関連のないように感じられるだろうが、次のような疑問を考えることにしよう。「何故、少女はドロワーズを穿くのか」この疑問は幻想少女が空を飛ぶようになってから何度も議論がされている。君は何故だと思う? そう、そこで鈍器のような妖怪文庫本にかじりついている君だ」
 指された生徒は文庫というには余りに厚すぎる文庫本から顔を上げ、げんなりとした様子を見せた。
「それは恥ずかしいからじゃないですか、先生」
「「恥ずかしい」と言ったね。さて、この感情はなんなのだろうか? たとえば君は裸に下着をつけ、シャツとスラックスを着用してここにいるわけだが、この状況は「恥ずかしい」に分類されるのだろうか」
 しん、と静まり返ったのは学徒一同である。刹那の静寂の後、講堂は騒然となった。
 一同の発する文句は概ね、「この天然愛されボディのエロ教師は何を素っ頓狂な質問をしているのか」というようなものであったが、一部では悩み込んでしまってグウとも漏らさない者もあった。
 騒々しい講堂に件の慧音女史の声が不思議と凛、と通って聞こえた。
「さて、多くの諸君は何を馬鹿なことを、と考えたことかもしれない。ただ、幾人かはこの一見気狂いの戯言のような問答を興味深く感じただろう」
 講堂は先刻までから一変した様相を呈した。
 どうやら今日の先生の雑談はひと味違うらしい、今や教壇を射す視線はそのような期待に満ちていた。
「では、先ほどの答えを聞いてみようか。先ほどの君、は質問の主旨を捕らえ切れていないようだから止めておこう。それじゃあ、そこの上裸でハーフスクワットをきめている君。そうだ、君だ。次回からは後ろの席への迷惑も考えて、せめて空気椅子に留めておくとしっかり心に留めてから質問に答えてくれ」
「そうですね。やはり多くの人が普段着を着用した状況では恥ずかしいとは感じないと思いますし、極端な例では僕みたいにパンツ一枚でも羞恥心を感じない人もいると思います。パンツは男の最後の砦と言いますし、この感情は老若男女を問わず、ある程度の共感は得られるものでもあると思っています。現に僕が今ここから不埒者として追い出されていないという事実がパンツの重要性を顕著に示しています。パンツが砦であれば、その上にまとう物は内堀であり、外堀であり、あるいは城壁でもあります。裸の砦ではいささか不安が残りますが、堀があれば、城壁があれば、その不安も薄れるでしょう。人によって恥ずかしさを感じる格好に差異があること、普段着を着用した状態で恥ずかしさをおぼえないこと、これらはこの理論で説明できるのではないでしょうか」
「とても面白い回答だと思うぞ。だが、授業中はズボンくらい穿いておいてくれ」
「海パンだから恥ずかしくないです。」
「いいから服を着ろ」
 口惜しげにジャージに足を通した彼は颯爽とジョギングへと講堂を飛び出していった。慧音女史はというと、苦い面もちで椅子のない空き席を眺めるだけであった。
「さて、どこまで話が進んだところだったか。たしか着衣装備の多少による羞恥心の変化についての考察だったか。海パン姿の奇特な彼がいったように、一言に着衣とはいってもそれぞれに役割というものがある。その中でも中核を担う、いわば最重要たるパーツが下着だ。さて、ここで一つの疑問が生じる。ドロワーズについてだ」
 おもむろに慧音女史は窓際に立った。
「あれが見えるだろうか? あの金髪白黒の魔法使いがあそこを飛んでいるのが」
 なるほど、慧音女史の指さす先には確かに魔法使いの姿があった。
「何故彼女が白黒なのか。ブラウスが白いから、いやそれはおかしい。彼女が上、私たちが下だ。この角度から見てブラウスが強調されて見えるわけがない。ならば何故だろうか」
「ドロワーズを穿いているからではないでしょうか」
 当てられるまでもなく、生徒の幾人かが同様の答えを述べていた。もはや、この講堂の誰もがドロワーズにうつつをぬかしていた。
「その通りだ。彼女は純白のドロワーズを惜しげもなく晒しているからなのだ。ところが、ここでおかしな事がある。先ほど恥ずかしいからドロワーズをつけると言ったな? この主張は概ね正しい。しかし、ドロワーズとは一体なんだ? あれはズボンではない、パンツである。なぜ、パンツなのに恥ずかしくないのか。君たちは疑問に思ったことはないか?」
「ドロワーズの下に下着を着ているという可能性も捨てきれないのではないでしょうか」
 ドロワーズの下に下着をつけるか、否か。これに関しては後者を唱える人が圧倒的に多い。それは、「そういうもの」であるからだ。ただ、ここは幻想郷である。正しい文化の流入が行われているとは言いがたい。
「そうだな。そうだ。私はその言葉が聞きたかった」
 慧音女史は不敵に笑う。
「もっと言ってしまえば、彼女たちがドロワーズの下に下着をつけているのであれ、いないのであれ、だ。私たちから見てカボチャパンツだとしても、本人からすればパンツではないから恥ずかしくはない。この構図は素晴らしいものだ。Win-Winの関係とはこのことだ。だが、少し待ってほしい。私たちは何かを忘れていないか? はじめに私は何について話すと言った?」
 無論、はじめから慧音女史の話を真剣に聞いている生徒など殆どいない。
 ただ、この「殆ど」というところがみそなのだが、世の中にはどうしようもないところで記憶力を抜群に発揮するどうしようもない人種というものが意外に多く存在するのだ。
「鉄壁スカートですね、先生」
 慧音女史は逸り立った。その双眸には涙さえ滲んでいた。
「そうだ、諸君。鉄壁スカートとは何だ? けしてめくれないスカートだ。スカートはめくれてしまうものであるという大前提に対する反骨精神だ。だが、待ておかしい。どうしてめくれない。スカートは上着だろう?」
「そうだ!」
 もはや、講堂が一丸となって疑問を投げかけていた。あるものは立ち上がり、あるものは腕を斜め四五度に上げた敬礼の仕草をとっていた。
「つまり、だ。つまり諸君、私は鉄壁スカートとはドロワーズである。と、そう思うのだ。もっと言ってしまおう。あのさわやかな面もちのスカートの下には下着など存在しない可能性があると思うのだ」
 講堂は万雷につつまれた。彼ら、彼女らの熱気は慧音女史にとっては心地よいものだったに違いあるまい。
「これは私のたてた仮説にすぎない。そこで、そこでだ諸君。私は学問に関しては実学を重んじるべきだと思っている。実学たるにはまず実験が存在しなければいけない。妹紅」
「合点」
 講堂の扉より入ってきた白髪の少女は、「妹紅さん騙しましたね」やらなにやら喚く少女を引き連れていた。
「ここに射命丸さんをお連れした」
 そして、万雷は雄叫びに変わるのだった。
あやちゃんかわいい。
岡本
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
え、えーと……まず氷嚢をくれ。少し冷静になりたい。しかる後に慧音先生と全力で話し合いたい
2.名前が無い程度の能力削除
さあ、早くその実験のレポート(写真付き)を寄越すんだ
3.奇声を発する程度の能力削除
早くレポートをこちらに
4.名前が無い程度の能力削除
情熱と狂気の狭間にあるような作品だ・・・(誉め言葉)
5.岡本削除
>>1さん
頭を冷やしたら存分に膝を突き合わせましょう(ニッコリ)

>>2さん
>>3さん
レポートをご観覧になるにはわっふるわっふると(以下略)

>>4さん
ありがとうございます!
狂気も情熱も限界までフルスロットルで飛ばしたいです!
6.名前が無い程度の能力削除
慧音あなた疲れてるのよ……
7.名前が無い程度の能力削除
生徒たちの対応力がすごすぎる