Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

そんなにチルノはバカなのか

2006/04/23 06:38:41
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 表題にも書きましたけど、それが今の私の研究課題なわけです。あくまで研究です、研究。取材じゃありません。一流の記者として記事にできることとできないことはわきまえてるんですよ、ええ。

 当たり前じゃないか、と言えばそれまでですけど、だって気になりませんか。例えばあの蛍だとか夜雀だとか磔刑の幼女だとか、幻想郷にも知能の低い妖怪や妖精はごまんといます。にもかかわらず彼女だけがあげつらわれて皆からバカ呼ばわりですよ。別に同情するって気はありませんが、そこまで言われるんなら何か根拠があるはずです。取材は好きだが噂話はもっと好き、天狗の血が唸るってもんです。火のないところに煙は立たぬ、もし火がないなら焚けばいいじゃない。知性の死は人格の死です。知的好奇心が働けば記事はなくとも西東、幻想郷の端から端まで飛ぶことすら厭いませんとも。まあもともと幻想郷はそんなに広くないですけどね。

 さて、前置きが長くなりました。たまに記事とは違う文体で文章を書くと楽しくてたまらないのですよ。ちょっと支離滅裂だったりテンションの高かったりすることくらい大目に見て下さい。

 というわけで、以下は私の研究の記録です。






○月×日
 研究1. シチュエーションにおける適応能力・判断力について


 さて、私が用意したのは次の通りです。

● バナナ
● 踏み台
● 棒

 ……おわかりですね。バナナをヒモに結んで、木の枝からぶら下げておきます。そして踏み台と棒を適当に地面に置いて、っと。私は近くの草むらに隠れて、氷精が来るのを待つばかりです。ここは湖のほとりの妖精たちの遊び場。前もって調べておいた彼女の行動パターンによると、この時刻になると来るはずなのですが……
 来たっ。

「♪あ~た~い~が~ い~ち~ば~ん~ カ~ッコいい~のだ~
  バ~リ~バ~リ~ さ~い~きょ~お ナンバ~ワン!♪」

 なにやらゴキゲンですねぇ。歌にはいろいろツッコミどころが満載ですが、機嫌を損ねるのもなんですし、何より大事なのはこの実験なので無視です。さあ彼女、地面に足を下ろして、きょろきょろ辺りを見回し……あ、視線が止まった。気付きましたよ。

「わーい、バナナ!」

 手を伸ばします。しかし残念、バナナはちゃんと彼女の身長では届かない位置を計算してぶら下げてあるんです。

「とうっ、とうっ」

 ジャンプしてもダメです。

「むー」

 眉間にしわ寄せて悩んでます。なんかその恨めしそうな目はブドウを酸っぱいと言ったキツネに似てますねぇ。首が疲れたのか視線を地上に向けて、あ、どうやら棒と台にも気付いたようですよ。

「……ふっふっふ。あたいをバカにしてるのかしら」

 嬉しそうにニンマリと笑いながら、彼女は、おお、バナナの真下に台を持っていってその上に立ち……ああ、ちゃんと棒を持ってます。良い感じです。そして、そう、それでバナナを突っついて……

 ぽとり、とバナナは地面に落ちました。

「わーい! いただきまーす」

 もぐもぐ、もぐもぐ。見事にゲットしたバナナをほおばります。
 ははあ、なるほど。


 彼女、相当おバカさんですね。そんな苦労しなくても、



 届かないなら飛べば良いじゃない。妖精だし。



「おいしー♪ もぐもぐ」

 ……まあ、本人は幸せそうですけど。


 結果:サル並み






○月△日
 研究2. 数量把握能力および演算力、記憶力について


「ちょっとそこ行く氷精さん!」
「ふぇ?」

 後ろから呼び止めると、彼女は不思議そうに空中で停止して、私の顔を確認すると「なによ」という目で見返してきます。私も山の神とも言われる天狗の、端くれどころかそれなりの者のつもりです。妖精なんぞは恐れこそすれ私をこんな目では見ないはずなんですが……ああ、無知とは恐ろしいですね。いつかそれが彼女にとって仇にならないことを適当に祈っておきましょう。
 それよりも、今は研究です。

「私、急用で紅魔館へ行かなくてはならないんですが、実は今日の夕方までにどうしても買い足しておかないといけないものがありまして、ちょっと困っているんです。というわけで暇そうなアナタ、ちょっと香霖堂までお使いを頼まれてくれませんか」

「お使い? なんであたいがそんなことしなくちゃいけないのよ。っていうか暇じゃないわよ」

「おつりで好きなもの買っていいですから」

「あたいに任せなさい!」

 ああ、あつかい易い娘ですねぇ。

「それでは、一度しか言いませんからよく聞いて下さい」

 コホン、とひとつ咳払いします。

「50円のジャガイモが4つと、200円の有機栽培大根1本、150円の無農薬ほうれん草が1束。あと100円のペンを5本お願いします。はいこれは代金」

 千円札を1枚渡します。

「えっ、えっ、何、もう一回言っ」

「それでは私は急ぐので! よろしくお願いしますよー!」

 そして私はさっさと逃走。彼女から見えないところで観察開始です。

「……なんなのよっ」

 困りきったように手元の千円札を眺めてます。そしてぼそりと、

「しけてるわね。不景気のあおりか」

 ……。

「まっ、いいか。好きなもの~が~買える~♪」

 ……ごきげんで香霖堂の方へ飛んでいくようなので、よしとします。
 ところで、皆さんはお気づきでしょうけど、やっぱり彼女はおバカなようですね。

 代金が50円足りないことも気付かずにいるようですから。

 支払いの段になって、思わぬ事態にどうするつもりなのか。これは香霖堂でどんな行動が見られるのか、見ものです。

 と言っている間に、お店に到着です。

――カランカラッ

「いらっしゃい……おや、氷精がお客とは、珍しいね」

「ふんだ。感謝しなさいよ、幻想郷最強のあたいが買いに来てあげたんだから」

 無い胸をそらします。言ってることがよくわかりません。

「それはありがとう」

 そう言って、店主さんは軽く流すことにしたようです。問題児の扱いに慣れてます。

「えーと、えーと」

 とたとたと、お店の中を物色し始めました。

「なんだったっけ……確か、ジャガ、ジャガ……あ、これね」

 惜しい。それはミック・ジャガーのソロアルバム。というかなぜにストーンズ。

「あ、ペンもあったわ」

 それは米映画俳優ショーン・ペンのブロマイド。……なんでこんなものばかりあるんでしょう、この店は。あああ、しかもきっちり5枚買ってるし。何でそんなところだけ憶えてるんですか。

「あとは……ゆうき……大根……?」

 彼女が見つめる先には普通の大根。まあ幻想郷の作物に農薬は撒かれないので、全部有機野菜なんですが。

「んー?」

 ゆうき、の意味がわからず困っているようです。

「……あっ!」

 何かに気付いたようです。彼女はどこからともなく筆を取り出すと、大根にサラサラとこう書きました。


   アンディ・フグ かかってこい


 それは勇気ある大根。あとアンディはお亡くなりになってます。合掌。

「これだけ、くださいなー!」

 しかも無農薬ほうれん草はすっかり忘却の彼方ですか。無能チルノですね。

「フム……全部で5125円だね」

 高ッ! やはりミック師匠が高かったんでしょうか!?

「はいこれ!」

「……足りないよ」

 当然です。

「えーっ! さては騙したわねあのカラス」

 もうそういうレベルの話じゃありません。

「どうするんだい?」

 と店主に聞かれて、彼女はうーんうーんと悩み始めます。あ、なんか頭から煙出てきた。ぷすぷすぷす。

「……これ、いらない!」

 そう言うと商品の陳列棚のほうに取って返します。おや、今度こそ私のお使いを正しく遂行できるのでしょうか? ……って。

「~♪ ~♪」

 あのー。鼻歌交じりなのは良いですけど、なんで全然関係ないお菓子の棚にいるんですか。

「好きなものっ、好きなものっ♪」

 ははあ、おバカなりに悩んで混乱したあげく全部忘れてしまって、最後の自分に都合の良い部分だけが頭に残ったわけですね。すごーい。

「くださいなー!」

 そしてカウンターに載せたのは、ペロペロキャンディ。棒に刺さったうずうずのアレです。しかも大量に。

「フム、ちょうど千円だね」

 こんなときだけ能力発揮しますねこのおバカは。

「まいどあり」

 代金を支払って、意気揚々とお店を出ます。まあるいキャンディを小さな舌で、幸せそうにぺろぺろと舐める姿はなんとも……なんとも――

「おいしー♪」


 結果:ガキの使いやあらへんで






○月□日
 研究3. コミュニケーション能力・語彙力その他について


「やっぱりあたいったら最強ね!」

 彼女が勝ち名乗りをあげました。今の弾幕ごっこの敗者、夜雀がひるひるぽてりと墜落してゆきます。
 そこにすかさず突撃です。

「おめでとうございます! 見事な勝利でした! 是非勝利者インタビューを!」

 私の言葉に彼女は「え、えっ」と少し面食らったようですが、どうやら誉められているらしいと認識したようで、得意げな顔になりました。

「いいわよ、受けてあげる。あたいを称えなさい!」

「ありがとうございます。それでは……今回の勝利の決め手は何だったのでしょうか?」

「あたいが最強だからね!」

「はあ。では、あの夜雀の弾幕に関して、手強く思った点などありませんか?」

「あんなヘロヘロ弾に当たらないわよ、最強だし!」

「……。今後の展望などは」

「あたいはいつでも最強よ!」

 ……えーと。なんかどこまでも不毛なので、取材の振りはここまでにして、そろそろ本題に入ろうと思います。

「ところで、あの『パーフェクトフリーズ』は素晴らしい弾幕ですね」

「ふふん。あたいに凍らせられないものなんて無いわよ」

「それで、『一石二鳥』というのはどういう意味なのでしょう」

 花の異変以来、スペルカードにちょっとした格言めいたものをつけるのが、幻想郷の流行です。巫女なら『行雲流水』、私なら『物言えば 唇寒し 秋の風』。それで氷精はというと前述の『一石二鳥』なのです。

「そんなのも知らないの? ひとつの石で鳥を二つ落とすって意味よ!」

 まあ確かに間違ってはいません。

「そんなことも知らなかったの? バカねあんた」

「……どうも、大変勉強になりました」

 コホンと咳払いをひとつします。

「では、どうしてそれを選んだのでしょう?」

 皆、自分のキャラにあった言葉を選んでいるというのに、どうして彼女だけは一石二鳥。どうもしっくりこない気がします。『絶対零度』とか『バカの考え休むに似たり』とか、もっと相応しいのはあるはずなのに。

「なんでって、みんな難しい言葉を使ってるでしょ。だから」

 彼女は無い胸をそらして言い放ちました。


「あたいが知ってる一番難しい言葉を使ったの!」


 ……。ええええええ。そんなバカな。あ、いや、バカなのか。

「じ、じゃあ、最近使っていた『マイナス K』というスペルカードのKは」

 そうです、冷気でKといえばケルビン、絶対温度の単位のはず。セ氏温度の0度は273ケルビンに値します。そして0ケルビンとは自然界に存在する最低温度。あのヘリウムですら液体になる、これ以下の温度は存在しないという温度です。よって存在しないはずのマイナスケルビンを体現したスペルカードだ、という迫力あるネーミングに正直感心していました。こんな知的なネーミングができるはずなのに、そんなまさか、

「ん、あれはね、KOORI。氷のKよ!」

 ちゅどーん!
 私の頭の中で何かが爆発しました。ズッコケの最上級です、脳内では既にアフロです私。というか今すぐここで古今東西のあらゆるズッコケリアクションを再現したい! そんな感じで脳が一瞬にして茹だったからでしょうか、

「ほ……」

「ほ?」

 私は思わず漏らしていました。

「本当に、おバカですねあなたは……」

 そして、虚脱していた私はそのとき聞こえた『カチン』という音にも危機感を覚えられなかったのです。

「誰が――」

 見ると、彼女は涙目で、手に氷塊をつかみ、大きく振りかぶって、

「――バカなのよーーーっ!」

 スッケーン!

「はうっ」

 氷塊が私の眉間を見事に打ち抜き、私はのけぞりました。

「バカっていうヤツがバカなのよこのバカガラスーっ!」

 彼女はくりくりのロリータボイスできんきんとした声で叫びます。


 なぜ彼女だけがバカと言われるのか。


 その疑問を追ってきましたが、さっき私を打ち抜いた氷塊が、その衝撃が、私の脳のシナプスにエレクトリックサンダーを加えてイイカンジに結合開始ぷちぷちぷち! かの発明王は99パーセントの汗と1パーセントのひらめきが必要だと言っていましたが今の私はヒラメキ128パーセントです!

 ああ、私は真理を悟りました! 解脱ですニルヴァーナです!

 そうか、そうだったのですね……!



 結論:バカかわいいよかわいいよバカ







「え……な、なによ」

 彼女は戸惑いの声をあげます。私はそんな彼女を、そっと抱きしめました。

「あなたは本当に、バカですね」

 そうです、「馬鹿な娘ほど可愛い」。これが真実だったのです。知能指数を計ろうとしたり、私の研究は全くもって的を外した無為なものでした。彼女の脳力など関係ありません。「バカ」という呼称はこの氷精の可愛さに敬意を表したものであり、皆親しみを込めてそう呼んでいたのです。決して彼女を蔑むものではなかったのです。
 そしてこの「バカ」と言われたときのリアクション……! 本物のおバカは自分がバカだと自覚できないのです。そこがまた可愛いじゃありませんか! 今日ブレイクスルーしたばかりの私にはちょっと刺激が強すぎます!

「どうしたのよっ、放しなさいよ」

 彼女が私の腕の中で暴れます。ああ、そんなに怯えなくて大丈夫なのに。

「大丈夫です……私が包み込んであげます」

「……え?」

「私が守ってさし上げますから……これから私のおうちでおままごとしましょう」

「え、……ちょ、ま……」





「おもちかえりぃぃいいいい~~~~!!!」



 どっかの女神が「かぁいいよ、はうぅ~~~!!」とイイ笑顔でサムズアップしてくれました!

 私は無敵イイイイ!















「いい加減にしろ色ボケガラス」

「はうッ」


 ……こうして私は、博麗の巫女に調伏されてしまったのでした。








「ありがとう巫女~! 恐かったよ~!」

「感謝してるなら、素敵なお賽銭箱にね」

「カエルでいい?」

「帰れバカ」
































「なんであいつがバカかって? それは」

「それは」

「神主が言ったから。」



 うわぁ台無し。
こんな文章が名も知らぬ神社のそばに落ちていました。
私だけで楽しむのもどうかと思い、代わりにここに投稿してみました。

私が読んだ感想を少し。
文章の中に、懐かしい漫画のネタがありました。ああ、あれももう幻想の漫画なのだろうか。
あと、普段と違う文体で書くとテンションが上がる、という記述にはわりと共感できます。


最後に。ややこしいマネをして申し訳ない。


代理投稿者:つくし

……4月23日14時ごろ追記
恥ずかしい間違いを訂正しました。名無し妖怪様、ありがとうございます。
射命丸文
コメント



1.サヂテリアス・ズィ・アーチャー削除
『海の大陸』ですか?1~3月号で、読み切り復活してましたが。
2.名無し妖怪削除
おーまーたーせーシーまーしーたーさーむーいーやーつー!
なるほどー!
NOAは昔から未来までずっと私の心のバイブルであります。
あと無粋で申し訳ない、ネタなら流して、窒素は60kくらいで(文に殴られました
3.つくし削除
どうも、コメントありがとうございます。といっても私の手柄じゃないんですが。:-)

というか、NOAをわかってくれる人がいたことに感動してついレス返し仕る次第です。
>>サヂテリアス・ズィ・アーチャー様
復活したのを読んだ時は滂沱するかと思いました。相変わらずのNOAっぷりでした。
>>名無し妖怪様
同志よ! 私もNOAやハンゾーなどのマンガをバイブルとして生きている人間です。ボンボンを買わなくなったのはNOAが終わったからだったなあ……。あと、重ねてご指摘ありがとうございます。そしてやっぱりバカな娘ほど可愛い、っと。チルノ可愛いよチルノ。

それでは、いつか東方でカトリーヌの嵐を巻き起こす野望を抱きつつ失礼します。
4.とらねこ削除
 元ネタは知りませんが、チルノかわいいですね。こんな娘が楽しく生きていける世界っていいなあ。
5.名無し妖怪削除
『海の大陸 NOA』テラナツカシスwwww

と、それはともかく。
50円のジャガイモ4つと200円の有機栽培大根1本、150円の無農薬ほうれん草1束と100円のペン5本だと、1050円になり、千円では足りませんよ?
6.通りすがりの格闘家削除
ミッミリアド~ 懐かしい!めっさ懐かしいものをありがとう!!
7.名無し妖怪削除
お使いで有機大根 → まさかね…
ゆうきの意味が分からない → も、もしかして…
アンディ・フグ かかってこい → キタワァ*・゜(n‘∀‘)η゚・*

こんな感じでした
8.卯月由羽削除
チルノかわいいよチルノ!

>くりくりのロリータボイス
それなんて撲殺天使?