龍神の像の瞳が赤く輝いたある日、里の皆が平和に空を見上げていると
あるものは驚き倒れ
ある者は我が目を疑い
ある老夫婦は入れ歯を射出した。
人間に限らず、妖怪も恐れ、呆れ、そして笑った。
空からくるくると降り注ぐ、大小様々な、大量の鍵山雛を見て。
「博麗の! これはどういうことだ!」
「知るか!」
予報は未知、天候は雛霰。
真夏の太陽を遮り、恵みの雨をもたらすはずの雲からは厄神が降ってきた。
触れた者は何もないところで転び、柱に小指をぶつけ、ささくれができる者もいた。
また触れずとも、近くを歩いていた野良は棒に頭をぶつけた。
もちろん、厄神が降り注いだのは里だけではない。
地上のあらゆるところにソレは降り、紅魔館や永遠亭、守矢神社も例外ではない。
「これはどう見ても異変だろう! 何故出ない!」
「いやいやいや、一過性のものじゃないの?」
「一過性でも被害大きいぞ!」
「屋根下に居ればいいじゃない。曇ってるときしか降らないみたいだし」
今、雲は切れて青空がかすかに覗いている。
空気は湿気っているものの、厄神は降ってこない。
辺りには、雨上がり特有の土の匂いが漂っている。
「しかし見た目にも効果にも厄ばっかりだろう」
「あんたはともかく、里の人間はどうなのよ」
慧音が言うには、転んで軽傷を負った人間がそれなり。
妖怪はその程度で怪我をするほどやわではないので、被害はほとんどない。
ちなみに降った厄神は、地面に落ちたとたんに消えてしまったという。
霊夢もそれは屋根下から観察していて、その点から無害と判断したわけだが。
「ま、そこまで言うなら親玉を問い詰めてみましょうか」
「頼む。私は棲処を知らん」
「あの辺の魚とか木の実美味しいのよね」
「何?」
「なんでもなーい」
そんなわけで、霊夢は異変?解決に向けて飛び立った。
「そういえば、私あいつの居場所なんか知らないわ」
勘の導くままに、霊夢は滝から少し離れた沢にいた。
守矢神社までも一応足を伸ばしたところ
「原生の神さまとは面識が無いのです。うちの神さまだけでいっぱいいっぱいです」
と、早苗に返された。
同じく炎天下の境内には、神奈子と諏訪子が首を生やしていた。
霊夢は何も言わず、ゲジゲジをその近くに供えて神社を後にした。
その後どうなったかは、霊夢の知るところではない。
ちなみに沢に寄ったことに理由は無く、単に涼みたかっただけである。
ついでに守矢神社から調達してきた羊羹も冷やしている。
包みには「神奈子」と書いてある。
この巫女、鬼畜である。
「えーと、秋に会ったのは樹海でー……でもいなかったしー」
羊羹を食みながら、雛の居場所を考える。
樹海は雛の通り道。
守矢神社に向かう際、当然心当たりの場所は探した。
さらさらと流れる冷たい水に何度も足を叩きつけ、水しぶきを上げる。
腰掛けていた岩も丁度いい大きさだったため、霊夢は足をばたつかせながら寝転んでみた。
太陽が眩しい。
が、涼を得ているためかその熱気に心地よさすら感じる。
霊夢は残っていた羊羹をぺろりと平らげ、この後どうするか考える。
しかしあてもなく、また勘に頼るほか無さそうである。
「それにしても暑いわ」
先ほど空を覆っていた雲はすでに無い。
もはや異変の可能性はないのではないかと、霊夢は思う。
これ以上問題が起こったなら、そのとき対応すればいい。
足をばしゃばしゃさせながら、慧音に言う文句を考える。
ばしゃばしゃ
ばしゃばしゃ
ばしゃぐに
ぐにぐにぐに
「ん?」
途中から、別の感触が混ざった。
霊夢は身を起こして、その正体を確認すべく視線を送る。
その先には、
うつ伏せで水面に浮かび、霊夢の足で頭を水面下に押し付けられる鍵山雛の姿が!
「事情を聞きましょうか」
「はい」
また少し後。
雛は水難事故から生還し、上白沢宅に連行された。
霊夢も一応依頼された側なので、冷たい番茶を啜りながら立ち会う。
当然、おとなしく謝罪しに来る時点で、異変を企てていたわけではないことは二人も承知の上。
しかし、異常事態であったことには違いない。
意図的であるにしろ、過失か偶然であるにしろ。
慧音は真相を究明しておきたかった。
「ええと、その小さな私?が降ってきた時はすでに気絶していたのですけれど」
「うん」
「昨日からの連日の暑さで――」
鍵山雛曰く。
連日の猛暑にも関らず、例年のように雛は厄を集めて回っていた。
元より八百万の神のほとんどは自然に近い立場にある。
もちろん、例外もそれなりにいる。
そんなわけで、日課の厄集めに力を入れていた雛であったが、その日は異常とも言える灼熱。
それでも里やら森やら山やらの厄を回収して、帰り際に沢を見つけた。
あそこで少し休憩をしよう。
そう考えて、丁度滝の真上あたりに差し掛かったところ、意識を失ったという。
「で、私が降ってきた理由なんですけど」
「うむ」
「私に憑いてた厄が少し水に流れて、それが蒸発して、雲にいる雨の妖精に厄が感染しちゃった結果ではないかと」
想像に過ぎませんが、と申し訳無さそうに雛は言う。
ちなみに降った厄は軽微なもので、せいぜいが転んだり火傷をしたり好きな子の前で失敗するレベルらしい。
人によっては大ダメージではなかろうかと、傍で聞く霊夢は思う。
「厄神殿も正直に話してくれたし、これ以上害がないなら問題ないな」
「もしかしたら、また雨に混じって降るかもしれないけれど」
「もう増えることも、大事故に繋がることも無いんだろう?」
「それは間違いなく」
「なら安心だ。こっちは世話になっている側だし、原因がわかれば責めることもない」
「ならせめて、怪我をした人たちに謝罪だけでも」
「いやいや、それは私から言ってお「それじゃ私の気がすみません」
突然雛は身を乗り出して、慧音に肉薄。
慧音は驚いて仰け反った。
「さぁさぁ、思い立ったが吉日です。急いでいきましょう」
「私でも数すら把握できていないのに?!」
「なら探せばいいのです。ほら、急いては事をアレするのでしょう?!」
「だからゆっくりやりましょうって! 謝罪してくださるのは嬉しいですが!」
火がついた雛に強引に引っ張られて外に誘拐されていく慧音。
そして霊夢は微動だにせず、二人を見送った。
二人の声が離れて行くのを聞き、また霊夢は茶を啜る。
「お茶が美味しいわ」
天候は快晴。
雲ひとつ無く、天が抜けたように思える。
幻想郷は盛夏。
まだまだ、賑やかな季節は終わらない。
これは、そんな一日の賑やかで不思議なお話。
了
ふーはっはっはっはっはっは!なんというパラダイス!
世界が滅びても俺は一向にかまわんぞおおおおおおおおおおおお!
意味のない描写なんでしょうか?ならちょっと不快ですねー。
こうなったら2柱とも舌伸ばして舐めあうか早苗舐めるとこでも想像するか
>>3.
>うちの神さまだけでいっぱいいっぱいです
じゃない? っていうか、そんな事言ってたら東方創作話の多くが読めないような・・・